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017:四門ダンジョン 其の4

 呪いの海よりリアルでは翌日になり、3月27日。

 呪いの森に行くために朝のトレーニングを終え、いつも通りの午前9時のログイン。

『レドがログインしました』

『ウルカがログインしました』

『アリサがログインしました』

『ヒリュウがログインしました』

『サクヤがログインしました』

 自室で目覚める。

 今日の所も、娘の様なティア、従者のピローテス、従者のユキカゼの2名と1匹が待っていた。ティアの方は唇を尖らせ拗ねていた。


「遅い!」

「今日はばっちりだった」

「4秒遅れだマスター」

「四秒ぐらい」

「では聞くがマスター」

「なんだ」

「軍議の会議で4秒間沈黙して居たらどうする」

「後で〆る」

「であろう。刻一刻と変化する場面での4秒間は、4名の兵士と同じ価値を持つ」

「すまん」

「うむ。であるからしてなるべく早くログインしてくれ」

「了解した。ティアすまなかったな」

「レド、お母さんに戻って」

「いやしかし、俺は元々男性で、そもそもネカマは」

「戻って」


 渋い顔で女性に性別を変えるレド、衣類もパンツスーツ姿に変わる。

 男性の時より凹凸の激しい、バスト(90以上)、ヒップ(90台)、ウェストは減少した60台と言う、男性の精神を深く傷つけるようなものなのだ。


「今日はスーツかあ、偶にはいいかぁ」


 ちなみにティアのお気に入りの服装(レドの服装)は狩衣、ミニスカートの組み合わせ。

 精神的なダメージが大きいために、渋るレドに、駄々をこねたティアがなるべく着ることを約束させたトラウマのようなものなのだ。


 □


 自室から出ると、隣からサブリーダーの和風服装を好み、和風ジョブやクラス以外取らない徹底した和風好きのプレイヤーのウルカ、今日は珍しく巫女さんらしく、武装はなく衣装も巫女さんの白衣、赤袴と言った格好だ。種族の方はヒュムの上位のハイヒュムだ。

 顔付きの方は和風美人と言った顔立ちで、スタイルも平均的な方だ。

 生産時には、衣類・革細工を担当し、今や人気のある裁縫師だ。


「おっ今日はスーツか、割とマシになったではないか」

「ああマシになった方さ」

「朝っぱらからやけっぱちになるな」

「俺は男なんだよ。精神的な厳しい」

「仕方あるまい、それともティアに男の時にお母さんと呼ばれたいのか、そういう特殊な趣味が必要なのか、やはり」

「ウルカさ。前々から思うがお喋りだよな」

「忍者もお喋りな口なのさ」


 ピローテスもティアもユキカゼも挨拶し、ウルカも挨拶して滑る様に飛び降りた。

 その隣から今度はフォックスの女性プレイヤーと従者の朱雀が現れる。

『星空の記録』の新メンバーであり、取得縛りのプレイスタイルだったプレイヤーだ。今ではサモナー、アーチャーの二つも取得し、スキルも豊富にそろう、服装は黒い胴着に、ワインレッドのミニスカに、同じ色合いのベルト、下には黒いスパッツ、黒いハイソックス、白いレザーグリーブを着込む。

 顔付きの方は幼い感じの少女であり、それなりに整った顔立ちだ、スタイルの方は一言でいえばスレンダー、武装は槍一本、生産担当は召喚具と矢。


「おはようサクヤさん、ドレ」


 ティアが真っ先に声を掛けると、サクヤとドレが気付き、挨拶の様に片手を揚げる。


「ぎゃ」

「おはよう、所でのぅ。ティアは調味料が作れるのかえ?」

「調味料は勉強中です。サクヤさん」

「修行中の身かえ、楽しみにしておるぞ」

「うん」

「ではのう」

「おう」


 サクヤは階段を降り始める。

 レド達も階段を下り、大所帯の為に、大きなテーブルを二つも使い、レド達の3名、ウルカ、サクヤの5名は一つのテーブルを囲む。

 ユキカゼとドレは主人の近くで、眠そうに欠伸をかみ殺す。


「朝から騒がしいにゃ」


 宿屋の女将のクリュール、フェルパーの女性NPCである。


「日替わりを人数分」

「もう用意しているにゃよ。この宿屋も星空の記録専用になっちゃったニャ」

「営業努力の方が問題では」

「そうにゃね。これ以上人数が増えても困るにゃ、むかしの閑散とした宿屋は何処に行ったのかにゃ、懐かしいにゃよあのころが」

「経営が厳しい状況でよく言うなてめえはよう」


 看板のような息子さんで、料理人兼ウェイターが料理を運ぶ。

 口こそ悪いが、決して話の分からない少年ではなく、料理の腕前も高い。


「工房と自宅が出来るまでの今月分な」


 一泊100G、朝飯付きでの150G、プレイヤー・従者の値段の変更はない、星空の記録のレド達から4×150×30=1万8000G、一番安いウルカですら4500G二番目に安い2×150×30=9000G、ヒリュウ達やアリサ達は1万4500G。

 つまりこの宿屋の主な収入は星空の記録からの宿代なのだ。


「ヒュディック、お風呂の設置料金と及び燃料代と、倉庫代と保険費用な」


 渡された分厚い金貨が大量につまった金を受け取ったヒュディックは、不愛想な顔で調べる。


「後新聞代と、新しいメニューへの投資金、嵐などの防災用費用、及び保険費用」

「冒険者ってそんなに金になるのか?」

「いや全く金にならん、全部生産で手に入れた金だ。後こちらの方が」

「・・・」

「こちらの方は厩舎用費用と及び各種保険代と建造費用と餌代と」

「いっその事店を構えた方が手っ取り早くないか」

「嵐でぶっ潰れた」

「そいつは悪かった。まあこれだけあれば大丈夫だろう」

「最後に、こいつは俺の勝手な事だが、図書室コーナーを作って欲しい」

「ああなるほど、ティアも従者たちも暇な時間は有るしな」

「勉強にはなると思うのだ。こちらがその費用だ」


 今までの費用は数倍の金額だ。

 ヒュディックからすれば、これだけの資金が渡されて、店を改装するに匹敵するようなことをするわけだが、これ程の上客と言っても過言ではない、むしろオーナーの様なものだ。決して悪い冒険者ではなく、金払いもよいし、よく働くし、良く色々な所に生産品を収めているし、この生産品は高く評価され、今では色々な所から買い求められる。

 ただ金銭感覚の点からいえば酷い連中だ。

 お金を大量に稼ぐが、使う時は樽から流すように使う、正気ではないような連中だ。

 お金を受け取ったら、直ぐに仕事に取り掛かる。


「さてさてと」


 食事を行う。

 残ったアリサ達やヒリュウ達は一向に降りてこない。


「彼奴らは何をしているんだ」

「アリサ達やヒリュウ達なら朝早く出かけたニャ、何度もこれ以上の差は勘弁って言っていたにゃよ」

「なるほど」


 食事を終えたら、朝の香水の紅茶を飲みホッと一息。


「じゃあ買い物にでも行くか」

「何を買うのお母さん」

「・・・・何を買おう」

「連射式クロスボウを三個、及び矢、矢筒、森等を探索するために衣類及び防具が我々には要る、ウルカには忍者・侍・巫女用の武器・防具・衣類と、サクヤ用の武器・防具・衣類など、ユキカゼ、ドレ用の物も必要だし、騎獣達の装備も居る」

「じゃあ金でも卸に行こう」

「賛成~」

「うむ」

「そうじゃの」

「ぎぇ」

「わん」

「異論はない」


 □


 銀行で下ろし、資金を持って直ぐに、飛び道具専門店『バリスタ』に行く。

 何せレド、ピローテス、ティア、サクヤは弓使いのジョブと弓弩士のクラスがあるから、どうしても必要な物でもあり、またウルカにも忍者用の手裏剣等に、侍用の弓、巫女用に弓がいる。

 店の店員も知っているので快く応じた。

 連射式クロスボウのポンプ式クロスボウを3個、巫女用の儀式弓、サクヤはクロスボウが好きではないので、ハンティングボウを購入し、必要になる矢筒、矢を購入した。

 森用に調合したレドの塗料などを使い魔改造した。

 □□□□□□□□□□

 名称   クロスボウ・弓・矢・矢筒(コーティング済み)

