023:四門ダンジョン。其の10
『生産者の心得』の複合工房『燈火』に来て、調査報告書を読んで貰った。
マイも、ユックも、アーリーも、たっぷり沈黙し、マイが口を開く。
「レドの薬の力は知っているわ。でも信じられないってのが本音よ」
「別にそれでもいい」
「そう」
「調べてからさらに追加報告職を作製して提供するよ」
「そう。調査内容次第じゃ大変な事になるわよ」
「おう。じゃ調査に行くよ」
「ええ」
「よし調査に行くぞ」
西門周辺でのサンプルなどを確保して、『星空の記録』邸の工房で調べた。
結果としては『イーニャ』西門周辺の異常なし、他にも東門周辺も調べるも、こちらも異常なし、北部は面倒なので調査せず。森の都の周辺も調べるも異常なし、海の都の水中に潜り、海底を調べるも異常なし。
これらを調べ上げて『生産者の心得』の中間報告書として提出した。
しかしこれによって、南門周辺の草原での異常な大地の働きが明確になった。
『生産者の心得』の三名は頭を抱え、南側の異常な大地の働きが、いずれはこの町を蝕む事になるのは、精密な調査が出来ない以上時間的な観測を行うしかない、この結果、時間が必要となり、時間的に間に合わなくなっては本末転倒となってしまう。
「そうだギルドマスターに押し付けよう、うん私は妙案だ」
「さすがはマイ、好い考えだよ」
「それを報告するのが俺達となり、当然の様に仕事を押し付けられる結果となる訳になるな」
「ユック!」
「事実だ。そもそも俺達のような自由な連中は暇だと言って押し付けかねない」
「他に出来る者もいないし、仕方ないんじゃないかな?ユックも思うでしょ?」
「異論はない、彼奴の事だ。また愚痴るぞ?」
「長いんだよね」
「かといって彼奴の愚痴位は聞いてやりたいしな」
「よし決まりね。ユックが連絡して」
「了解だマイ」
ユックが連絡し、会話する中で、淡々と報告書を読み、ギルドマスターからレド達に召喚状が発令された。
「詳しく聞きたいそうだ」
「ああ。別にいいぞ。ただまあ出来たら治験の許可を」
「治験?」
「面白い薬も増えたしな、そろそろ効能などの結果も知りたいし」
三人の目がジト目になる。
「エネミーを実験体にでもしていろマッド」
ユックが代表して言葉を叩きつけた。
ルリがレドの頬を頭で殴る、それも猛烈な速度で殴る。
「痛いルリ、痛いぞ、本当に痛いって」
「ルリ、もっとやれ、こいつにはよい薬だ」
三人も頷き、アーリーが代表していう。
「自分を治す薬でも作ればよいのにね」
「ルリ、俺の欲望を満たすためにどうしても必要なのだ」
ルリの動きが止まる、その後に猛烈な速度で蹴りつけた。その後はひたすら蹴りつけ、怒りMAXの様だ。
「かつて実験体にされたからな」
「マスターって素直よね」
「レドのバカ」
「良い結果ばかりじゃないですから」
「やれ!やってしまえルリ!」
腕の良い調合士ではあるが、性格に問題があるらしい。
「わん」
ルリにユキカゼが何度も謝り、ルリは仕方がなく攻撃を止める。
「ユキカゼ感謝」
「ほふぅ~」
「いい加減治してくださいって」
「どっかに治験が自由な国はないかな」
「阿保を言っていないで行くぞ」
「・・・(コクリ)」
ギルド【C】の所に行き、ギルドマスターに説明した。
ギルドマスターの男性プレイヤーは頭を抱える、事が大きすぎてギルドの出番じゃないが、かといって統治機構がある訳でもない『イーニャ』では、実質的にこのギルドが運営していると同じだ。ただでさえ問題が多いのにこれ以上の問題は涙に祟り目だ。
「家フルメンバーじゃないので色々と足りなくてな、従者のフォルスト、フォルゼン、アイリスも自由な生活中だし邪魔したくはないし、結論から言えばある意味知っている者には心当たりがある」
「本当かレド?」
「金色、金糸騎親子だ。元狐の親子でな、今は白狐として朱雀ダンジョンのキャンプにいる、恐らく恐らくとなるだろう」
「協力は惜しまない、直ぐに解決してくれ」
「了解した。こういう時に彼奴らが居れば助かるが、愚痴っても仕方がないな、よし向かうぞ」
レドは言わなかったが、もし治験の一言があったら全員に殴られる結果となっていたが何故か言わなかった。
ギルド【C】の施設より出て騎獣達に乗り込んで向かう。
□
朱雀キャンプ、かつてのテイム可能な狐達や、熊達の居住地で、テイマー達の楽園でもある。
久し振りに会う二人は直ぐに挨拶し、レドが色々と調べてから健康であることが判断され、改めて用件を切り出した。
「それは、かなり危険なことに繋がりますが、ただそれだと納得でもあります」
「何か変化でも?」
「最近腹を壊す仲間が増えたのです。皆草しか食べていないと言うのですが、毒草が混じっていると騒動になる事もありました」
「ふむ。それは恐らく相乗効果と混じった毒物による作用だろう」
「よくわかりませんが、テイマー達もさすがにこれはどうするのかと悩んでいました」
「その草はないか?」
「ございます。ただ管理が厳しくテイマー達も、従者達に勝手に草を食べない様に言っております。これには我々はには大きい事ですので、どうしたものかと悩んでおります」
「おじちゃん、この草」
金糸騎が持ってくる。
母親に怒られるのを覚悟してもって来たらしく、レドが受け取ってから軽く調べる。
「間違いない、ティア」
渡された草をティアも調べる、間違いなく劇薬の原料だ。
「間違いないよレド」
「やはり不味いことに繋がるな」
「うん。動物たちが苦しんでいるのは嫌だしどうにかしよう」
「うむ。2,3栽培して軽く調べよう」
「心得ました」
「結果が変わる嬉しいんだけどね」
栽培して調べるも結果は変わらず。
キャンプの親子の使うテントの前に集まり考えていた。
「微細な変化はありませんでした」
「相変らずの変化率だ。絶え間なく進化している証拠だ。すでに相乗効果のLvは2になっている、他の効果も増えているし、放っておくと酷い結果になるな」
「何かないかポーション」
「設備が足らん。特に精密な調査を可能とするタイプな調査機器が不足中だ。しかも心当たりまでない始末だ。まるで電子顕微鏡の無い時代の顕微鏡時代だよ全く」
「・・・困った。せめてサクヤでもいれば」
「言っても始まらない」
「ねえレド」
「どうしたティア」
「私は小石を調べていたのを覚えているよね」
「ふむ。小石か、悪くない突破口なのかもしれないな。何より石の方は比較的安全だしな、実験装置などがあればよかったが、後検査機器も欲しい、特に単純なリトマス紙が欲しい」
「よくわからないけど小石から調べてみようよ」
