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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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閑話7、美眞作 統屋(?)、女子高生ファンA(17)、リーノ・トリエ(39)の場合。

短めの三話分を詰め込みました。


合能 至得果様、簪様、リーノ様

モブキャラ募集企画、ご参加ありがとうございます。

美眞作統屋(みまさか とおや)は、某具主(ぼうぐしゅ)社の社員である。

数年前までサラリーマンの片手間に趣味で作っていた人形をネットにアップして過ごしていた所、某具主社の開発部部長に目をつけられ、あれよあれよという間に雇われていたのである。

都心から離れて暮らす彼は、在宅勤務という形で依頼される人形をひたすら作る日々を過ごしている。


彼が今のような生活を送っている理由の一つに、一人の青年が関わっていた。


サラリーマン時代、ノルマ追われる彼は、不眠症となり心も体も病んでいた。そんな中、唯一心安らぐ趣味は人形を作ることであった。彼は自分の作ったアニメキャラの人形を某掲示板にアップした。

当時そこまで人気ではないアニメキャラだった事もあり、その掲示板は結構な話題になった。

そこにコメントを書き込んできた一人の男性……当初は高校生かと思っていたハンドルネーム『36』は、素直な文章で統屋の作品を褒めてくれていた。


パソコンの文字に温度がないとか、嘘だと統屋は思う。


素直な人は文章も素直だ。

相手に分かりやすく、自分の事を知って欲しいと表現する。

小難しい人は、文章だって小難しい。でもそこに優しさがあるか無いかくらい分かる。


ハンドルネーム『36』は、素直……というか純真(ピュア)だと思った。

男性と表示されているが、もしかしたら女性なのではと思うほど、柔らかな文章を使う。

(後で姉と妹がいると知り納得した)

彼に癒され、励まされ、彼のネット仲間からの助言もあり脱サラすると、そのネット仲間の宣伝効果もあり一年経たずに自分の作品が某具主社の目に止まり、専属の人形師の契約をした。


その時に知る。

彼は心の傷から引きこもっていて、家族以外はネット仲間としか交流が無かったこと。

苦しみの中にいた彼は何の得にもならないのに、統屋を助けて欲しいとネット仲間に働きかけていたこと。

彼のネット仲間は言った。


「だから彼が助けたいと思った人間を、俺たちも助けたくなるんだ」と。











久しぶりの都内進出と片道三時間で、統屋は心も体も疲弊していた。

今まではメールで事足りていたのに、今回に限って対象人物と必ず会うようにと、上司からきつく言われていたのだ。

依頼内容は、大人気アニメ「ミクロットΩ」のキャラクターの、三分の一スケールの球体間接人形、女三体、男三体だ。

最近は嬉しいことに自分の素体の評判が良く、仕事に追われる日々でアニメどころかテレビさえもつけていない。


(ミクロットシリーズの新作か。でも今日会う人ってアニメ関係者ってことかな?)


統屋は早く済まして帰ろうと、足早に待ち合わせの某具主社本社ビルへと向かう。

受付の案内で会議室に入った統屋は、思わず声を上げそうになるのを堪えた。

美しさと色気の相まった男性三人の、その顔、身体、姿勢、ギリシャ彫刻のような造形美をも感じる彼らを、つい凝視してしまっていた。


「素晴らしい……」


つい声に出してしまい、思わず口を押さえる。

三人の横にいた開発部部長は、さもありなんと頷いていた。

そうか、この人達を見せたかったかと納得していると、その中で一番若いであろう青年が統屋近づいて来た。思わず半歩下がる。

この青年は、この三人の中でも一番色香みたいなのがすごい。


「人形師さんですよね。憶えてますか? ネットの掲示板でお世話になったミロクです!」


ミクロットの名言みたいなのが聞こえたぞと、統屋はボンヤリその青年を見ていたが、掲示板というキーワードとミロクという名前に何かが引っかかる。


(ミロク、みろく、み、ろく、さん、ろく、36?)


!!!?