 素材   企業秘密

 品質   ☆×1

 耐久度  20/20

 効果

 耐水性:水に浸かっても解けない

 植物属性:植物エネミーに特攻Lv1

 動物属性:動物エネミーに特攻Lv1

 毒属性:毒属性を得るLv1

 眠り属性:眠り属性を得るLv1

 麻痺属性:麻痺属性を得るLv1

 気絶属性:スタン属性を得るLv1

 暗黒属性:暗黒属性を得るLv1

 神聖属性:神聖属性を得るLv1

 攻撃力上昇:ATKアップLv1

 防御力上昇:DEFアップLv1

 敏捷性上昇:AGIアップLv1

 備考

 属性付きの弓弩・矢・矢筒、強力な森にすむようなエネミーに特攻効果を持つ、暗黒・神聖属性を持つために、高い攻撃力を誇り、使い手にも影響を及ぼす魔力を宿す。

 □□□□□□□□□□

 名称   胸当て

 素材   企業秘密

 品質   ☆×1

 耐久度  30/30

 装備効果

 物理防御力 +20

 魔法防御力 +15

 効果

 耐水性:水に浸かっても解けない

 毒耐性:毒に対しての耐性を得るLv1

 眠り耐性:眠りに対しての耐性を得るLv1

 麻痺耐性:麻痺に対しての耐性を得るLv1

 気絶耐性:スタンに対しての耐性を得るLv1

 暗黒耐性:暗黒攻撃に対しての耐性を得るLv1

 神聖耐性:神聖攻撃に対しての耐性を得るLv1

 攻撃力上昇:ATKアップLv1

 防御力上昇:DEFアップLv1

 敏捷性上昇:AGIアップLv1

 備考

 弓を使う時の防具、この耐性付きの薬品が使われた耐性効果を持つ防具、使い手にも影響を及ぼす魔力を宿す。

 □□□□□□□□□□

 ▽スキル取得

 ウルカ:弓

 スキル説明:[弓]:弓が扱えるようになる。

 胸当て:レド、ピローテス、ティア、ウルカ、サクヤ

 スキル説明:[胸当て]:弓士用の防具。

 ▽

「よし、これで弓巫女だ」


 白衣・袴、胸当て、儀式弓、腰には矢筒と言った格好のウルカ。


「ウルカさん格好いい」


 ティアがそう褒めるが女性としては微妙な誉め方だ。


「妾の場合それほど変わらんがの」


 胴着・ミニスカ、胸当て、狩人弓、腰には矢筒と言った格好のサクヤ。


「サクヤの場合は可愛いだな」

「年齢的に言って微妙じゃ」


 リアル年齢から言って辛い評価だったらしい。

 ティアの場合は、ブラウス、ジャケット、コルセット、ミニスカに胸当て、腰には矢筒。

 ピローテスは、ワイシャツ、ジャケット、パンツ、胸当て、腰には矢筒。

 レドの場合もピローテスとそれほど変わらない、たた体格が体格なので他の者が使える様なサイズが合わない、胸当ての方がピローテスの様に調整を受けた後に、革製の部分の増加を受け、体格からもあって普通の衣類や道具が使えない。


 女性の店員が、これはスイカとぼやく様な大きさのピローテス、レドの胸当て、ウルカの場合は普通のサイズ、ティア、サクヤは小さなサイズで済む。

 体格のデカいレドからすれば、何かと面倒だなとは思わずにはいられない。

 似た様なサイズのピローテスの苦労が忍ばれる。


「じゃあ次は、和風装備専門店ブシロードだな。それとも戦士装備専門店のカデンツァ」

「ブシロードでよいぞ。槍用の店はないゆえに」

「よしブシロードに決定」


 ブシロードに行き、装備を更に整える。

 効果等は似た様なもので、槍のサクヤ、薙刀のウルカの二人が整えた。

 戦士装備専門店のカデンツァでは、ティアのショートソード、ショートスピアを整える。

 騎士装備専門店のナイト・ナイトでは、レド、ピローテスの二人が、槍と刀剣を整えた。

 森用の専門的な効果を生む塗料がつけられるので、金銭的な価値でいえば20倍、品質でいえば☆×1、等級でいうのなら1、Lvでいうのなら1だ。

 現在のところ、経験値のLvUPの数値が4桁が増え、100万と言った所が最低となる。実質的にLvが上がらない。

 ▽装備変更

 森用コーティング済み

 [レド]

 暗黒騎士剣〝暗黒剣士№2〟連射式クロスボウ〝ポンプ式クロスボウ〟+属性矢

 [ピローテス]

 暗黒曲刀〝暗黒牙〟暗黒騎乗槍〝暗黒雫〟連射式クロスボウ〝ポンプ式クロスボウ〟+属性矢

 [ティア]

 ショートソード〝ビギナーソード№2〟ショートスピア〝ビギナースピア№2〟連射式クロスボウ〝ポンプ式クロスボウ〟+属性矢、

 [ウルカ]

 騎乗薙刀〝風鳴き〟儀式弓〝儀礼・壱式〟+属性矢

 [サクヤ]

 騎乗槍〝ショートスピア〟狩人弓〝森の牧人〟+属性矢

 ▽

「おし、ユキカゼ用、ドレ用、騎獣達用の物を揃えるぞ」

「わん」

「くぇ」

「ユキカゼ曰く従者用の装備は有るのでいらない、ドレ曰く、従者用の装備が何があるの、騎獣達は興味津々って顔をしているよ」

「テイマーとか、サモナーは天職じゃろうなこの娘は」

「チケットなら」

「まだダメだ。まだ修行中なのだ」


 何故かむきになって否定するピローテス。


「お姉ちゃんも反対するし、保留と言う事で」

「残念だ。まあ確かに色々と学んでいる最中であるし、今は別に急ぐこともあるまい」

「そうじゃの」

「じゃあドレ用の物からにするか、それが終わった最後に騎獣達用だな」


 ドレ用の従者の鳥が多用の衣類も近くの従者用装備専門店で購入し、騎獣達用の騎獣装備専門店を探し、なかったのでヒラメの『韋駄天』に向かい、ここで購入した後に個々の騎獣用に合わせて装備を整えた。


「相変らず大所帯だね」


 隻眼のヒラメが、キセルのタバコをふかしながら話す。

 レドが言葉を正すために、ピローテスやユキカゼも背筋を伸ばし、ティアやサクヤを不思議がらせ、ウルカが説明していた。


「まあ、色々とあるそうだねえ。例えば海とかさぁねぇ」

「青龍は取れませんでした」

「・・・理由を聞こうかい」

「種族が変わったからです。極々普通の娘さんになりました」

「・・・まさか、レド、あんた」

「呪われているのは忍びない物で」

「つまり、呪いを解くために種族チケットで変更したのかい?あんたそれは」

「二度と手に入らないでしょうね」

「・・・」


 ヒラメは呆れるやら可笑しいやら何とやら、青龍を得る機会その物を破壊したことになるからだ。


「あっでも青龍ダンジョン開放と有りました」

「解放ねぇ。あんたが同じ事をしない訳もないし、情にホイ出されて、こんな阿保がいるとは思わなかったよ」

「そう言わんでください」

「言っておくけど、四門ダンジョンを攻略するためには青龍は要るんだよ」

「・・・でした」

「あんたはこの四門ダンジョンのイベントその物を破壊したんだよ」

「面目ないですが後悔はしておりません」

「別に責めはしないさぁねぇ。運営がどんな顔をするか楽しみだねえ」


 漸く事態を飲み込めたピローテスは顔が真っ青になる。


(マスター、これは)


 つまり青龍を手にいる機会その物を破壊したレドは、サモナーだけではない、プレイヤーから狙われるぐらい、危険な事を行ったことになる。

 頭は決して悪い訳ではないが、損得勘定より情を優先しがちな主なのだ。

 人が良過ぎるのには限度がある。つまりそう言う事だ。


「そっちのダークエルフは理解したようだね」

「マスター」

「落ち着けピローテス、しっかりと対策はある」

「数の比が違い過ぎます。今すぐに逃げるべきです」

「アイリスは青龍を召喚で来たな」


 ピローテスは力尽きるように片膝をつく、ヒラメは可笑しそうに笑いながら、キセルから煙を放ち、この煙の輪っかに煙を入れる。


「随分とまあ成長した物さぁねぇ。あの初心者で金に困って色々としていた坊やがねえ、いやはやこれは面白い事になりそうだよ」

「あんまり弄らないでやってください、真面目な所が強いのですから」

「まああたいも、そろそろ動くとしよう、当座は店仕舞いだよ」

「御武運を祈ります」

「そうさぁねぇ。次に会ったときは、色々となるねえ」

「お互い無事であればそれで十分です。ヒラメさん、どうかご無事で、行くぞ」

「・・・」


 ヒラメの片目に考える様な一考があったらしい。

 レド達が去ったその姿を眺めるように片目で見つめていた。


 □


「マスター、アイリス達は?」

「気付いている者は身内だけだ」

「しかし!」

「アリサもヒリュウも居るのだからあの二人を片付けてしかも、フォルストやセリルの支援を超えて、フォルゼンの攻撃を掻い潜り、アイリスの青龍を倒したのちにどうする?」


 人はそれを無理ゲーと呼ぶ。

 攻撃力に富むアリサ、ヒリュウ、世界樹の木や森を使い、設置型のヒールポットを大量に作るセリル、フォルスト、エントナイトを召喚するフォルゼン、極めた強力な青龍を召喚するアイリス、これをどうすれば攻略可能だと、同じ様にPTを持ってきても、レドの作った生産品を多用する一行に、しかもレド達が近くにいると判断した方がいい事を考えれば、普通のPTでは無理だ。