「分かった」
今度は小石を調べる、地質学の知識のないウルカでもあるが、レドも地質学は専門外だが、リアルではがり勉のレドは比較的知識があり、小石からのデータなども調べ、ティアの各地域の小石のデータなどからも、小石の変化率などはない為に安定した結果が得られた。
「主にバフ効果等の+効果か、また-効果も付属した+効果、ある意味地質学が良い結果になるかもしれないが、かといってもサンプルもなしには調べられないしな、精々色位か、それではどうしようもない」
「うんでも十分な結果でもあるよ。特に小石の効果等は基本的に変化はあるも、それほどの種類はないし、変化があればすぐに分かるし、何より食べる人はいないしね」
「石工は居ても石食いは居ないからな」
「石食い?何の生き物ウルカさん?」
「単なる戯言だ」
「残念。いれば変化が分かるのだけどな」
「植物も調べる必要がある、この辺りは木が多いぞ父さん」
「そうだな。伐採用の斧が居るな、後鉈も居るし」
「ヒリュウやアリサの領域だ、しかし二人も不在だ」
「他にも採掘なども調べる必要があるが、幸い朱雀ダンジョンには採掘ポイントがあるかもしれない、無くても適当な岩石を砕いてから調べるのもありだ」
「釣りも有るし、魚を調べればわかるかもしんな」
「川の小石なども調べる必要がある」
「町に戻って準備してから再び来よう」
「レド様」
「どうした金色」
「テイマー達が例の草をどうするか困り、ひとまず焼こうということになったそうです」
「いかん!」
「そう思い伝えに参りました」
「不味い、これは不味い」
「おいポーション、しっかりと説明しろ」
「薬物は気化すると大気中の生物と融合しこれを高める」
「だから?」
「大気中の毒物などが混じり易いこの辺りの地形を考えたら非常に危険だ。直ぐに退避しろ。下手したら全滅するぞ」
「「!?」」
「金色すまんが案内してくれ」
「わかりました」
「金糸騎は風上に逃げのが良いが、どのみち間に合わんだろう、何よりあの子が母親から離れるとは思えん。急ぐぞ」
金色の案内されてから、焼こうとする個所に来る。顔見知りを探し、テイマー達の中心的なテイマーを見付け、挨拶してから説明した。
「つまり毒物を焼いた場合、成分事から危険であると?」
「単なる毒草なら死ぬが、これは極めて危険な劇薬の材料となる」
「・・中止します」
「感謝する。幾つかの情報を提供したい」
「貴方には例がありますからね」
「まずだが、この南側で起こっているとある厄介な事についてだ」
「他のエリアでは起こっていないと?」
「ああ調べたが特に変化はなかった。過去のデータなどがない為にどうしようもない領域は確かに有るが、海底にも潜って調べた結果も有るし、結論から言ってこの南側のみだ」
「海底?」
「ニクシーの協力があれば可能だ」
「確かに」
「では話を戻そう。まずこの南側で起こっている事だ」
説明するとテイマーは納得し、他のテイマー達に説明し、大量に有る草などは、危険すぎるので、厳重に保管する事となった。
町に戻準備をしてから再び戻り、朱雀キャンプの周辺を調べた。
結果としてはいくつかの事が判明する。
植物に変化のある一種を除き、一切の変化がない、小石や岩石などの成分などを調べても取り立てて慌てる様な成分はない、つまりたった一種のみが激的に進化中ということになる。しかも取り扱いの極めて難しい相乗薬の原料となる草だけだ。
もし火事でも起こればこの辺りは全滅する事となる。
完全焼却などが可能なら問題はなかったが、少しでも成分などが気化すれば毒ガスとなり、辺りは死をまき散らす事となる。
洞窟も調べ、極めた有効な採掘ポイントでもあるらしく、良質な岩石な鉱物なども手に入るが、毒ガス畑で暢気に調べる神経はほとんどの者がない。しかしレドはそんな珍しい神経の持ち主で、調べたがるレドをついにキレたウルカが鉄拳制裁してひっ捕まえて連れ出した。
「ポーション何かないか?」
「耐性薬品などを大量生産して配ればいいが、毒ガス畑での調合はさすがに効果がまともにならない」
「どうにもならないのか?」
「まずは草などを磨り潰した液体と、水分などを混ぜた結果に出来るポーションなとかあるが、ある程度の領域になると原液、つまり中間素材となる。この中間素材を混ぜて新しい別の薬品を作る事となるのだが、そこで重要となる品質管理の点に置いて、最も厄介なのは効果が高まり過ぎる事だ。他の成分なども混じれば困った事にもなる、よって緊急を除き外での製造は危険なのだ」
「大抵の事は理解したが、要するにどうしても無理なのか」
「近くの村などもあるが、恐らく共同生産所があるはずだ」
「・・・やはり一度リアルであってボコボコにして簀巻きにくるめて海に流したいのだが」
「短期は損気、やたらとリアルに作られているこのゲームの事も有るし、厄介な事になるぜ」
「かといってこの辺りが全滅するのを待つのも嫌だしな」
「そうなるな。まあ適当に誤魔化すぞ」
「村に毒は届くのか?」
「・・・村にも毒草は多い」
「楽し過ぎて涙が出そうだ」
イズミに行き、レドの薬の事は有名でもあり、村長より頼まれて面会した時にそれとなく伝えた、老齢の村長は困った顔で、村の幹部をそれとなく集め始める。
「毒物などや植物は燃えれば基本的に無力化はできる」
「なるほど」
「しかしその管理などは基本的に不可能だ。少しでも焼きむらがあり少しでも水分などと化合すれば激薬となり、空気と接触してもこの成分などの効果を高める、多少の物なら大したことはいが、さすがにこの辺り全てにある。焼くのは辞めた方が無難だ。全滅したければ止めはせんが、その時は逃げさせてもらうぞ」
「それまでは留まっていたただけるのですね?」
「ああ。色々と有るのでなこちらも、耐性薬品があれば基本的な耐性はつくし、特に難しい問題はないだろう。簡単な物でもある。数が数なので時間はかかるがな」
「お任せします」
「請け負うさ」
レトたちが生産所にこもって生産し、ウルカとしても手伝うのだが、やる事が多すぎて困っていたところに、ルリとユキカゼが少しずつ手伝ってくれたことが嬉しかった。
人数分の耐性薬品を作り、朱雀キャンプの者から獣から、集めてから配るのだが、味の方はレドのポリシーの味の好い物しか作りたくないと駄々を捏ねかけ、ウルカが忍者刀を取り出すとさすがに素直に調合していた。
