表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/44

026:ゴミ以下の仕事、其の2

 借家の一人暮らしのレド、アリサの件、ウルカの件を片付けたのが初日、その後剃髪に仕事を押し付けられて渋々仕事を行い、学校の初日。

 宅配物を受け取り、差出人を見てから余りの辛さに硬直した。

 剃髪からの贈り物で、今までの働きに報いるとあるが、碌でもなさ全快だ。

 大赤字の大変な仕事か、赤字のつまらない仕事しか押し付けない嫌な元上司だ。

 一応中身は焼却したいが、そういうことをすると大変な目に遭うので焼かない。

 一度恨みから腹いせに剃髪からの宅配物を焼いた日、酷い仕事を大量に押し付けられて、何度も入院した。老紳士のサーフはさすがに酷いと直訴したので止まった。

 中を開けると、警察手帳だ。

 戻って来いというお達しなのか、あの剃髪がそんな事をするほどとは思えないが、同封された書類を見る。


『特別警察、刑事第1号おめでとう』

「うっそー!?」


 悪夢のようなものだ。

 特別警察とは、特別警察法という問題しかない法律により、警察の規則などに縛られない、警察権力を持つ国家の悪犬だ。

 採用方針は能力のみ、それ以外は全て不問。

 レドは滂沱した。

 頑張って貯めた金を消費するしかない仕事を押し付けられて、やって縁が切れた筈であった少々色々と合って最近また仕事を押し付けられたが、少なくても散々働いた。国は一切の金を払っていない、ボランティアだ。

 そんなレドに報いると書いて、悪夢を押し付けた、誰もがやりたがらない仕事、その警察の上位の刑事、その第1号だ。

 ここに家族が居れば泣いた事は間違いない。


「酷すぎる、俺が何をしたってんだよ、酷い」


 久し振りに泣いた。

 己の不幸の涙するしかなかった。ただ人はそんなものは不幸とは言わない、絶不幸と呼ぶ。最悪の仕事を押し付けられた高校1年の少年だ。

 近所の人達は言うだろう。

 彼奴が悪犬第1号だと。

 学校では誰も近寄らず、教師すらも関係を持たず、常にソロを行うしかない日々を過ごし、悪夢のような仕事を押し付けられて行い、最低の給与も支払われず、ひたすら嫌われる仕事を行い、最後には若くして殉職する事になる。

 これを泣かずに居られる強者はさすがに居ない。

 地獄の鬼もビックリのお仕事だ。

 もっと酷いのはレドは志願した覚えはない、つまり強制的にさせられたのだ。

 徴兵と言っても過言ではない行いだ。

 レドは己の不幸を泣いた。

 しくしくと泣いてから、泣き終えてから、手帳を懐に納めてから、荷物を持って出た。

 そこには老紳士のサーフがいた。

 気の毒そうに見てから話した。


「泣いたか?」


 声には深い同情がこもり、レドは頷く。


「・・・儂も泣いた」


 手帳を見せる。

『特別警察』


「二号じゃ」


 レドは不憫過ぎて何も言えない。


「ひとまずの、送る」


 レドは送る場所を聞かなかった。

 行先は一つしかないからもう言わない。

 それは地獄と呼ぶ。

 サーフの愛車のオープンカーのジャガーに乗る。


「行先はお前の学校だ。そこで話そう」


 目的地とは言わない。

 レドは家族写真を見ていた。


 □


 学校について落ち込んでいるレドが降りる、サーフも降り、駐車場でレドに一人の男子生徒がぶつかった、写真が落ち、それを拾おうとしたレドの腹をその男子生徒が蹴り、吹っ飛ぶレドに、男子生徒が写真を見て唾を吐いて踏みつけた。

 サーフは硬直した。

 レドは家族が大切だ。仲間も大切だ。その二つには絶対に手を上げない、殴られても抵抗もしない、それがレドの絶対の掟だ。

 それを傷つけた者は誰も許さない、どんな者、レドの笑顔を見てからどんなに抵抗しても最終的にはこの世からあの世へ返却された。

 そんな写真に唾を吐いた、そんな写真を踏みつけた。

 サーフはレドを見る、笑顔で笑っていた、作り物の仮面のような感情のこもらない笑いだ。

 サーフは溜息を盛大に吐く、警察の規則に縛られない特別警察の刑事に思いっきり喧嘩を売り、逆麟を力いっぱい殴り、他殺志願書にサインし、今死刑執行前だ。

 知らなかったではすまされない為に、ひとまず老人のサーフで現在のレドには敵わないので、装備があり全力で戦ってもよいなら勝てても、激怒しているレドと、名前の知らない愚かな男子生徒の命のどちらを守るのかと言われても、愚か者は死んでもらうことにした。こんなところでレドと争うほどの価値はない。

 レドが立ち上がる、レドの笑顔に男子生徒は構える。

 残ったのは血塗れのレドと、元男子生徒だけだ。

 写真を拾い、懐に納める。


「正当防衛だった、そう言っておく」

「悪いなサーフ」


 サーフが周囲を見る、一人の女の子が見ていた。女子生徒の様でネクタイの色から一年生だ。つまり新入生だ。髪色は黒、髪型はおかっぱ、瞳の色は黒、肌のペールオレンジ。

 表情はこの凄惨の光景を見たのは顔色一つ変化はない、後ずさり一つしない。

 変化のない少女に、レドは気付かずにそのまま中に入る。

 サーフとしてもこの女子生徒のケアなどをする気はないので見てから去る。

 この少女はレドの行為を見たはずなのに普通に歩き、死体の傍を通り足音から気付いたレドが振り向く前に、ハンカチを差し出した。

 レドが振り向いて、この少女の顔を見て硬直し、直ぐに起動せずにハンカチを差し出し少女のハンカチを受け取る。


「大切な物?」

「家族と仲間の写真だ」

「そう大切な物ね」

「・・・ありがとう」

「どういたしまして」


 極普通の少女の様な受け答えだ。レドも驚いて位の表情ではあるが、特に殺意はないようだ。サーフとしても意外な事ではあるが、ティアと瓜二つだ。違うのは感情の起伏が低く、声の方にも感情はそれ程こもらないが、声までティアそっくりだ。

 感情の方を除けばティアと瓜二つ、レドの次の行動は守る行為に続くとサーフにはわかった。


「小僧、写真の方は良いのか」

「いや拾ったし」

「見せた方が良いのではないか?」

「見たい」


 少女の言葉に、レドは迷ったが取り出して見せた。

 少女の方は初めて表情が変化した。

 コスプレ写真ともいえるし、その中央にはティアがいる、この少女も笑顔のティアの顔を驚いた顔でじっと見ていた。何せ瓜二つ、自分が笑顔で写真に写り、しかもこの少年の家族と仲間の写真と言われてていれば、とても驚くなんてものではないだろう。


