閑話9、江月蒼(67)、皇麗香(32)コロ(3)の場合。
短めの二話分を詰め込みました。
こむ様、コタ様
モブキャラ募集企画、ご参加ありがとうございます。
今日の売り上げと売れた商品のリストを見て、一時期品切れしていたボディソープが潤沢になりホッとする。どうやらお得意さんは別の商品を買うようになったらしい。
それが品切れになるのも時間の問題だなと、発注リストを確認すると既に在庫確保されていた。
江月蒼(67)は雑貨屋のオーナーである。
実は店を始める際、自分の好きなアンティーク家具を取り扱う『アンティークショップ』を開いたつもりだった。
しかし、売り物の家具に置物や食器など、様々な雑貨をディスプレーのつもりで置いていたところ、そっちの方が売れ行きが良くなってしまったのだ。
娘や息子から「お父さんの店って、趣味の良い雑貨屋だね!」と褒められると、実はアンティークの方を取り扱いたかったなどとは言えず、今に至る。
ちなみに、現在もその家具は置いたままだ。こっそり値段も貼ってあるが、売れる気がしない。
(まぁ、これも店に合ってるし、このまま売れないほうが良いだろう)
蒼は苦笑いをすると、再び売上品のリストと発注リストを見ていた。
……シャラン……
音のなるオブジェが風に揺れる。
しまった、閉店の札をかけ忘れたかと入り口を見ると、すらりと背の高い黒髪の青年が立っていた。
息子と同じくらいだろうか。影で見えなかった顔が入り口のランプに照らされると、鳥肌の立つくらいに綺麗に整った顔をしている。
思わず口を開けてみていると、青年は少し困ったような顔をした。慌てて蒼は「いらっしゃい」と言った。
「すみません、閉店なのは分かっているのですが、どうしても今日プレゼントが必要で……」
「ああ、いいですよ。表は閉めますから、裏口から出てもらいますけどね」
「大丈夫です!ご迷惑をおかけします!」
「いえいえ、ごゆっくり」
ペコリと頭を下げる青年。礼儀を知っている若者と接するのは嬉しい。
店内の雑貨を吟味する青年に興味が湧く。
「お客様、誰に送るプレゼントですか?」
驚いたように蒼を見る青年。黒目がちな瞳はオレンジの照明を映してキラリと光る。彼はさぞかしモテるだろうと蒼はニコリと笑ってやった。
「母……です」
「そうですか……これなどどうですか? 一緒にバラの花びらを入れて固めたソープをつけるとか」
蒼が取り出したのは、シェルカメオがついたペンダント。カメオはアンティークだが、若い人が身につけても浮かないようなデザインになっていた。
「素敵ですね!でもこれ、高いんじゃ……」
「まぁ、アンティークですけど、売れ残りですからね。ご予算は?」
「えっと、二〜三万くらいで……色々買えばどれか欲しいものに引っかかるかなって」
「ははは、それはどうですかね」
「どうとは?」
「いや、子供からの贈り物なら、どんなものでも嬉しいのでは? たくさん買わなくても良いのではないかと思ったのですよ」
笑って蒼が言うと、青年も顔を綻ばせて「そうですね」と言った。
「その予算で良いですよ。在庫処分価格です」
「え、良いんですか?」
「これも何かの縁でしょう」
母の喜ぶ顔を想像しホクホクと帰っていった彼は、後日価値を知って再び店に飛び込んで来るのだが、オーナーは仕入れの旅に出ており不在。
しかしカメオを買った青年宛に「サイン入りDVDが欲しい」というメモを残していたという。
「やられた!」と言う青年の顔は、晴れ晴れとしていたそうだ。
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私はコロ。女の子。三歳になるけど立派な大人よ。
ウェルシュ・コーギー・ペンブロークっていう、オレンジに近い茶色と白の毛並みを持っているの。
私は犬でもなく、ペットでもない。
ご主人の麗香様は、私を看板犬と呼ぶわ。ええ、私は私に任された仕事に誇りを持っているわ。
麗香様はペットカフェのオーナーをしているの。一番偉いのよ。
だから……
だから……
お店の中で一番お陽様の当たる気持ちいい席は、あの御方専用なの!
その御身体からはいつも甘い匂いがして、優しく私を撫でる手は指先まで美しくて……私はいつも気づかないうちにお腹の柔らかい毛を見せてしまうの。撫でてーって。私ったら、はしたないわ!
麗香様と私の愛しい御方、今日も来るかしら。
今日の専用席は、お日様ポカポカなのよ。
私もお風呂入りたてで、良い香りなのよ。
ご機嫌よう皆さん。ペットカフェのオーナー、皇麗香です。
今年で三十二になります。え? そうは見えない?
いいえ、私なんてあの御方に比べたら、まだまだです。
あの御方にお会いしたのは、夏の終わりのことです。うちの店の看板犬コロの散歩に出ていた私は、興奮して突然走り出したコロに引っ張られて転びそうになりました。
そこを助けてくださったのが、アラフォーアイドル344(ミヨシ)のメインボーカルにして、王子とも呼ばれているミロク様だったのです。
私の背中に手を回して支えてくださり、その腕一本で女一人の体重では微動だにしないくらいの、鍛え抜かれたその身体と筋肉!!なんということでしょう!!
日の光に煌めく黒髪が額にかかるのをフワリとはらって、甘く微笑んでコロをゆったりと撫でるそのお姿は、さながら高貴な方……王子とそれに付き従う狩猟犬……コロの許しは早く、五分と待たずに服従のポーズ(お腹を見せる)をしていました。
犬がお好きだというミロク様を讃える為に、店の一角に『344コーナー』を設けました。
そこではファン同士の語らい、情報交換、344グッズの展示等、私が一番力を入れているコーナーです。
当初は売り上げ度外視で……と思って始めたのですが、なんとミロク様やヨイチ様、シジュ様までご来店されて、コロ共々344に骨抜きにされてしまいました。
コロは最近、ミロク様が来られると蕩けて軟体動物のようになっています。
あの子は野生とか本能とか、どこかに垂れ流してしまったような気がします。少し飼い主として不安です。
「こんにちは、遊びに来ました」
「休憩に来たんだけど、空いてるかな?」
「コロー、俺の相手もしてくれよ」
ドアを開けるとともに現れた、長身の男性三人。
早くもコロは溶けかかってます。ミロク様が私に向けた笑顔に、溶けそうになるのを気合いで固めます。プロ根性でいかないとです。
「いらっしゃいませ!344の皆様!」
お読みいただき、ありがとうございます。
もふもふ感足りなかったかも…




