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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第二章 異なる世界で学ぶこと
16/140

15.必ずここで

 





 *数か月後*






「大丈夫、全部ある……」


 俺は今日何度目かわからない持ち物の確認を終えて、外の景色を眺める。

 窓から見える家々や道路は、流れるように後ろへ過ぎ去っていく。


 今、俺は受験会場へ向かう電車の中だ。


 この世界の電車は半分リニアモーターカーみたいなもので、新幹線並みのスピードで運用されている。

 その中で、受験に備えて持ち物の確認を怠らない俺の隣にはウラクも座っていた。

 いつもは饒舌なウラクでさえ、集中したように目をつぶって黙り込んでいる。


 大丈夫。やれることはすべてやった。

 今まで一度たりとも受験勉強に関して妥協したことはないし、今朝はいつもより1時間早起きして支度を始めた。


「次だ」


 ウラクが不意にそう言った。

 モニターを見ると、降りる駅はすぐそこに迫っていた。


 俺は絶対受かる。


 もう一度それを意識に刷り込んでから、俺たちは電車を降りた。




 受験会場であるラ・スルス自動車上級校を目指して歩いていると、遠くから耳にエンジン音が響いてきた。

 それは明らかに、そんじょそこらの乗用車とは違うスポーツカーの音だった。


「これ……シノレの音だよな」


 ウラクが言う。

 シノレというのはこの世界に存在するスポーツカーの中の1台だ。

 さすがに音だけでは判断できないが、言われてみればそんな気もする。

 そうだ、敷地内にはサーキットがあるのだ。

 もしかしたら、今日は受験会場に使うため授業がなくなって暇な学生たちのために、サーキットの開放をしてるのかもしれない。


 やっと着いた。

 その立派な校門の迫力に俺たちが驚く余裕もなかったのは、想像の倍ぐらい人が集まっていたからだ。


「うわっ、これみんな受験生!?」


「そうだろうな」


 ここにいる全員が、それぞれ努力を重ねてこの受験会場まで来た……。

 いや、弱気になってる場合じゃない。

 俺は必ず、ここのサーキットを走るんだ。




「じゃあな」


「おう。お互い頑張ろうぜ」


 玄関でウラクと別れた俺は、手に持つ受験票と案内を頼りに試験を受ける教室へ入っていった。

 俺とウラクは同じレーシングドライバー科を受験するが、さっきの人数からわかるように同じ学科でも試験を受ける教室がいくつかに分かれている。


「席は左前から詰めて座ってください」という指示通りに座ると、机の上にはすでに問題用紙・答案用紙が伏せて置いてあった。

 試験問題に教科の概念はなく、1つのテストを2時間近くかけて解くシステムだということは知っていた。


 前面の大きいホワイトボードの上にかかっている時計は、試験開始10分前を指している。

 あぁ、いよいよ緊張してきた。

 ダメだ。緊張なんかしていいことはひとつもない。

 冷静さを欠いては何事もうまくいかない。レースだろうと、それ以外だろうと。


 教室のドアが静かに開いて、試験官と思わしき人物が入ってきた。

 あと試験開始まであと1分ぐらいか。


「筆記用具を持ってください」


 その指示で俺は鉛筆を持つ。

 時計の秒針が刻々と真上に近づいてきた。

 針の先端が12の数字と重なり――――――


「始め!」






 *






「お、そこにいたか」


 ウラクが俺に気付いて、声をかける。


「お疲れー。試験どうだった?」


「バッチリ解けたぜ。レイは?」


「完璧」


「自信満々だな」


「受験で一番大事なのは自信だからね」


「それもそうだな」


 やっと試験が終わった。

 2時間は長いようであっという間に過ぎた。

 問題は思っていたよりも簡単で、受験勉強の成果も相まって俺はすべての解答欄を埋められた。

 ふぅ。一気に肩の荷が下りて楽になった。


「合格発表っていつだっけ?」


「今からちょうど1週間後」


「そうか。サンキュ」



 長く続いた緊張感から解放された俺たちは、いつものように話ながら駅まで歩いて行った。






 明るい未来へと歩んでいくその背中に、サーキットからエンジン音が声援を送ってくれた。




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