「この中央の少女は誰?」

「・・・ティアだ」

「関係は?」

「・・・養女だ」

「会いたい」


 困ったレドに、少女の瞳には強い意志が宿っているようで、じっとレドを見つめる。


「会いたい」


 更に少女が言う。

 困っているレドに、サーフは助け船を出した。


「会わせればよいではないか」


 老紳士の言葉に、レドは信じられないと言った顔でとても困っていた。


「会わせて、お願い」


 少女の三度目に頼みと願いに、レドは折れた。

 車でレドの自宅に向かう。

 血塗れのレドは目立つので、シートは被せていた。


「小僧、儂らは嫌われ者じゃ、どのみち行先の目的地は地獄じゃし、何をしても嫌われる、どんなことをしても感謝されん、どんなことになっても恨まれる、それでもお前には護る物が有る、大切な物が有る、その娘はどうするのじゃ」

「・・・どうしよう」

「あの世界に行くのじゃから、当然の様に小僧の娘に会う、となるとあるティアの性格から言ってもこの娘と仲は良くなるじゃろ、とすると一緒に冒険をしたがるじゃろ、この娘も望むじゃろ、分かったか小僧」

「・・・さすがはサーフ」

「主の護るべき者、大切な者となるのじゃから、死んでも守るのじゃろ」

「そうなるよね。数少ない仲間に入るのかな」

「小僧の味方は多い、なんだかんだ言っても小僧が助けた人たちは小僧を守ろうとするじゃろ、小僧の大切な者もな、敵も多いが味方も多いしの、大変な事になるのじゃぞ」

「控える様にするよ」

「分かればいいんじゃ、その娘を守るのじゃから、色々としておけ」

「・・・困ったな」


 レドの借家につく、中に入ってからレドは着替え、サーフは相変わらずの内部を見る。

 トラップしかない室内だ。

 レドの室内の一階はこんなものばかりだ。

 地下に下り、専用の部屋につく。

『ワンオン・フリーライフ・オンライン』は1年契約の一括支払いで、非常に高額の支払いとなる、現在の一カ月換算にすると月10万位だ。

 ハードや専用の機材なども考えれば、初期投資でも数百万する。

 ゲーム雑誌の紹介によれば、高性能なAIを、オンリーワンに創り出すとあるシステムを採用した、ライフゲームの様なモノでもあり、世界を再現したとも言われるほどもので、品質と値段を考えれば一般的なVRMMOに比べ、ハードルが非常に高く、高級なゲームなのだ。

 所謂の所のフルダイブシステムを採用し、プレイヤーは2万名、月20億計算の収入が入る。下手なゲームなどより収益は確かで、下手なゲームよりよほど儲かる。

 レドの仲間達も4名も居るし、4名中3名の学生はご両親が支払ったわけではない、景品として当たった枠だ。

 ユウヤやツグミのようなご両親が支払うような所もある、人それぞれではあるが、レドは自前の資産から支払った、この資産はレドの過去の貯金だ、この貯金は色々な方法で現在進行形で増加中だ。

 地下の室内にはSFのような空間が広がる、しかもかなり広く、川や噴水なんかもある。


「ここは?」

「俺の部屋だ」

「綺麗な部屋ね」

「ありがとう」

「のう小僧、明かしてしまえばすべて解決するぞ。小僧が人間ではないとかの」

「・・・」

「言いたくないならいい」

「いや、まあナノマシンによって構成されたタイプの存在なんだ」

「ブーステッドヒューマンの完成形じゃな。並の人間では傷一つ付かんしの、この世界の武器など全く意味はない、完璧なナノマシンを目的に作られた存在、それが儂らじゃ」

「お爺さんも?」

「そじゃ。とある世界の事故で儂らはナノマシンとなった、その後研究され、儂らを人に近付けるために色々と合った、人の持つ遺伝子を持ったナノマシンなんじゃ、有機物と無機物の融合という奴じゃの、儂らには姿などない、幾らでも変えられるからの、そう言って意味でこの世界の住人は何度も儂らを狩ろうとしたが、勝てるはずもない全て死んだ、そもそも姿が変わり、傷も直ぐに癒え、武器を創り出し、兵器すらも作り出し、生きているのか、それとも死んでいるのかもこの世界の技術ではわからん。そもそも違った世界の技術が分かるはずもない」

「・・・」

「関係ない」


 少女の言葉にレドはかなり驚く、老紳士のサーフは予想していただけに、次の言葉を話す。


「ティアの居る世界の別の惑星じゃよ、AIとは言うが、儂らをモデルに作られた存在じゃ、有機物と無機物の融合体でもあり、実質的な儂らの同族じゃな」

「何でサーフはそう何でも話すのかね」

「小僧なりに言えば、その娘は絶対に守る存在となる、この世界への楔となるからじゃよ」

「お爺さんありがとう」

「ええんじゃ、困った事があれば小僧に言え、絶対に助けるからの、何せティアとお嬢さんはあまりに似ている、そっくりというレベルではない、双子じゃ、服装以外すべて同じ、下手したら遺伝子まで同じかもしれんがの」

「生き別れる姉がいるの」


 レドは盛大に溜息を吐く、理由は何であれ、この少女の片割れかもしれないという希望を持ったらしい、違った種族ではあるが、それは絶対にないとは言い切れない為に、後で開発者に聞くことになるが、レドが散々脅したこともあり、レドが来たら怯え過ぎて死んでしまう可能性も高い、レドとサーフは戦闘モデル、あの開発者は技術者モデルだ。

 戦闘能力の比が違う、強いて例えるのなら最新鋭の戦闘機と、自転車位の差だ。

 更に言うのならレドは試作品で有り、サーフはこの進化形だ。

 試作品ではあるが、サーフより性能は高い、サーフは所謂の所の先行量産型だ。

 知性の点に置いては技術者タイプの方が高いが、戦闘機と技術開発専用機では話にならない、頭は良くてもサーフやレドには絶対に敵わないのだ。

 そんなレドの娘にとある存在は興味を持った。

 この技術者モデルの開発者の生命が危ぶまれるのも頷ける。

 そんな存在のレドの為に、レドが仲間のウルカから暴力を受けても特に気にならないが、痛覚は有るので痛いのだ。リアル張りに痛いとも言うが、仮想現実ではない為に、本当に痛いのだ。なにせゲームの場所は別の惑星だ。