「うんまあこんなものか、さて根本的な原因を取り除くしかないのだが、要すれば大地を消し飛ばすしか方法以外は殆どないので、これは諦め、人海戦術だな。草を引っこ抜いて集めよう、間違っても草を食べたり、刃物で切ってはダメだぞ。下手したら毒物の効果が付いて変種と、相乗効果を持つ草の効果での融合により未知の結果になるかもしれないしな。それはそれで楽しいが、さすがにこれだけの量の人体実験の結果は扱いきれん」
優れた調合士ではあるが、性格には困った所があるのがレドの持ち味だ。
「時間を掛ければ変化し、結果として様々な毒性を持つ事となる。この厄介な性質ではあるのだが、この性質は非常に便利な物でもある、まあそれは別に、引き抜いてから集めよう、それでひとまずの応急処置は完了だ。後一人では動くなよ。必ず集団で動いてくれ、その理由を言うのなら誰かが居れば助かる確率が増えるからだ」
村長とキャンプの中心テイマーが声を出し作業が始まる。
レドとティアは基本的に調合し、植物などを調べ、変化のあるものに関していえばリャナが栽培し、ピュシーがデータを記録、ウルカは困った所の在るレドの近くで忍者刀に手入れだ。こうやって脅さないと妙な事を起こす為だ。
さすがにこの脅しが効き、妙な事を口は口走る事以外は基本的に真面目に作業をしていた。ルリもユキカゼもウルカには感謝していたし、他の者もウルカには礼を言う。
家族や仲間には暴力を振るわないタイプ、このまともな所もある為に、これは安心だった。ただ他の者を実験体と思っている節があるのが困りものだ。これさえなければではないが、悪い所が改善してくれればそれでいいと誰もが思う。特に毎度の様に制裁をするウルカは、この悪い所さ無ければ良いリーダーであり友人なのだがとは思わずにはいられない。
「うむぅ。面白くない結果しか出ないな、誰かが治験に協力してくれれば助かるのだが、さすがにそれは無理か、面白くない」
「なら面白い事は何レド」
「素晴らしい効果が大量に付いた種と花の付いた草とか、食べても安心毒物とか、人に食べさせても安心な薬物が大量に作れる草とか、そんな便利な草とか、効果とか、種とか、花とか」
「それって人に使うためにあるからそんな効果が良いの?」
「簡単に言えばな、便利な薬は有るが、設備がなれば作れないようになるしな将来、このままだと簡単なポーションを作るのは大変な事になりそうだ」
「えーとなぜ?」
「相乗効果を発揮する草が、大量発生した場所で、簡単なポーションを作る為に、必要な量の薬草が生えないかもしれないしな」
「困るよぅ」
「かといって除草剤のこうも効果にばらつきがあると無理だしな」
「厄介」
「少なくても南側はいずれ閉鎖されるなこれは」
「原因はわかっているからどうにかしないと」
「せめてヒリュウが居ればな、精霊の力でどうにかできるかもしれないし」
「レドって、ヒリュウさんみたいな人が好み?」
「ノーコメント、ヒリュウの能力は高いぞ、伊達にエレメンタラーと呼ばれてはいないしな、前回の玄武戦でも十分活躍したし」
「あれからサモナーが増えたよね」
「元素魔法使いより強力だからな、数という点もあるし」
そんな会話中にピローテスがレドに耳打ちした。
「ふむ。それはまた」
「何々?」
「毒性を得るモノもあれば、それ以外もあった。現在リャナが育成中だ」
「毒性以外?」
「毒性に対する毒性、所謂この様な草に対する除草効果を持つ効果を持った草だ。簡単に言えば専用の除草効果を持つ草が開発されたそうだ」
「か、開発?」
「リャナの専門だ。植物の掛け合わせによる効果さ。成功率は高くないが、相応な方法はある」
「さすがはリャナ!」
「ポーション、要は楽できるわけだな?」
「かなりな。まあ品種改良を後は繰り返し、世代を重ね、より適性の強い草にするしかないが、まずまずの成果だろう」
専用の除草効果を持つ草の開発により、この植物を育成し、更に世代を重ね、第10代で扱い易い物となる。祖先の草に比べれば途方もないほど成長が遅いが、他の植物に対しての毒性も、人や動物に対しての毒性もなく、安全な除草効果を持つ草となった。
これを大量に育成し、村やキャンプの周辺に植え替えてから成長させて繁殖させ、相乗草と名付けられた草を枯れさせた。これらの相乗効果の成分も除草効果を持つ草によってなくなるので、安心して燃やせた。
しかしレドは強かにも種だけは回収し、こっそりと持ち帰っていた。後にウルカに知られ散々殴られる結果となる。
「お前はバカか!」
「この種は貴重なんだ。便利な物なのだ」
「こんなものを町中に持ち込むなこのバカ、どうしてもというのなら今殺す」
レドは便利な薬になる草の種か、それとも自分の安全かを天秤にかけ、結果として種を捨てた。
ウルカとしてもこんな物を持ち込もうとする、この狂ったリーダーにはどうすればよいか困る。
「リャナ、是非というべきか頼みがある」
「なんでしょうかウルカ」
「このバカたれの頭を治す薬を作る植物を育成してくれ」
「それは洗脳となりますよ?」
今度はウルカが天秤にかける番だ。友人を洗脳するのはさずに忍びないのであきらめた。
「おいポーション」
「なんだウルカ」
「他の種は」
「全部捨てたよ」
「本当だな?」
「仕方ないだろう。劇薬過ぎるのさ」
「持ち込もうとしたお前が言うな」
「あー。腹減った。飯食って風呂にでも入ろう」
「ルリ」
「・・・(コクリ)」
「絶対目を離すな、このバカたれの事だ悪知恵を働かすに決まっている」
「・・・(コクリ)」
レドとの付き合いをしっかりと心得たウルカだった。
レドはこっそり拾おうとしたが、ルリに睨まれて手を放す。
「父さん、さすがにそれは不味いのでは」
「お姉ちゃんの言う通りだよレド」
娘の二人に言われて困るレドだが、レドなりにもこの有効な薬品開発などにもつなげたいだけに、珍しく言い返さずに黙って種を見る。
「マスター、必ずや作りますのでどうか諦めてください」
「分かった。すげえ惜しい」
本当に惜しそうな感情混じりの声でレドが言った。
ユキカゼが心配そうにレドの足元で鳴く。
レドはハッとした顔でユキカゼを見てから、諦めた様子で歩き出した。
騎獣に乗り込み、他の者も乗り込み『イーニャ』の方向に向かって駆け出し、レドは振り向かなかった。
□
相乗草事件と名付けられたこの事件は、ギルド【C】もこの草の危険性について理解を示し、作られた除草効果を持つ草を大量に植えた。
この事をティアはレドに聞いた。
どうして種を持ち込もうとしたのかと、レドはそんな人じゃないと。
だからレドはしっかりと答えた。
「理性じゃあわかっていたんだがな、危険だって」
「・・・」
「分かってはいるが、その相乗効果の成長性のみを制御すれば素晴らしい万能薬となる、当然猛毒にもなるが、それでも薬の効果につい目が行ってしまう、分かっちゃあいるが修行が足りないぜ。本当に、ティアも間違うなよ」
