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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
51/140

47.WRAの気は確か?

 

 俺にはあまり時間が残されていない。


 その理由は、一言でいうなら『開幕戦まであとわずかだから』だ。




 この世界のモータースポーツを統括しているのは、世界レーシング協会という団体だ。略称はWRA。


 言うまでもなくレースにはレギュレーションが必要となる。

 レギュレーションというのは守るべき規定のこと。

 大きく分けるとレースのルールを定める競技規則と、レースに出場する車両を定める技術規則がある。


 レギュレーションを決めるのもWRAだが、競技規則はここで見返しても仕方ない。今大事なのはマシンに大きく関わる技術規則だ。


 まず、この異世界にフォーミュラカーは存在しない。故にツーリングカーレースのピラミッドの頂点が、モータースポーツの最高峰と位置付けられている。

 

 WRAが定義したツーリングカーのカテゴリーは3つある。

 速い順にクラス1、クラス2、クラス3だ。

 地方のレースはこの限りではないが、大きなレースイベントはだいたいこのカテゴリーで分けられている。




 まず、クラス3。


 モータースポーツの入門カテゴリー的な位置づけで、市販車もしくは市販車をベースにした改造車(チューニングカー)がクラス3に当てはまる。

 レースは国内やローカルエリアで争われるものがほとんどだ。

 大まかにまとめると、


 ・車検に通っていることが大前提

 ・一般的な市販車に使われていない素材は禁止(チタンとかだろうか?)

 ・上限500馬力

 ・下限1000kg


 という感じだ。

 もちろん他にもルールはあるが、大筋としてはこんなものである。


 ……さすがに大雑把すぎないか?


 俺は最初にそう思った。

 だが、驚くのはまだ早いことを次で知ることになる。




 クラス2。


 いっきにレベルが上がって、バリバリのレーシングカーとなる。

 しかし車検は通っていないといけないため、あまり無茶なことはできない。

 レースは国単位、つまりWRAが主催する選手権が国ごとに開かれる。


 車両レギュレーションをまとめるとこんな感じだ。


 ・車検に通っていること


 以上。

 いやもちろんこれだけではないが、とりあえず公道を走れるようになっていれば何でもありというのがクラス2の趣旨らしい。

 こんなんで本当に大丈夫なのだろうか?

 WRAはよほど車検に信頼を置いているに違いない。

 ちなみにこの世界では車検の基準も統一されているため、心配はご無用だ。


 こんなメチャクチャなクラス2だが、上には上があるということを忘れてはならない。




 クラス1。


 これ以上の何があると思ったが、やはりクラス1は想像を絶するレベルだった。

 WRAの悪ノリは止まらない。

 まずレギュレーションを見てみよう。


 ・車であること


 要旨はそれだけ。

 正確には『一般的な車の形状をしていること』だ。


 要は、安全基準を満たしていてドアとタイヤ4つ付いていれば他は自由ってことらしい。


 もはや訳が分からない。


 正真正銘なんでもありのレースと化していて、毎年開かれるグランプリでは各国の自動車メーカーが開発したバケモノたちを目にすることができる。

 あくまで市販車の形をしているが、まさに羊の皮を被った狼という表現がこれ以上似合う場合はないだろう。


 こんなんでもレースは盛り上がっているのだから、つくづくモータースポーツは恐ろしい。




 さて、今年の春(というかつい数日前)に上級校を卒業した俺は、クラス3のレースに参戦する資格を持っている。

 クラス3のレースは運転免許証と安全装備を装着した車さえあれば誰でも出場可能なのだ。


 この近辺で開催されている草レースに参加するのも悪くないが、俺はあえていきなり全国選手権に出場するつもりでいる。

 せっかくレースに出るなら頂点を目指さないとつまらない。


 この国、ジルペインのクラス3全国選手権は4つのブロックに分かれている。

 北東、北西、南東、南西だ。

 そこでそれぞれ同時に4戦のレースを戦い、成績に応じてポイントを得る。4戦目を終えた時点でポイントランキング上位の数名は5戦目に招待される。

 5戦目は合同戦だ。

 ブロックごとに速いドライバーが選ばれ、一堂に会する。

 そこでトロフィーを勝ち取った者が、その年のチャンピオンとなるわけだ。


 そして、俺が出ようと思っている北東ブロックでも近いうちに開幕戦が開かれる。


 だから今、Zの整備をできるだけ早く仕上げたいと思っている。

 早く車が完成すれば、それだけ走りこむ時間が増えるからだ。



 急がないと。






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