59.春までおやすみなさい
*少し遡って、冬*
「うわ、本当にでかくなってる」
俺は生まれ変わったようにピカピカのガレージ(もとい、俺の引越し先?)を見上げて、自分の目を疑った。
今までサビと剥がれた塗装などが醸し出していた近寄りがたい雰囲気はどこへやら、清潔感のある内装がお客の車を今か今かと待ちわびて歓迎しているようだ。
「おー、来たか来たか。これからよろしくな」
おっちゃんが外で俺を待ってくれていた。
ていうか本当に迎えてくれるつもりなんだな。俺も俺で荷物持ってきたけど。
「寒い中おつかれー! 荷物置いてきたらホットココアでも飲む?」
「ありがとう、助かるよ」
ということで案内された俺の部屋――
あれ?
「これ……もしかして」
俺はあることに感づき、犬の姿で寝ているシビくんに確認を取ろうとする。
「おーい、起きろー」
元野良犬にしては大きい背中を揺さぶると、目が薄く開いて俺を見つめた。
「な……なに? ……レイ、来たんだ……」
明らかに寝ぼけているが、そんなことはこの際どうでもいい。
「ここって誰の部屋?」
「ここは……んー、みんなの部屋……おやすみぃ」
再び眠りに落ちていったようだ。聞きたいことは聞けたのでよしとしよう。
みんなの部屋、か。
部屋の広さと置いてある家具やら雑貨やらで気付いた。どうやらそういうことらしい。
ウラクと5年間寮生活をしていた俺だが、同い年の異性と寝食を共にするというのは初めてだ。
はぁ……深く考えるな。俺にはZがいる、俺にはZがいる。
店の休憩室でホットココアを飲んでいると。
「ねぇねぇレイ、四迅って知ってる?」
唐突にエルマが話を振ってきた。
「聞いたことはある。改造車最速の4台だっけ?」
「正確に言えば、エンジン形式別で最速の称号を手にした4台の総称だな」
おっちゃんが話に入ってきた。
何かと詳しいな。まあ当たり前か。
「ああ、あれってエンジン形式別なんだ」
「おうよ。まだ先の話だが、今年のフェスティバルにでも行ってみるか?」
毎年秋から冬にかけて、走り屋たちが集まるフェスティバルが開催される。
その目玉として四迅決定戦が行われるんだっけ。
「行ってみたーい!」
エルマが瞳を輝かせた。
「ハッハッハ、連れてってやるさ」
「それで、そのエンジン形式ってのは?」
「ええと……NA、ターボ、スーパーチャージャー、ロータリーのはずだ」
「それぞれの最速が集まって四迅か」
「そういうことだな」
程よい具合にぬるくなってきたホットココアを一気に飲むと、俺はガレージの一角に停めてあるZの助手席に座った。
別にどこかへ行こうとか、ドライブしようという訳でもない。
運転席に置いてある毛布を掴み、手元へ手繰り寄せた。
蛹のように体に毛布を巻いて、シートを後ろに倒して横になる。
あー、温かい……
年末年始は仕事が少ないため、基本的に自由。
俺は昼寝をすることが多いのだが、昼寝するときは決まってZの中で寝る。ここ以上に落ち着く場所なんてあるはずがない。
エンジンかけてエアコン回さなくても、毛布にくるまれば十分温かいし。
運転席で寝ないのは、俺がシートを交換したからだ。
バケットシートと呼ばれるサーキット走行用の固いシートには、快適性なんてあったもんじゃない。
助手席は誰かを乗せるときのために純正から交換していないので、いつもは助手席で寝ている。
さっき飲んだココアが体を芯から温めているようだ。
体の外から温めている毛布のぬくもりも相まって、全身がポカポカとした幸福感に満ち溢れてきた。
おやすみなさい。




