表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
6章 オリエンテーションかくれんぼ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/82

第64.5話 四人のお願い

これは第64話の直後のお話です。

本編では省略した、“あのかくれんぼ”のあとに行われた

四人それぞれが霞汐乃に願いごとを伝えるシーンをお届けします。


汐乃が敗北を認め、

「一人一つだけ、何でも願いを聞こう」

と言ったあの場面。


桜井、稲葉、桐崎、そして大河――

四人がどんな願いを口にしたのか。


それぞれの“らしさ”が詰まった小さなエピソードを

おまけとしてお楽しみください。


●桜井澪のお願い


最初に一歩踏み出したのは桜井さんだった。


「えっと……わ、私は……!」


緊張のせいか、彼女の手がそわそわと胸の前でもじもじ動いている。


「霞さん……ライン、交換してください。

 友達になりたいんです。ちゃんと」


その瞬間、部屋の空気が一気に柔らかくなる。


霞汐乃は、驚いたようにまばたきを二度してから――

ふ、と優しく微笑んだ。


「……ああ。喜んで」


桜井さんの目がぱっと明るくなった。


●稲葉澄仁のお願い


続いて、稲葉が前に進む。

彼はいつもの冷静さとは別の意味で真剣な顔をしていた。


「汐乃。いえ、会長。幼馴染として……これだけは言わせてもらいます」


彼女がわずかに眉を上げる。


「なんだ?」


稲葉は咳払いをしてから、ゆっくりと言った。


「……コーヒーに入れる角砂糖は、一つまでにしてください」


「……」


「……」


霞さんは、微妙に返答につまった顔で稲葉を見つめる。


「せめて……二つは……だめか?」


「だめです」


「……前向きに検討しよう」


――どうやら、この人は相当な甘党らしい。


桜井さんは小さくクスッと笑っていた。


●桐崎杏奈のお願い


次に、桐崎さんが勢いよく前に出る。


「会長! 私の願いはこれひとつです!」


その声音は、これまでの尖った調子ではなく、純粋な熱がこもっていた。


「もっと会長のお仕事を私にも振ってください!

 私、まだまだできます。

 もっとがんばれますから!」


生徒会長は一瞬だけ目を見開いた後、小さくうなずいた。


「桐崎書記は真面目だな……よかろう。

 ――覚悟しておけ」


「っ……はいっ!!」


彼女の顔は、誇らしい表情を浮かべていた。


●吉野大河(俺)のお願い


三人の願いが終わり、霞さんの視線が俺に向く。


「では、吉野大河。君の願いは?」


「んー……いや、別にこれといって無いんだよな」


「欲のない男だな。なんでもよいぞ?」


「あーじゃあ……」


少し考えてから、俺は肩の力を抜いて言った。


「また今度、缶コーヒーでも奢ってくれよ。

 それでいいよ」


霞さんは吹き出しそうになりながら、わずかに口の端を上げた。


「……ふ。意外とかわいげのある願いだな。

 よかろう、缶コーヒーくらいならいつでも奢ってやる」


「ああ、頼むぜ」


霞さんは笑っていた。

それはほんの一瞬だけ見せる、“誰にも見せない素顔”に近かったように思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