 その世界に生きる、それが目的で作られた。レドやサーフ達の同族によって構成される世界だ。もしあの世界の物を持ち帰ったら大発見だ。絶対に出来ない事ではあるが。

 もしサクヤの未来より来たとしても、異世界より来たとしても、それは絶対に出来ないのだ。レドやサーフの過ごしてきた時間は途方もない長さだ。それも一つの世界に対しての時間に過ぎない、世界から世界へと渡り、この惑星に帰還した時の合計時間は途方もない。


「・・・探してみる」

「ティアに会いたい、やっと掴んだ奇跡なの」

「直ぐに会える、ただあの惑星には転送されることになる、まあ色々と開発者の趣味でゲームの様な世界だ。何でもゲームの世界をそのまま作ってみたかったと、もしかすればその世界に流れ着いたかもしれない、どちらかとはわからないが」

「どちらでもいい」

「天照武久だ」

「コマリ、西園寺コマリ」

「じゃあ行くぜ」


 サーフとしては、やっとのことこの少年に楔が撃てたことに感謝した。

 もし楔が無ければずっとゲームをするからだ。仕事を押し付けても直ぐに解決して休暇申請、そもそもこの世界の武器が効かない為に犯人逮捕など余りに簡単だ。

 しかもこの少年のモデルの試作モデルだ。実質的に唯一のタイプで有り、戦闘能力の性能でいえば宇宙戦艦の様なものだ。サーフはそれに搭載されるような艦載機だ。開発者はそれを整備する技術者だ。

 そんな事もあり、この元々の惑星では長年サーフ達を狩ろうとした、敵うことはないと理解に及んでも狩ろうとする、核兵器が直撃しても効かない存在なのだから、恐怖と言えばそんなものかもしれない、ただ別に意思がない訳ではないので友好的な人達とは長年の交友もあり、この日本では暗部として暮らす。

 剃髪の偉丈夫の長官とは長年の交友もあり、サーフとしては割と良い関係だ。レドからすれば嫌な上司であったが、仕事はしっかりとしたし、何よりレドの性格をよく知っているので、まず裏切らないということは理解している。そもそもレドに裏切る必要がないからだ。宇宙戦艦に傷をつける事が可能になっても、それは長い時間がいるので現在としては生命の危機がない以上、裏切る事はまずないのだ。

 そんなレドを怒らせて殺された男子生徒は、余りに愚かだったに過ぎない、あんな行為を許せるほど人は好くないのだ。サーフとしてもあんな人の為に戦うことはできない。


 □


『レドがログインしました』

『コマリがログインしました』

『サーフがログインしました』


 レドの自室に現れた三名、掃除をしていたリャナが驚く、それは目の前にいきなり三名が現れた事ではなく、ティアが現れたからだ。

 しかしよく見ればティアとは表情が違う、まるで感情が薄い様な顔だ。


「ようリャナ、ちょっとティアを呼んできてほしい頼めるか」

「はい。今すぐに」


 リャナが珍しく慌てて出る。

 レドが適当に座る。


「好い所に暮らしておるの」

「趣味だ。星空の記録で色々と考えた、サクヤの部屋もある」

「アヤツか、あの女も随分とまあ」

「なんだよ」

「前衛の女性」

「・・・サーフまで言うなよ」

「その手の女が良く寄るかな」

「一体何の呪いだろうね」

「色々と合ったからの」


 そんな会話をしているとティアが入ってきた。後ろにはピローテスだ。二人ともコマリを見て吃驚、特にティアは理解が及ばずに硬直。


「姉さん」


 コマリが呼ぶ、誰を呼んだのか二人にはわからないが、ティアだけを見て居るるので、ティアもよく分からないがよく似たというより同じの女性がいるぐらいだ。


「ティア姉さん」


 名前と呼び名、ティアはどうしたものかと思う、プレイヤーとNPCでは住む世界が違うので、この女性が姉ではあるはずはないが、それでも瓜二つの為に、ひとまず挨拶した。


「ティアですよろしく」


 ティアの挨拶に、コマリは微笑む。


「西園寺コマリ、初めまして」


 コマリの挨拶に、ピローテスも挨拶した。


「ピローテスだ。ティアの姉であり、親の名前はレドだ」

「よろしく、そのレドこの人?」


 コマリがレドを指さす、ピローテスが頷く。


「私には生き別れの姉がいるの」

「でもティアはNPCで、コマリはPCだよ」

「関係ない」

「うーん。でも、ティア凄く困る、うーん、どうしようお母さん」

「父さん」

「後で調べるが、もしかしたらコマリの言葉通りかもしれないのだ」

「そ、そんな」

「ティアはPCなのか」

「分からん、ティアは特殊なNPCらしいからもしかすれば、何せあまりに似ているというか瓜二つだ。ここまで似るのが他人の空似とは言えまい」

「じゃ、じゃあ妹!?」

「まだわからん、調べてみる事にはなるが、かといってもティアの遺伝子は調べられないしな」

「いでんし?」

「まずNPCの基本的にことを言えば、無機物と有機物の融合体ではあり、意志と遺伝子を持ったナノマシンだ、これらの人種をブースデッドヒューマンと呼ぶ。姿かたちこそ違えど、ティアもピローテスも同じ種族、サーフも俺も」

「「・・・」」

「地球の人間とこの惑星のブースデッドヒューマン位だな、人間の方は有機物だ。有機物は生物、ブースデッドヒューマンは金属などの無機物と生物などの有機物の融合体、全く違った人種ではある」

「お母さんは同じ種族なの?」

「ああ」

「・・・本当?」

「何故娘に嘘を言わねばならない」

「やったー!」

「話は分かった父さん、父さんたちは、その地球からこの惑星に来ているのか?」

「ログインとは言うが、この惑星に転送されて活動している、ただ二つの惑星の事もあり、どちらも物の行き来は出来ない、それだけは絶対に出来ない様になっているのだ。出来るのは映像や文章などの情報データのみだ」

「なるほど、その子供は作れるのか」

「まだ技術的には不可能らしい、それに開発者は性行為が大嫌いなんだ。子作り嫌いでな、そういうものその物を嫌悪している」

「人の営みを嫌うとか変人だな」

「お、お姉ちゃん何言ってんの」

「必要なのだどうしても」

「まっそんな訳だ。じゃあ調べるのでコマリ、ログアウトするぞ」

「もう行っちゃうの?」

「悲しまないで姉さん、直ぐに来るから」


『レドがログアウトしました』

『コマリがログアウトしました』

『サーフがログアウトしました』


 □


 レドの自宅から学校に来た。

 入学式の最中であり、サーフもレドの同族であり保護者の様なものなので、同席した。

 普通に行われたが、教師たちは落ち着かない、男子生徒の一人が惨殺されたので知らされている様だ。サーフとしても、あのような愚かな人種を守る気は全くない、まともな人なら助けても良いが、人としての基本が出来ていない、それも高校生にもなっても出来ないのならあの世で出来るようになるしかない、そんな問題のある人種を殺害しても全く心は痛まない。