 トッププレイヤーの集団のグローリースターでも、身内と言える様な南十字星、生産関係に強力なコネを持つ生産者の心得、レドと同じようなVRMMOからの腐れ縁の剣客商売の面々を敵に回しても平気な顔で居られる大規模なPTは存在しない。

 また敵対するような数を揃えても、即死系を操り四割の成功率を誇るリャナ、緊急手段の浮遊を起こすピュシー、朱雀という強力なサモン型従者、一般的な考えで行っても、ハードな対人プレイヤーのPTでも、これほどの規模のPTと敵対する道を選べば困った事になる。

 間違いなく生産者の心得からギルドCに連絡が行き、次第の買取からポーションなども供給の差し止め、下手したら装備品の回復その物が出来なくなる。

 レドは確かに敵を作ったが、それ以上の数多い味方も居る。


「心配だ。急ごうマスター」

「こう言う場合はな、逆に急がない方がいいんだぜ。勉強になったか」


 色々と心得ているレドらしい台詞だ。

 これで情に傾かなければ、また男性時のおふざけがなければ立派なPTリーダーなのだがと思わずにはいられないピローテスだ。


「ようサーフ」

「ヒラメから連絡があった」

「どうすんだよ」

「うむ。凄く面白い事になったな」

「相変らず人斬りバカだなお前はよう」

「いいではないか、これは燃えるような展開ぞ」

「どこが萌えるんだ?」

「呪われし姫君を救った英雄を恨む馬鹿どもが襲ってくるときに、我ら剣客が活躍する、これぞ剣客商売よ」


 会話をするのも普通の人には理解できない会話だ。

 ちなみに剣客商売の人数は6名、どれも刀スキルや剣スキルなどに、魔法スキルは一切取らない徹底した剣士たちの集団だ。

 実力は高く、少なくても一人で一つのPTを笑いながら殲滅するぐらいに強い。

 何せ10年以上のベテランVRMMOプレイヤーの集まりだ。

 しかもリーダーのサーフは性格の悪さでいえば天下一品、剣の腕前の方もレドを遊び半分で叩き潰すほどだ。


「対人戦廃人さん御一行が参加するとさ、じゃあ次は南十字星か」

「生産者の心得には伝えて置こう、邪毒の計略も役立つぞ」

「昔なら怒ったが、今なら素直に感心するよ」


 裏切りと内部崩壊に計略だ。

 要すればそんな事を好む性質なのだ。

 ただレドとはなんだかんだ言って仲が良い、他人を切る為に案山子ぐらいにしか思っていないような連中ではあるが、義理堅い所はある。

 仲間から言わせれば、なぜこんな連中トレドの中が良いが不思議がられるようなタイプの集まりだ。


「ほんじゃあ頼んだぜ。後で入用な物は集めて送るからよ」

「おお」


 三番目に来たのは何度も共闘関係を結んだ身内ともいえる様な南十字星。

 事情を聴いて、リーダーのリードは頭を抱え、のほほんとしたチャイムもあちゃー、バッシュは愉快そうにニヤニヤとしていた。

 従者達、とんでもない事をしてくれたレドになんといえばよいかわからない。


「じゃあそんな訳だ。そうそうノラノラも来るぜ」

「・・・どうしてそんなに死に急ぐのかなぁ~」

「連中らしい」

「・・・ああくそ!準備をする」

「よろしゅう」


 今度はノラノラの所に行き説明。

 リーダーの魔法使いのアプリ、大剣の戦士のビルド、全身鎧に大きな盾を持つアシル、ヒーラーらしいマキの四人組だ。


「・・・正気じゃない」

「だが、レド達に借りは有るし、何よりレド達に恩が売れるのは喜ばしい」

「いつも何かと薬品をくれるのもレドだし」

「つまり考えることないっ訳だ」

「いやしかし、下手すれば全滅だぞ?」

「南十字星も来るぜ」

「ああくそあの馬鹿ども、準備する」

「よろしくな」


 最後に生産者の心得の所。

 剣客商売から聞いていたらしく、リーダーのマイはなんとも言えない顔で沈黙、ユーリーはあわわと言った所、ユックは溜息を吐いて各所に連絡し始めた。


 アマツカサ、戦乙女騎士団の所にもいき、事情を説明した。

 二つのPTのリーダーはそれぞれ深々と溜息を吐いてから準備し始める。

 その後に騎士学校時代の知り合いを訪ね、説明し、協力な協定を取りつける。


 ピローテスから言わせれば、感動するぐらい鮮やかなお手並みだ。

 おふざけや、混ぜ物が好きとか、情にホイ出されるとか、色々と欠点もあったが、+されるような点もあった訳で、同行していた仲間達からすれば、どうしてこれをもっと生かさないのか不思議ではある。

 最後に艶やかなオアシスを訪ねる。


「これはレドさん、お久しぶりです」

「ちょっと依頼があってさ。今話す」

「色々と騒がしくなってきました。まずは飲み物などはいかがです」

「水にしてくれ、なんだかんだ言っても手っ取り早く入るしな」

「心得ました」


 ダークエルフの集まる店に、次第に人が集まる。全員がダークエルフであり、武装するPCからNPCまでと幅広い。


 水を飲んでから、つまみのクッキーを齧り、適当に話す。


「・・・大変な事を成されて事は解ってはいるつもりです」

「せめて協力とは言わない、不干渉を頼めるか」

「それ位なら可能です。レドさんには色々とお世話になっていますし」


 ダークエルフの集まりのコミュニティの集まりで、ここはそんな場所だ。

 敵も作ったが味方も多いとはこういうことだ。

 敵対しない約束を取り付けてから、他の箇所にも色々と挨拶に回り、話を聞きつけたギルドCより呼び出される。

 ちなみに生産者の心得の三名が創設者で、ギルドCは生産者の保護を謳う組織だ。

 ギルドマスターの男は、なんといってもなんである。

 困った事になった事もあって、レドはとある提案をした。

 かかった費用全額を負担する約束だ。


「組織としては色々と不便でね」

「分かっているつもりだギルドマスター。俺も下っ端時代から色々と合ったからな」

「まあ君の様な調合士なら十分元は取れるしね。適当に量産して売れば相当な金額になるものをゴロゴロと作るし、海の方はどうするのか」

「陸の事は陸の事さ」

「それもよかろう」

「南には伝えないでくれよ。あっちも大変だしな」

「そうだな。全くシステム外のイベントばっかりを叩き起こすな君は」

「色々と有るのさ。あんまり情に傾くと辛いぜ」

「君も身に染みてわかっているとは思うが、心に留めておこう」

「じゃあな」


 □


 ギルドCの広場には、すでに幾つかのPTが集まっていた。

 当然の様な糾弾しようとすると、ウルカが煙幕を投擲し、そのまま騎獣に乗って逃走した。

 事が始まった事に、『南十字星』『ノラノラ』『戦乙女騎士団』『アマツカサ』の四個PTとも合流し、そのまま西側の森に向けて逃走した。


 ウルカから連絡の在った『星空の記録』のアリサ、ヒリュウ組も西門近くの森の中に潜伏し、西門から逃走してきた面々を見てから、直ぐに姿を現して逃走した。

 森の中の中継キャンプだった『美鈴』。


 そこには懐かしい人物達も居た。

 双子の姉のツグミ、弟のユウヤだ。

 事情を聴いて、双子は恩が返せると、一行に加わる、二人では少ないので『南十字星』に加わる。

 この『美鈴』のキャンプの人達もレドが率いた軍の事をよく覚えており、協力を申し出る前に、レドが説明し、責任者の村長と不介入の約束を取り付ける。

 住民の安全と生活も大事、かといって自分たちの事も大事なので、この間を取った形だ。

 ただこの前に有りっ丈は素材を購入し、有りっ丈の矢・ポーションなどの消費物資も購入した。薬品などはレドが調合した方が性能は2ランクほど上になるので、誰も異論はない。

