第47話 上級ダンジョンへ
ここからは時間との勝負となる。
それが分かっていた俺は準備を整えると、モーフィアスの案内に従って群馬県のとある奥地へと向かっていた。
そこにあるという誰にも発見されていないモノリスを目指して。
「本当にこっちであってるのかよ?」
「間違いないしもう少しだから頑張ってくれ」
電車で揺られること数時間、俺は都会から遠く離れた場所まで来ていた。
なにせ周囲は山々で囲まれており、そこから狸や猪などの獣が出てくることもあるから気を付けるように言われるくらいの環境だ。
(何でこんな辺鄙な山奥にモノリスを設置したんだっての……)
モーフィアスの話では、試練の塔という上級ダンジョンに繋がるモノリスを配置した奴はモノリスを探す段階から楽しんでもらおうとか考えていたらしい。
だけどあまりに人気のないところに隠したせいで今も誰にも発見されていないというオチなのだとか。
(楽しむ以前に見つけられないとか本末転倒じゃねえか)
そいつにはそれでどうやってダンジョン配信を盛り上げるつもりだったのかと言いたくなるくらいである。
まあ俺としてはそれで助かったのも事実ではあるが。
まだ一般的には上級ダンジョンを攻略する奴も出ていないこともあって、試練の塔ダンジョンは見つかっても攻略できるダンジョン配信者はいないと言っていい。
だから運営もこのダンジョンに限ってはまだ見つかっていないことをそれほど問題視していないのだとか。
(呪怨ダンジョンの時の俺のように入った瞬間に始末されるなら、ダンジョン配信を行なえる環境ではないだろうしな)
だから運営としてはダンジョン配信者の全体の実力が上がって、それなりの数の配信者が上級ダンジョンに挑むようになっても見つけられなかったら対応しようと考えていたようだ。
その情報を先に教えてもらえたのは、俺がこれまでモーフィアスや運営に色々と協力してその貢献を認められたかららしい。
モーフィアスもその情報を俺に流すことで、より一層のアピールになると必死に上にプレゼンしてくれようなのだ。
「君の担当として協力すると言ったからね。約束は守るよ」
モーフィアスとしてもここで俺が目的を達成できずに終わるのは避けたいという思惑もあるのだろうが、だとしても協力してくれるのは有難い限りだ。
感謝するしかない。
そうして山道を歩くことしばらく、鬱蒼と茂る木々の間を何度も抜けて、ようやくその宙に浮く石板の元へと辿り着いた。
「つ、疲れた……」
ここに来るまでかなりの時間が掛かっている。
そして現実世界では凡人な俺では、登山などの経験が皆無だったこともあって、ここまでの山道を歩いてくるだけで非常に疲れてしまった。
(遠いだけじゃなく場所も山奥で分かり難いし、モーフィアスの案内がなければ辿り着くのは不可能だったろうな)
そしてこいつの案内がなければ戻ることも叶わずにきっと遭難するだろうことは想像に難くない。
「はあ、とりあえず中に入るか」
モノリスに触れてロビーに移動するが、そこには誰もいない。
そしてロビーやロッカールームではダンジョンカメラも起動しないこともあって、俺は人目を気にすることなくその場でアルバートへと変身することができた。
「ったく、外での疲労とかが回復薬とかで治ればよかったのによ」
DPを使ってHPやMPを回復したり、あるいは疲労や毒などの状態異常を治療したりする回復薬などを購入することはできる。
決して安くはないそれらだが今の俺ならそれらを一通り揃えるくらいは訳ない程度だ。
だが残念ながらそれらの薬やスキルで回復できるのはモノリス内に入ってから生じたもののみとなっている。
つまりモノリスに来るまで険しい山道を歩き通して疲れても回復薬などでは決して癒せないのだ。
だが考えてみればそれも当然の事だろう。
だってそうでなければ俺がダンジョン外に薬を持ち出せるような資格を得る必要がないではないか。
(この縛りがなければ病院や怪我人をダンジョンに運び込んで、そこで回復スキルとかが使えちまうもんな)
また母の治療に必要とされているエリクサーもダンジョン内でのみ利用可能なものなら五百万DPで購入可能であった。
それに対して同じエリクサーでも外でも効果を発揮する代物に関しては億を超えるDPが要求されるように、アイテムに限らずスキルなども外に持ち出す際は値段が跳ね上がるのだ。
だからもしその裏技が使用可能なら資格も要らない上に必要なDPも非常に少なくて済むはずだったのだが、そんなあからさまなズルを運営が認めてくれるはずもない。
モーフィアスの話では、無理にそれをやろうとして完全に出禁となり二度とダンジョンに入れない処罰などを下された奴も世界にはいるのだとか。
(千変万化を外でも使えればアルバートに化けて囮となるような行動する……なんてことも可能だけど、そっちも億越えのDPが必要だからなあ)
今は癌にも効く薬であるエリクサーを手に入れることが最優先なので、そちらはどうしても後回しにするしかないだろう。
「さてと、そろそろ行くか」
誰もいないロビーで寝転がりながら休むことしばらく。
山道を歩いてきた疲労がある程度まで抜けてきたこともあって俺は立ち上がる。
これから俺が挑もうとしている試練の塔という上級ダンジョンだが、その仕組み自体は単純明快そのものだ。
まずここは全部で百階層のダンジョンであり、それぞれの階層で魔物が出現する。上の階層になればなるほど強力な魔物が出るような形で。
そして出現する魔物を倒すことでのみ先の階層に進めて、百階層で待っているボスを倒せば攻略完了となる。
つまり単純に考えるなら百回、魔物との戦いに勝利すればダンジョンをクリアできる感じである。
もっとも一階層の魔物ですら、俺を除いた現状のダンジョン配信者では傷一つ与えるのが難しい強敵とのこと。
そして運営のサポートを受けている俺でも、今のままじゃボスを倒すのは不可能って話だった。
(それなのにDPを失えない俺は負けることが許されないと)
ただでさえ難しい上級ダンジョンの攻略だというのに、更に縛りを加えられる。
普通なら投げ出したくなるような状況だが、そうもいかないのが辛いところだ。
「まあ、まずは体験してみるしかないな」
どのくらいキツイのか、そして手強い相手が待っているのか。
それをこの身で確かめるため意味も込めて、俺は試練の塔へと足を踏み入れた。
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