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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第五章 新天地にアクセルを
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122.毎々馳せ参ず

 俺の左で忙しなく加減速を繰り返す挙動不審なイライザが鬱陶しい。

 そんなやり方でどうやってタイヤを温めるというのか。


『レイ!ウラクばっか見てないで、前を見て。集中して』


「分かってる」


 予選の順位はウラクが7位、俺が8位。つまり俺たちは4列目から横並びでスタートすることになる。レースは25周。スタートの瞬間に隣にいるからといって、それが何だ。フィニッシュする時には俺の後ろにいるのだから関係ない。


 最終コーナーの右ヘアピンを回る。偶数列がイン側なのはラッキーだ。


 ターボラグを見越して、前のマシンが加速するよりも早くアクセルを踏み込む。ウラクは既に全開だ。

 シグナル、ブラックアウト。第4戦のレースが始まった。


 ホームストレートの道幅はやや狭い。周りに車が密集していてポジションを保つのが精一杯だが、そうこうしているうちにすぐ例のカスカータに迎えられる。

 坂の頂点だ。前が見えない。何も見えない――――――!


 俺の右にいたマシンのうち一台がバランスを崩し、減速しながら縁石を超えてランオフエリアへと逃げていった。何とか立て直したようだが、それをサイドミラーで見届けている余裕はなかった。

 あの状況で壁にも他のマシンにも当てずに回避できた彼も、並のドライバーではないのだろう。


 二本目のストレート。ウラクはスリップストリームから一台抜いて、更に前のマシンに仕掛けている。

 そしてそのままブレーキングに持ち込み――勝負あり。

 俺も黙って見ているつもりではない。しかしスピードの乗りが足りず、進入までに横に並ぶことができなかった。


「こっちだってターボで武装してんのに……!あいつ、ストレートでどんだけ伸ばして……まさか」


 今のZとイライザは、パワーではほぼ互角のはず。それなのに最高速の差が生まれるとなれば。


『うん。ダウンフォースをありえないぐらい削ってるよ。ほら今も、全開で曲がれるコーナーなのにあんなに不安定。どっかに飛んでっちゃいそう』


 エルマの言う通り、ウラクの走りはいつにも増して神経質で繊細に見える。

 この高速サーキットで優位に立つため、ダウンフォースと引き換えに更なるスピードを手にした代償として、コーナリングでの安定感を失ったとしたら――――――


「無理やり押さえつけてるなら、タイヤにも相応の負荷がかかる。あのペースも長くは持たないだろ」


『……あのねぇ、敵はウラクだけじゃないからね?』


 そんなことは分かってる。俺とウラクの他に24台も走ってるんだ。そいつら全員を相手にして勝たなきゃいけない。




 *




「ウラクは?」


『今は3位。前の方でやりあってる。ただ……これじゃ絶対タイヤは持たないね。2ストップかな』


「……だと思った」


 スタートしてからずっとあんなペースで順位を駆け上がっていって、5周目には既に先頭集団。ウラクの腕でそんなことができたとしても、タイヤが耐えられない。つまりあいつはこのセットのタイヤを早々に使い潰して、レースが終わるまでに二回ピットストップするはずだ。

 もちろん、ピットストップ一回分のタイムロスが増える。だがそれを帳消しにするほどのペースで走り続けられたら?


 というか、実際に第2戦ではそれでまんまと出し抜かれて負けた。アルジェントの二の舞にはならない。


『ここって1周が長いから、逆にピットがそこまでタイムに響かないんだよね……』


「ああ……それもあるな。クソッ、どうしよう」


 風がウラクの方に向いているような気がした。駄目だ。負ける理由より勝てる理由を探せ。


 今日のあいつの弱点はタイヤの摩耗が激しいこと。でも2ストップ戦略でタイヤを3セットも使えば、耐久性など気にせずにほぼずっと全力のペースで走っていられる。そしてそのロケットみたいな最高速で25周ずっとアクセルを全開にされたら――――――いや、そもそもストレートではタイヤをセーブしようがこき使おうがあまり関係はないか。


 ということはストレートスピードに余裕があれば、コーナーでタイヤをセーブすることもできる?

 そうだ。確かにイライザには劣るが、Zだってそれなりに最高速は伸びる。何本も走る長いストレートでその度にタイムを稼いでいれば、コーナーではあまり攻めずにタイヤを労われる。


「……オーバーカットだ」


 あっちがタイヤを使い潰す気なら、こっちはとことん長持ちさせてやる。

 できるだけ長くこのタイヤのまま走って、一回だけのピットストップのタイミングをとことん遅らせて、新しいタイヤに交換する。

 このサーキットは全開率が高いから、燃料の消費量も大きい。ガソリンを多く積んでいるということは、レース終盤にタンク内のガソリンが減ってマシンが軽くなった時のラップタイムの向上――フューエルエフェクト――も馬鹿にならない。

 ピットストップまではペースを抑えて、レース終盤に軽くなったZに新品タイヤを履かせて一気に追い上げてやろう。

 その勢いは今のウラクをも遥かに上回るはずだ。




『あ、ウラクが入った。次のスティントはあのペースで後ろから襲ってくるよ。惑わされないでね!』


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