「うん」
「薬や混ぜ物をしていると思うのさ、便利な物がないかと、望む効果を持つ素材が手軽に作れるのならどんなに楽かと、どれだけの助けになるのかと、どんだけの人がってさ」
「・・・そっかぁ。難しいね」
「それを捨てろと言われても困る。だがウルカは仲間だしな、争う訳にはいかないし」
「・・・ウルカさんは大切?」
「大切な仲間だな」
「・・・万能薬より?」
「大切だ。万能薬よりよほど大切だ」
「それならよかった。ティアは大切?」
「娘だしな、特別なものな」
「じゃあ明日はお母さんになって」
「その予定だ。一日の時間もあったしな」
「やったぁ!」
余程嬉しかったらしいが、今度はピローテスはご機嫌が斜めになる。
「そう不機嫌なるなピローテス」
「また顔に出ていたか?」
「12時間しかなれないからな」
「そうだった」
「またいつものようになるさ。何とかなるものだ。今までそうだったしな」
「・・・」
「全ては移り変わるものだ。全てはバランスだ。全ては変わりつつ失われ、失われれ得るモノだ。得たら失い、失ったら得る、それを繰り返しながらバランスを取っていくものだ。誰かの言った言葉さ」
ピローテスは妹を見る、無邪気に喜んでいるが、この妹もいずれはこんなレドのような台詞を言うのだろうかと、それは寂しいような、嬉しい様なもので、複雑なモノだ。
「まあ飯を食ったら風呂だルリ頼んだぞ」
「・・・(ぷい)」
「そんな顔をするなよ。お前も風呂好きだろ?」
「・・・(コクリ)」
「飯を食ったら風呂と相場は決まっている物なのさ」
ルリは仕方がないと溜息を吐く、ユキカゼがすまなそうに頭を下げる。
他の従者達も、自由な時間を過ごし、丁度買い物から帰ってきたところで夕飯を共にする。風呂は男風呂もあるが、ルリは一匹の為に交代で風呂に入る。
今日は男性として風呂に入りたいというレドの希望を受け、フォルゼンとルリと風呂に入る。
「おうフォルゼン、今日はどうしていた」
「ツグミと稽古をしていた」
「その後は」
「フォルストの買い物に付き合っていた」
「アイリスは」
「フォルストに捕まって着せ替え人形となっていた」
「とするとお前もか?」
「長かった」
フォルゼンが長い溜息を吐く、レドは豪快に笑い、浴槽に浸かる。
□
3月29日の午後にログアウトしてから、本日三度目のログインをした午後7時30分。
PT共同住宅『星空の記録』邸の自室で目覚めた。
いつも通り、リャナとピュシーを召喚し、二人には自室に行ってもらう。
準備をしてから朝飯を食べに行く。
それぞれに挨拶し、ウルカに挨拶した。
「うむ」
「ヒリュウは?」
「今日もお前担当だ」
仕方なしに今日も食事を作る。
そんな朝方が終わり、紅茶の時間を楽しむ。
「今日も素材集めだ」
「お母さん、海がいい」
「やはり森だ。何せ自然が豊かだ」
「コインで決めよう」
レドが弾く、ティアとピローテスがそれぞれ決め、結果として森だ。
「素材確保しに行くぞ」
「「おお~」」
森に行く。
発見で見つけた採取可能な草、小石、伐採可能な木、採掘が可能な岩石、釣りが可能な川での釣り、狩猟が可能な動物等だ。
▽今回の収穫
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 雑草
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 小石
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 枝
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 岩石
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 魚
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称 獲物
レア値 1 品質 ☆×1
効果 特になし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
▽
工房に戻り、調べる。
「小石に変化なし、バフ効果1種の物、バフ効果1、デバブ効果1の者の二種のみ、岩石の方は普通の石細工の素材、細工にも使えるかも」
「雑草の方はありふれた薬草、解毒草の二種だ、枝の方は木工素材だ。魚の方はありふれた小魚だな、調理に使えるのかもしれない」
「獲物の方は肉、骨 毛皮、爪、牙になった。どうも動物の方が得る物の種類は多い」
「土に関していえば、極普通の物です。各種の植物の育成状況の方もありますし、よい結果です」
「はい。データの統計の結果分析すると特に変化なし、異常な数値も、顕著な方向性もなし、強いて上げるのなら素材の宝庫って感じね。よい森よ」
「結論から言えばここも初心者用だな。記録後文章の作成、終わったら森の都に行こう」
「「おお~」」
作業を終えてから記録を残し、分譲を作成し、騎獣に乗って森の都に行く。
「そこの冒険者少し待て」
兵士に呼び止められ、リーダーのレドが顔を向ける。
「お仕事ご苦労さん、何か用かな」
「森の者の兵士だが、最近南側で妙な事があったらしい異常植物の大量発生とも聞くが、そんな事もあってこの森でも警邏が強化され、植物の持ち込みが少しだけ厳しくなった、見たところ錬金術師の様だが、植物の方は」
「種は全て工房にある、原液なら手軽なので持ってはいるが」
「それもそうか、悪かったな。森も豊かなのだが、豊か過ぎるのも困りものでな、もう行ってもいいぞ」
「おう。じゃあな」
森の都に入り、『星空』邸に入る、騎獣達は厩舎で休め、軽い掃除などを行い、昼には早いので素材の確保に向かう。
かつての呪われた森の中にある『森の都』は北部に白虎広場とダンジョンがあり、西には『鈴々』、南には『美鈴』があり、南東には『イーニャ』がある、東側にはとある立ち入り禁止区域がある。
森の都周辺は緑豊かの為に、生産者たちが良く訪れ、結果的に活気のある町だ。
戦闘系には森足りないらしく、居る殆どのプレイヤー達が生産者だ。
「植物はよく磨り潰して混ぜて~♪」
レドが鼻歌交じりに採取し、他の者達も同じ様に採取したり伐採したり、大き目の岩石などがあれば採掘したりと何かと忙しい。
「おいポーション、何か良くない事を考えてないか」
レドのお目付け役のウルカが不穏な気配を感じ取り云う。
言われたレドは特にないので首を振る。
