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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第三章 ラ・スルスでの歩み
36/140

34.タイヤの限界を

 

 2回目。

 今度は俺が後攻だ。

 ぱっと気持ちよく抜いてやる。


「レディー、GO!」


 アクセルを踏んだ瞬間、軽快な加速が生まれる。

 半年ほどこの学校でルクスを運転してきたが、扱いやすいうえに速い。

 実習車に選ばれるのも納得だ。


 前のウラクと、距離がだんだん縮まっていく。


 S字を直線的に抜けたころには、俺とウラクの車はほぼ真横に並んでいた。


 ラッキーだ。

 真横に並んだら、後はコーナーへの進入でどれだけブレーキングを遅らせられるかの勝負になる。

 イン側に陣取る俺は、勝ちを確信した。


 さあ、最終コーナーが迫る。

 どこまでアクセル全開のままいけるか?


 ブレーキを相手より遅らせればいいのだから、真横のウラクが減速したのを見てブレーキを踏めばいい。

 あるいは同時にブレーキしたとしても、インから小回りでコーナーを曲がれる俺の勝ちだ。

 俺は隣を走るウラクの車を視界の端で確認しながら、足はいつでもブレーキを踏めるように準備していた。


 どこまでいける?


 まだ減速しない。


 そろそろか?


 え?


 まだ!?


 これ以上遅らせればスピンしてしまうリスクがある。


「くっ……」


 俺は同時を狙ってブレーキを思いっきり踏んだが、時すでに遅し。

 フルブレーキングと旋回を同時に受けたタイヤのグリップは限界を超え、車は姿勢を崩した。

 俺よりわずかに早くブレーキングしたウラクはその隙を逃さず、アウトへ情けなく膨らんでいく俺を横目に旋回していった。


 俺は必死になって立て直し加速するが、追いつけるはずもない。

 ウラクを追いながら虚しくゴールした。


 次こそは……。




 3回目。

 俺が先攻、ウラクが後攻。

 どうやらテストは4回戦までやるらしい。


「レディー、GO!」


「っ!」


 危ない、エンストするところだった。

 気持ちが揺らいでいる。

 ダメだダメだ、集中しろ。


 わずかに詰められた距離を突き放そうと、俺は素早くシフトアップした。


 今回は何としてでも抜かれるわけにはいかない。


 バックミラーで注意深く確認しながらS字を通過。

 最終コーナーまでの短い直線で、ウラクは一気に距離を詰めてきた。


 俺はコースの中央に寄り、絶対に抜かれないようブロックラインをとった。

 そして、慎重にブレーキ。

 加速が鈍って抜かれるのも防ぐため、進入時に一回外へ振ってからインについた。

 インをきっちり塞いだから、ここから抜く手段はないはずだ。


 バックミラーから、ウラクが大きく外を回って加速してくるのが見えた。

 外からスピードを乗せて、ホームストレートで抜かすつもりか。


 俺はアウト側の縁石に乗りながら緩く立ち上がっていく。

 ウラクは真後ろにぴったり張り付いている。


 基本的に、同じ性能の車が2台で直線を走るときは、後ろの方が速い。

 それは前の車の真後ろに隠れることで、空気抵抗が遮られるからだ。

 このテクニックをスリップストリームと呼ぶ。


 スリップストリームによって高速域でもどんどん加速していくウラクは、俺の真後ろから外れて横に並びかけている。


 ゴールまであと少し。


 耐えてくれ……!


 ゴール。


 ギリギリで勝てたが、危なかった。

 もし俺が最終コーナーで少しでもミスってたら、あっけなく抜かされていただろう。




 4回目。ラストだ。

 俺が後攻でウラクが先攻。

 今度こそ、勝って終わりたい。


「レディー、GO!」


 スタート前に深呼吸したおかげか、クラッチはスムーズに繋がった。

 2リッターのエンジンが気持ちよく吹け上がる。

 上手くシフトアップも決まって、ロスなくS字を通過した。


 だがそのとき、前のウラクが一瞬姿勢を乱したように見えた。

 ほんの少しリアタイヤが滑っただけだったが、俺は見逃さなかった。


 行ける。


 最終コーナー前でインに並びかけた俺は、余裕を持ってわざとウラクより少し早めを狙ってブレーキングした。

 下手に勝負しなくても、並走状態のままで加速していけば、イン側で最短距離を回れる俺のほうが前に出るはずだ。


 だが、ウラクは減速しない。


「な……!」


 思わず声が出る。

 あいつ、今から減速したところで曲がり切れるはずがない。


 ウラクはフルブレーキングして旋回するが、思った通りタイヤの限界を超え、スキール音とともに滑っていった。

 しかし、その速度は衰えない。

 それどころかインを小回りで回っていく俺以上のスピードで、アウト側からインに向かってエンジンを吹かしている。


 あいつは、タイヤの限界を超えたままでコーナーを曲がり切ろうとしている。

 スキール音が鳴りっぱなしだ。


 まるでジェットコースターのレールに乗っているかの如く綺麗な軌道を描いたまま、ありえないスピードで加速していくウラクの車はアウトから俺を抜かしていった。


 そうか、そういうことか。

 俺の完敗だ。


 一発勝負のテスト本番でドリフトを試すなんて度胸は、俺にはない。

 だがウラクはそれを試し、見事にやってのけた。


 後でいろいろ問い詰めたい。



 俺はウラクの後ろでゴールした。





 あいつ、どこであんなドリフトを……。







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― 新着の感想 ―
[一言]  ウラクは派手な勝ちかたでしたね。  レイもドリフトの練習したりするのでしょうか?  ゆっくりですが、続きも読ませていただきます♪
2022/03/10 13:37 退会済み
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