Red Rumor
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「なあ、空凪澪って知ってるか?」
居酒屋のカウンターに座っている男が、隣の男に訪ねる。
「もちろん知ってるさ。何年か前に事故で死んじまった奴だろ。まだ若かったのによ、もったいねぇよな……」
隣の男は悲しそうにビールを飲んだ。
「ああ。あの速さなら海外でだって通用したかもしんねぇ」
「そうだよな」
「んで、そいつがどうしたんだ?」
男は神妙な面持ちで話を続ける。
「空凪が大事に乗ってたフェアレディZは知ってるよな?」
「あの赤いZか? 聞いた話じゃ500馬力以上のパワーだって噂だ」
「そう、そのZだ。空凪が事故った後、廃車になって解体屋に引き取られた」
「それがどうしたんだ」
恐る恐る開いた男の口から出た言葉に、隣の男は息を飲んだ。
「そのZが、いつのまにか消えていたらしい」
「……どういうことだよ」
「そのまんまさ。解体屋から、ある日突然姿を消したんだ」
「縁起でもねぇな。誰かが盗んだんじゃねえか?」
「防犯カメラには何も映ってなかったんだ。それに、Zはもう自走不可能だろ。トラックにでも載せて持っていこうとしたら一発でバレるに決まってる」
「そりゃぁ……そうだよな」
「んで、ここだけの話だけどよ」
「ああ」
「一人だけ目撃者を見つけたんだ。そいつは……」
「そいつはなんて言ったんだ?」
「まるで粉のように、フワッと空へ舞っていった――ってよ」
「……いくらなんでもありえねぇだろ」
「だよな。でも、そいつは本当だって主張し続けるんだ」
「おかしな奴もいるもんだぜ」
「まあ、こんな話もあるってことだ」
「今日はありがとな、誘ってくれて」
「気にすんな。また飲みに行こうぜ」
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