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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
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45.招かれざる放浪車

 





 *






「お邪魔しまーす」


 俺は朝早くからいつものガレージを訪れた。

 この世界の学校は上級校で終わりのため、いよいよ今日からめでたく社会人ということになる。

 ちなみに成人も上級校卒業時、つまり15才だ。成人式の類はない。


「おぉ、いらっしゃい。お前さんもついに15か……早いもんだな」


 おっちゃんがなぜか感極まった表情でガレージに迎え入れてくれた。

 思えばこの店も、5年間通い続けたのか。

 最初にガレージを覗いた日が昨日のことのように思える。


 だが感傷に浸るのはとりあえず後回しだ。


「おっちゃん、俺は――」


「あぁ分かってるさ、レースに出る車が必要なんだろう。早速今から中古車見に行くぞ」


「よっしゃ!」


 とはいえこの店では中古車を取り扱っていない。

 行くべきところはマークさんが経営する中古車販売店だ。


「ようし、車に乗ってくれ。すぐ出発だ。おーいエルマ、お前も行くか?」


「もちろん!」


 階段の上からエルマが元気よく降りてきた。

 いつも使われているピックアップトラックに乗り込もうとした俺は、あることに気付く。


「あれ、これって2人乗りじゃね?」


「ん」


「ほんとだー」


 ここは合理的に判断して、エルマを留守番させるべきか?

 と考えると、おっちゃんが口を開いた。


「じゃあジャンケンで負けたやつは荷台な」


「えぇ!?」


 荷台って……そもそも合法なのか? 少なくとも俺はトラックの荷台に乗って移動した経験はない。


「よぉーし、最初はグー!」


 早っ! てかエルマはなんとも思わないのか?


「「ジャンケンポン!」」




 *




「着いたー!」


「よっ、と」


 目的地の中古車屋に着いておっちゃんとエルマが車から降りたため、俺も荷台から飛び降りる。

 少々揺れがキツかったが、思ったより気持ちよかった。

 荷台も悪くない。


「久しぶりだな、マーク」


 おっちゃんが店主のマークさんと親しげに挨拶を交わす。


「元気そうじゃないか、ジョン。今日はどうしたんだ? 配達は頼んでないぞ」


「ハッハッハ、実はな――」


 おっちゃんはニヤリと笑った。




「こいつにピッタリの車を探してやってくんねぇか」




「なるほどな。しかし、そのお客は誰だい?」


 そう言ってマークさんは俺の方を見た。

 そうか、以前会ったのはかなり前だから……


「レイナーデ・ウィロー。おっちゃんの店のバイトです」


 俺が名乗ると、マークさんは合点がいったように大きく目を見開いた。


「あぁ~、レイ君か。確かに面影がある。少し見ないうちに、立派な男になったもんだな」


「まだ中身はガキだけどな」


「ちょっと、おっちゃん!?」


 四人でひとしきり笑い話をした後、俺はマークさんに連れられた。


「二人はゆっくりしててくれ。レイ君、車を探そう」


「はい!」




 屋外に並べられた数々の中古車は、どれも良い状態を維持しているようだ。

 外見からは走行距離や年式の古さを全く感じさせない。


「レイ君は、やっぱりレースに出るつもりなのかい?」


「もちろんです。そのために生きてきたようなものですから」


「ハハ、そうかそうか」


 しばらく歩いて、マークさんはある車を指した。


「これなんてどうだい?」


 それは51(ゴーイチ)型シノレだった。

 シルバーに塗装されたボディーを見る限り目立つ傷はないし、価格もお手頃だ。

 51型シノレはレースの入門に最適で、走り屋にも人気がある。

 さすが中古車屋の店主、車を選ぶ目に狂いはない。


「ほぉーう、いい個体じゃないか」


 どこからともなく声が聞こえてきたので驚いて振り返ると、いつのまにかおっちゃんが後ろに立っていた。


「おいおいジョン、娘さんを置いてきちゃっていいのかい?」


「構わないさ。車の雑誌を飽きもせずにずっと読んでんだ」


 そんな二人は気にせず車を眺めていた俺。


「これ購入候補です」


「おお、気に入ってくれてよかったよ。車はいっぱいあるから遠慮せず見て行きな」


 そうしていろんな中古車を見て回っていると、不意におっちゃんが口を開いた。

 その目にはイタズラ心のようなものが見える。


「なあマーク、あれ(・・)は見せてやらないのか?」


「……別に見せない理由はないがな、あれを買おうって奴はいないだろう」


「せっかくだし見るだけ見せてやりゃいいのによ」


「わかったよ、そこまで言うなら」


 さすがに俺も気になったので口を挟む。


あれ(・・)って?」


「ついてきな」


 俺は言われるがまま、敷地の奥の方へ歩いて行った。




「ここは俺の個人的なガレージなんだが……」


 そう言って、マークさんは車庫のシャッターを開ける。

 中には車が2台、そのうち1台はカバーシートがかかっている。


「うわっ、これってC2型ヴェルト!」


 カバーがかかっていない方は、C2型ヴェルトだった。

 ここジルペインの国産車ではなく、大陸の端にあるアマレイク合衆国で生産された車。

 通称、“アマ車”。

 アマ車はとにかく大排気量・ハイパワーなエンジンを車体にぶちこむ、いわゆる脳筋と呼ばれるタイプだが、C2型ヴェルトはそのなかでもかなり古い部類に入る。

 こんな昔のクラシックカーをここまで綺麗な状態で、いったいどうやったら維持できるのだろうか。


「ハハハ、そのヴェルトは俺の愛車さ」


 マークさんは若干照れながらも紹介してくれた。

 しかし、その次の言葉を俺はすぐに飲み込めなかった。


あれ(・・)ってのはもう1台のほうだ」


「えっ?」


 あのカバーがかかっている方か。

 C2型ヴェルトよりレアな車が存在するのだろうか?


あれ(・・)は、何年か前に突然姿を現した。誰かが店に乗り捨ててったんだろうよ、迷惑もいいとこだぜ」


「乗り捨て……?」


 その車の何がすごいのか。


「だが、その正体が分からねえ。長いあいだ中古車屋をやってきた俺でも、こんな車を見るのは初めてだった」


 そういうことか。


「見せるだけ見せてやるけど、驚くなよ」




 マークさんは勢いよく、車に被せてあるカバーシートをめくった。






「……!?」






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