 サーフもレドも特別警察の警官の上位の刑事の為に、普通の警察からは唾棄の如く嫌われる、弁護士も、裁判官も、自衛官も、そもそも公務を行うもの全てから嫌われる。

 だがそんな特別警察と喧嘩をしたがる者は皆無だ。

 特にサーフと敵対した者はどんな理由が有っても死んで来た、レドと違ってサーフは人間にそれ程友好的ではない、友好的な人なら守っても良いが、敵対した者を許すほどの心はない、武器を向けられれば武器を向け、殺意を向けられれば殺意を向け、殺そうとすれば殺してきた、それは何処に行っても変わらない。

 レドのように問題もあるも、心優しい存在とは違うのだ。サーフからすればレドのような優しさは無用とは言わないがそれほど必要ではない。

 だからサーフと敵対した者は、サーフを人斬りと呼ぶ、どんな理由が有っても斬ってきたからだ。そもそも宇宙戦艦の艦載機の戦闘機に優しさなど要らないからだ。

 そう言って意味でサーフは兵器に近く、レドは人に近い。

 だがコマリのような存在なら守ろうとはする、弱者や困っている人なら守ろうとする、助けを求める人なら助ける、頭を下げる人の頼みは聞く、心から謝罪するのなら理解は示す。

 故にサーフは心を重んじる。

 醜い世界ではあるが、コマリのような心を持ち合わせた存在も居る、だから滅ぼそうとは思わない、あの世界に行くためにはこの惑星は必要でもあるし、この惑星には思い出が詰まっており、特にこの国には友人や仲間も多い、だからサーフも積極的に殺害はしない。

 受動的ではあるが、色々と悪事を働く者はそれが理解できない、そんな悪人を殺すサーフを、人は極悪人と呼び、常に殺害しようとする。

 剃髪の偉丈夫の長官のような存在も居るので、愚かな人ばかりではない、中には非常に賢い存在も居るし、国の為に生きる者もいる、人の為に頑張れる者もいる、弱い者を救おうとする者もいる、だからサーフは人が好きだ。

 そんな卵の子供を見るのもサーフの楽しみだ。

 そう言う好みからレドは孫の様なモノでもあり、開発者は息子の様なものだ。

 レドの家族はサーフの家族でもあり、このまま平和な時間が紡がれればよいなと思う。

 かつての妻や、戦死した息子の事もあり、いつかあの開発者の作り出したシステムが、復活させてくれればサーフは言うことはない、リャナという存在もあり、それはかなり近い時間だ。だが急ぐことはない。

 かつての主君の事もある、気高き王女、レドもサーフも唯一剣を捧げた相手だ。

 あの開発者を超える程の知性の持ち主でもあり、開発者が唯一知性で負けた相手だ。


(姫様、レドも成長しております、姫様なら気付かれると思いますが、レドは良い奴となりました、理由は何であれ姫様の護ろうとした人々は生きていますので、儂らは必ず姫様元に参りましょう)


 レドが過去の恨みから解放されたことは直ぐに分かった。

 膨大な時間を過ごし、絶対に忘れる事もなかったあのレドが、サクヤによって諭され、この恨みを捨てた、あり得ない奇跡でもあり、これゆえにサーフはサクヤに一目置く、もし協力を求められれば力を貸す事はいとわない。


 入学式が終わりかけた時に一人の変な物が現れた。

 この学校の女子生徒の制服に、しかも新入生のネクタイをした狐の耳に、狐の尾をしたゲームの惑星のフォックス民族の女性だ。

 幾らサーフもあり得ない事なので、信じられずに硬直した。

 気付いた人たちも動きも止まる、壇上の生徒会長はこの変な物を見て硬直していた。

 これで全員がこの変な物を見る、誰もが見たら時が止まる。

 あのレドですら理解が及ばず止まっていた、コマリは起伏の薄い表情でも十分驚くような顔で見ていた。


「何じゃ、妾がそんなに美人かえ」


 誰もが何も言わない。


「分かるぞえ、確かに妾は美人じゃからの、うむ好い事じゃ、しかしの言い寄るのは無しじゃ、そう言った時間はないゆえに」


 言っていることはあれだが、この独特の口調に、一人称が妾、フォックスの女性、これにサーフは気付いた。しかし中々常識は捨てられない、だが間違いない事だ。


「サクヤか、サクヤなのか」


 女性の名前を呼ぶ、呼ばれた女性は顔を向け、サーフを見てから不思議そうな顔で話す。


「主は誰ぞ?」

「サーフだ」

「サーフ?主は人斬りサーフかえ、剣客商売の?」

「ああ」

「驚いたのう、お主本当にジジイじゃの、何しておるんじゃ」

「レドの入学式だ」

「!?ここにレドが居るのか、どこじゃ」

「落ち着け、儂も落ち着かんとの」


 老紳士のサーフは混乱し、フォックスのサクヤも混乱中だ。見る者は全て混乱中だ。

 立ち直る時間はそれなりに要した。

 入学式が終わり、学校からの配慮で学食が解放され、その職員用の食堂でサクヤを中心に、レド、サーフ、コマリがいた。

 職員用の食堂の従業員はサクヤの姿を見て、時が止まるが、再起動はした。


「うむ。人は変な物じゃな」

「レドも儂も人ではない」

「どういう事じゃ?」

「ブースデッドヒューマンという人間と別の種族だ」

「何が違うんじゃ?」

「人間は有機物で構成されているが、儂らは無機物と有機物の融合体じゃ」

「なるほどのう、色々と妙な事も多かったしのう、レドの話した旅の事と合致するの、異世界に転移したことにより色々と合ったとの、なら妾も明かそう、妾は竜じゃ、所謂のドラゴンじゃな、こんな外見ではあるが姿など幾らでも変えられる故に」

「・・・うっそー」

「色々とあるんじゃよ妾にもの」

「そう」

「西園寺は、よく似ておるが感情が薄いの」

「ティアは私の双子の姉」

「そうか、大切にせえ、まあレドは問題があるがの」

「あー」

「レドにとってみれば、人間は別の種族、その別の種族と交流するのなら相応に必要ではないかの?」

「・・・」

「傷つけるなとは言わぬが、殺す必要はなかろう、聞けば酷い殺し方じゃったそうじゃ」

「・・・控えるよ」

「分かればよい、やり過ぎというものじゃな、人は簡単に死んでしまう故に妾の様な世界を超える事も出来ない、レドやサーフのような存在でもない、西園寺のような存在に近いからの、仲間には黙っておくわい」

