夢:Feeling of Guilt
*
暗い。
ここはどこだ?
あたりの全てを暗闇が包み、地面も何も見えない。
どこを見回しても、視界に映るのは黒一色。
生命の気配すら感じられない。
「ここは、どこなんだ?」
声に出しても返事が返ってこないことぐらい、分かっていた。
俺の足は、見えない地面の上に確かに立っている感触がある。
ゆっくりと右足を前に出し、左足を前に出し。
この暗闇を、歩く。
いくら歩いても何も見えない。
上を見ても真っ暗。
地面も真っ暗。
俺は、どうすればいい……?
懲りずに、あたりを見回す。
目に映るのは全てを覆いつくす暗闇と――
小さな光。
あそこに、何かがある。
あそこで、何かが光っている。
そこを目指して俺は、一心不乱に歩き続けた。
どのくらい経っただろうか?
光は、だんだんと近づいてきている。
あった。
光の源に、たどり着いた。
その光は、俺の目の前で浮かんでいる。
光に向かって俺は、迷うことなく手を伸ばした。
指先が触れる。
光を、掴む。
恐る恐る開いた右手に握られているのは、黒いキーだった。
楕円形の本体に、銀のボタンが縦に並んだ電子キー。
見覚えがある。
黒いキーに刻まれている銀のエンブレムを、そっと親指でなぞる。
“Z”の文字。
やっと会えた。
フェアレディZ。
俺は泣きそうになりながら、Zのキーを両手で握る。
俺には分かる。
この暗闇のどこかに、Zがいる。
俺は縦に並んだボタンのうち、キーの真ん中に位置するボタンを押す。
全ドア解錠。
右のほうから微かな音とともに、何かが光るのが見えた。
そこか。
俺は音がした方に向かって歩く。
あった。
Z。
光が全くない暗闇の中でさえ、真っ赤な艶のあるボディが俺を導いてくれた。
ありがとう。
俺は運転席側のドアに手をかけ、開け――
開かない……?
もう一度、解錠。
やはり目の前のZから、音がする。
ドアに手をかける。
開かない。
なんで……?
解錠。
だが、開かない。
なんでだよ……!
解錠。
施錠。
解錠。
開かない。
嘘だ……!
俺はZの電子キーを握り直し、金属部分を引き抜く。
中から機械式の鍵が出てきた。
ドアノブの鍵穴に、鍵を差す。
差す……差さらない。
なんで……!
これは俺のZだろ!?
エアロも、色も、内装も、何もかも。
俺が何より愛し続けたZだろ!?
だったら、なんで……!
俺はZに寄りかかっ
!?
Zが消えている。
俺は転んでしまった。
「Z……なんで……」
遠くから、微かに音が聞こえた。
エンジン音。
V6。
3.7リッター。
Zのエンジン音が、こっちに向かってどんどん大きくなっている。
だが、姿は見えない。
音がより一層大きくなる。
ガン!!
嫌な金属音がして、思わず耳をふさいだ。
嘘だろ……?
この音は。
エンジンブロー。
俺の耳からエンジン音が消え、代わりに様々な音が響いた。
タイヤのスキール音。
金属音。
空気の振動音。
嫌だ……嫌だ……!
最後に聞こえたのは、
衝突音。