「本当だな?」
「ああ本当だ。一々嘘はつかないさ」
「うむ。どうも私のセンサーが言うのだ、碌な事を考えていないなと」
「ほんのちょっと毒物の研究を」
「殺されたくなければやめろ」
「何を言う、よい薬を作る為には必要なのだ」
「そうなのか?ルリ」
「・・・(コクリ)」
「うむ。ルリが言うのなら間違いない、分かった許可しよう」
「ありがとよ。でもな、なに性の毒物の方が良いか少し悩む」
「忍者は毒物など使わん」
「いや麻痺性か、それとも気絶性か、睡眠性ということも考えられる、間を取って病気性というものが」
「・・・(コクリ)」
「悪くない森だ。よい薬が作れるだろう。土もよいし、腐葉土の方も十分豊かだ。森が時間をかけてよい実を約束するような森だ。よい森だ」
そう言って色々と採取していた。
他の者達も採取、伐採、採掘を繰り返し、森の都の南側に広がる南森には好い物が取れると言った所だ。
森の都の自宅に戻り、生産施設などを使い調べる。
植物なら葉っぱ、花、蜜、茎、根、実と余さずに使え、薬品の方にも食品や調味料に染料などにもなる、木などの伐採をしても取れるのは木材を除いても同じ、小石や岩石などは粉末にしての調査で薬品の他にも塗料などにも使える、結果的に言えば植物の方が最も実り豊かなのだが、効果が安定しかつ何かと扱い易いのは岩石などだ。
各員が報告し合い、文章化し、データ等を残し、西森等も調べて同じ様な事をし、昼間になるとレドが調理し、全員で食べ、その後は北森を調べ、同じ様な事をし、東森以外を調べ終えてから、今度は『美鈴』に行き同じ様に調べ、それらが終わってから『鈴々』に行き同じ様に調べ、これらのデータなどを纏めた物を、『星空』邸に記録して残し、それらの大まかな調査が終わってから細かな調査に移る。
夜になると森の酒を購入してからの酒盛り、その後にログアウト。
□
3月30日午前9時にログイン。
『レドがログインしました』
『ウルカがログインしました』
自室で目覚め、ルリに挨拶し、二人を召喚し、男性アバターに切り替えてから服装などを改め、昼間の料理を作ってから全員で食べ、今日も同じ様に森の調査。
最近はすっかりと錬金術師になったレドやティアだ。
ウルカとしても何かの生産ジョブを取るべきか悩み、裁縫師のジョブを取った。
▽ジョブ取得
プレイヤーネーム:ウルカ
種族:ハイヒュム
性別:女
ジョブ:鬼武者 上忍 巫女 裁縫師
クラス:鬼剣士 戦上忍 戦巫女 布師
身長:160㎝
瞳色:黒
髪色:黒
肌色:乳白色
▽
「おっ裁縫師のジョブを取ったのか」
「ああ。生産ジョブも必要だと思ってな」
「クラスは」
「迷ったが布師だ」
「布か、とすると染料の方が必要だな」
「頼めるかポーション」
「俺はポーションじゃないが、染料なら大量に有るしな」
「すまんな」
「別にいいって、ウルカにはいつも世話になっているしな」
「お前はいい奴だな」
何かと世話になるこいつにいつか礼が出来ればとウルカは思う。
近くにいたティアが両目を輝かせ食いついた。
「服を作る仕事?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ服を」
「後で作ろう。とはいえ素材の方も手に入れねばならぬし」
「協力する!絶対作ってね!」
親に似たのか、それとも何であるのかはわからないが、錬金術師の卵として成長中のティアだ。ウルカとしてもこの娘が成長するのは密の楽しみだ。
「将来は何になるのか悩むな」
「ウルカさんなら裁縫師これに決定」
「ティアは錬金術師か」
「うん!」
可愛い娘さんだとウルカは思う、明るく頑張り屋さんで芯の強い良い子だと。
甘えん坊で、少々子供っぽい所もあるが、良い子ではある。
「ポーションは?」
「混ぜ物師」
「そんなものはない」
「・・・混ぜ物が好きなんだ」
「お前もぶれないな」
「混ぜ物が好きなんだ。混ぜ物を、ああこれは言えんな」
「どうせ実験体に飲ませたり掛けたりしたいのだろ」
「ああ。何せ治験には許可がいるからな、何処かに治験の自由な夢の国はないかと思うぞ」
「ない方が世の為だ。そんな国には絶対に住まん」
「じゃあ混ぜ物が自由な国」
「お前を放置すると人様に迷惑ばかりかけそうだ困ったものだ」
「自由って素晴らしい概念と思うぜ」
「それはそうだがな、まあ生産にでも入ろう」
裁縫の方も、色々とあり、デザイン、素材、染料様々な要素がある。
デザインの方は、ウルカの好きな時代劇の、忍者装束、侍装束、巫女装束等に、ティアの専用に制服モデルの物、錬金術師をイメージした物を製造していた。
(ポーションの服でも作るか)
ウルカの中ではポーションと決定されていた。
しかしレドには困ったもので、男性・女性の二つが必要であり、基本的に錬金術師でもあり、戦闘では剣・槍を使い盾も使う騎士職もあるし、弓使いでもある、またサモナーでもあるし、テイマーでもある為に、作るとしては困ったほど豊富なのだ。
(難しい、そもそも豊富過ぎるのだ)
結局簡単な物から作るとしても、錬金術師の娘の服装から作ることにした。
海が好きな娘の為に、青系の色合いが良く、ミニスカートは絶対であるし、各種防具性能も必要だ。錬金術師としてのイメージからしても長衣だが、それはウルカの誇りが許さない、断固として長衣は撲滅すべきなのだ。
(うむ。よい閃きが生まれる。やはりティアは作り易くていいな)
親に比べて余程作り易い。
姉の方にも考えが過る、ピローテスに可愛い服を着せれば絶対に楽しい。
(うむうむ。悪くない)
リャナの事もある、いつも世話になっているだけではなく、玄武戦でもよくPTを支えてくれたことはかなり有り難かった。
ドレス系などが似合うが、最近はレイピアを持っているし、剣士風も悪くはない。
(セクシー系か、それとも)
最後にピュシー、何かとティアと行動を共にする元気娘だ。
スタイルが良い為に色々な服が似合う所が嬉しい、色的には赤が一番だ。しかしペールピンクというのも楽しそうだ。他にも桃系などもよい。
(ピュシーもいいな、こうも発想が豊富だと嬉しい物だ)
デザインだけでも楽し過ぎて発想が湯水のように沸く。
レドのお目付け役のルリにも世話になっているし、ユキカゼには助けてもらったし、二匹の為に居も色々と作りたいし、特にルリはレドのバカを止めてくれる貴重な友人だ。
ヒリュウやアリサも居るし、サクヤも居るし、他にも従者達も。
(うむうむ。素晴らしい、モデルの宝庫だ)
扉がノックされる。
「おいウルカ、夕飯だ」
時間を見るとすでに夕飯時だ。
