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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第三章 ラ・スルスでの歩み
25/140

24.広い広い上級校

 



 *




「あ、帰ってきた」


 エルマに言われて外を見ると、おっちゃんが車で帰ってきていた。

 今度は私物のピックアップトラックに乗っている。

 また依頼だろう。


 おっちゃんは駐車してエンジンを切ると、車を降りて間髪入れず俺にこう言った。




「お前さん、この店で働く気はないか?」




 え。

 俺の思考が停止する。


 俺が、この店で、働く?


 夢のような話だ。




「えっ、いいんですか!?」




 いや待て待て、落ち着け。

 そもそも働ける年齢じゃ……いや、この世界では上級校に入った時点でアルバイトが許可されるんだった。


 じゃあ、やっぱり……!


 いやダメだ、肝心なことを忘れていた。

 俺は来週から寮生活するんだ。


 ここに帰るのは週末だけだし……。




「あの、気持ちは嬉しいんですけど、寮に入るので週末しかここには来れません」


「んじゃ週末はここで仕事できるんだな?」


「え? あぁ、はい」


「じゃあ週末だけでもいいから、この店で働いてくれ。車の改造や修理を手伝ってほしいんだ。もちろん時給は出す。悪い話ではないだろう?」




 今の俺にとって、この店で車を見たりいじったりするより楽しいことはない。

 それにラ・スルスを卒業したら車も必要になるし、今から貯金できたら今後が楽になる。


 この願ってもない話を承諾しない手はない。




「あ……ありがとうございます! 一生懸命頑張ります!」


「ハハハ、礼を言うのはこっちの方さ。それじゃ、これからよろしく頼むぞ」


「はい!」






 *3日後*






「ほら言ったろ? じゃ改めてよろしくな、ルームメイトさんよ」


 はぁ、やっぱりこうなったか。


 俺は荷物を抱えながら、ため息をついた。


 隣で歩いてるウラクの手には、さっき配られた紙と寮の鍵がしっかり握られている。

 その紙には、


 部屋番号404 ウラク・ダラーレ

       レイナーデ・ウィロー


 とはっきり書いてあった。

 こいつと同室なんてロクな事がなさそうだが、まあなんとかなるだろう。

 それより早く寮の部屋で休憩したい。


 初日の教室集合は9時だ。

 荷物を置いてから一休みする時間を計算に入れて8時には学校に着いたはずだが、それでも人は多かった。


 人混みを抜けて、さっき配られた地図を頼りに寮へと進んでいく。




 ラ・スルスの寮は学科ごとに分かれていて、レーシングドライバー科に在籍するおよそ100名の生徒は全員寮に入るらしい。


 寮の部屋は男女共用で、風呂は男湯と女湯からなる大浴場、それに食堂がある。

 さすがに100人もの生徒が生活する学生寮の部屋に広さは期待してないが、それでも風呂と食堂付きというのは魅力的だった。




 ――――――にしても、遠い。

 さっきからずっと歩いているが、寮まであとどれぐらいか分からない。

 合格発表のときは気にする余裕もなかったが、ラ・スルス自動車上級校の敷地ってどれだけ広いのだろうか。


 広さを整理してみよう。


 まず校門(正門)を抜けると舗装された屋外の広場のような場所に出る。

 合格発表および入学セレモニーはそこで行われた。

 生徒全員がぴったり入るぐらいの大きさだ。


 そういえば生徒は全体で何人いるのだろうか?

 レーシングドライバー学科は100人程度で、それが6学科あるわけだから……ざっと600人か。


 それはともかく、校門を抜けると600人が入りきる大きさの広場があり、それをコの字型に囲む感じで校舎が建っている。

 三階建ての校舎は大きく立派に構えている。

 正門はコの字でいうと左側だ。


 そしてコの字型の校舎の壁には、それぞれ3方向に通路が通っている。

 正門から見て右側の通路は、オートモービル学部の学生寮に通じている。左側はモータースポーツ学部の寮だ。

 そして正面が、実習場(・・・)


 実習場という広いスペースは、ピットレーンやパドックも含む本格的なサーキットと、広いフリースペース、さらにはいくつかのガレージで構成されている……と話には聞いているが、地図では塗りつぶされていてよく分からない。

 お楽しみはとっておくということか?

