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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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77、与一の兄ということは。

ということは。

久しぶりに聞いた電話の兄の声が、穏やかだった事にホッとする。心配そうにヨイチを見る芙美に笑いかけて、何でもないと目で合図してスタジオの外に出る。どうやら少し込み入った話のようだ。


「ヨイチさんのお兄さんって、近くに住んでいるの?」


「いいえ、都心からは離れた結構な田舎に住んでいますよ。都会が好きじゃないのもあってあまりこっちには来ないんです。うるさくなくて私にはちょうどいいんですけど」


「そっかぁ……」


ミロクがフミの話を聞いている中で、ふと何かが引っかかる。


「フミちゃん、それって……」


ミロクが問いかけようとした時、スタジオのドアが開くと共にヨイチが大きな声でフミに向かって言う。


「フミ、兄さん達が久しぶりにこっちに来るそうだよ!」


「ええー、面倒くさいー」


嫌そうな表情を隠しもしないフミは、いつも以上に子供っぽく見えた。こんな表情をする彼女は珍しい。


「その態度は良くないよ。久しぶりの親子対面なのに……」


「え!! フミちゃんのお父さんが、ヨイチさんのお兄さんなんですか!?」


ミロクが目を丸くして驚く表情を見て、ヨイチもフミも驚く。


「そ、そんなに驚くことですか?」


「僕はフミの叔父なんだから、そういう事になるだろう?」


「そうですね、考えてみればそうなんですけど……いや、ヨイチさんが思った以上にフミちゃんと近い関係だと思うと、こう、心が滾る、というか、煮え滾る、というか……」


何やら黒い感情に囚われるミロク。それはもう透明な水に落とした墨汁のように、ポタリポタリと黒く、ひたすら黒く染めていくのであった……と、ミロクはモノローグまで付ける。


「ちょっと待って。途中からおかしいよミロク君。そしてそのモノローグは必要だったの?」


「あはは、ミロクさんったら面白すぎですよぅ」


「フミ?これって面白いの? 君の叔父は何やらドス黒い感情を当てられているよ?」


可愛らしく笑うフミに、怯えながらも彼女に訴えるヨイチ。その様子を虚ろな目で見ていたミロクは、しばらくするとスッと目に光が戻る。


「こちらに来られるということは、俺も会えますよね? ご挨拶が必要ですよね?」


「へ? へええええ!?」


「それはそういう意味かな、ミロク君」


真っ赤になって慌てるフミを見て『叔父バカ』の殺気を放つヨイチに、ミロクは呆れた顔をして言う。


「何を言ってるんですか。そういう意味に決まっているでしょう。まさかヨイチさんの家族に姉を紹介しないなんて事は無いですよね?」


「あ、そう……か」


急に歯切れの悪くなるヨイチは、しばらく考え込んでいたが大きなため息を吐くと、スマホを片手にもう一度スタジオを出て行った。

やれやれ世話が焼けるなと、伸びをするミロクの服の裾を、クイクイっとひっぱられる。


「ん? どうしたのフミちゃん?」


「あ、あの、ミ、ミ、ミロクさんも、うちのお父さんに会うんです、か?」


もじもじしながらポワポワと茶色の猫っ毛を揺らすフミの、その愛らしくも可憐な仕草と、頬を染めて上目遣いでミロクを見上げるその姿に、彼は思わず口を手で押さえそっぽを向く。

目尻を赤くしてあらぬ方向を見るミロクに、フミは「会うんですか? ねぇ、ミロクさん!」と何度も問いかけるので、彼はその破壊的(笑)な姿にヨイチが戻るまで耐える事になり、珍しくもこの場はフミが勝利するのであった。












「あ、ミハチさん? 今度兄が来るんだけど、会ってもらっていい?」


〈は? へ? お、お兄さん!?〉


「うん、そうだけど……何慌ててるの?」


〈いやだって、ほら、お、お兄さん、でしょ?〉


「……なんか、別にいいよ。嫌なら」


〈嫌じゃない! 会いたいです! むしろ連れてって!!〉


「……ミハチさん?」


〈……ん、ん。じゃあ、日程が決まったら教えてね。ではでは!〉


通話の切れたスマホを見て「逃げたな」と苦笑するヨイチは、スタジオ内で騒いでいる二人に目をやる。


「さて、兄さんは急にどうしたのかねぇ……」


一波乱ありそうだと、小さく息を吐いた。






お読みいただき、ありがとうございます。

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