 生産系等のプレイヤー集団の『星空の記録』の5名、『南十字星』の5名中の3名、『ノラノラ』の4名、『戦乙女騎士団』の6名。

『アマツカサ』の6名と双子を除けば、18名が生産系に属霜するプレイヤー揃いだ。

 ▽PT紹介。

『星空の記録』

 リーダー役のレド、オールラウンドの司令塔、生産系。生産では調合・園芸・農業。

 サブリーダー役のウルカ、オールラウンド、生産系。生産では裁縫・革細工。

 アリサ、テイマー・サモナーの大鎌使いの生産系。生産では細工・彫金。

 ヒリュウ、サモナー・テイマーの槍斧使いの生産系。生産では調理・鍛冶・木工。

 ウルカ、サモナー・アーチャー・ランサー、生産では召喚具・矢作。

 NPCのティア、錬金術師・調合士、生産では調合・園芸・農業。

『南十字星』

 リーダー役のリード、サモナー&テイマーのクロスボウ使い。生産では調合・栽培

 サブリーダー役のバッシュ、テイマー&サモナーの弓使い。生産では調合・細工・矢作

 チャイム、ハンマー使いの元素魔法使い。生産では鍛冶・商売・木工。

 双子、姉のツグミ、弟のユウヤ、生産技能はなし、近接戦闘能力には定評がある。

『ノラノラ』

 リーダー役のアプリ、元素魔法使い。生産では調合・細工・彫金

 サブリーダー役のアシル、全身甲冑の大盾使い。生産では鍛冶・木工

 ビルド、近接火力の大剣使い。生産では裁縫・革細工・板金

 マキ、弓使いのヒーラー。生産では調合・矢作・調理

『戦乙女騎士団』

 騎士団長(リーダー役)のユララ、両手騎士剣を持つ魔法騎士。鍛冶・木工

 副団長(サブリーダー役)のパティ、中盾と片手剣を持つ聖騎士。鍛冶・木工

 参謀役のモノ、ヒーラー担当。調合・調理・革細工

 ローラ、弓使い&銃使いの後衛アタッカー。矢作・裁縫・細工・彫金

 トーマ、後衛火力の元素魔法使い。調理・裁縫・革細工

 レベッカ、爆弾やポーションなどのアイテムシューター。調合・矢作・細工・彫金

 ▽

「いやはや待っていました、カモン」

「まて」

「ウルカ、二人の力は必要だろ?」

「お前はちとやり過ぎ感がある。何をする気だ」

「決まった事よ。植物を育成する、もちろん浮遊樹もな」

「つまり出し惜しみなしの本気で行くわけだな?後悔はしないな?」

「勿論でっすっとも」

「アリサ、ヒリュウ、サクヤ」

「僕は勿論OKだよ」

「あたしも賛成」

「妾から言わせてもあの二人の協力がとうしてもいるのぅ」

「なら何の問題もない、ただしどうなっても知らんぞ」

「OKOKへいカモン」


【従者召喚:リャナ】

【従者召喚:ピュシー】


「よく現れてくれた、二人にどうしても協力を仰がねばならなくなった」

「仰せのままに」

「問題ナッシング」

「そうか事情を話すぞ」


 事情を説明した。

 全員が集まるだけではなく、村人も興味があるらしく遠巻きに眺めていた。


「んじゃ生産者は集まってくれ、これより美鈴大改造計画を話す」

「戦闘系は?」

「騎獣達の面倒を頼む」

「了解」

「それなら可能です」

「特に問題はないが、生産系でも取ろうかな」


 ▽『美鈴』大改造計画

 基盤となるのは各所に設置されたヒールポットの世界樹の木、要所に設置された世界樹の森、これらの周りに浮遊する木を並べ、これを防衛させる、これだけでもあら不思議、強固な要塞一歩手前、更に真心を込めて、各所に作られた木製の壁、この木製にレド特製の塗料を塗ればあら不思議、鋼鉄製より硬い材料に大変身、このレド特製塗料を使った木材を使い、矢倉を作る、物見の為に場所も作る。

 これらの作業が第一段階、より強固にするために真心を加えましょう。

 まず用意するのは、木刀、木の矢、木の盾、木の槍等の木の武具と矢、これらの他に樽を用意しましょう、分量の方はお間違いの無いように、ここにレド特製の薬品の塗料を流し、注意事項を確認した後に適当に入れましょう。そして取り出すとあら不思議、属性の付いた強力な武具に変貌しましたね。

 更に大変な作業は続きます。

 主に安値の材料の衣類を集めます、革製でも安心です、コットンやレザーを用意したら、今度は注意事項を確認の上、また自分たちにあってているかの確認の上に、レド特製の染料につけましょう。そうすれは『イーニャ』特産のコーイティング済み衣類に変貌しましたね。それでは次の段階に入りましょう。

 今度は地道な作業です。まずは生産に使うアイテムを集めましょう、壊れてもいいよう安い物が目安です。レド特製の塗料・染料にどれかをお好みでつけましょう。あら不思議、強力な生産アイテムへと変貌しましたね。これでみんなも生産者と戦場の心強い味方。

 注意:戦う場合の敵に対しては真心ではなく、可能な限り相手の嫌がる事を専念して行いましょう。ただ注意しなければならないのは自分たちが怪我を負ったり、色々と被害が出ることを理解した上で戦いましょう。損害の無い戦いは存在しないのですから。

 ▽

「という感じだ」

「レド男性アバターになってくれ」

「ああ少し待てよ」


 衣類を変更し性別を変換する。瞬間、ウルカの強烈なアッパー、上がったボディーにボディブローでくの字に曲がったレドの股間を蹴り上げ、浮いた体を持ち上げて、後はひたすら殴る蹴る。


「真剣な時にふざけるなとあれ程言ったよな!殺すぞ本当に!」


 キレかけているウルカ、いつもならユウヤが止めに入るが現在不在、ツグミも現在不在の為に、慌てたティアが止めに入る。


「ウルカさん、お母さんが死んじゃう!」

「死ね!今すぐに死ね!と言うか殺す!むしろ喜んで殺す!」

「とするとウルカが全体の指揮をとれるのか」


 ピローテスの流麗な且つ冷静な指摘の言葉が出る。

 残念な事にウルカの経験不足からそれは不可能だ。

 ウルカの間に理性と衝動の天秤が揺れる。


「またマスターが不在なら召喚者の居ない従者はどうなるのか」


 更に理性へと重りを与えるピローテス。

 ウルカの中ではすさまじい葛藤が両立していた。

 殺したいと思う衝動と、いや後て殺す事でよいだろうという理性の狭間だ。

 どちらも殺す事は決定されているが、今すぐに殺したいウルカにとってみれば、理性のいう台詞は到底受け入れられない。

 しかし、ピローテスが与えた理性への重しは、あまりにも重く圧し掛かり、勢力は理性へと傾いた。


「分かった。後で殺す」

「それなら何の問題もない」


 ピローテスではなく、レドがこういう。豪胆な所があるレドだけに巨人と思う様な体格も合わさりなんとも似合う。


「分かり易く言ったが、要すれは敵を殺すための準備をするという事だ」


 レドの言葉には重みがある、戦いをよく理解した上での発言だ。


「人って奴は変な物でな。人を殺めることに抵抗感を持つ、こればかりはどうしようもない、そもそも剣を持ったこともない農民が、スキルの力で強くなっても、心は農民だ。平和を愛し、明日の天気を気にするのは何も変わらない、スキルは心までは守ってくれない、スキルは心まで力を与えてくれないのだ」


 レドが唐突と言った言葉、誰にでも理解できる。

 そう簡単に強くなっても、そう簡単に心は変わらない、心は本人を構成する絶対不可侵の領域だ。他人ではどうしようもないからこそ、それを動かすために色々と研究されてきた、数千年以上も昔から。


「馬を動かすのは人だ。しかし馬はよく理解している、人は馬なしには移動はそんなにできない、馬を労わる主人こそが主人たる故な事をな、馬は知っている、馬を愛する人こそが真に力を出すべき相手と言う事を、人もこれ同じ。信頼も信用もない相手と仲良くできるほど人は出来ていない、そんな人たちと仲良くするために金があに過ぎない、便利な道具へと変わる道具としてな、だからこそ所詮は金は金でしかないのだ。金の通じないところでは金は単なるゴミだ」


 レドの言う言葉には感情がこもる。


「スキルは確かに力を与えてくれる、しかし気付いているのではないか、システム外の事に関してはさっぱりできない事を、システムの枠を超えればどうしようもない無力な力となり果てることを、気付いた者はいるはずだ。所詮は切っ掛けに過ぎない、よく考えてみろ、スキルは力を与えてくれる、それはシステムの範囲内だ。システム外には力を与えてくれない、システムは心には力を与えてくれない、システムは心を癒してはくれない」


 つまり力を与えられても、それは与えられる範囲内での事、与えられない範囲内、例えば心などにはスキルの影響は及ぼされない、スキルは影響を及ばない所には、無力でしかないという事だ。


「スキルは所詮はこの世界の力、心はこの世界からはみ出かけた力、だからこそ騎獣達を信用し信頼され、力を引き出すための努力はしたか、テイマーもサモナーも皆同じ、信用も信頼もされない奴に力など貸すはずもない、所詮はシステムの範囲内だからゆえの物でしかない、ならシステムは心に影響を及ぼせるか、記憶を作れるか、思い出を作れるか、共に過ごした時間を作ってくれるのか」


