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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第五章 新天地にアクセルを
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夢:The Lady in Silver

 





 *






「おお……!大胆にイメチェンしたね?」


 俺は少女を前にして、驚きを隠せなかった。見慣れない服装だ。

 一見すると薄い鼠色のタイトなクオータージッププルオーバーだが、関節部は黒い生地で補強されているようだ。コンバットシャツと呼ぶのが正しいだろう。

 いつも着ている華美な赤いドレスの印象が強いせいか、装いを変えただけの少女がまるで別人のように見える。


「ええ。すごく動きやすいわね」


 少女は軽やかに何度かジャンプした。カーゴパンツを履いてもなお、脚の細さが際立つ。長かった赤髪はボブぐらいまで切ったのだろうか。後ろは小さいポニーテールに纏められていた。

 ベルトには黒いシースが装着されている。


「それは?」


 俺が問うと、少女は素早くナイフを引き抜いた――と思った瞬間、いつの間にか刃が俺の首元に突き付けられている。


「うわっ、何!?」


「ふふっ……安心して頂戴、あなたは傷つけないわ」


 少女はそう言ってくるくるとナイフを回し、シースに収めた。

 ふとその動作に既視感を覚える。ああ、そういえばこの子は前に大剣を振るっていたような気がする。


「あの剣はどうしたの?」


「これがその剣よ。溶かして、ナイフにしてもらったの。こっちの方が手に馴染むし」


「へえ……よく見てもいい?」


「どうぞ」


 ナイフを慎重に引き抜き、片手で握ってみる。

 なるほど。確かにあの剣よりは取り回しが良いだろう。刃渡りは15cmほどで、少女の体格に合わせてあるようだ。


「あれは剣というより鈍器だったわ。ナイフの方が小さいのに、扱いやすくて鋭利で役に立つ。良い素材には、良い鍛冶がないとダメね」


 良い素材、か。手に持った感触はあまりにも軽く、鉄や鋼で出来ているようには思えない。少女があの剣をいとも容易く振れたのも、この素材のおかげなのだろう。


「……本当に軽いな」


「ミスリルだもの。熱に強いから、なかなか溶けなくて苦労したのよ?」


 俺がナイフを返そうとすると、少女は首を横に振った。


「これはまだ未完成よ。仕上げは、あなた」


「え?」


 仕上げと言われても――このナイフを作ったのは俺ではないし、鍛冶の知識もサッパリだ。

 そもそも仕上げに何が必要なのか。見る限りでは何も不足は見当たらない。


「……まさか、忘れてないでしょうね」


 分からない。何を覚えているべきだったんだ?


「ごめん、俺……」


「冗談よ。あなたはしっかりと覚えているわ。約束通りね」


「約束?」


 俺が必死に記憶を漁っていると、少女はじりじりと距離を詰めてきた。

 左手からナイフを奪われ、そのまま指を絡めて引き寄せられた。後ずさりしようにもできない。


 眼前が少女の瞳で塞がれる。睫毛が肌に触れる。




「ご褒美よ」


「――――――」




 唇が離れた途端、強烈な浮遊感に襲われた。足元の感覚がない。

 信号が青になった時のようなGを感じる。後ろに倒れているんだ。少女が遠のいていく。


 視界の下の中央に、何かがある。


 ナイフの柄だ。胸に深く突き刺さっている。




「ふふっ、ありがとう。やっぱり私……あなたが好きだわ」






 *






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