閃きが次々に生まれ楽し過ぎて時間を忘れていたらしい。
忍者としてはこれは失態だ。
(うむ。凄く楽しい)
「おいウルカ、忍者、おい」
「やかましいぞポーション、私は今非常に楽しいのだ」
「どうしたんだよウルカ、だから夕飯だって」
「夕飯?ああそういえばそうだった」
「頼むぜ」
非常に名残惜しいが、夕飯を食べに行く。
夕飯は珍しくハンバーグだ。
キノコや緑豊かな葉っぱ、味の良さそうな調味料のソースもついている。
ホクホクと食事をしてた。
「さあ生産を」
「おいおい時間的に言っても風呂だろ?」
「うむ。確かに風呂もよいな」
周囲にしては珍しいウルカの変わりようだ。
最近はトラブルも解決し、懸案事項のレドの暴走も収まり、生産ジョブを取ってかなり上機嫌だった。
風呂に入ってのんびりとした時間を過ごしていた。
女性アバター時のレドは、スキル効果等もあり女と見れるのがマシな事だ。
どうせ風呂に入るのだし何よりアバターの為にウルカは全く気にしない。
レドも娘の世話などに、いつも家族で入る為に別に珍しくはない。
「おいポーション、酒はないか」
「酒?お前どうした、最近は真面目路線を殴り捨ててないか」
「う、うむ。少し浮かれていたようだ」
生真面目のウルカにしては珍しい事だ。いつもレドのおふざけぶちキレて制裁を行い、PTのサブリーダーとしてビシビシやっている女性だ。
レドとしてもウルカの変わりようもあり、心配にもなるが、ウルカなりに変わりつつあるのは喜ばしい物だ。
(こいつも変わるのか、よい結果となるのなら歓迎だ)
「なんだそのうんうんと言った頷きと、その眼は」
「いやな、お前さんなりに変わりつつあるのだと思うと嬉しくてな」
「ルリやれ」
「・・・(ふるふる)」
「む。冷静さを欠いていたか、忍者としては失態だな。すまんなルリ」
「・・・(コクリ)」
そんな鳥と忍者の会話に、近くではユキカゼがティアに捕まって湯船に入っていた。
ユキカゼは酷く怯えており、逆にティアは非常に上機嫌だ。
風呂に入ってのんびりとした時間を過ごしていた。
女性アバター時のレドは、スキル効果等もあり女と見れるのがマシな事だ。
どうせ風呂に入るのだし、何よりアバターの為にウルカは全く気にしない。
レドも娘の世話などに、いつも家族で入る為に別に珍しくはない。
「おいポーション、酒はないか」
「酒?お前どうした、最近は真面目路線を殴り捨ててないか」
「う、うむ。少し浮かれていたようだ」
生真面目のウルカにしては珍しい事だ。いつもレドのおふざけぶちキレて制裁を行い、PTのサブリーダーとしてビシビシやっている女性だ。
レドとしてもウルカの変わりようもあり、心配にもなるが、ウルカなりに変わりつつあるのは喜ばしい物だ。
(こいつも変わるのか、よい結果となるのなら歓迎だ)
「なんだそのうんうんと言った頷きと、その眼は」
「いやな、お前さんなりに変わりつつあるのだと思うと嬉しくてな」
「ルリやれ」
「・・・(ふるふる)」
「む。冷静さを欠いていたか、忍者としては失態だな。すまんなルリ」
「・・・(コクリ)」
そんな鳥と忍者の会話に、近くではユキカゼがティアに捕まって湯船に入っていた。
ユキカゼは酷く怯えており、逆にティアは非常に上機嫌だ。
この後に待っている衛生の時間が有るので、ユキカゼにとってみれば恐怖の時間だ。
口に訳の分からない薬品入りのブラシを突っ込まれ、口を磨かれるのが怖くてたまらないのだ。ちなみにティアは錬金術師で新米だ。飼い主のレドは匿ってはくれるが、基本的にティアの味方の為に、ユキカゼは酷く怯えていた。
「ユキカゼが酷く怯えているぞティア」
「うん。衛生の時間の前だから」
「動物の世話か、ふむ。ルリ」
「・・・(コクリ)」
「ルリにも必要だろう」
「じゃあルリのお世話もする」
「・・・(コクリ)」
何かと賢い鳥だった。
ユキカゼはそんな仲間に信じられない衝撃を受け、危うく失神するところだった。
□
ログアウトしてからの昼を過ごし、午後1時30分にログインした。
いつもの様な朝方の午前6時、ルリは現れるとベッドの上から降り、ティアの部屋を目指すして歩く、その後ろからリャナが扉を開け、ピュシーと共に部屋に向かう。
レドの今日は男性アバターの日、上機嫌で男性になり、男物の服を着込み、武装はしないで部屋から台所に直行する。
「む。今日は男性の日か」
「おっウルカか、今日は米にしようと思う、やはり朝は米だ。味噌がないのが困ったものだが、目玉焼きも必要だ。サラダの方は」
「楽しそうだな」
「混ぜ物の時間だからな」
料理を混ぜ物と認識しているのはかなり重度だが、別に味は悪くないのでウルカは突っ込まず、着席する。
ヒリュウが居ればもっと美味しい物が食べられるが、それは我慢した。
アリサの事もあり、愛情深き女性の為に家族に会えないのは非常に辛い事が分かる。
サクヤの方はまだわからない事が多いが、リアルではお婆さんの為に健康を壊していないか心配にもなる、どうしたものかと悩む。
(やはりリアルで会うか、店の手配だな)
所謂の所のオフ会を計画していた。
リアルで会うのは楽しいが、問題は意外に有る。
サクヤはお婆さんの為に色々と考えないといけないし、レドの事もあり、このバカを放置すると大変な事になりかねない、腕っ節が強いがぶつかって因縁をつけた相手が不幸な薬物を飲まされ、結果としてレドの薬品の実験体化したら目も当てられない。
ルリがリアルにでもいればと思わずにはいられない。
安心な女仲間のアリサやヒリュウが居れば心強い。
レドの家族も集まり、レドの料理を配られてから食べる。
「今日も森の」
「海、海、海~」
「仕方がないな、準備をして海に向かおう。皆よいか」
「水着が居るな。こうなるのなら作っておくべきだった」
「まずは川に行って少しずつ学んでいこう。ティアや他の者達の水泳の時間だ」
「川!?」
「まずは泳ぎを学べ、海は何かと危険だしな」
「さすがだなポーション、親御さん一年生としての好いものだ」
「海」
海が好きなティアとしては川は物足りないのだ。
太古の城の城下町の森の都での水着などを購入に向かう。
男性用の水着を購入し、一応用心のために女性に変化してから女性用も購入し、他の者は性別が一つの為に安心して性別用の物を買う。
ユキカゼとルリの為にも水着が購入され、浮き輪なども購入され、すっかり水遊び気分だ。
ちなみにこの城下町ではレド一家は有名な錬金術の一家のために顔が効く。