 最終的な結論をレドがぶち当てる。


「全ては信用に足り、信頼における相手にこそ力を貸し又発揮する、古来よりこれたけは絶対に変わらない戦の原理だ」


 真面目になれば立派なのだが、前半のおふざけ解説があったために一人を除き全員が微妙な顔だ。


「マスターもご立派に成長成されました」


 リャナだけは違った。嬉しそうに涙を流していた。


「思えば早21年、あんなに小さかったマスターがこんなに立派なことを言う様になるとは、サーフ様がいれば泣いて喜んだでしょう」


 レドは15歳だ。どうも人違いのようだが、サーフはこのゲームの剣客商売のリーダーの名前だ。


「サーフって、人斬りサーフ」

「はい。サーフ様はご立派な方です」


 悪辣な外道の剣士を誰もが思い浮かべる、とても立派とは思えない。

 しかしレドは違った。


「・・・まさかな」

「システムは所詮システム、この因果に満ちた世界では、全ては変わるのですから」

「・・・一つ教えてもらえないか、世界の根本は同じか?」

「はい。全ては同じ」

「そうか。懐かしい人物が近くにいたとはな、やれやれだ。あの時は悪かったな」

「何を言われます。その後も会ったではないですか。無念でした」

「であったな、あの時も、あの時も全ては帰らない物と思っていたがな、まさかな、サーフが聞いたら泣いて喜ぶぜ、まあ後でこっそり教えるさ。今の名前にしておくぜリャナ」

「はい。姿形こそ変わっても、全ては21年前にありますので」

「無念だったな、最初の敗北も、二番目の敗北も、全部ぶち壊されちまったしな、復讐心という因果があっても、そこに至る道が全て壊された、あの悔しさ、無念さ、なんとも言えない苦々しい味わいだった。二度も無いと思って二度あった」

「三度はないと私は考えております。マスターがここまで成長された。あのマスターが」

「昔は色々とバカすぎたからな、まあいい、それより重要な事も出来た、恐らく理解はしていると思う」

「御心のままに」


 ついていけない会話は誰にも言えないレベルの話だったらしい。


「リャナ、あの場面に行けるか」

「マスターが戦死成され、サーフ様が戦死成された場所なら近くにはあります」

「どこにある」

「イーニャの上空です」

「粋な計らいだ。神運営ではないか、最後の最後の土壇場をひっくり返す力も備わった。後は完膚もなきに、あのくそッタレ共を叩き潰して、破壊尽くして、終わらせる力さえあればよいが、それは辞めておこう」

「はい」

「じゃあいつも通りいくぞ」

「了解しました」


 なんとも主従の間には深い何かがあったらしい。

 少なくてもリャナは最初からレドに絶対の忠誠を誓っているような召喚型の従者だ。

 別にその絆をどういうつもりはないが、ピローテスやピュシーにティアは複雑だ。

 特にピローテスにとってみれば思わぬライバル出現だ。


「犬っコロは相変わらず隠れん坊がお好きですね」


 リャナが笑う。

 艶やかな妖女のように、慈しむ様な母親の様に、嘆くような聖母の様に。

 ゾッとするような狂気も抱えた笑いだ。


「おいおいそいつは素敵だ。また串刺しになりに来たか、姿を見せろよ猟犬」

「そのふざけまくった舐め腐ったクソガキのような口調、てめえは突撃か」

「おいおい、また殺されに来たのか、ちなみにあの後だが、神謀はサーフに滅多斬りにされてくたばったぜ」

「てめえはおっちんだがな」

「同じ戦場でくたばった仲だろうが、姿を現せよ」

「マスター」


 リャナの差した方向に、レドが素早くクロスボウで射る。

 一人の男が落ちてくる。


「おやおや懐かしいなぁおい、くたばった負け犬の猟犬さんじゃないか」

「てめえの様な突撃バカに言われたくはねえぜ」

「マスター、生かして捕らえて、少し物理的なお話から入りましょう。懐かしいもう9年ですか、それとも1年ですか?」

「知らねえな負け犬女」

「一度ならマスターに免じて拷問で済ませます」

「はっ、相変わらず庇ったガキの面倒を見ているのかよ副官さんよ?」

「どうせ貴方の事ですから言っておきますが、無意味ですよ。マスターの台詞ではありませんが、システムは所詮はシステムなのです。頭の固いこと堅い事」

「なるほどねえ。そう言う事だから、暗殺もしないでこんなところでバカな会話を弾ませて滑らそうとしたわけか」

「おい突撃」

「なんだ猟犬」

「ひとまずは俺の相棒からの伝言を言うぞ」

「聞こうじゃないか」

「てめえの様な能無し指揮官なんぞ怖かねえよ」

「へいへい、あれだろ。女に捨てられた犬と知恵小僧は泣きっぱなしだったんだろ」

「ちっ」

「ちったあマシな台詞を言えよ猟犬さんよ、その能無し指揮官の突撃の一つすら受け止められなかったカス小僧が怖くないだぁ?WWW」

「どうもサーフが居なきゃあ出来なかった突撃じゃねえか」

「ああ。最後は違った、自分の考えて突撃したのさ」

「てめえに脳ミソがある訳がないだろう?馬鹿の一つ覚えの突撃専門がよう?たった一つこっきりの事しかしねえバカじゃねえか」

「ガキはガキなりに考えたのさ。最後の戦い位は散ってやろうってなぁ。最後ぐらいは、最後に立っていられるぐらいには、なっていればって、ずっと思ってさぁ。辛酸を舐めるなんてものじゃない。お前さんらを叩き潰せばすべてが解決するって本気で信じてなぁ」

「だからお前はガキでバカなのさ」

「ああそうだった懐かしいねェ。犬と知恵が混ざった十八番だったなあ、いやはや懐かしい、ついつい茶の一杯でも欲しい所だぜよう」

「血水でも啜っていろ」

「じゃあこん位か。リャナ」

「生かして捕らえるべきです」

「近付いてらドカんだろ」

「相も変わらず性根の腐りきった。昔から変わりませんね貴方方は」

「けっ」


 猟犬と呼ばれた男は逃げ出す、その後ろからティアの調合した麻痺薬が投擲される、それを矢が空中で射た、これが猟犬に降りかかる。猟犬が見たのはピローテスが射た姿だった。


 ドカン


 男は捕まる前に自爆して消えた。

 敵ながら見事な覚悟ではあるが、近付けば巻き添えにして果てるつもりだったことは明白だ。ちなみにこのゲームでの死は非常にリアルに痛い。

 普通は考えないような手段を取った事だ。


「ちょっと予定変更、木の棒と白い旗と紅いインクをくれ」

「加減を間違えると火刑に会いますよ?」

「構わん。彼奴らにそんな理性があるはずもない、長い年月かけてこんな場所にまで現れた。その蛇の様な執念には感服するよ」

「蛇は執念深くはありませんが」

「相変らずだな。まあいいどのみちサーフの事だ」

「かの人がいるのであれば、間違いなく選択する術ですね」

「という訳で、逆上の計行ってみよう」


 付き合いのもある者は理解した。ろくでもない事を考えたなと。

 しかもそれは途方もなく効果的な行為でもある事も、直ぐに理解された。

 対人戦の基本的な事は相手の嫌がることを連続する事だ。

 相手の許容を超えるような手は、オーバーキルではあるが、計略の場合はそれ位でも十分なのだ。


 鼻歌交じりに作業するレド、リャナ。

 村の入り口に木の棒で白い旗をつけた白い旗を三本立てる。

 中央に姫と書き、右に知恵と書き、左に犬と書く。

 偵察が発見し、報告を受けた敵方の指揮官は、ブチ切れた。


「はい作業開始」


 レドが陽気に言う。

 何やら有耶無耶になったのだが、非常に気になる事だ。

 生産組が作業中、従者達は主人を手伝う。

 ティア、ピローテス、ピュシーは心中複雑なために沈黙中。

 何故かリャナはこう言う工作の様なものに詳しく、誰にでも詳しく教えた。

 リャナの固有スキル【豊饒の大地】での力により、植物は何度も手に入る、それも広大な敷地をほぼ無制限に、伊達に上位地母神ではないらしい。

 調合や調理や栽培や園芸のある者は、大喜びで収穫し、そのまま加工。

 MPが尽きてもティアが調合したMPポーションで回復、疲れてきたらレド&ヒリュウ特製の飴玉を舐める、こうして一年に一度の収穫は何十回と繰り返された。

 別に村人は協力しない不干渉ではあるが、リャナの力は正直なところに羨ましいと思わない農夫や薬剤師は居ない。村人からしてもお裾分けを下さい、とはいえない村の方針も有るので、遠巻きに見るしかなかった。

 敵側からすれば「贅沢な」と言い切れるような物資の量だ。

 金属以外を大量生産、薬品も、木の矢も、木材も、防御施設も、浮遊木も、世界樹の木すらも大量にある。

 それだけならまだ良いが、大量の物資の中には大量の食糧、衣類、靴などもあり、長期戦には非常に強い。しかも際限なくリャナと生産者の力で幾らでも増やせる。


 作業は繰り返され、結果として誰もが大量の豊富な物資を受け取る。一つ一つがランクにあったものの為に大したことがなさそうではあるが、何せ☆×3が最高ランクだ。しかしだ、レド達の生産者の真心が加わった事により、一つ一つが魔改造を受けていた。


