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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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70、大崎家の音楽事情。

砂糖は控えめに。

「しまった……」


「どうしました、ミロクさん?」


青ざめて呟くミロクを、フミは猫っ毛の髪を揺らして見上げる。自然と上目遣いになる彼女を見て、心の中で身悶えつつもミロクは「ごめんね」と謝った。


「せっかくの機会なのに、俺こんな格好で……」


「へ?」


スニーカーに黒いジーンズ、長袖Tシャツに革のアクセを腕に巻いたミロクは、言うほど変な格好ではない。そのまま雑誌に載っててもおかしくない服装になっている。こんな事(?)もあろうかと普段着を総入れ替えした妹のニナに、ミロクは感謝すべきであろう。

そんなミロクの謝る意味が分からず、フミは首を傾げていると、彼は少し拗ねたように言った。


「だってランチデートでしょ?」


「へ!? で、で、でーと……」


デートとは、あのデートかとフミは一気に顔を赤くする。そう、きっとそのデートなのであろう。


「俺とデート。だめ?」


ミロクはフミの身長を加味し、目線を合わせるように屈み込む。

そして一瞬目を合わせてから、悲しげに目を伏せて問うミロクのその整った顔に、ぽうっとなったフミは見惚れながら答える。


「だめ……じゃない……です」


「うん。じゃあデートだね!」


ニコッと笑顔になったミロクは上機嫌に歩き出す。フミはミロクの姿を見て騒めく周囲の人達を感じつつも「今だけだから」と自分を納得させることにした。

トコトコ歩くフミと合わせるようにゆっくり並んで歩くミロクは、事務所の近くにある比較的オシャレなカフェテラスに入ることにする。


「いらっしゃいませー!!」


元気な店員の声にミロクは笑顔で返す。キビキビと席に案内する女性店員は、周囲の目を避けるように観葉植物で区切ってあるテーブル席に案内する。

慌てて家を出たミロクはメガネをかけずに来ていたが、馴染みの店の為ミロク・フェロモンの耐性がある店員が多い。如月事務所の人間、344(ミヨシ)御用達の店でもあるのだ。


「結局いつもの店になっちゃったね。この後フミちゃん仕事みたいだから、近くが良いかなと思って」


「ミロクさん……ありがとうございます」


ほわりと花のように微笑むフミを、ミロクは眩しそうに見た。


(やっぱりフミちゃんは可愛い。俺の天使だ)


まさか目の前の男性に人外扱いされてるとは思わないフミは、デミグラスソースのかかったオムライスを幸せそうに頬張る。ミロクは野菜の沢山入ったパスタを食べながらもフミを見て癒されていた。

夢中になって食べているフミの、その柔らかそうな頬に付いたソースに気づいたミロクは、自分の指で拭ってやるとそのままペロリと舐めた。


「ん、美味しいね」


「!!!!」


満足そうに微笑むミロクに、フミはそのままフリーズしてしまう。


(無理。これは無理。本当に無理。無理無理無理!!)


冷たい水とおしぼりを持ってきた店員は、それを固まっているフミの前に置いて「ごゆっくりどうぞ」と、軽く会釈をして去って行く。


「……ふぅ」


水を飲んで落ち着いたフミは、おしぼりで口の周りを拭きながら(ミロクはそれを残念そうに見ていた)、ハタと思い出す。


「そういえば、ミロクさんの家って音楽一家なんですか?」


「ん? 違うよ? どうして?」


「ミロクさんもミハチさんもピアノ弾けるし、ニナさんはヴァイオリン……音楽一家じゃないですか?」


「ピアノは結構弾ける人多いんじゃない? 両親は音楽に関わってないし……うちは母さんが子供にピアノ習わせたがってたんだよ。因みにニナはピアノだけじゃつまらないってヴァイオリンにも手をつけたんだけどね」


「え、じゃあニナさんはピアノも弾けるんですか?」


「俺も大学で軽音やってたからドラムとか叩けるよ。姉さんも中学高校は吹奏楽でフルートだったから、それも吹けるし」


「え? ええええ? すごすぎますよ!」


「普通だって。楽器なんて毎日やってりゃ皆それなりに出来るよ。さすがにプロってなったらすごいと思うけどね」


「ほぇぁぁ……」


やっぱりそれは才能なのではと思うのだが、ミロクは大した事はないと言い続けた。何故そこまでと思うのだが、ミロクはただ弾くだけのピアノを自慢とか出来ない。恥ずかしいだけだと言う。


「でも、ピアノ弾けるミロクさんは格好良いです!」


「う、うん、ありがとう」


思わぬフミの言葉に、珍しくもミロクは目元を赤くして礼を言う。

その照れた笑顔を真正面から受け止めてしまったフミ。


「ふぐぅ!」


「フミちゃん?」


「……なんでも……ないです……」


(ミロクさんの照れ笑い、破壊力ハンパない。やっぱ無理……)


高まる鼓動に翻弄されつつも、ミロク色々な表情が見れるこの時間が嬉しい。


(ずっと側にいたいな)


それはきっと叶わないだろうと思ってても、願わずにはいられないフミだった。









お読みいただき、ありがとうございます。

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