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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
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55.月の約束、太陽の再会

 





 *夏*






「今日はだいぶ暑いな」


 俺は太陽の日差しに照らされて歩きながらウラクに話しかける。


「そうだな、もう真夏だし。それよりなんで俺まで行かなきゃいけねえんだよ」


 俺たちが目指して歩いているのは、懐かしきラ・スルス自動車上級校。

 夏休みは卒業生も遊びに来れるのでせっかくだし連れてきた。


「そんなこと言って、どうせ俺が誘わなくても来てたでしょ?」


「そりゃあそうだけどよ」


 ほどなくして着いた正門。

 数か月ぶりに見るが、何も変わっていないように感じて安心した。

 昔と同じように、ここからサーキットの音が聞こえてくる。


「いっぱい走ってるな……」


「ざっと7台ぐらいか? 練習熱心で何よりだぜ」


 毎日のように歩いた実習場への道を辿り、かつてお世話になったガレージを眺める。


「あんま時間は経ってねえのに、こうも違って見えるもんなのか……」


 ウラクが俺の思っていたことを代弁してくれた。

 ここを目指して何度息を切らしながら走ったことか。


 サーキットを駆ける車の音に耳を傾けていると、誰かに声を掛けられた。




「来てくれたんですね。ずっと待ってましたよ」




 そう、俺は約束を果たすためにここへ足を運んだ。


「久しぶり。元気そうでよかったよ、ミア」


 ウラクが気配を感じて振り返る。


「ん? レイ、知り合いか?」


「去年の交流会で知り合った後輩」


「へえ」


 心底興味なさそうにしているウラクは放っておこう。

 今から半年以上前、4年生との交流会で、俺は夏休みにまた走りを教えると約束したのだ。


「ミアも5年生か……少しは運転上手くなったかな?」


「さあどうでしょうね」


「じゃあさっそく助手席に乗らせてもらおうかな」


「はい、喜んで!」




 こうして年下が運転する車の助手席に座るというのは新鮮な気分だ。

 だがミアなら安心して運転を預けられるという信頼感のようなものがある。


「行きますよ」


 ピットから出て、2コーナーへと続くストレートを疾走する。

 背中を押し付けられる加速度と、学生寮が見える眺め。

 昔は嫌というほど見た景色なのに。


 2コーナー、進入。

 ギリギリまで遅らせたブレーキングにより、体が前へ投げ出されそうになる。


 そういえばミアはヒール&トウが苦手だって言ってたっけ。


 そんな過去の記憶を思い起こしながら、ミアの走りを隣で見守る。


 ゥウウウゥゥゥンン、フォオオオンン!!


 上手い空吹かし(ブリッピング)だ。

 シフトダウンのショックを感じさせない、なめらかなクラッチの繋ぎ方。

 練習に練習を重ねたのだろう。


 ブレーキを残しつつ、フロントから荷重が逃げないうちにコーナリングを済ませている。

 安定した立ち上がり。


「綺麗にまとまってる。クラッチなんかは俺より上手かもしれない」


「お世辞は結構です」


「いやいや、本当に良い走りだと思うよ」


 5コーナーを回って、S字。

 最小限のステアリング操作で直線的に走り抜けていく。


 最終コーナーで減速。

 ブレーキングは強いが、エンジンの回転数がぴったり合っていてスーッと落ちる。

 まるでオートマだ。


 1コーナー回って、直線。


 俺たちの車に横から並びかける、もう1台の車がいた(・・・・・・・・・)


「ん、あんな車はさっきまで……」


 とミアが呟く。

 俺は助手席の窓からドライバーを見たが、誰が運転してるかなんて分かりきっていた。


 ウラク。


 ……っていうか卒業生も実習車借りられるのかよ。


「明らかにこっちを誘ってますね」


「せっかくだし、やり合ってみれば?」


「そうしましょう」


 2コーナー、ミアはインに入ったウラクのリアを掠めながら左に大きく振り、針に糸を通すような隙間からクロスラインを仕掛けた。


 グッと曲がって直線的に立ち上がる。


 続く3コーナーを左で並走し、4コーナーのインで刺した。


「お、なかなか攻めるね」


「手抜きはしませんよ」


「後ろから仕掛けてきそうだな」


「わかってます」




 *数分後*




「えぇっ、なんですかあの動き!?」


「あー……またやってんな」


 前を走るウラクの車が雄大なドリフトを決めている。

 勝利の舞いか何か?


「結局負けちゃいましたね……」


 さっき突然勃発したバトルはウラクの圧勝だった。

 まあ卒業生相手ということを考えれば、かなり善戦したほうだと思う。


「なかなか熱い走りだったよ」


「またまた」


 そして視線を前に戻すと、やはりコーナーをありえない角度で曲がっていくウラクの車。

 そんな練習する暇あったのか?


「にしてもウラクさん、凄いですね。どこで練習したんでしょうか」


「んーと……アレイ・トロックって知ってる?」


「名前は聞いたことあります。ここの卒業生でしたっけ?」


「そう、俺とウラクの一個上の先輩」


「なるほど」


「その人がドリフトめちゃくちゃ上手くって、弟子入りして教えてもらってるらしいよ」


「そうなんですか」


 今あの人はドリフト競技で世界目指してるらしい。

 一年前の夏休みに見たドリフトが、今でも脳裏に焼き付いている。


「ところで、一つ確認したいんですけど」


「ん、何?」


「ウラクさんのフルネームって、ウラク・ダラーレですよね?」


「そうだよ。……なんで知ってるの?」


「じゃあやっぱり北西ブロックに出場しているのは……」


「あー、そういうことか」


 全国選手権にもなれば、話題は瞬く間に広がるだろう。

 いちいちチェックしていなくても耳に入るかもしれない。



「レイさんは出ないんですか?」



「来年は必ず出るよ」





「楽しみにしてますね」






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