「ハンドルネーム『36』!?」


「はい! お久しぶりですね!」


彼はその整った顔で、花が咲くような笑顔を見せたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




最近、私はハマってしまったアイドルがいる。

ミロク君 (はぁと)の歌じゃないけど、ハマってしまったのだ。

私が夢中になっている彼らは今をときめくアイドルユニット、その名は……


344(ミヨシ)……です!!!!


きゃー! 言っちゃった! 照れるー!

今までアイドルとか、シャイニーズのグループとか、まったく興味が無かったんだよね。

だから友達にも言えてない。

そう、私は隠れ344ファンなのだ!!


あっと、いけない。今日はシジュさんが専属モデルやってる雑誌の発売日だ。

シジュさんはワイルドとかちょいワル系とかのスタイルってなってるけど、目線とかが全然悪そうじゃなくって面白い。ちょっと照明が眩しかったのかなって感じの表情が堪らない。こういう風に見られたら幸せになれるだろうなって思う。

元ホストって、そんなアウトローな感じも良い。シジュさんになら騙されたい……でも絶対そういう事しなさそう。説教とかされそう。


何!? ビジネス雑誌にヨイチさんのインタビュー記事!?

なんてこったー!! そうだよね、芸能事務所の社長だもんね、こういうのもあるよねー。

はぅ……スーツ姿が格好良い……その切れ長の目で見られながらネクタイ緩めるとか、そんなヨイチさんをガン見したい。

そして着痩せするタイプなんだよね。セカンドシングルで見せてくれた胸筋と腹筋は、末代まで語り継ごうと思う。神様ありがとう。


ああ!! ミロク君がテレビに出てるー!!

な、なぜ!? なぜ朝番組!? ああ、可愛い!!

……って、ミロク君は私の倍以上の年齢なんだよね。あの可愛さは凶器だよ。お母さんが後ろで「綺麗な肌な子ねぇ…」って言ってるけど、たぶんお母さんとそんなに年変わらないよ?

ミロク君を初めて見たのはアニメ『ミクロットΩ』五話のエンディングだった。ちょっとだけ映った三人の姿。ミロク君の甘く響く声に、私はすっかり『ハマってしまった』のだ。










日曜日。

私は意を決して、電車で遠出する事にした。

都心へ向けて走る上り電車に乗って、東京駅から下り電車に乗り換える。


「来ちゃった……」


そこは『ミクロットΩ』の舞台にもなっている商店街。主人公のイチゴちゃんがディーバっていう機体に乗ってパトロールしてて、そして……


「わっぷ……」


妄想の世界に入り込んでいた私は、目の前にいた人に気づかず思いっきりぶつかってしまう。

背の高い男性の背中は鍛えているのかすごく硬くて、ぶつかった鼻から血が出るんじゃないかと、鼻を押さえながら見上げる。


「大丈夫!?」


振り向いたその人は、背の低い私に目線を合わせようと屈んで、思いっきり顔が近づく。


「ぴゃっ!?」


「!? どうしたの!?」


黒髪は白い肌によく映え、少し長めの前髪がその整った顔によく似合っている。

長い睫毛に縁取られたその瞳を少し眇めて、私を見て……微笑む。


「お、王子スマイル……本物のミロク君……」


「俺のこと知ってるの? 嬉しいな」


甘い、甘い微笑み。蕩ける、私の腰が蕩けてしまうぅ……!!












それからはよく覚えてなくて、トイプードルみたいな小さい女の人が「ごめんなさい! このコーヒーチケットで少し休んでくださいね!」って言ってたような気がする。


「はい、これサービスですよ」


なんだかやけに落ち着く喫茶店で、普段は飲まないアイスコーヒーを飲んでた私は、何も考えずに出されたお茶を飲む。


「うげっ! 何これ渋っ苦っ! うえぇ……」


「センブリ茶です」


「なんで……あれ?なんかスッキリしてきた……」


「はい。当店一番人気メニュー何ですよ」


マスターは人好きのする笑顔で言うと、追加のセンブリ茶を淹れている。

私は今度は少しずつ、味わうようにセンブリ茶を飲む。



間近で見たミロク君の笑顔を思い出すと、不思議な事にまったく苦くなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






