13.いろんな国といろんな車
「ん、レイ何見てんだ?」
いつの間にか後ろに立っていたウラクに声をかけられた。
「給食か。お、サンドイッチじゃん!」
パチン!
サンドイッチ大好きなウラクのテンションに、俺の右手がハイタッチで犠牲になった。
あいつハイタッチ強すぎだろ。
それをわかってるのに思わず手を伸ばしてしまう俺も問題だけど。
まだ痛みが残る右手を無視して席に座ると、天然パーマが印象的な男の先生が入ってきた。
社会の先生だ。
ってことは、2時間目は社会か。
社会は前世とそこまで変わらないが、地理がメインとなる。歴史も授業でやらないことはないが、詳しく学びたい生徒は自分で調べなければならない。
そのほかに時事問題も授業で扱う。
今日の授業の内容は、世界の国々についてだ。
世界の国々とはいっても、この世界に国と呼べるものはたった6つしかない。
というかそれ以前に大陸の形とかも何もかも違うから、前世を基準に考えるのは難しいが。
この世界の地図を広げると、真ん中に大きな大陸が構える。
この大陸に名前はない。というか、大陸と呼べるものが1つしかないから『大陸』としか呼ばれていない。
その大陸を中心として西と南と東に、それぞれ大きな島が1つずつある。
島というのは大陸と比較したときの話であって、単体の大きさで見ればオーストラリアぐらいありそうだが。
まず、大陸には3つの国が存在する。
西から順にアマレイク、バラズ、ジルペインだ。
アマレイク合衆国は広い領土を使った農業と工業が発展していて、軍も強い。
世界経済にも大きな影響を与えている。
いくつもの大都市が栄え、人口も多い。
自動車産業は大衆向けの低価格な乗用車と、高パワーなスポーツカーが多い。
バラズ連邦共和国は高温多湿な気候を生かしたプランテーションが主な産業だったが、鉱山が見つかった後は急速に成長を遂げた。
貧困地域との経済格差など、課題が多い。
自動車産業はあまり栄えていない。
ジルペイン国は長い歴史を持つ国で、独自の文化や建築物が観光客にも人気。
過去の経済成長により大きく発展を遂げ、現在では先進技術の開発にも積極的に関わっているが、過去にはアマレイクと戦争して負けたという暗い歴史もある。
軍は保有していない。
自動車産業はこの国の経済を支える大事な産業で多種多様なメーカーと車種が存在するが、お手頃価格かつ性能も悪くないジルペインのスポーツカーは海外でも親しまれている。
転生後の俺はこの国に生まれた。
そして、大陸の東に位置する島がシアーナ。
シアーナ社会主義共和国は人口が最も多く、安い労働力を求めて他国の工場が集まっている。
ジルペインよりも長い歴史を持つが、過去に何度も戦乱があって俺の学習意欲は失せた。
マナーが悪い一部のシアーナ人のせいで、シアーナにたいして悪いイメージを持っている人も少なくない。
最近は自動車産業も栄えてきたが、車好きからは評判が悪い。
大陸の西にある島がティアルタ。
ティアルタ共和国は比較的温暖な気候を生かした農業が盛んで、食の美味しさには定評がある。
昔ながらの街並みが随所に残り、観光地としても有名。
自動車産業は実用性の高い小型車が人気だが、高級車も多い。
ティアルタのスーパーカーは値が張るが、それに見合った性能を持ち合わせている。
最後に、大陸の南にある島がノルド・カイラ。
ノルド・カイラ人民共和国は、以前はシアーナと友好関係を築いていたが、50年ほど前に鎖国を宣言して以来は情報がどこの国にも入っていないのでわかることが少ない。
物流はもちろん、金も情報も国内だけでやり取りをしているばかりか、人の出入りも許されていない(ただしノルド・カイラの出生証明書を持っている人に限り出入国自由)。
噂では指導者の独裁体制の下で軍備を整えているらしいが、真偽は不明。
以上の6つが、この世界に存在する国のすべてだ。
これを覚えるのは一苦労だったが、その国の自動車産業と一緒に覚えることでどうにか楽しく学べた。
にしても、やはり気がかりなのはノルド・カイラだ。突然宣戦布告でもしてくるんじゃないかと気が気ではない。
まあ心配したところで俺にどうにかできるわけでもないが。
今日の社会の授業は、ティアルタについてだった。
ティアルタの車は世界からも絶賛されている。モータースポーツで活躍している姿も見るので、親近感が湧く。
俺はフェアレディZ一筋だけど。そういえば俺のZは今どこにあるんだろう……。
そんなことを考えているうちに授業が終わった。やっと給食だ。
日本と比べて1コマあたりの授業時間が倍近くあるので、午前はこれで終わり。
やたら時間の経過が長く感じるのは気のせいだろうか。
あーあ、お腹空いた。
サンドイッチの具はなんだろう?
ふと目をやるとウラクは居眠りしていた。
せっかくあいつが好きなサンドイッチだし、起こしてやるか。