 いつかここを走るのが楽しみで待ちきれない。


 ……うーん、いろいろ考えてたら頭が混乱して訳分かんなくなってきた。


 もう1回地図を見て確認しておこう。




 寮1、寮2、寮3がモータースポーツ学部の寮になる。

 そのなかでもウラクがマーカーで印を付けた寮1がレーシングドライバー学科の寮だ。


 今ここだから……。


 まだまだ歩く羽目になりそうだ。




 *




「おぉー、ここが俺たちの寮か! こうして見ると実感湧くな!」


「しっ、うるさいウラク」


「わりぃ」


 だが、ウラクが騒ぐのも無理はない。

 100人あまりが生活する寮は、小さなホテルのようなものだ。

 俺もその建物を前に興奮していた。


「さっそく中に入ろうぜ!」


「ちょっと待ってよ、荷物重いんだから」




 自動ドアを抜けて中へ入ると、ロビーのような場所があった。

 そこに1人の女性が立っていたので、とりあえず自己紹介す――


「レーシングドライバー学科のウラク・ダラーレです!」


 先を越された。


「る、ルームメイトの……レイナーデ・ウィローです」


 こいつのルームメイトであるという現実を受け入れるには、もう少し時間がかかりそうだ。


「よろしくね。あんたたちは部屋の手続きに来たの?」


 女性は俺たちに確認をとった。


「はい。お願いします」


 ボーっとしてるウラクから紙を奪って確認してもらう。


「ふんふん……なるほど。OK。部屋の鍵は持ってると思うから、それで部屋に入って。あと、これ」


 そう言って女性は俺とウラクにカードのようなものを渡した。


「このカードキーで、寮の部屋以外の場所はだいたい行けるはず。卒業まで使うからなくさないでね。じゃあ行ってらっしゃい!」


「「ありがとうございます」」


 俺とウラクはお礼を言って、さっそく404号室に向かった。

 部屋の移動は原則として許可されていないので、卒業まで俺たち含む今年の新入生は4階を使うことになる。




 階段を上がって着いた4階には、部屋が15室ほどあった。

 レーシングドライバー学科に生徒が約100人、上級校は5年で卒業だから……この学科の新入生はだいたい20人か。


 もらった資料で寮のことを確認したかったが、ウラクの気持ちを尊重して先に部屋入りをすることにした。




 ウラクが部屋の鍵を慎重に開ける。

 カチャ、と音がして、ドアノブを回しながらゆっくりとドアを開いた。


 目の前に広がるのは、傍から見ればただのワンルームかもしれない。

 だが、今日からここで新生活を始める俺たちの目に映ったのは、夢のマイルームだ。


「うおーっ、すっげぇ!」


「思ったより広い……!」


 俺とウラクは荷物をおろして、ふぅと一息ついた。


「まずお互いの荷物を揃えて、エリア分けしようぜ」


「了解」


 ウラクのアイディアで、俺たちは荷降ろしを始めた。


 俺が寮へ持ち込んだのは、学校関係のものを除けば着替えと何台かのミニカーぐらい。

 ウラクもそんなもんだった。


 お互い自分の荷物を降ろし終えた俺たちの目に映るのは、2段ベッド。




「「俺が上!(俺が下!)」」




「え、ウラク下でいいの?」


「レイこそ上で大丈夫なのか?」


「俺は別にいいけど」


「じゃあ決まりな」


 すんなり決まってよかった。




 ウラクが2段ベッドの下ではしゃいでいる間に、寮について確認しておこう。


 まず、この5階建ての寮にはレーシングドライバー学科の生徒およそ100名が、学年ごとに階を分けて生活している。

 今年入った新入生は4階だ。


 1階から5階までそれぞれ15室ほどの部屋と、1階には大浴場、2階には食堂、3階にはレーシングシミュレーターが設置されており、このシミュレーターは自由時間に誰でも使うことができるらしい。

 さすがは超エリート校だ。


 さっきの説明通り、寮の部屋へは鍵を、それ以外の場所ではカードキーが必要になる。

 このカードキーは学生証の役割も果たしているため、絶対になくすわけにはいかない。




 時計を見ると、もう8時40分ぐらいになっていた。


 ちょっとくつろぎすぎたか。


「おーい、そろそろ行くぞ」


「ん、もうそんな時間か?」


「結構歩くんだから、時間には余裕もって行動しないと」


「そうだな」




 俺たちは寮の部屋を出て、校舎へ向かった。







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