「はいは~い皆さん注目」


 指揮官のレドが陽気に言うが、その顔を見ればまたろくでもない事を考えたらしい。

 非常に生気に満ちた、生き生きとした言葉が良く似合う様な顔だ。


「火刑が来るから、耐火用の塗料も上塗りするぜ」

「マスター」

「どうしたよピローテス」

「そろそろ話が聞きたい」

「ピローテス、それは辞めておいた方が良いですよ」

「何故だリャナ?」

「マスターは一度も勝った事がないのです。全て負け戦。気持ちの良いことなど一つもありません」

「あり得ん。マスターの作戦を考える悪賢い頭脳はあるだろう?」

「昔は今とだいぶ違うのです。昔の人が見れば余りの違いように驚きます」

「全くだあ。デカくなったし、なんで俺は女になっちまったんだぁ」

「マスターの愚痴は置いて、話を聞かんと正気ではおれん」

「貴方も随分と私に似ていますね。まあそんな貴方だからこそ、安心ではあるのですが、マスターお話してもよろしいのでは」

「相変らず人が好いな。さすがは運以外は全てMAXだな」

「マスター、おふざけが過ぎますよ」

「とはいってもなあ。話がややこしい上に長い」

「都合よく敵は攻めませんよ」

「分かったよ。まあ簡単に言えば昔あるところにバカなガキが居て、馬鹿の一つ覚えの突撃ばかりする、個人の武勇のみで生き残ろうとしたバカなガキが居たのさ」

「・・・」

「そのバカなガキは騙されたことも理解せずに、信じ切って最後まで戦い、最後の最後の日にようやく頭を使う事を覚えた」

「・・・」

「そんなバカなガキは、最後の戦いに赴き、副官を庇い、副官に逆に庇われて副官は戦死、キレたバカなガキは相手を殺害、殺害した相手の相棒はキレて俺を殺害したって訳さ」

「いつの事なのだ」

「随分と昔さ。ガキ過ぎて覚えられないぐらいの昔さ。その後世界から争いは消えてハッピーエンドって落ち付きのな」

「・・・・」

「あの連中の面を見ればわかるだろ。兵士と、傭兵と、騎士と、男も女も老いも若きも子供も病人も、みんな殺された後に首を跳ねられて海に捨てられたとさ。懐かしいハッピーエンドだよ全く」

「・・・」

「結局バカなガキは仲間と一緒に首を切り落とされて海に捨てられて魚の餌となりましたってな。ああくそ気分が悪くなる一方だぜ。あの猟犬と神謀にはよう」

「・・・すまん」

「いいって、聞きたい事は有ってもあまり根堀はしない方がいいぜピローテス」

「次からそうする」

「まあこん位かな。長い戦いの決着がようやく付きそうだ。宿願叶ったりってな」

「・・・復讐か?」

「おいおい、復讐?なんで俺がそんなちんけな物に捕まらなきゃなんねえんだよ。救うのさ。全てを奪った連中から、その力に対抗して弾き返すぐらいの覚悟でな」

「マスター」

「ああ居る。大切な右腕じゃないか、そもそもティアの姉ような奴だろ?」

「感謝する」

「マスター♪」

「コストパフォーマンス№1、しかもお役立ちアイテムを生産するのに欠かせない、何かと便利で安心設計のコンセプトに共感するね。しかも騎獣要らず、かつ元素魔法と回復魔法の二つが使える便利、ティアの護衛のユキカゼとも仲良くできそうだしな。何より性格が明るい、これは高評価だぜ」

「それって便利で明るいから?」

「後、コスパが素晴らしい、飛行可能な所もポイント高し、生産には欠かせないしな」

「喜ぶべきなのかなぁ~」

「要するに必要ってことだ」

「それなら納得」

「小さい子供にはちょっと辛かったかも」

「娘とそれほど変わらないからなティアは」

「うん。今度はレドの時に呼ぶね」

「なんと?」

「その時限定」

「うむ。実に喜ばしい、ついに」

「どうでもよいから作業を進めろ!」

「おお聞いてくれウルカ、ついに呼ばれるのだ」

「はいはい良かったな。仕事をしろ」

「へいへい」

「レド~」

「なんじゃい」

「レドって、もしかして前世があるとか?」

「はぁ?」

「何言ってんだこいつみたいな顔をしないでよぅ」

「前世?正気かヒリュウ、ついにハルバードの持ち過ぎで、脳ミソまで筋肉が詰まっちまったのか」

「そう言う言い方はないと思うな僕は」

「わかったわかった。まあんなもんねえ。有る訳がない」

「数的に合わないよう」

「ヒリュウ、あまりレドのバカ話を信じるな」

「ウルカ、それは真面目な意見?」

「私は絶えず真面目だ」

「じゃあ真面目に聞いてよ」

「うむ」

「リャナさんは21年、レドの年齢は?」

「15年ぐらいか」

「大体そんなぐらいだな」

「どう考えても合わないじゃないか」

「ヒリュウ、よく考えろ」

「どうせ僕は脳筋ですよ」

「本当に覚えていないのなら別によいが」

「えっ?ちょ?ウルカはわかるの?」

「簡単な計算ではないがな、時間系列が可笑しいからな」

「さすがは参謀」

「サブリーダーでもあるし、忍者てもあるが、参謀はちょっと年齢的に渋いけどちょっとまだ無理」

「珍しいわねウルカがデレるなて」

「デレていないぞ」

「でもね。時間的な計算をどうやっても6年の溝は埋まらないわ」

「確かにな。レド本人に聞いても、正直な意見だがさすがに聞きにくいしな」

「確かにのう。ただの人のみ、因果を遡る事は叶わぬ」

「サクヤはわからないの?」

「計算と言われてものぅ。年寄にはきついわい」

「サクヤってリアルおばあさん?」

「ババアが可愛く見えるのほどの」

「「・・・・嘘」」

「なんじゃ。その嘘とは、そもそものう。あんまり言いたくはないがの、言い辛い事は誰にでもあるじゃろ。主らにもなかったとは言わせぬぞ。ない人生などありはせん」

「まあな。簡単に言えば人より時間が長かったに過ぎないってことよ」

「主も苦労したのう。バカ弟子に煎じてやりたいわ」

「悩みも解決したし、作業に入ろう。と言うか入れ」


 ウルカの命令で黙って作業に入る。


(人より長い時間?バカバカしい)


 ウルカはゲーマーだが、現実主義者だった。

 時代劇好きの和風好きの女性だが、夢見がちなとろが一切ない生真面目一辺とでもある。

 しかし、リアルではと有るが、レドは既に自立した一人暮らし、ウルカはどう考えてねやっと家から出た程度、人生経験においてもそれほど変わらないようで十分違う。

 年齢的には似た様なものかもしれないが、精神的な年齢や経験の上ではレドが遥かに勝る、それがウルカにとってみれば納得のいかない物だ。


(・・・人より長い時間か、前世でもない、極普通の人が、人より長い時間か)


 ウルカにとってみればこのゲームはもう一つのリアルだ。

 時間が許す限りゲームをしたい、と思う程の廃人のウルカにとってみれば、魅力的な話だ。


(気になって仕方がない、しかし)


 しかし、自分で命令したことを覆すのはウルカにとってみれば許しがたい責任放棄だ。

 理性と欲望の狭間で、現実主義者の廃人ゲーマーは悩む。


(この場合、ヒリュウなら)


 弱腰の僕っ子のヒリュウを考える


(あっさりと覆し、聞くな)


 これではウルカの生真面目な性格が許さない


(ではアリサは)


 世話好きなクール系のアリサを考える。


(基本的に頭の良い方だし)


 現実主義者でも、頭がそれほどよくはないウルカには無理だ。


(サクヤか、これは)


 リアル年齢から言って推測するのはほぼ無理だ。


(どんだけと婆さんなんだ?)