この星には魔獣と呼ばれる害獣が蔓延っている。

そこで国は武に長けたものを集め『ハンター』と呼ばれる職業と、それを支える『ハンターギルド』を新設する。

もちろん、弓術長けていた私、リーノ・トリエも例外なくハンターになった。

五年後、私は大怪我を負って引退を余儀なくされる。

そして弓術士リーノ・トリエは、ハンターギルド職員リーノ・トリエとなった。




ギルドの朝は早い……っていうか、常に一人は常駐している。

魔獣はいつ何時襲ってくるか分からない。だから私達ギルド職員はどの時間にも一人は必ず待機させているのだ。

今はお昼の時間。私は昼の当番なので受付でぼーっとしながら座っていた。

この時間はハンターも居ないし、討伐依頼を持ってくる客もいない。この時間の当番はご褒美みたいなものだ。

だがしかし、今日に限って客が来てしまった。いや、登録申し込み用紙を持っているから、ハンターになる人って事?

慌てて席を立ち窓口に走っていくと、やけに身なりの良い三人がいた。

その中でも一番若い感じの青年が声をかけてきた。


「すみません。ハンター登録をしたいのですが」


少し長めの柔らかな黒髪に透き通るような青い瞳、白を基調とした立て襟のコートを羽織り、腰には白銀の剣を携えている。

そして顔! なんて綺麗な顔してるのこの人! まるで王子様……あれ?


「み、み、ミロク王子様!? なんで!?」


そう、このめっちゃ綺麗な顔してる人、この国の王子様ですよ! 何ですぐ気づかないのか私は!


「ほら、やっぱりすぐバレたよね」

「やめとけ王子。迷惑かけっから」


ミロク王子の後ろを恐る恐る見ると、アッシュグレーの長い髪をゆったりとサイドで結わえて、灰色の切れ長な瞳は柔らかく笑んでいる男性が、青を基調とした軍服を身に纏って立っている。

そやな感じの男性は、ウェーブがかった黒髪を後ろでまとめ、紫の瞳は宝石のように綺麗だ。目も覚めるような赤の軍服は、彼の褐色の肌によく似合っていた。

……青は宰相のヨイチ様、赤は王国騎士のシジュ様だ。


「……国のトップが何やってんですか」


私が顔を引きつらせながら言うと、ミロク王子はその端正な顔にうっとりするような笑顔を私に向ける。


「ハンターと、君に興味があって」


「はぁ。……はああ!?」


ぽぅっとなって頷いていたら、なんかとんでもないこと言われた!

うわ! 手、手ぇ握らないで!


「ひゃっ……」


いつの間に受付から出されたのか、ミロク王子に手を引っ張られて、そのまま私は彼にふわりと抱きしめられる。ふ、ふぉぉ! なんか甘い匂い! そして胸筋! 意外と鍛えてらっしゃる!!


「また王子の悪い癖が……」

「王子の趣味って一貫してっけど、これがただの挨拶ってダメだろ」

「猫っ毛なミディアムヘアの女性には、必ずこうだからねぇ」

「悪りぃな姉ちゃん、しばらく王子のおもちゃになってやって」


「え? え?」


「ああ、可愛らしい人ですね。この肩くらいで踊る髪が堪らないです」


「ひぇ!? に、匂いかがない…ひゃぁ!!」


ミロク王子に懐かれている私を、可哀想な子を見る目で宰相と騎士は見ている。

おい! 助けろ!






「やめてえええええ!!」




汗だくになって体を起こすと、テレビはつけっ放しでDVDを流したままだった。

大人気アニメ『ミクロットΩ』。私の大好きなアイドル344(ミヨシ)は、挿入歌とキャラクターソングを担当している。


「夢……ヤバかった……」


夢の内容は、まんま特典映像だった。彼らの星での生活や、なぜ地球に来たのかが話として盛り込まれていたのだけど……


「アニメじゃない、リアルな方が出てきた。かっこいい、めっちゃかっこいい。萌え禿げそう」


グフフと笑いながら、鳥絵莉乃(39)は日曜日の二度寝に突入するのであった。



でも、心臓に悪いから続きは遠慮させていただきます。ミロク王子。







お読みいただき、ありがとうございます。


……夢オチに逃げましたm(_ _)m

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