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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
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46.その再会に罪は

 

「嘘……だ、ろ……!?」


 言葉を失い茫然と立ち尽くす俺の目には、はっきりとその姿が映っている。


 燃える太陽のように赤く染まったボディー。

 鋭いナイフのようにシャープな形をしているヘッドライト。

 今にも飛び掛かってきそうな迫力を持つ、全体のシルエット。


 そんなはずはない。

 ありえない。


 しかし、間違えようのない事実として、今目の前に存在する。




フェアレディZ(・・・・・・・)……」




 あぁ、その名前。

 何よりも愛おしい車。

 全てを投げ打ってでも手に入れたいと望んだ車が、この世界にあったなんて。


 やっと会えた。


 


「久しぶり、Z」






「ふぇあれでぃぜっと?」


 おっちゃんの声で、離れかけていた意識が戻った。


「こっ……この車、買います!! 買わせてください!!!」


 精いっぱいの誠意で叫んだ。


「一体どういうことだい、レイ君」


「あの、エンジンとか、見てもいいですか?」


 久しぶりに最愛の車を目にした衝動で挙動不審になっているのが自分でもわかる。

 だがそんなことはどうでもいい。


「もちろん構わないが……」


「ありがとうございます!」


 俺はマークさんからキーを受け取り、すぐさま運転席のドアを開ける。

 ハンドルの右下にあるレバーを引くと、ボンネットの先端が少し浮き上がった。

 ダッシュで車の前へ向かい、ボンネットを慎重に持ち上げる。


 俺とともに歩んだ心臓(エンジン)が、きっちり収まっていた。


 ボンネットを開けた状態で固定したまま、運転席へと戻る。

 ゆっくりシートに腰を下ろして、シートポジションを確認。


 間違いなく、これは俺のZだ。



 ひとしきり確認を終えたあと、マークさんに質問する。


「このZについて、どこまで分かってるんですか?」


「Z……それがこいつの名前なのかい?」


「はい。フェアレディZ」


「そうか。実のところ、俺はこの車に関して何も知らない。さっきも言った通り名前すら知らないし、エンジンも性能も何もかも。下手にいじって戻せなくなったら困るから、ずっとここに放置してあるのさ」


「そうなんですか……」


 考えてみれば当たり前だ。

 Zは俺といっしょにこの世界へ転生した存在。つまり、本来はこの世界に存在しない(・・・・・・・・・・)はずの車だ。


「……あれ?」


 転生?

 俺はなんで転生したんだ?

 死んだからだ。


 じゃあZは――考えるまでもない。


 俺といっしょに死んだはずだ。


 だが、Zは埃をかぶっているものの傷一つない状態でここに存在している。

 あの事故はなかったことになるのか……?


 そんなことはこの際どうでもいい。

 またZに会えたのだから。


「この車を俺に買わせてください!! お願いします!!!」


 全身全霊で頭を下げる。




「……まぁ、ぶっちゃけ今のままだと場所取るだけだし、どうせ買い手もいないし……」


 これはOKってことか……?


「んー、無料(タダ)でいいよ」


「えぇっ、いいんですか!?」


「いいさ。こんな正体不明の車でも、大事に乗ってくれるかい?」


「もちろんです、約束します!!!」




 *




 かくして、Zは再び俺のものとなった。

 Zはエンジンがかからないというので、マークさんから台車を借りた。その台車にZを乗せ、ピックアップトラックの後ろに連結するという作戦である。

 ちなみにトラックの荷台には部品やら書類やらオイルやらが乗せてある。


「本当にありがとうございます!!」


「ハハハ、気を付けて帰っとくれよ!」


 行きは荷台に乗っていた俺だが、帰りは俺がトラックを運転して帰ってきた。

 この世界の運転免許証は卒業証書といっしょにもらったから問題ない。

 エルマは台車に乗せられたZの助手席に座っていた。




「よぉーし、降ろすぞ。ゆっくりゆっくり」


 おっちゃんの声を合図に、台車からZを手で押して降ろした。


「1番リフトに乗せてくれ」


「よいしょ、と」


 やっと店のリフトに乗っけられた。

 しばらくはここで作業することになるだろう。


「おっちゃん、しばらくの間ここのリフトと工具使っていい?」


「もちろんさ。何か助けが必要なら遠慮なく言ってくれよ」


「ありがとう」


 快く場所を貸してくれたおっちゃんには感謝しかない。

 とりあえずこのZがどんな状態なのか把握しないと。


「ねぇ、レイ」


「何?」


 エルマに呼ばれた。


「こんなマイナーな車、どこで知ったの? ありえないくらいこの車に詳しいみたいだけど」


 エルマにしては珍しく、追及するような口調だ。

 まあ気持ちは分かるが。


「そうだな、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」


 おっちゃんまで。


「わかったわかった。説明する」


 とは言ったものの、まさか『前世で乗ってた愛車だ』と言うわけにもいかない。

 だが嘘もつきたくないから、ここはできるだけ正直にやりすごそう。8割の真実、2割の嘘。


「今から何年か前、偶然この車を町で見かけて、そこから調べたんだ。以来すっかり虜になった」


 間違ってはいない。

 今から、えーっと……合計して30年くらい前か? 俺が前世で8才になるちょっと前に見かけた。

 町っていうのは三重県鈴鹿市だ。鈴鹿サーキットで見たんだから当然。

 そこから自室に引きこもって調べて、以来すっかり虜になった。


「そうなんだー。憧れの車だったんだね!」


 事実を極限まで捻じ曲げて伝えたが、とりあえず疑われてはいないみたいでよかった。


「うん。乗れる日をずっと待ち望んでた」




 とりあえず、エンジンがかからない原因を調べよう。

 手っ取り早いのはオーバーホールだ。

 エンジンを限界まで分解(バラ)して、部品を洗浄(必要に応じて交換)する作業をオーバーホールと呼ぶ。


 だが、難しい・費用がかさむ・時間がかかるなどのデメリットもある。

 特に最後は致命的だ。



 俺には時間があまり残(・・・・・・・・・・)されていない(・・・・・・)








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