「ありがとう」

「だから言うじゃが、殺害だけはなるべく控えよ」

「分かったよ」

「ええ子じゃ、西園寺もこんな奴じゃが良くしてやってくれ、問題が有っても話の分からない奴ではない、ちゃんと話せば伝わり、ちゃんと理解する、大切な者を傷つけられれば誰でも怒る、レドはそれが人間より強いんじゃ、種族の性質かもしれぬの」

「うん、姉さんの親だから」

「そうかえ、あのゲームは何じゃ」

「VRMMO」

「嘘はつくな」

「ということになっている」

「確かに嘘はついておらんの」

「まあ別の惑星に作られたゲームの様な世界」

「・・・惑星?」

「ああ、別の惑星にある俺達と同じブースデッドヒューマンの世界」

「・・・もう一つのリアルなのかえ?」

「同じ宇宙にある別の惑星だ。場所はいけないようになっている、行くためにはどうしてもゲームをする必要がある様に、あのシステムを作った開発者が、絶対に通らないように作られた一つの防御システムの中にある惑星だ」

「余程進んだ技術の人種とは思ったが違うようじゃな」

「技術担当は開発者」

「主らは」

「俺は宇宙戦艦、サーフはその艦載機の戦闘機だ」

「・・・宇宙、戦艦?主は」

「俺はとある試作型でね、ブースデッドヒューマンの中でも一風変わっているのさ」

「・・・確かに人間とは随分違うの」

「俺の方はそもそも戦闘用なので、戦闘用宇宙戦艦だな、外見は人間を真似てはいるが、核兵器が直撃してもまず傷一つつかないね。サーフも似た様なものさ」

「人間のような奴じゃと思ったが、風変りな」

「風変りなのさ、まあだから人間が余り分からない」

「確かにの、戦闘用の宇宙戦艦からすれば人間のような存在とは何から何まで違うからの」


 サクヤとしても色々と納得がいく、レドのちぐはぐな事や、奇妙な事や、妙な事に詳しい事や、人間なのに人間を大切にしていないところや、それなのに人間の仲よくしようとする所や、仲間の三名を大切にするところや、それらがやっとのこと府に落ちた。

 人間ではなく戦争用の戦闘用宇宙戦艦なら、そもそも人を大切にする機能そのものがない、惑星を破壊する様なものが、人を大切にする機能をつけるはずもない、大切な者とは即ち乗員なのだから、人とは考えの根本そのもがが全く別なのだ。

 つまりブースデッドヒューマンの戦闘用の乗り物なのだ。

 竜のサクヤとしては吃驚だ。


(乗り物と妾は冒険していたのか)


 しかもこのレドに仲間と思われているらしい、つまり乗員指定だ。

 サーフは艦載機の戦闘機、乗り物コンビということになる。

 さすがに胆が冷える、乗り物相手に色々と話していたサクヤだ。その乗り物がサクヤの話に理解を示すというとても不思議なことに繋がり、しかも娘までいる。

 これを三人にはさすがには話せない、竜のサクヤでも、正体を明かしたとしても、元の姿になって飛んでも、元の姿で火を吐いても、そもそも惑星に生きる生物だ。

 相手は宇宙戦争用の戦闘用宇宙戦艦、サーフはその艦載機の戦闘機、生き物ですらない二人だ。惑星がなくなっても全く二人は気にしない事は想像がつく。

 とんでもない事ではあるが、こんなものと仲良くできるのは竜のサクヤとしてもかなり困る、ただ乗り物は絶対に乗員を傷つけられないように作られているのか、乗員とは争わないし、ウルカの一方的な暴力も抵抗しなかった。

 サクヤは非常に困った。

 人間ではなくブースデッドヒューマンという別の惑星の住人、これは知らなかったが、ティアの様なものの為に、特に困らない、むしろ可愛いのと思う、しかし親は乗り物、その最強の種類の戦艦、しかも宇宙用、艦載機まである母艦機能もあるらしい。

 サクヤは知らなかったとはいえ、母艦機能を有する宇宙戦闘艦と冒険していた事になる。

 生き物枠のサクヤでは逆立ちしても敵わない相手だ。


(こ、困ったの)


 いくら考えても、さすがにこんな物と付き合った経験は皆無だ。

 乗員は大切、それ以外は必要なかったが、サクヤに説得で傷つけることそのものを控えると言った、サクヤは知らなかったとはいえ、別の惑星の住人の戦争用宇宙戦闘艦の倫理機能に影響を重大に及ぼしたらしい。

 知った相手は怒り狂ってサクヤを殺しても全く不思議ではない。

 しかも相手はレドを作ったような相手だ。

 更にサクヤの世界の重大な規約違反だ。

 追っ手に殺されるか、怒り狂った相手に殺されるか、どちらにしても殺される運命に追い込まれてしまったのだ。

 殺されては困る、やっとの事で色々と分かるようになったし、我が子の様な弟子も、そもそもの相手と結ばれ、近いうちに子供が生まれるかもしれない。


(どうしたものかのぅ)


 とんだ入学式となった事になる。


(ひとまず)


「レド」

「ん?」

「そののぅ、レドを作った相手が妾を殺そうとするかの」

「いや無理だ」

「何故じゃ」

「滅んだから」


 サクヤはなんといえばよいのかが分からない。

 つまりレドを作った相手達は、滅んだ、その乗り物の、宇宙戦闘艦が今ここにいる事になる。しかも艦載機も一緒に。

 滅んだ文明の宇宙戦闘艦と、艦載機がセットになってここにいる。

 どういえばよいのかその物が全く分からない。

 レドが嘘をついている可能性もなくはないが、そもそもそんな性格ではない、聞かれたことは素直に話し、隠し事そのものを嫌い、こそこそとするタイプでもない、偽ることそのものを嫌うのは、レドの戦艦としての機能なのかもしれない。

 騎士であったらしい、それは聞いたので、確かに騎士であったのだと理解した。

 ただ人としてではない、中世の騎士ではない、騎士という職務についていた。

 戦艦を従え姫君、艦載機を従えた姫君、そんな国を相手によく戦えたものだと素直に感心した。つまりレドの話した世界では、騎士とは兵器の事であり、惑星の大陸の一部というものではなく、宇宙規模の戦争だったらしい。


「デカいのか?」

「元の姿の大きさなら、地球より少し大きい」


 サクヤは硬直した、それは要塞級の大きさより大きい、防衛衛星のような小さい物でもなく、防衛用の惑星サイズの乗り物だ。


(妾は防衛用の惑星と冒険していたのかえ)


