75、災害に備える大切さと、進む案件。
続いてました。
ざわり……と、スタジオにどよめきが起きる。
今日は芸能関連、テレビ雑誌に344(ミヨシ)のインタビューコーナーを載せるとのことで、取材と撮影の予定であった。
しかし、そのインタビュー対象である彼らが入ってきた時、スタジオの空気が変わる。
いつになく緊迫感のある空気を纏う、如月事務所の社長であり、話題のアラフォーアイドルユニットの脇役ながらリーダー的存在であるヨイチ。
続いて入って来たのは気怠げに欠伸をしながらも、目は油断なく周囲を警戒している。歴戦の強者のような気配を感じさせるシジュ。
「あ、えっと、おはようございます。344(ミヨシ)の皆さん」
「おはよう。今日はよろしくね」
ヨイチは柔らかな笑顔で男性スタッフに応えるも、その緊張感を解く様子はない。
「ど、どうしたんですか? すごい空気感ですけど……今日はインタビューと軽く撮影するだけなので、そこまで固くならなくても……」
「ああ、分かってんだけどな」
シジュが苦い顔で後ろを見る仕草をし、スタッフも釣られて彼の背後に立つ存在を認識する。
「……!?」
一言で表現しよう。
甘い。
彼の表情、仕草、一挙手一投足の全てが甘く感じる。
誰かを落とそうとする色気ではなく、愛情深く包み込もうとするような、ひたすら甘い何かを彼は発している。
その彼……ミロクはスタッフの視線に気づき、その熱を含んだ瞳で彼を見ると、まるでその男性が恋人でもあるかのように、ひたすら甘く微笑んだ。
「今日は、よろしくお願いします」
「……」
「気を強く持って!」
「丹田に力を入れろ! 持ってかれるぞ!」
言葉が出ないスタッフに、ヨイチとシジュは声をかけてやるが反応は薄い。
その後、気合いを入れ直した関係者達によって、何とかその日を終えることができた。
こうしてフミのいない数日は、たまたまその期間にオファーをかけていた数社を巻き込み、ミロクの災害説は都市伝説のように広まっていくこととなった。
「ということで今回分かったよ。普段のミロク君の色々出しているものを、フミが受け流している事を」
「しかも浄化もしてそうだな」
「はぁ……」
久しぶりに出社したフミは、事務所に着いた早々ミロクから「おかえりのハグ」と「寂しかったのデコチュー」を受けて、何とか意識を保ちつつ通常業務に戻ったところで社長から呼び出された。
そして開口一番「ミロクはフミがいないとダメだ」と言われたのだ。
(うん。意味が分からない)
自分がいない間に何かあった事は確実だが、それが何かは分からない。
叔父のヨイチとシジュが疲れ切った表情をしているのを見て困惑するしかないフミだった。
「うん。分からないと思うけど、とにかくミロク君は不安定なところがあるから、支えてあげてって事を理解してくれたらいいよ」
「分かり……ました。でもミロクさんなら大丈夫じゃ…」
「「ない」」
「そ、そうですか……」
キッパリと断言したオッサン二人の迫力に、若干怯えるフミ。
そんな姪の様子に、ヨイチは咳払いをして話を変える。
「さて。サードシングルの件だけど、フミのいない間にほぼ決まったよ」
「あのコラボの話ですか!?」
「ああ、最近はアニメと一般企業が、コラボCMする事が多々見られるからね。先方も乗り気だった」
「例のお偉方の奥様達は、ミロクだけじゃなく俺も参戦して落としておいたから」
「ちょ、落としたらダメですよね!?」
「はは、シジュの前職で身につけた能力が遺憾なく発揮されていたよ」
「社長まで!」
「むしろ俺で良かったと思うぞ。適度に距離もとれる付き合いも出来るしな。ミロクは相手の女性の意識朦朧とさせるから、色んな意味でダメだったし」
「意識を……何やってるんですかミロクさんは……」
呆れ顔でフミはため息を吐く。前回の様子からすると予想はしていたがそこまでとは……シジュが参戦して良かったのだろうと無理やり納得する事にした。
フミも色々染まっ……成長しているのである。
「CMの曲は新曲のサードシングルですかね」
「いや、三曲使うそうだよ」
「へ?」
「口紅、マスカラ、チークで考えてるみてぇだな。まだ企画段階だが、三曲使うのは決まってるってよ」
「す、すごいです……」
つまり、少なくとも三種類のCMを作るということだ。限定色だろうから期間は短いだろうが、新人アイドルにしては快挙だろう。
そこで内線で連絡が入り、応答をしたヨイチが礼を言って切ると、シジュとフミに向かって言う。
「ミロク君も落ち着きを取り戻したということだ。これからサードシングルの打ち合わせに入ろう」
「はい」
「じゃ、ミロク呼んでくるわー」
会議室を出て行くシジュを見て「ミロクさん、打ち合わせを外されるってどれだけ……」とフミが呟いているのを、聞こえないフリをするヨイチであった。
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次回くらいに閑話を挟むかもしれません。




