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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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情報番組『ワイワイドー』〜344(ミヨシ)朝番組に初登場!〜

CMが終わると、名前の後ろに穀物の加工品名が付く人気女性アナウンサーが、少し頬を赤らめて司会者の武藤と共に番組の進行している。


「続いてのコーナーは、私もすっごく楽しみにしているアイドルがゲストで来ます!」


「恵理ちゃんは彼らのファンなの? 俺は今日初めて知ったよ。興味深いアイドルだ」


「本日のゲストは、噂のアラフォーユニット、オッサンアイドルこと344(ミヨシ)の皆さんです!」


柔らかく笑顔を浮かべるヨイチ、少し緊張した面持ちのミロクとシジュが指示された場所に立つ。

司会の武藤と女性アナウンサーの恵理は、344の側に歩いていく。恵理の頬は真っ赤だ。


「まずは自己紹介をお願いしまぁす」


「メインボーカル、ミロク、三十六歳です」


「コーラス、ヨイチ、四十一歳です」


「ダンス担当シジュ、四十歳」


「「「三人合わせて344(ミヨシ)です!よろしくお願いします!」」」


スタジオに拍手が起こる。


「ミロク、ヨイチ、シジュで『ミヨシ』ね。単純だけど面白いユニット名ですねぇ」


「ええ、僕たちのラジオ番組で、流れで決まったんですけどね」


「はは、流れですか!ではその経緯も詳しく聞きましょう!今日はデビューして間もないアラフォーアイドルユニット、オリコンチャートシングル部門一位獲得、大人気アニメ『ミクロットΩ』の挿入歌で活躍されてます、344(ミヨシ)の皆さんです!」


ソファとテーブルの置いてあるブースに案内され、カメラもそちらに切り替わる。

全員が座ると、アナウンサー恵理は勢い込んで話し出す。


「わ、私ファンなんです!イベントにも行きましたし!あ、握手もしてもらって……」


「恵理ちゃん落ち着いて。それは後で触れるからさ」


「す、すみません!」


スタジオでは笑いが起こり、武藤も苦笑している。多分彼女はいつもこんな感じなのだろうとミロクは彼女に向けて「光栄です」と言って微笑む。茹で上がった恵理はおとなしくなり、これ幸いにと武藤が司会の進行を続けていく事にした。


「ところで、なぜアラフォーでユニットを組もうと思われたんですか? 特にヨイチさんは事務所の社長さんですよね?」


「そうなんですよ。最初は僕が才能あふれるミロク君をタレントデビューさせたいと思っていて……プロデューサーの一声で、たまたま事務所にいたシジュも巻き込まれて、三人でデビューって事になっちゃったんです」


「そんな、うっかりみたいな?」


「ホント、俺なんかホスト辞めて無職で、ヨイチのオッサンがバイトに雇ってくれてた時で……で、急にアイドルっすよ?」


「まぁシジュは元プロダンサーでしたから、講師として事務所に所属してもらおうと思ってましたけどね」


息苦しいのか、スーツの前を開けネクタイを緩めたシジュを苦笑して見るヨイチ。この中で一番スーツに着慣れてるのはシジュっぽいのになとミロクは思いながらも、途切れた声を繋げるように話し出す。


「俺は三人で良かったと思います。デビュー前にスポーツジム主催のダンス発表会があって、三人で出たんですよ。その時に三人でやり遂げた達成感は、一人じゃ味わえなかったと思います。十年引きこもりでしたしね」


ミロクの言葉に、武藤は手元の資料を見て驚く。

打ち合わせが(武藤の怒りによって)短かった為、武藤は資料を全部見れなかった。さっとミロクのプロフィールを読むと、真剣な顔で言った。


「……それはすごい転身だ。自分は個人としてミロク君を尊敬するよ」


「え? それは嬉しいですね」


にっこり笑顔のミロクに、再び女性アナウンサーが「きゃぁ」と声を出す。彼女のマイクは音量を落とされることとなった。

武藤は自身が心を病んだことがあり、一時引きこもっていた。引きこもっているだけで病気ではないという人はほとんどいないだろう。外に出れないのには理由があり、外傷が無ければ内側に傷があるものなのだと彼は思っている。

これは……別口で彼らを呼ぶべきだろうと、武藤は番組ディレクターに目線を送る。彼が小さく頷くのを見て、武藤はヨイチに話を振る。


「ところでヨイチさんは、あの『アルファのヨイチ』ですよね! あのユニットの所業は自分の記憶に残っています!」


「え、そんな……何かしましたっけ?」


ヨイチの目が泳ぐ。珍しい社長の様子にミロクとシジュは驚いて見ている。


「デビューして数曲全てランキング一位を飾り、尚且つCM、ドラマ、映画や舞台に引っ張りだこ。夏のデビューでクリスマスにドームライブ。そこまでがほんの数ヶ月の話ですよ?」


「ええ!?」

「ああ、そういやそうだったな」


シジュは知っていたようだが、知らなかったミロクは思いっきり驚いていた。姉のミハチなら知っているだろうが、ヨイチが当時有り得ない程の人気だったことが窺える。

しかしそれも数年で活動停止。当時のシャイニーズの社長はヨイチを手放したくなかったそうだが、それを振り切って彼は個人事務所を立ち上げた。

そこにどのような思いがあったのか、いつか聞ければ良いなとミロクは思った。


「デビューして数年の売れない芸人だった自分ですけどね、あの時ヨイチさんから貰った言葉は今でも憶えてますよ!」


「え?」

「ん?」

「おお?」


興味津々なミロクとシジュに、若干怯えるヨイチ。

武藤はニヤリと笑って言った。


「売れないんじゃなくて売ってないだけだ。こだわるのと視野を狭くすることは違う。そう言われたんですよ」


固まるヨイチ。彼はその当時十代後半だったと思われる。


「その当時お笑い以外の仕事が多くて、なら営業だけやってやるって思ってた自分には衝撃的でした。それからは雑食で何でも喰い尽くして、狂獣なんて呼ばれて……今の自分があるんですよね」


嬉しそうに語る武藤の横で、頭を抱えるヨイチ。ミロクとシジュは「かっこいい!」と大興奮で、番組はそのままCMに入る。



こうして、344(ミヨシ)初の朝番組ゲストのコーナーは、無事(?)終了したのであった。






お読みいただき、ありがとうございます。


9/13(火)掲載予定の、博報堂様の『今日の一冊』に紹介されるそうです。

夢かもしれません。夢オチの予感がします。

よろしければ覗いてみてください。


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