「・・地球より大きい戦争用の宇宙戦闘艦かえ?」

「地球より少しぐらいだ。人間からすれば同じぐらいにしか思えないだろうな」

「一応確認しておくがの、嘘という機能は」

「全部を話せばサクヤが発狂しかねない」

「さ、さすがに生物枠としては聞けんわい」


(とんでもない事になったの)


 サクヤの時代に連れて行けば、列強がこぞって奪い合うような代物だ。

 しかもこのレドの性格からしても、利用しようとすれば、笑って許すかもしれないが、無理矢理従えようしても従わずに特に怒らないだろう、だが乗員を傷つければ怒り狂い相手を殺すだろう。そのレベルがサクヤの時代ですら防ぎようがない。

 とんでもない事である。

 極普通の宇宙戦艦というレベルではない、惑星レベルの戦艦、そんなものが暴れたらサクヤの時代の惑星規模の勢力などあっさりと消える。

 核ミサイル程度の物が傷一つもつかない、当然の様なものだ。

 そもそもレーザのような兵器などでは傷一つつかない事も理解できる。


(どうしたものかの、聞くかの)


「レド、もしかすればじゃが、主は制御ユニットかの」

「いやカギだ」

「つまり外装は別にあるのかえ」

「外装というか本体だな、今あるのは単なるカギだ」


 つまり惑星レベルの戦艦のカギと話しているらしい。

 正直ホッとした。


(どうしたものかの、とても困るわい、単なるカギではレベルが)


 だから気付いてしまい、これに思い至り、質問した。


「もしかしてゲームの惑星は」

「俺の本体じゃない、俺の本体が守る惑星だ」


 惑星レベルの戦艦が守る惑星、未来の時代より来た竜のサクヤでも、とんでもないこと過ぎて困る、ただ今あるのは単なるカギらしい、人の形をしたカギというものだ。

 つまり起動用のキーなのだ。

 サクヤはサーフを見る、老紳士は頷く。

 二人とも起動用のキーの状態でこちらで動いているらしい。

 安心と言えば安心だが、これを知ったこの時代の、この地球の、この日本の権力者は絶対に欲しがる。それはもう欲しがらない筈がない。


(どうしたものかの、ひとまず)


「この事は誰が知っておる」

「色々な人が、遊び仲間とすればサクヤぐらいだな」

「一応聞くがの、乗員というものは必要か、妾には必要なさそうに思えるがの」

「必要はないが、収納はできる」

「・・・そうじゃろうの」


(自立型なのか、列強や学者が知ったら)


 戦争が起こる事になる。レドの様な自立型の起動キーが使える、惑星レベルの戦艦、そんな物を欲しがらない者はいないと言える、レドさえ手に入れれば世界が手に入るからだ。

 色々と問題は有るが、基本的に寛容であり素直だ、嘘をつくタイプではない上に、家族や仲間は絶対に守り、しかも裏切らない、味方にすれば安心設計の様なものだ。

 サクヤはとても困る、人生の中で最大の困難だ。


「とんでもない事が判明したの」


 もしサクヤの時代の惑星、この頂点に立つ権力者が知ったらとんでもない、科学者が知ってもとんでもない、学者でもとんでもない、武器商人なら最悪の結果となる。

 サクヤはとある企業体の総帥だが、武器商人ではない。

 財力はあるし資産家でもあるが、権力者というレベルではない、企業体の方もどう考えても並み程度のレベルだ。

 竜のサクヤからしても、レドの事を知ったら利用しようと考える者は直ぐに分かる、その候補が余りに多すぎても困る。


「・・・ひとまずの、妾のような未来の者には話さんでくれ」

「了解した、まあ殆どの人にそう言われた。核兵器なんかよりよほど危険だと」

「コマリ、聞いておったかの」

「うん」

「・・・このような娘子を傷つけるのはさすがに忍びない、困ったのう」

「教育すればいい」

「!?コマリ、主は天才じゃ、妾の財産全てを譲っても全く惜しくはない」

「だから学校に行かせているのじゃ」


 黙っていたサーフが口にした。これにサクヤはやっとここがその学校と気づき、コマリもこの学校の生徒であり、サクヤも色々と合ってこの時代のこの惑星の事に興味を持ち、今ここにいる事になる。


「儂らは元々この日本の出身での、生まれた頃は地球人の日本人で人間じゃった」

「・・・」

「ゲームの様な世界のナイト・オブ・ナイトの惑星での、様々な事からその惑星を捨て様々な惑星を転々として、この地球に帰還する事だけを夢見て、膨大な時間を生きる為にブースデッドヒューマンとなった、作った人々は既に滅び、長い旅の果てにこの惑星に帰還したのが10年前だ。その結果、漸くにレドの成長が始まったのじゃ、何せレドは転位した頃は6歳じゃ、幼い子供に過ぎん」

「・・・」

「儂らにとってみても幼いままのレドは、簡単に言えば純粋な少年だ。子供と何も変わらない、理由はまだわかっていないがやっとの事成長したレドはこんなに大きくなったという訳じゃ」

「なるほどのう、サーフにとってみれば孫か」


 サーフが頷く、サクヤも納得した。


「サクヤには感謝している、このレドのどんな膨大な時間の中でも絶対に捨てなかった恨みを捨ててれたのじゃ、儂らの言葉ではなく、サクヤの言葉に説得された、重ねて感謝する」


(それは)


「奇跡の様なものかの?」

「正しく奇跡」


 サーフは本当に感謝しているらしく頭を下げた、サクヤとしてもある意味納得した。

 ティアという娘がいる事で、サクヤは親としての心得の様に諭した、ティアに悪影響が有ったらと、レドはこれを受けて改めた。それからレドは変わり始める、その切っ掛けをサクヤが作ったらしく、その元となったのがティアだ。

 もしまた会うことになったら礼を言う方になる。

 そのティアを姉と呼ぶ、ティアと瓜二つの少女の西園寺コマリ。


(良い結果となるとよいの)


「サクヤの名前は」


 コマリがそう聞いてきた。

 サクヤは本名を言うべきとは思ったが、これを知ったコマリに危険が及ぶのは避けたい。


「鳳鳴じゃよ」

「綺麗な名前ね。鳳凰の鳴きなんて」

「そうじゃろ。だからゲームでは朱雀のドレを飼っておる、良い奴じゃよ、お喋りなのが玉に瑕じゃがの」


 そう言ったサクヤはにこりと笑う、コマリも微笑み返した。


「まあそんな訳で、学校には通うよサーフ」

「やっとか、サクヤには感謝してもしきれんの、放置しておくとずっとゲームばかりするからの、レドは、ゲームが好きすぎるのも困るものじゃ、サクヤこんな奴かもしれんが教育を頼みたい」