ティアのような可愛らしい娘さん、ピローテスのような凛々しい女性、リャナのような落ち着いた魅力的な女性、ピュシーのような翅のある元気娘、小さな子犬、朱い鳥、性別の一定ではないレド、忍者娘のウルカ、何かと目立つような面々で構成されていた。
森の都近くの西森の小川、水木に着替えてから水泳スキルを取得し、一つ一つ水泳の授業、時々小石や水生植物なども採取し調査。
ウルカとしてもこうも平和な時間が過ぎるといいのだが、と思わずにはいられない。
ルリというお目付け役が居るので、今日もポーションは平和な事をしていたが、時々動物等を見付けるとルリの目が険しくなるような台詞をさらりと口にする。
「ああ平和だ。こういう平和が長く続くといいのだが」
しみじみとウルカが呟く。近くで水泳の授業中の四名も居るので邪魔しないように、小石での石投げを行って投擲の訓練と遊びを行う。
そんな時間も過ぎ、昼になってからの昼食を食べ、着替えてから海に向かう。
『森の都』から『イーニャ』の東門の外の海岸。
「海だぁ!」
「授業の事も有るので、水着に着替えてからな、ユキカゼ、ルリは警戒を頼む」
「わん」
「・・・(コクリ)」
「安心しろルリ、このポーションも最近はまともになっている、不穏な空気は私のセンサーで感知する」
「・・・(コクリ)」
そんな忍者と鳥の会話に、ルリの飼い主のレドとしては言いたいことがあるようで、非常に納得がいかないらしく黙っていた。
レドの娘さんたちは海遊び中、リャナもピュシーも海で遊んでいる。
レドの近くにはウルカが忍者刀と手裏剣を持って待機、レドは渋々薬品を収める。
普通のモブのエネミーもルリやユキカゼがに狩られているので安心であり、ウルカでもわかる事だが、都合の良い実験体が接近していることが分かる、エネミーに実験がしたい様子でちらちらと見ている。近くの砂には薬品の化合式が記載され、ウルカとしては本当にこいつが平和という素晴らしい時間をぶち壊しにしないか?そんな疑念が過る。
こんな危険な奴が一人暮らしをして、しかも知識の手に入る学校に通うことになるのが、ウルカとしては複雑な事だ。
役には立つポーションなのだが、扱いは雑でもよいのだが、手間暇がかるのが悩みだ。
「ウルカも海で」
「お前を放置すると、薬品で遊ぶからダメだ」
「大丈夫」
「何が大丈夫なのだ」
「被害を受けるのはエネミーだ」
「そうだな。私もただ狩られるのなら文句は言わん。薬に苦しめられて挙句に色々とされてから殺されるのはさすがに忍びないだ」
「安心設計だ。直ぐに済む」
「全然安心できん、お前という毒物を放置しているのが信じられない事だが、運営はいったい何を考えているのか」
「運営は神だぞ」
「そうだろうな。お前に実験体を提供してくれる」
「じゃじゃあ攻撃用」
「お前が悪知恵を働かするのは決まっているのでな」
「ほんの少し添加するのみ」
「ダメだ。後こっそりと薬品を弄るな」
「・・・薬品が無いと落ち着かない」
「お前は薬物依存か」
「混ぜ物依存だ」
「はぁまともな時はまともなのだがな」
□
遊んでから海での採取などを行い『イーニャ』のPT共同住宅の工房で調査を行う。
ウルカも自分の工房で作業を行い、時々レドの悲鳴が聞こえる程度の事は有っても平和だった。
ユキカゼの声が聞こえると止まるので、今日もルリを怒らせたらしい。
こんな貴重なルリがリアルに居ないと、人の健康が心配にもなる。
特に最近は薬品の実験が出来ていない、夜中こっそりログインし、実験をしかねない事が困る、リアルでも学校が近く、そんな平和な学び舎で、怪しげな薬品の被害を受ける不幸な者が居ないのか不安にもなる。
(どうしたものか)
ポーションも貴重なために、うかつには殺せないのも困る。
(リアルでも会うことになるが、どうしたものか)
リアルでもセンサーが働くので直ぐに分かるのだが、いざ会えば別に変る事はない、ついつい暴力を振るってしまうのは別にいい、困った事に学校が違うのだ。同じで有ったも困るが、違えはそれだけ懸案事項が増える。
リアルでは184cmの巨人の為に、腕っ節も強い事は分かる、この為に一見すれば立派な体格の少年に見えても、不幸な被害者を大量生産しかねないのが困る。
せめてアリサかヒリュウが近くに居れば安心できるが、サクヤはリアルではお婆さんの為に老人には難しい。
(誰かいないものか)
ウルカのレドに対する悩みは尽きない。
夕飯の時間になり、ルリが険しい瞳でレドの傍にいた。
こんな奴でもリーダーであり、色々と手を貸してくれる友人なのだが、せめてルリがリアルに居れば良いがと悩む。
「ルリ」
「・・・」
「頼みがある」
「・・・(コクリ)」
「リアルでもこいつを止めてくれ」
「・・・(ふるふる)」
「ダメか、むぅ困った」
しっかり者のルリでも無理らしい。
レドからすれば、リアルでもルリに蹴られたり、殴られたりするのは嫌なので、ホッとしていた。ウルカの方も恐らく学校が違うのでリアルで会うのは遅くなる。
つまりリアルではレドの実験を止める者が居ないのだ。
この大発見にレドは狂喜乱舞しそうだった。
ただルリとウルカの目が危険なので言わない。
「おいバカ、何か碌でもない事を考えたな」
「知らない、俺は何も知らない」
「リアルで実験をやろうと考えたな」
「知らない、全く知らない、そもそも資格はないしな」
「学校には教師がいるからな、どうにかせねば」
ガス爆弾の安全ピンを抜いてから放置する様なものだ。
基本的に不真面目な性格のレドの事もあり、学校に迂闊な者を配置すれば学校に依らないで借家の自宅で実験を繰り返しかねない、不幸な薬物などの実験体にもなる野良には多い。ルリの目が険しさを増し、ウルカを見る。
「どうにかせねばならぬ。このバカを放置すれば酷い目に遭う被害者が増えてしまう」
「・・・(コクリ)」
「知らない、俺は知らない」
治験の自由な夢の世界を壊されてはたまらないとレドは考えた。
それは違法だが。
「サクヤに頼もう」
「・・・(コクリ)」
色々な壁を越えて鳥と忍者は手を結ぶ。
緊急メールでサクヤを呼ぶ。
事情もしっかりと伝えてある。
『サクヤがログインしました』
「事情は理解したがの、ウルカ、主は少し厳し過ぎないかえ」
「そうか?」
「少し実験をする程度は別によいではないか、エネミーに使うのなら問題はない」
「苦しみ殺されるのはさすがに」
「小僧なりに色々と考えは居る。考えなしの若造ではない」
「むぅ」
「リアルでのトラブルがえてしてこの世界での活動にも支障をきたす」
「なんだと!」
「小僧も少しは自重せい」
「しかし、俺の実験をどこですればいいのだ」
