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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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78、与一の兄、良見。

遅くなりましたm(_ _)m

鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく晒し、鋭い眼光は油断なくミロクを見ている。

歴戦の強者を感じさせる細かな体の傷は、その男の歴史でもあるのだろう。自分と比べるべくもないと、ミロクは素直に「すごい身体ですね」と称賛した。


「ふん、そんな細くなまっ白い身体で、俺に勝てるはずもなかろう」


低い声を響かせて言い放った男はニヤリと笑う。いかにも『親方』といった風貌の顔は自信に満ち溢れていた。その瞬間、その男性の頭が「すぱこーん」と景気の良い音を立てて揺れる。


「何言ってるんだ兄さん。とりあえず服を着なよ、恥ずかしい」


「人を全裸みたいに言うな。脱いだのは上だけだ」


「上だろうが下だろうが、ここで脱いだら社会的にアウトだから!」


「仕方ない。今日のところは弟に免じて引いてやろう」


「意味が分からないよ!」


ヨイチは緑のスリッパを片手に男を叱りつけると、店員や客達に頭を下げている。日頃のヨイチの行いが良いせいか大した騒ぎにはならなかったが、所々からヒソヒソ声が聞こえる。

男はミロクよりも少し背が高いくらいだろうか、ムキムキの筋肉をスーツで覆うが、合っていないのかボタンがはち切れそうになっていた。




フミの父である如月ヨミ(43)は、妻のシトミ(43)と共に上京してきた。

事務所近くの喫茶店で待っているとのことだったので、ミロク達は仕事を早めに終わらせて向かったのだが、なぜか冒頭の騒ぎに繋がる。


「すげぇなオッサンの兄貴。筋肉もすげぇけど、ミロク見て突然脱ぎだしたのがすげぇ」


「だから来ないで欲しかったんです……」


シジュは楽しそうに笑って話しているが、フミは顔を真っ赤にして小さくなっている。


「ごめんねフミ、お母さんが止めようとした時には遅かったのよ。後で叱っておくから」


ぽわんとした笑顔のフミの母シトミは、ゆったりとした口調で宥めるように言う。「叱る」という言葉に、山のようなシルエットが一瞬ビクッと動いたような気がしたが、気にしないでおこうとシジュはミロクの方に目をやった。

驚くことにミロクは怯えるでもなく、満面の笑みでフミの両親を見ていた。


「おい、ミロクは怖くねぇのか? 外人プロレスラーみてぇな父親が出てきたんだぞ?」


「え? 怖いですか? 俺、フミちゃんと親御さんとの共通点を見つけるのに忙しくて……」


「ミロク……お前はブレないな……」


やっと落ち着いたのかヨイチが兄のヨミと共に、ミロク達のいる席についた。


「もうすぐでミハチさんが来るけど、とりあえず紹介するよ。このデカイのが兄のヨミ、そして義姉のシトミさん」


「……」

「いつも義弟と娘がお世話になっています」


むふーっと鼻息荒く半端ない威圧感を放つヨミの隣で、ぽわんとした微笑みを浮かべるシトミ。


「こっちの二人は今アラフォーアイドルとして、僕と一緒に活動しているメインボーカルのミロク君と、ダンス担当のシジュ」


「はじめまして大崎ミロクです」

「どうも、小野原シジュっす。よろしくっす」


ミロクはぺこりと頭を下げ、シジュはヒラリと手を振った。

フミはまだ赤みの引かない頬に手を当てている。まだ恥ずかしいらしく黙ったままだ。


「ヨイチくんったら、突然アイドルとか言って朝の番組に出てたでしょ? 去年帰ってきた時に痩せてたのは知ってたけれど、まさかまたアイドルするとは思ってなかったから……ヨミさんなんか驚きすぎて湯呑みを握り潰しちゃったのよ」


「……」


相変わらず無言のヨミ。そんな兄を見ながら、ヨイチは気まずそうな顔で頬を掻く。


「悪いと思っているよ。色々あったから言い出しづらくて……ミロク君はともかく、僕は長く続けるか分からなかったし」


「私達が来たのも、ヨイチくんの事が心配だったからよ。あの時みたいに……」


「義姉さん、それは」


ヨイチがシトミの言葉を優しく制する。そんな彼らを不思議そうに見るミロク達は、何か事情がありそうな兄弟にかける言葉もなく黙っていた。


喫茶店のドアのベルが鳴る。


「あ、ヨイチさん! ごめんなさい遅くなって……」


「ミハチさん!」


ホッとしたように笑顔を浮かべて手を振るヨイチ。絶妙なタイミングで輪に加わるミハチに、ミロクは「お疲れ姉さん」と仕事帰りの姉を労う。


「で? で? どこなの?」


「え? 何がだい?」


「来てるんでしょうヨミさん!」


「……え?」


いつものミハチとは思えないテンションで詰め寄って来るミハチに、顔を引きつらせるヨイチ。

そんな姉を見て、ミロクは首を傾げながら言う。


「何言ってるの姉さん、フミちゃんのご両親ならこの方々に決まってるでしょ? 如月ヨミさんと奥さんのシトミさんだよ?」


「はい?」


ミロクの目線の先には、ガチムチの筋肉の塊のような外人プロレスラーのような男性と、フミによく似たぽわんとした笑顔の女性。


「な、な……」


いつになく気合の入ったメイクのミハチは、涙目で叫んだ。


「なんで『アルファ』のYOMIが、ガチムチのオヤジになってるのおおおおおお!!」


「……やっぱり知ってたのか」


がくりと項垂れるヨイチの横で、ミロク達はポカンとした顔でこの混乱の場を見ている。


(えっと……次は俺が謝ってこようかな?)


ミロクは泣き叫ぶ姉を見て、意外と現実的な事を考えていた。








お読みいただき、ありがとうございます。


予想されてた方もいるだろうなって思いますが……


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