「う、うむ。妾もこの時代の者じゃない故、そもそも妾は竜じゃし、こ、困ったの」

「レドが言う事を聞くのはサクヤしかいないのだ、頼む」

「分かった。どうせレドと冒険はするしの、教育は得意じゃし、何より男の方は経験が豊富での、まあ竜や人じゃが、異星人の機動キーの育成は担当しよう」


 サクヤが承諾し、サーフは涙が溢れそうになる、やっとの事あのレドが学校に通うことを承諾し、やっとの事でレドが言う事を聞く人物が見つかった。開発者が聞いたら泣いて喜ぶ。そんなサーフのコマリが話しかける。


「嬉しいのお爺さん」


 感情の起伏が薄い声ではあるが、サーフは涙をこらえ頷いて、答えた。


「ああ。実の息子より手間がかかる孫なんじゃ」


 この苦労はうかがえる様な台詞だ。

 そんなサーフの感情がこもった言葉に、コマリはレドに向く。


「学校には来ること」

「もちろんだ」

「ゲームばかりしない事」

「そ、それは厳しい」

「ダメ」

「こ、困ったな」

「私も姉さんに会いに行くことを我慢する」


 コマリの感情の起伏の薄いいつもの声ではなく、とても強い感情のこもった声でレドに強く言う、しかも身を切っての事だ。

 これにレドは仕方ないと考えた。


「分かった。だがティアの教育も有るので程々にはするぞ、それにピローテスも教育せねばならないし、何より姉の事も有るし、従妹の方も有るし、他には仲間の事もある、どうしてもゲームはやらなくてはならない事も有るので、それは許してほしい」

「うん」


 身を切ったコマリに、レドも身を切った、サクヤとしてもレドの成長が喜ばしく、サーフもやっとの事で、やっとの事で教育が始まると肩の荷が下りる。


(姫様、やっとです、やっとの事、レドが教育を受け入れました)


 主君が聞けば泣いて喜ぶだろう。

 どんなに言っても聞かなかったレドが初めて教育を受け入れたのだから、開発者も聞いたら涙すること間違いなしだ。

 間違いなくビックニュースだ。

 サーフは直ぐに開発者に連絡した。

 息子の様な開発者が喜ぶのがよくわかる。


 □


 レドから話を聞いた、何故レドは教育を受け入れなかったのか、それはとても簡単な事であった、レドは転移したのは6歳、簡単な読み書きと計算が少しわかる程度だ。そんな子供に大学の授業が分かるはずもない。


 いくらどんな時を過ごしても成長しなければ、そもそも読み書きすら理解が及ばない、そんなレドが勉強を好むはずもない、何せすべて理解できないのだから、どんなことを言っても、どんな天才でも、こればかりはどうしようもない、天才でもなかった6歳児に、どんなに教育を受け入れる様に言っても理解できないのだ。


 そんなレドに教育を施した元副官のリャナは、信じられない程の教育の天才であることがよくわかる、姫将軍のような万能の天才ではどうしても理解できない事でもあった、当たり前だそもそもの基本的な性能その物が違うのだから。


 つまりレドは6歳児のまま膨大な時を生き、惑星サイズの宇宙戦艦となった。


 サーフの顔が真っ青になるのも頷ける。


 時が経てば成長する者と誰もが思っていた、成長その物が封じられていたレド達だ。

 成長する前提で生きて来たのに、そもそもの前提が成長しない事だったのだ。


 とんでもない事であった。

 リャナはそれを理解していた、万能の天才でも理解できなかったことを、膨大な時を生きてきたサーブでも理解できなかった事、リャナは理解していた。


 レドが姉のように慕う理由がこれだ。

 母親の様な姉からすれば、我が子の様な弟の事はよく分かっていたらしい。

 今までリャナの教育だけで生きてきたとになる。それも膨大な時間を、聞いていた全員がビックリ所ではない。


 レドも親だからわかる、子供を持ったことがなければわからない事なのだ。

 万能の天才も育児の経験だけはなかった、そもそも教育を行う側ではなかったのだ。


 サーフも妻に育児を任せていたのでこれが分からず、開発者は元々天才なのでこれを理解できず、竜のサクヤもそもそも人間ではないので理解できず、成長しない事がないコマリもこれが理解できなかった。

 唯一リャナだけは理解していた。


 ふたを開ければ簡単な事で、今まで飛べない人間に必死に飛び方を教えていた。

 聞いていた三名は、天才より母親の方がよくわかっていた事を理解した。

 母親は偉大だったことにサーフは感謝し、今度は息子の育児に加わると決意した。


 6歳児のレドが膨大な時の中で生き、地球に帰還してからやっての事成長できるようになった、しかしレドの事を理解していたリャナは居ない、レドに学校に行けとか仕事しろとか、そんなことを言えば、当然の様にレドの性格の方は成長するにつれ歪む、ひたすら頑迷にリャナの教育だけを守り続けていた。


 そんなレドがリャナにとあえばどうなるか、やっとの事で、レドの止まっていた時間が解きほぐされたことになる。

 レドにとってみればリャナは姉、もしくは母親と言っても過言ではなく、レドもティアやピローテスという子供を持ち、そんなレドからゲームを奪えば怒り狂って殺害しない方が変で、今までの結果ではあるが、リャナの教育だけは受け、唯一これだけに従っていた、その結果多くの人が助かった事になる。当然の様にサーフや開発者も同じ様に助かっていた。

 レドが仲間や家族を大切にし、これを傷つけるものを絶対に許さないのはこれが理由だった。

 そんなリャナを殺害した猟犬を許すはずもない、それに加担した神謀も、連邦も怒る狂ったレドに滅ぼされない方が不自然の様なものだ。

 復讐はリャナが禁じたモノだったと理解できた。


 □


「まっそんな訳」

「何故妾の言葉を受け入れた」

「リャナとよく似ているから、コマリはティアそっくりだから」


 これにサクヤもコマリも理解した、幼い少年と何も変わらない物だと。

 6歳のまま膨大な時間を過ごしても、精神年齢も、知性の方も、体格の方も何も成長しなかった、この惑星に戻ってから成長する様になったそれから10年、ゲームでの仲間や、色々な冒険を経て成長し、リャナと巡り合い、家族を得て、少年なりに成長していたらしく、つまりレドにとってみればここは育った場所なのだ。ゲームの惑星は家族の居る家、レドにとってみればゲームで転送されるのは実家に帰るような事なのだ。

 これにサーフは理解した、レドがにとってみれば住処が借家なのは、文字通り借家なのだから。

 あの惑星の共同の住宅は文字通りレドにとってみれば実家なのだ。

 何よりリャナが居り、娘の二人がいる、どこがレドにとってみれば住み心地が良いか、考えなくても分かる。

 膨大な時を生きた艦載機は、学校に行けとか、仕事しろとか言ってもレドが好まない理由も、嫌がる理由も、ゲームばかりする理由も、やっとの事で全てが理解できた。


(儂は愚かじゃった)