 経験の差は如何ともしがたく、埋めがたい物だった。


(ひとまず、落ち着いたな)


 自分なりに落ち着いてから作業を行う。


「おいウルカ」

「なんだ?」

「敵さんがやってきそうだぞ。臭う」


 ウルカも臭いを嗅ぐ、確かに焦げ臭い。


「火刑か、割とマシな手段を取るな」

「焼きたいんだろうな。あの裏切った女の軍旗を」

「ちなみにその女は前衛か?」

「ばっちり後衛だ。後ろで指揮するのが得意だ」

「ふむ。どのような策を好む」

「一言でいえば未来を見通したかのようなやり方だ。ついたあだ名が千里眼、神謀神姫、未来を見通せるとも言われるようなタイプの女だ」

「・・・」

「祖国と彼奴らを裏切った理由も全力で戦えないからだ」

「破滅志願か?」

「そう言う破滅系の女さ。まああれを人と呼ぶにはあれだがな」


 相当に凄い指揮官だったことが伺える。


「頭の良さなら世界最高峰だ。何せ読んだものを全て暗記する、異国の言葉も直ぐに理解する、古代語にも精通する、学問なんかは全て網羅、頭の良さなら天下一品だな」

「・・・ふざけるなよ」

「しかも絶世の美人、剣の腕も経ち、槍の腕前も高い、弓を操れば百発百中、馬に乗れば千里は駆ける」

「なんだそのチートは」

「破壊なスペックを持っても、性格の方は破格なぐらい悪い、頭のいかれ具合も最高、根性の方はまあマシだった、割と嫌いになれない奴さ」

「変な女だ」

「最後の方は、まあ自殺だったらしい、それも敵を虐殺した後の落盤事故でな」

「そんな女が嫌いになれないのか?」

「そいつは言ったよ。裏切るのも、裏切られるのももう嫌だ、とな。頭が良いのも考えモノさ。自分がしかも女だしな」

「・・・酷い話だ」

「女には行きづらい時代だったのさ。待つのは政略結婚だ」

「女は道具か」

「王女なら仕方のない事さ。そう言うのも仕事の内って割りきれなかったのさ」

「納得がいかん」

「王家の生まれしもの、全て民と国に従え。ちなみにそんなことを言った奴は王女に首を跳ねられて死んだがな」

「今その王女のファンになりそうだ」

「言ったら喜ぶぜ。女からはすげえ嫌われていたしな。性能が良過ぎて友人も数名程度だったしな、あれは辛いぜ」

「で無駄口は良いとしても、敵さんは」

「無駄って知っているかウルカ」

「耐熱塗料か」

「耐火、耐熱の効果を持つ塗料の前じゃあな。普通な元素魔法Ⅲスペルの単体系特化でも効かねえや」


 口調や、おふざけのような言動や解説、情にホイ出されるバカではあるが、単なるバカにこんな優れた薬品は作れない、少なくてもウルカから言わせれば数少ない男性の友人としても、安心できるような奴ではある。


「んじゃあ次の作戦でも入るかねえ」

「次?打って出るのか?」

「まずは迎撃、防御射撃だな。要するに適当に当たる射撃さ」


 少なくても男性の中では最も戦慣れした男ではある。

 従者も素晴らしい事に粒ぞろいではあるし、しかも従者のストックは未だに半分以上は隙間風だ。


「数は数えなくてもいいぞう、適当に当たればそれだけで十分だ」


 ちなみに矢は属性矢だ。レド特製の塗料につけられた矢が当たれば、強烈なダメージと共に、強烈なバトステがかかる。しかも自分達にはUP系の効果もある。


「おうおう神謀の奴それはキレるわな」


 村の入り口にある旗を目掛けて様々な魔法や飛び道具が当たるが、レドの特性の染料により、防御効果はばっちりだ。

 ちなみにこの染料は他の素材にも使われる。


「実験完了か、もうちっと大切に使うべきかな。ピローテス」

「なんだマスター」

「指揮を任したぞ」

「了解した」

「リャナ補佐を頼む」

「心得ました」

「じゃあっと暴れてきますか。射撃担当は防御射撃を続行、白兵戦が得意な者は集まれ、ちなみに武器の方は得意な物で十分だ」


 集まった戦士職、騎士職、侍職、武道家職の所謂前衛達。


「騎獣達は休ませておいてくれ、脱出手段はいるからな。じゃ気前よく暴れるぞ」


 気前が良いのか悪いのかと言えば、微妙な所だ。

 現在のどんな武具より強固な武具、衣類からベルトから靴から手袋からソックスまで、あまさず使われた染料により、Lv30の武具より強固だ。

 しかも各所には世界樹の木により直ぐにヒールが飛んでくる。

 これを一言で言うのならこうなる。


「蹂躙しに行くんだ気合を入れろよ」


 戦う前から準備をしていた側と、戦う場面になってから準備していた側では、準備を両方が欠かさなかった場合、攻防においては防御側が有利に働くものだ。相手の指揮官はキレまくっているので、冷静さから欠如している。ついてに言うのなら軍旗が燃えないし、壊れないからむきになっての攻撃中だ。


 門の前に進み、ピュシーが門を開く装置を使う。


「やつほー神謀、猟犬元気」


 場違いなほど明るく、陽気で、懐かしい友人に再会した様な、フレンドリーさだ。


「ころせぇぇぇ」


 直ぐに後方より叫びが聞こえる。


「はいはい、ほんじゃあ盾を行ってみよう」


 盾を持つ者達が前に出る、全盾アーツを使い、強力なダウン効果を発揮する。


「続いての順番は槍行ってみようか」


 槍を持つ者が前に出る。

 ダウン効果を発揮していたために、前衛達は固まる。


「安心しなさい、ばっちり罠はしかれてあるから」


 用意周到な防御陣地を作るほどだ。当然の様に想像の言った前衛達が混乱する。


「続いては、まあこういう形になるな」


 弓・クロスボウの担当の者からの射撃、当たれば酷いバトステを受ける為に慌て防御する。


「はい槍は突こうね」


 軽い調子で凄まじい槍の一撃を前衛達は食らう。

 槍の達人のクー、サクヤ、レドの様な槍の名手はすさまじい技を使い前衛を一掃する。

 アイリスや、ツグミ、ユウヤも攻撃する前に終わってしまう。


「残りかかれ」


 前衛の居なくなったPTは脆い、そこに近接戦闘の前衛が飛び掛かり後は蹂躙した。


「ああ簡単、ほんじゃあばいば~い」


 村の扉の奥に戻り、扉が閉まる。

 最後まで挑発も忘れないあたりが敵側からすれば酷い。


「おーし。全員集まってくれ」


 全員が集まると、『星空の記録』『南十字星』『ノラノラ』『戦乙女騎士団』『アマツカサ』の5つだ。中心的なレド達が所属する『星空の記録』が従者を合わせて14名と言う最大多数。さらにウルカを除いて四人は追加が出せる。


「作戦は凄く簡単、何せ真正面突破が不可能だった。ならどこから攻めようと考える、なら四方八方から攻めればよいと考える、だが手持ちの部隊も少なくなったのでまずは四方向からと考える癖があるのが相手の指揮官だ。次は恐らく四方向から、真正面は囮となる事になる、囮に食いついても良いが、別に追撃戦を行う訳でもないのでこれは無視する」


 相手方の指揮官とは因縁がある事は誰でも知る事となったが、ただレドが気になることを言ったのでリートが尋ねる。


「手持ちが少なくなった?」

「ああ。まあ集った連中はそれほど多くはない、今の真正面攻撃部隊が最大限の火力だ」

「チャットか?」

「いや神謀の性格から言って最初が肝心、次は温存、三番目に全力攻撃という手順が形式美化されている。これを離れるのは彼奴にとってみれは屈辱なのさ。余裕で倒せなかったって訳になるからな」

「なるほど、それだけ自尊心が強い訳か」

「強いね。非常に強い奴だよる自分より上回る奴はいないと思っているような奴。その結果足元をすくわれることも多かった奴、ついたあだ名が神謀、神のみぞ知る謀略家、神なんていないのさ」

「優秀ではあるのだな」

「ああ。軍を操らせたら、まあ間違いなく俺では負けるね」

「実力はある方か」

「安心しろ。猟犬が居ない以上攪乱は出来ない、策の大半を行うのは猟犬だ」

「あの男か」

「二人とも優秀ではあったが、まっ上官より自分が可愛かったって訳さ。だから捨てられたと思っていまだに恨んでいる。その上官からすれば自分を選ばなかった男達ってことになるがな」

「辛い話だな」

「有能ではあった。ただ有能過ぎると敵も多いのさ」

「質問は以上だ」

「よし、まあおふざけの言葉を言うと殴られる掛けられるかだしな」

「間違いなく〆る」

「じゃあ。真正面で待機だな。相手からは脱出したように見えるし、まあ偵察も送るとは思うが、猟犬ほどじゃないしな、時間稼ぎにはなるさ」

「じゃ食事と言う事で」

「賛成」

「いやいや君は許可を出す側でしょ」

「何言ってんの、俺は軍人じゃないよ」

「でした」


 □


 食事して暇だから寝ていた一同。

 軍隊の基本的な暇潰しでもある。

 移動・補給・休憩の繰り返しが基本的な戦争なので、昔は割と暇な時間が多かったりもする、特に防衛側は移動をしないので暇だ。


 起きたのはレドはリャナ、他の面々も気づいて飛び起きる。

 地面に耳を当てるレドに、リャナが口元に指をあてる。


「へー珍しい、騎兵の登場かよ。あの神謀がねえ。彼奴も変わったのかな」

「げっ。騎兵はヤバいよレド兄ちゃん」

「うん。不味い」

「追撃されると厄介だしな。さてさてどうしたものか」

「足を止めれば単なる的だぞ?」

「まあそうなんだがな歩兵も随伴している」

「厄介な」

「しかも防御力ガチガチの重装甲なタイプの連中だ。騎兵と組み合わせるとかバカじゃないか、あの神謀の事だから、本気でキレたのか、キレやすい奴だな」

「騎兵の基本的な機動力、突撃力は驚異、重装歩兵の場合は移動力は乏しく、防御力のみを優先させた歩兵科に属する兵科であり、主に防御用の作戦はないので戦術に使用されるのみ、そもそも高い防御力は、乏しくなる機動力と比例するので、どうしようもない長所と短所の結果、弱い」

