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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第五章 新天地にアクセルを
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129.相棒だから

「あ、前が空いたよ。踏んでいこう!」


「よし……!」


 レイがアクセルを全開にし、シフトアップ――変速ショックが大きい。ガックンッ、と挙動が乱れる。そしてまた加速する。


「ああ、もう!ドグミッションってこんなシビアなのかよ」


 きっと回転数が合ってないんだろう。

 普段のレイの街乗りに限って言えば、クラッチの繋ぎ方は限りなくスムーズだった。それでいてレースでは瞬時にシフトチェンジをこなしているのを、テレメトリーでよく見てる。

 でも、今は話が違う。

 Zのギアボックスは、特注のドグミッションに換装された。ギア比は変わってないけど、純正品とドグミッションじゃ扱い方が異なる。


 ほとんどの市販車のマニュアルトランスミッションには、シンクロメッシュ機構が搭載されている。これはエンジンとギアの回転数をシンクロさせ、変速を滑らかにしてくれるものだ。ドグミッションには、それがない。露出してる歯車とエンジンの回転数を自力で合わせて、ギアを叩き込む必要がある。

 耐久性や信頼性を考えると、ドグミッションのほうがサーキットに向いている。それに回転数を合わせさえすれば、クラッチすら踏まずにシフトチェンジすることができるはず。


 ただ、今のレイに、それができるのか。


「いい?焦らないで。Zとゆっくり、会話して」


「会話……?何それ?」


「記憶を失う前のレイがよく言ってたことだよ。Zがどうして欲しいのか、気持ちを感じ取る、って。それができたとき、あなたは誰よりも速く走れた」


 私は、Zに乗るレイの走りを知ってる。でもレイが乗るZの走りは、きっと知らない。

 車の走りは、そのステアリングをずっと握ってきたドライバーだけにしかわからないはずだ。


「……うん」


 レイは小さく頷き、左手でまたシフトレバーを握った。アクセルを緩めているのか、Zはだんだんと失速している。

 ガコン、と一瞬の衝撃を感じた時には、既にアクセルは全開に戻っていた。

 シフトダウンから再び加速する。スピードと一緒にまたエンジンの回転が上がり、レブリミットに近付く。

 今度はさらに短い衝撃でシフトアップした。


「ん……?」


 首を傾げつつも、レイは加速をやめない。またレブリミットに近付く。

 シフトアップ。私が気付かないほど速くレイはギアを入れた。ドグミッションが上手く噛んでいる。


「うん……!」


 感覚を掴んだようだ。


「一旦、降りていいかな。ワインディングに戻りたい」


「いいけど、スピード違反はダメだよ?」


「気を付けるよ」


 ウィンカーを出して、ハイウェイを降りる。

 右は草原、左は雑木林に挟まれた田舎道に入っていく。コン、コン、とシフトダウンし、ラウンドアバウトを通り抜け、ワインディングロードへ。


「パワーは……すごいんだろうな。アクセル踏んだらすぐ吹っ飛んでくのにさ、でも全然驚かされないんだ。なんかこう、カッチリしてて……安心する。どう言ったらいいのか分かんないけど」


 レイは車線からはみ出すことなく、理想的なラインを描きながらコーナーを次々に抜ける。

 綺麗な荷重移動だ。まるで散歩みたいに、一歩一歩着実に運転している。


「楽しい?」


「ああ。……最高だ」


 よかった。Zに乗ってる時のレイは、前と全く変わっていない。


「私、レイのZに乗るの……久しぶりだなぁ」


「そうなの?」


 最後に乗ったのはいつだっけ。普段の買い物やドライブにはフェンリルのF-650を使ってるし、パーティーに行った時もそうだった。軽量化のために助手席を外したのはだいぶ前だ。


「本当は、私もここ(・・)にいちゃいけないんだと思う。レイとZのつながりを邪魔しちゃうし……それに、重り(バラスト)を積むのも嫌でしょ?ふふっ」


「フューエルエフェクトに比べれば誤差じゃないかな」


「もう……!」


 森を抜け、幹線道路に合流する。レイはまた加速した。


「記憶が戻ってセッティングが終わったら、また助手席は外す。だからそれまでは……」


 5速、6速。スピードが上がっていく。

 加速が止まらないのに、どうしてこんなに安心できるんだろう。


「それまでは、ここにいさせて」




 *




「やっぱり、下が太い……」


 誰もいないガレージに、私の独り言が反響する。

 専属エンジニアとしての仕事は、ドライバーが走り終わってからが本番だ。


 モニターに描かれるデータと夕方のレイの走りを照らし合わせる。

 アウト=ファーニュの時とは明らかに違う。同じタービンのはずなのに、ラグが全然ない。こんなこと、どうやって――――――


「……あっ!」


 見たことのないデータが隠されていた。拡張プログラム?


「なにこれ……?」


 サブコンみたいなものが、いつの間に。

 すごい。燃料マップ、点火マップ、ブースト、目標空燃比、フェイルセーフまで――全部、こんなに細かく設定できるなんて。今までの制御とは比べ物にならない。

 フェアレディZとレイの会話を盗聴しているみたいで、罪悪感すら覚えるぐらいだ。それでもじっくり確認してみないと。


 うん、確かにこれならラグを消すことができるはず。悔しいけど、この制御のおかげでZの進化はより完全なものに近付いてる。

 ただターボに換えて繋げただけじゃない。ここまでして初めて、Zは進化する――――――




 でもそれには、レイがいなきゃ始まらない。




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