 サーフは己を恥じた。

 教育は男女で行うべきなのがよくわかった。

 妻が、実の息子が復活したらまず詫びる事から始めようと決意した。

 その前に言う事をした。


「すまんのレド」

「いい、今なら理解できる、ティアやピローテスには教育がいる、リャナがいるから安心だし、ピュシーも居る、ルリもユキカゼもいるから安心だ」


 これでサクヤも、コマリも理解した、それは実家なのだと。

 だからコマリは聞いた。


「なぜ学校に行くの」

「あの惑星を発展するには知識がいる、俺達のような兵器ではない知識が」

「武久は良い人、今でずっと我慢していたのね」

「いい、どうせいつでも帰れるし、この惑星の知識がどうしても必要なのだ。特に有機物の知識がいる、あの惑星は砂漠化しているからな」

「それで学校に、まあ確かに知識が手に入る場所であるしの、しかし、それは知識を盗むことに他ならないぞえ?」

「長官が許可した」


 これでサーフは合点が行った。レドが絶対に裏切らない理由は、あの長官が許可するからだ。レドにとってみればこの惑星での資金より、知識の方が遥かに重要である、何せレドはサイズは大きいが宇宙戦艦だ、資金を渡されても困る。

 サクヤもやっとの事に理解した。

 レドにとってみれば報酬とは即ち知識で有り、現金ではないのだ、当然の様に物ではない、知識を得る為に長官に協力していたのだ。だから絶対に裏切らないのた。

 強かな剃髪である。

 特別警察法も、そんな最強の剣を持つ長官だから可能としたことなのだ。

 当たり前である、宇宙戦艦を従えた長官に逆らえる勢力などのこの地球にはない。

 サクヤはだからこそ聞く必要があった、どうしても。


「その長官は主を調べたかえ」

「調べない事を約束した唯一の上司」


 賢い事である、レドを調べず、知識を与える事を許可し、このレドを絶対に裏切れないようにしてから、後は政治的な利用である。長官は理由は不明ではあるが、この惑星でレドを縛り、従えて、結果的にこの惑星の表には絶対に出ない権力者となった。


「あの剃髪は割とマシな男だ。この惑星の事などどうでもよい、この日本を陰で守る事だけに全てを考える、そうやって生きてきた人なんだ」

「屑ではないのじゃな?」

「善い人ではない、だが権力者としての覚悟もあり、この日本を守る事だけに専念する、それだけを行う人、だからこの日本を守る時だけに行動する人だ」

「屑じゃたら焼き殺しているところじゃ」

「あの男も、昔は家族がいた、まっそんな訳」

「・・・復讐を禁じられた主からすれば、確かにマシな奴じゃな」

「ああ。調べない事と、復讐しない事を約束した男だ。だから男の家族を殺した者は生きている」

「・・・よくまあ耐えられるの、いつもでも殺せるのに、妾じゃったら絶対に殺しておるぞ、我ら竜が何故最強なのかは、どんなことが有っても通らない最強の鱗ではない、家族を殺した者を絶対に許さず、どんな理由が有っても殺すからじゃ、故に最強なのじゃ」

「知っている、だからサクヤは仲間だ」

「なるほどのう、主なら妾達とは話し合えそうじゃ」

「いつかそうなると好い、仲間は絶対に傷つけない、仲間は絶対に守る、それが俺の掟だ」

「知っておる、だから主は仲間なのじゃ、良い冒険もできよい酒も飲めるからの」

「儂は?」

「祖父の様なモノ、なんだかんだ言ってもいつも助けてくれいつも守ってくれる、性格の方はそれほど良くないが、口の方もあれだが、仕事を押し付ける事とか、まあ色々と欠点はあるけどそれが人だ、良い点も多いし、そもそも同じ時間を過ごした仲間だ」

「開発者は」

「頭の良い兄、ただ戦闘に関してはかなり情けないので俺が守る」

「兄なのに、弟に守られるなんて、本人はすごくショックね」

「ああ。それが本人の最大悩みだ」


 サクヤも、コマリも噴き出した。サーフも薄々は知っていたが、確かにあの開発者が、何故色々と開発するか、それはレドには守られたくないという自らの矜持なのだ。兄としての色々な物が、レドに守れれば崩壊するのも頷ける。

 そんな弟に頼るなど、あの開発者が絶対に出来ない事だ。なにがなんでもというのがよくわかり、何故戦闘用ではなく、技術者用なのかもそれにある。

 そんな兄が作った物、システムが有ろうことかそんな弟の娘、つまり開発者にとってみれば姪に興味を持ってしまった。

 どれ程の衝撃なのかはよくわかる。肉体的にも、精神的にも全てにおいての衝撃だ。

 そんな兄が弟に頭を下げるはずもなく、困りまくったのも頷けた。


(開発者、安心せえ、レドは脅しても殺しはせん)


 要すれば開発者は格好をつけたかったのだ。同じ男としてもサーフにはよくわかる、幼い頃をよく知っている為に、レドの兄として色々としていたのも理解はしている、弟を守るために色々と動ているのも知っている、そんな弟に守られるや頭を下げるなど絶対に出来ないのだ。

 しかしレドは宇宙戦艦、サーフのような艦載機レベルではない、レドに守られない為にはどうしても守る必要があった、レドの出る幕がないほどに強固な防壁が、それが絶対防壁だ。惑星その物を守りとおす絶対不可侵の防壁だ。少なくても守り通せば、レドの出る幕はないからだ。賢い事である。

 意地が意地でもこれだけは通す事がひしひしとよくわかる。

 それなのに、システムが姪に興味を持った。

 前途多難な奴であった。


(大変じゃの、今頃何とか直そうとしているのはよく分かるぞ、しかし)


 システムはあの惑星の元そのものだ。サーフも理解が及ばないが、開発者が適役として、あの惑星を改造し、今に至る。

 そのシステムが、開発者の怖れる事を平気でしてしまった。

 涙を流しても全く不思議ではない事だ。酷い裏切りである。


(レドも成長しておるし、手伝ってやるかの)


 長老として、その開発者にも協力しようと考えた。

 ちなみにレドが教育を受け入れた事を非常に喜んでいた、それはもうどんなことがあっても感情を表に出さず、本心を隠す男が、この知らせを受けて凄まじく喜んだ。

 最大の懸案事項が解決したのだから、喜ばない筈がない。


(やれやれじゃ)


 やっとの事、色々な事が動き始めた事がサーフにも理解できた。


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