「してはならぬとは言わぬが、この世界の活動時間を削られてしまうぞえ」
「う」
「妾も色々とある故に、そう多くは出来んが、時間があれば楽しみみたいのじゃ、それはわかるのじゃがの、レド、主とて人の親じゃ、娘にどんな悪影響を及ぼすかも考えねばならぬ、もしティアに好くない影響が出ればどうする?」
「分かった自重しよう」
「分かればよい、まあエネミーには別によいぞえ、あれは狩っておくものじゃからの」
「了解した」
「レド、主も色々とあるじゃろうが急ぐでないぞ」
「ああ」
「主の思う事も妾も分かるのじゃ、あの時あの場所に戻ってあの結果を覆したいとはの」
「ああ」
「その結果、主の大切なモノが壊れてしまったらどうするのじゃ」
「それは」
「ないとは思わぬじゃろ。レド、主は賢いが、性格の方もよい、しかし大切なモノを奪った相手を許すほど人は良くない、その恨みを抱えて生きるのは確かに辛い」
「・・・」
「人はそんなに強くはない、人はそんなに弱くはない、相反するようじゃがそんなものじゃよ。人は哀しい事はよく覚え、楽しい日々の事は直ぐに忘れる、主にとってみれば深き恨みを持つ相手も、今なき過去の世界じゃ、戻って相手のそっ首を刎ねるのが主には魅力的じゃろうが、戻ってこれなくなっては意味はないぞえ、利益のみの話などはない、失うものがないことなどない、危険のない話などない、分からぬ主ではあるまい」
「・・・いつか恨みを晴らせることだけを考えて生きてきた」
「気持ちはわかるがの、死んで者は帰らん、どんなに言おうともそれは変わらん、リャナと云う奇跡は確かにあるじゃろ、それを娘にも期待するかえ?」
「しないさ」
「そうじゃな。これで分かったかえウルカ」
「少しは」
「主も頑固な娘じゃの、まあええ、ルリ」
「・・・(コクリ)」
「どんな事は有れ、厳しく当たり過ぎるのも考えモノじゃ、物事は何事も急いではならぬ、ゆっくりとしっかりと進めばおのずと結果はついて来るしの、じゃあ妾は行くぞえ」
「後だが、サクヤはオフ会には来られそうか?」
「勿論じゃよ。主らは驚くぞえ」
「楽しみにしている、後で連絡する」
「ありがとよサクヤ、いつか礼が出来ればよいが」
「よい、仲間とは思って居るしの、大切にせい」
人生の重ねた時間の違ったサクヤの話が終わり、レドも反省し、ウルカも少しは許可することにした。
□
ログアウトしての午後7時30分のログインした。
いつも通りの朝、昨日の事もあり今日のルリは少し違い主に挨拶をしてから他の二人と出る。レドとしても色々とあり、台所に立つとウルカが挨拶した。
「おうウルカ」
「レドの事も少しは解った、エネミーへの実験は許可する」
「感謝するぜ」
「人に実験したら、この世界での活動時間が削られるのでお前ならせん」
「おう」
「でオフ会は来られそうか」
「必ず行くぜ」
「それは良かった」
ウルカも反省しているようで少しは譲ることにしたらしい、レドも昔の事ばかりに捕られることを改めることにした。
いつもより少しくなった時間を過ごし、今日の素材集めを行う。
「海」
「海はダメだ。やはり森だ」
「ウルカに賛成だ」
「海もいいけど、森もよいのよね」
「私も森の方が色々と楽しめそうです」
「という訳で森へGO」
「海、海、海」
「ティア、余りわがままを言うものではないぞ」
「海」
「今回は森にしたい、よいかティア?」
「うん。今日はお母さんだし、言う事は聞く」
「良い子だ」
森に行き素材を集める。
エネミーなどはユキカゼとルリが狩り、レドも実験体への攻撃を加えていた。
主に攻撃用の薬品を製造し、森での植物系エネミーには火炎瓶や強酸等、プリン等の変てこ生物には主に毒物などの薬品を試していた。
レドとしても+の効果の薬品は多いが、攻撃用の薬品の知識が少ないのでコツコツと行う、ティアもそんな親を見習い少しずつ学ぶ。
ただティアが毒物系など知識はユキカゼが怒るので教えず、主に攻撃用の燃料素材や、強酸素材や、魔法効果を封じ込めた暗黒系や神聖系などのボトル、他にも戦闘に役立つアップ系の薬品や、ダウン系の薬品等と色々と試していた。
「楽しいそうだなレド」
「まあな」
「薬品を攻撃用にするのはなんというかだがな」
「錬金術師にとってみれば、薬品ってのは弾薬の様なものだ。消耗品って奴だな」
「なるほど、確かに薬品で攻撃するのなら頷ける」
「攻撃用の薬品も結果として身を護るすべとなる、防御だけでは勝てないからな」
「そうだな」
「色々と試せたし、しかし惜しかったな」
「あの草の種か?」
「薬の力を何倍にも増やせる万能薬だ。錬金術師なら垂涎の的だ」
「さすがに許可は出来んぞ」
「分かってはいるさ。あの種があれば貧しい地域などにも実り豊かな植物が作れるんじゃないかって思ってさ」
「・・・・すまん」
「好いって、リャナが作ってくれることを期待するさ」
レドはレドなりに考えがあるのはウルカにも少しは解った。
「しかし、どうも実験体の種類が不満だ」
「ならダンジョンに行くのもよい、境界線ダンジョンも有るしな」
「なるほど、ティアやピローテスにもよい結果にもなるし、悪くない」
「では決まりだな」
「海の境界線ダンジョンは止めだぞ?」
「海嫌いなのか?」
「海の近くで育ったからな、海なんてありふれ過ぎて好きじゃない、落ち着きはするが何か物足りないし、何より海には碌な思い出がない」
「なんだ女にでも振られたのか?」
「ちげえよ。海に嫌な思い出があってな、しかも最近も」
「ああ呪われた海の時か、あの時の嵐はすさまじかった」
「だろ?それになヒリュウが言ったあり台詞、人が」
「あああれか、人が飛んでいった」
「普通あれを見たらビビるって、通行人が飛んで行ったら普通家もぶっ潰れるぜ」
「被害は大きかったらしいが、呪われた海も収まったし、当座は平和だ」
「そうなんだよなあ。なんかイベントも企画されないかな」
「私としては生産プレイヤー向けのイベントが欲しい」
「言えてらぁ。生産用のイベントも欲しいぜ。ヒリュウもアリサも忙しいのか」
「色々とあるそうだ。学校、寮暮らし、一人暮らし、リアルでの付き合い、親戚の集まり、学校も近いし、その準備も多い」
「確かにな」
「ひとまずダンジョンに行こう、金目の物も得られるかもしれないしな」
「おいおい忍者、トレジャーハンターに転職か」
「割りとよいと思っている」
「多彩になると言いな」
「ああ」
久し振りにウルカが笑う、忍者装束の頭巾の中なので目だけの笑いだ。
レドも少し別の物も行うべきかとも思うが、ひとまずは錬金術師の知識を売ることにした。
「おしダンジョンに行くぞ」




