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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第三章 ラ・スルスでの歩み
29/140

夢:Feeling of Guilt

 





 *







 暗い。


 ここはどこだ?


 あたりの全てを暗闇が包み、地面も何も見えない。


 どこを見回しても、視界に映るのは黒一色。




 生命の気配すら感じられない。




「ここは、どこなんだ?」




 声に出しても返事が返ってこないことぐらい、分かっていた。


 俺の足は、見えない地面の上に確かに立っている感触がある。


 ゆっくりと右足を前に出し、左足を前に出し。




 この暗闇を、歩く。




 いくら歩いても何も見えない。


 上を見ても真っ暗。


 地面も真っ暗。




 俺は、どうすればいい……?




 懲りずに、あたりを見回す。




 目に映るのは全てを覆いつくす暗闇と――




 小さな光。




 あそこに、何かがある。


 あそこで、何かが光っている。




 そこを目指して俺は、一心不乱に歩き続けた。




 どのくらい経っただろうか?




 光は、だんだんと近づいてきている。




 あった。




 光の源に、たどり着いた。




 その光は、俺の目の前で浮かんでいる。


 光に向かって俺は、迷うことなく手を伸ばした。




 指先が触れる。


 光を、掴む。




 恐る恐る開いた右手に握られているのは、黒いキーだった。


 楕円形の本体に、銀のボタンが縦に並んだ電子キー。


 見覚えがある。




 黒いキーに刻まれている銀のエンブレムを、そっと親指でなぞる。




 “Z”の文字。




 やっと会えた。


 フェアレディZ。


 俺は泣きそうになりながら、Zのキーを両手で握る。




 俺には分かる。


 この暗闇のどこかに、Zがいる。




 俺は縦に並んだボタンのうち、キーの真ん中に位置するボタンを押す。


 全ドア解錠。




 右のほうから微かな音とともに、何かが光るのが見えた。


 そこか。




 俺は音がした方に向かって歩く。




 あった。




 Z。




 光が全くない暗闇の中でさえ、真っ赤な艶のあるボディが俺を導いてくれた。


 ありがとう。




 俺は運転席側のドアに手をかけ、開け――


 開かない……?




 もう一度、解錠。


 やはり目の前のZから、音がする。




 ドアに手をかける。


 開かない。




 なんで……?




 解錠。




 だが、開かない。




 なんでだよ……!




 解錠。


 施錠。


 解錠。




 開かない。




 嘘だ……!




 俺はZの電子キーを握り直し、金属部分を引き抜く。


 中から機械式の鍵(メカニカルキー)が出てきた。




 ドアノブの鍵穴に、鍵を差す。


 差す……差さらない。




 なんで……!




 これは俺のZだろ!?




 エアロも、色も、内装も、何もかも。




 俺が何より愛し続けたZだろ!?




 だったら、なんで……!




 俺はZに寄りかかっ




 !?




 Zが消えている。


 俺は転んでしまった。




「Z……なんで……」




 遠くから、微かに音が聞こえた。


 エンジン音。


 V6。


 3.7リッター。




 Zのエンジン音が、こっちに向かってどんどん大きくなっている。


 だが、姿は見えない。




 音がより一層大きくなる。




 ガン!!




 嫌な金属音がして、思わず耳をふさいだ。




 嘘だろ……?




 この音は。


 エンジンブロー。




 俺の耳からエンジン音が消え、代わりに様々な音が響いた。




 タイヤのスキール音。


 金属音。


 空気の振動音。




 嫌だ……嫌だ……!




 最後に聞こえたのは、






















 衝突音。














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