「ティア、話が長いぜ」

「ユウヤ!」

「どうどう」

「私は・・はい冷静さを欠いていました」

「学習したねユウヤ君、ツグミさんも」

「さすがにな」

「そうなのよ」

「じゃあそう言う事で、工作を開始するぞ、リャナ。防御兵器と言えば」

「投石器」

「岩はないので、火の玉でも贈ろう作戦だ」

「レド兄ちゃん、その言動はを改めない?俺もウルカ姉ちゃんを止めるのは疲れるんだけど」

「おいおい少年、ちょっとしたジョークさ」

「安心しろ」

「ほら」

「カウントしている」

「だから言ったじゃないか」

「おう、まあ後々の事は置いて、生産担当、木工、調合、裁縫に分かれてくれ、無い奴はピローテス指揮を頼むぞ」

「了解したが、リャナを」

「そいつはちと辛いな」

「では」

「そうだな。クー、経験はあるだろ?」

「無論」

「補佐を頼めるか」

「是非もなし」

「クーなら問題はない」

「おし作業に入るぞ、クーの方はこう言う戦いの専門家だから話は聞いておけ」

「話は苦手だ」

「助言に徹してくれ、あくまでも助言だ。どのみち騎兵と重装歩兵がやってくるのは遅い、騎兵を先行させれば各個撃破、重装歩兵と並列した動かすしかないからな」

「騎兵は防御に向かんからな」

「それだけわかれば十分さ。何せここに居る者は俺とリャナを除いて経験がない素人集団だ」

「・・・頭が痛いというのは」

「すまん」

「仕方がない」

「作業に入るぞ」


 □


 木工を基本に木材を加工し組み立て、裁縫のロープなどで、引っ張る縄を作り、木材で重石代わりにし、調合でよく燃えそうな薬品を使った物を作る。

 ふとティアが思い出したかのように一つの薬品を作った。


「ティア?」

「ダウン系の薬品とか」

「・・・数が揃えられないが、確かに悪はない」

「いぇーい」


 どこで覚えてくるのか、保護者としては悩むような言動だ。

 レドが製作し始め、下手な火炎弾より強力なデバフ効果が発揮できる。


「れど~どうやって射撃するの?」

「おいおいヒリュウ、お前クロスボウ使いだろ」

「面目ない」

「射撃スキルで使えるさ。射撃武器じゃないぜ」

「攻撃力ガタ落ちだよ」

「立つ必要がない、燃えれば別良い、人は本能的に傷つくのを怖れる、炎もしかり」

「慣れているね」

「負け戦なら得意だ」

「嬉しくないよう」

「スキルポイントに余裕のある木工担当だな。どのみち修理や道具のセットもやってもらうし」

「・・・それって相手も撃ち込んでくるの?」

「適当や弓隊も後から来るだろうよ。当然火矢は使うさ」

「えーと」

「水の消火には元素魔法、チャイム辺りが喜んで片付けるさ」

「地形強制変更戦術かあ、あれは辛い、分かった」

「おう」


 全員からの感想を集めれば、レドは色々とマイナスはあるものの、大規模集団戦の戦いにおいては優秀な指揮官だ。


「完成!」


 投石器カタパルトが完成した。

 木工担当の者が射撃能力の高い者を選別し、射手を任す、裁縫系の者が、弾薬たる火炎弾やデバブ系の弾を装填し、射手がそれぞれ勝手に放つ。

 リャナが見るが、別に問題はない。

 性能テストと、射手のトレーニングも兼ねるからだ。


「弾着確認できた?」

「木製の板が邪魔で」

「木材で作ろう」

「「賛成」」


 今度は弾着確認のために足場を作り始める。

 リャナから見てもこういう物作りに直ぐ考えが行くのはよい証拠だ。

 ないなら作るしかないのが仕方のない事なのだから。

 他の者はピローテスと、クーの補佐を受けて何とか部隊を組み立て、門の前で待機状態。


「マスター、村人どうします?」

「どのみち直ぐに終わる」

「神謀が本気になると困りませんか?」

「その為にサーフがいる。神謀の宿敵のな」

「サーフと言う伏兵が本陣を襲い、まあとても簡単な構図となりますね」

「全力を出したら最後、殆どの守備の者すらも投入する、空いた本陣をサーフたちが強襲、殲滅、後に後方より突く、真正面のこちらとの挟撃に遭うという構図だ」

「カタパルト隊、いっくよ~」

「FIRE!」


 掛け声とともに、射手が砲撃を行う、観測者がこれを確認、補正を行い、装填、ロープを引っ張り、後はこれを繰り返す。


『小僧』

「おっ成功したか」

『相変らずに脆い、つまらん連中だ』

「おおさすがは剣客」

『そちらは』

「囮効果は抜群だぜ。全兵力がこちらに向けて移動中だ」

『これが神謀の成長した腕前か、笑えん』

「本調子じゃない、猟犬は自爆した」

『あの男正気か』

「半分狂っているような奴らだぜ」

『確かに、我らは後ろより突くぞ』

「ああ。最後の仕上げでもいくさ」

『頼もしくなったな小僧』

「猟犬の居ない神謀なんて笑い物だぜ」

『違いない』


 会話を終えてからレドが立ち上がる。


「敵指揮官は剣客商売の強襲によりPKされた。敵に降伏を呼びかける、追い打ちはしてはいけないぞ、あれは気分が悪いからな」


 意外にあっさりとした片付けようだ。


「よし、全員集まってくれ」


 レドが招集する。

 集まった面々に、PT構成から元通りにし、PTに分かれて突撃する。

 ただ大声で降伏を呼び掛けた。

 精神的に別にどうでも良いが、連絡の取れなくなった後方の事もあり、真正面に集まり枯れていた、騎兵、重装歩兵、弓兵、魔法兵のそれぞれの指揮官たちは真っ蒼になる。

 どうしたものかとは思うが、先程から投石器からの砲撃がない事に気付き、誰かが一歩下がる。これが切っ掛けとなり隊列が崩れる。

 誰だって残されるのは嫌だ。そうなると心理から後ろ下がり合戦となり、転倒した者が後ろの者にぶつかり、更にこれが連鎖する。

 つまり無理に戦列を組んだために、起こってしまったという事だ。

 現場の指揮官の経験の薄さ、その下っ端たちへの規律の無さ、士気の低さはないとしても、士気だけでは如何ともし難い。

 結果としては、レド達への被害は、射撃担当の時に攻撃を受ける程度、直ぐにヒールから回復されたが、被害と言えば被害だ。

 相手方、PKしに来た方々は、3割が壊滅した結果。

 降伏した7割より、鹵獲したアイテムは叩き売って資金を山分けした。

 村としても勝手ではないが、防衛拠点の様なモノになってしまったが、防御力は強固だ。

 諸手を上げてとはいえないが、かといって片手とも言い切れない恩恵だ。

 村長や村人にも感謝され、少しだけリャナの力を頼まれた。


「こん位でよかったのか村長さん」

「ええ。リャナさんの力で十分収穫できましたし、あちらには防御兵器がありますし、何やら我々は漁夫の利を得たようで」

「違うぜそれは」

「そう言ってもらえると助かります」

「いやな。あんたらは逃げ出した、その後に戻ってきたら偶々置き土産があったのさ」

「人が良いのも程々にした方が良いですよ」

「いいんだよ。嫌われ者は嫌われ者さ」

「嫌われ者ですか?」

「ちょっとな。重要な事をやっちまってな」

「人の好いのは治りそうにありませんね」

「そう言う性分でね」

「巻き込まれた方々はどうなるのです」

「巻き込まれたわけじゃないさ」

「はて」

「どのみち俺達の側と判断される連中のみだ。つまり単なる逃避行さ」

「なるほど、一人一人は強くても数の前では無力、それならば一塊に撃退する道を選んだという訳ですか」

「そんな所さ。まあサーフ達と合流し、どこに行くかな」

「行く当てがないのなら、良い隠れがありますよ」

「秘境とかいうなよな」

「村です」

「はぁ」

「近くにある村なんですがね」

「じゃあそこに行くわ」

「・・・もう少し慎重な方と思っていました」

「いやだってね。行く当てないし」

「・・・戦う能力だけでは生きていけませんよ」

「そう言う事にしか能がないのさ」

「わかりました案内しましょう」




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