夢:The Lady in Silver
*
「おお……!大胆にイメチェンしたね?」
俺は少女を前にして、驚きを隠せなかった。見慣れない服装だ。
一見すると薄い鼠色のタイトなクオータージッププルオーバーだが、関節部は黒い生地で補強されているようだ。コンバットシャツと呼ぶのが正しいだろう。
いつも着ている華美な赤いドレスの印象が強いせいか、装いを変えただけの少女がまるで別人のように見える。
「ええ。すごく動きやすいわね」
少女は軽やかに何度かジャンプした。カーゴパンツを履いてもなお、脚の細さが際立つ。長かった赤髪はボブぐらいまで切ったのだろうか。後ろは小さいポニーテールに纏められていた。
ベルトには黒いシースが装着されている。
「それは?」
俺が問うと、少女は素早くナイフを引き抜いた――と思った瞬間、いつの間にか刃が俺の首元に突き付けられている。
「うわっ、何!?」
「ふふっ……安心して頂戴、あなたは傷つけないわ」
少女はそう言ってくるくるとナイフを回し、シースに収めた。
ふとその動作に既視感を覚える。ああ、そういえばこの子は前に大剣を振るっていたような気がする。
「あの剣はどうしたの?」
「これがその剣よ。溶かして、ナイフにしてもらったの。こっちの方が手に馴染むし」
「へえ……よく見てもいい?」
「どうぞ」
ナイフを慎重に引き抜き、片手で握ってみる。
なるほど。確かにあの剣よりは取り回しが良いだろう。刃渡りは15cmほどで、少女の体格に合わせてあるようだ。
「あれは剣というより鈍器だったわ。ナイフの方が小さいのに、扱いやすくて鋭利で役に立つ。良い素材には、良い鍛冶がないとダメね」
良い素材、か。手に持った感触はあまりにも軽く、鉄や鋼で出来ているようには思えない。少女があの剣をいとも容易く振れたのも、この素材のおかげなのだろう。
「……本当に軽いな」
「ミスリルだもの。熱に強いから、なかなか溶けなくて苦労したのよ?」
俺がナイフを返そうとすると、少女は首を横に振った。
「これはまだ未完成よ。仕上げは、あなた」
「え?」
仕上げと言われても――このナイフを作ったのは俺ではないし、鍛冶の知識もサッパリだ。
そもそも仕上げに何が必要なのか。見る限りでは何も不足は見当たらない。
「……まさか、忘れてないでしょうね」
分からない。何を覚えているべきだったんだ?
「ごめん、俺……」
「冗談よ。あなたはしっかりと覚えているわ。約束通りね」
「約束?」
俺が必死に記憶を漁っていると、少女はじりじりと距離を詰めてきた。
左手からナイフを奪われ、そのまま指を絡めて引き寄せられた。後ずさりしようにもできない。
眼前が少女の瞳で塞がれる。睫毛が肌に触れる。
「ご褒美よ」
「――――――」
唇が離れた途端、強烈な浮遊感に襲われた。足元の感覚がない。
信号が青になった時のようなGを感じる。後ろに倒れているんだ。少女が遠のいていく。
視界の下の中央に、何かがある。
ナイフの柄だ。胸に深く突き刺さっている。
「ふふっ、ありがとう。やっぱり私……あなたが好きだわ」
*




