67、顔合わせというよりも。
なんとか今日の更新。間に合ったー。
その日、姉ミハチの会社に向かうミロクは、フミと共に新橋駅に降り立った。
今日は電車ではなく車の移動だ。最近ミロクへの注目度が高くなってきたため、電車移動が難しくなってきたのだ。主な原因はメガネじゃ隠しきれない、ミロクのだだ漏れフェロモンの所為であるのだが。
今回ミロクが行く理由は、この打ち合わせの場にミハチが参加しているからだ。
ミハチの勤めている化粧品会社の新商品のCMイメージキャラクターに、344(ミヨシ)が候補に挙がったというのがそもそもの始まりで、とりあえず顔合わせのしようという話になったのだ。
本来ならミハチの部署の仕事ではないのだが、話を持ってきた相川部長に泣きつかれたらしく、顔合わせの場に同席することとなったらしい。
新入社員の頃にミハチは相川部長を可愛がっ……部長に可愛がられていたようで、知らぬ仲ではないそうだ。この借りはデカイと艶然と微笑む姉を見て、ミロクを筆頭に家族全員が怯えたのは比較的新しい記憶である。
ちなみに今日のヨイチは「俺も行きたかった……」と言って、泣きながらプロデューサーの尾根江と終日打ち合わせに入り、シジュはモデルの仕事に出ている。
シジュの仕事は元々ミロクが行く予定だったのだが、ミハチの会社にはミロクが行った方が良いだろうと、彼の代わりにシジュがメンズ雑誌のモデルに出ることとなった。
万能な出版社の人間はミロクではなくシジュが来ると知り、急遽ワイルド男子特集を組むと盛り上がっていたのは、また別の話だ。
「ミロク! フミちゃん!」
名を呼ばれて振り返ると、ネイビーとホワイトのツートンカラーのスーツを着こなしたミハチがいた。アッシュブラウンに緩くウェーブがかった髪はサイドに流れ、柔らかく胸元まで落ちている。
声を出した事によってミロクだけではなく、ミハチへも視線が集まる。美男美女の共演にフミは苦笑しつつ、ペコリとお辞儀して挨拶をする。
「ミハチさん、本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。ごめんね。うちの会社がワガママ言って」
「三人が揃って空いてる時間が最近少なくて……すみません」
「良いのよ、こっちが急に呼び出したんだから。それにミロクで良かったわ。常務の娘さんとやらがミロクのファンみたいなのよ」
「え……」
フミの表情が固まる。ミハチがそれを見てニヤリと笑い、ミロクは首を傾げる。
「フミちゃん? 大丈夫?」
「あ、はい」
どう見ても大丈夫ではないフミの様子に、ニヤニヤ笑いが止まらないミハチ。
「ンフフ、常務の娘さんは中々の美人だったわよう。二十代後半かしら」
「はぅ……」
顔色を悪くするフミに、ミロクは「姉さん! フミちゃんで遊ばない!」と注意する。さすがに苛めすぎたかと、涙目のフミを見てミハチは少しだけ反省した。
「ごめんなさいねフミちゃん、常務の娘さんはご結婚されてて、旦那様も今回の企画に参加している社員だから大丈夫よ。恋愛ドラマにありがちな『お金持ちのお嬢様に見初められて結婚を迫られるヒーロー』とかは無いから安心して」
「そ、そんなんじゃないですっ」
青ざめた顔から一転して、顔を真っ赤にしたフミの可愛い反応を見て、『そういう心配をされた』という事実に喜ぶミロク。ポワポワ茶色の髪を揺らす彼女を、後ろから抱きしめたい衝動にかられ必死に抑える。
(ミハチ姉さんめ……ご馳走様です!)
しばらく赤みの引かない頬を押さえる涙目のフミは大層可愛らしかったため、ミロクは内心姉に感謝するのであった。
十五階建てのビル、最上階の眺めは中々良い。
ミロクとフミは、ミハチに促されて会議室に入って軽く一礼する。
スラリとしたシルエットに、柔らかな黒髪はふわりと額にかかり、涼しげな目と整った顔立ちのミロクを見た参加者達は思わず感嘆の声をもらした。
「如月事務所から参りました。如月フミと申します。344(ミヨシ)のマネージャーを務めております」
「344のミロクです。本日は御社のCMについてお話が伺えるとの事で、この打ち合わせで良い方向に進めれば嬉しく思います。よろしくお願い致します」
メガネや帽子はすでに身に付けていない。柔らかく微笑むミロクに抗える者は、横に並ぶミハチ以外誰一人として居なかった。
進行役は使い物にならず、しょうがなくミハチが進めていく。
途中、辛うじて相川部長が意識を取り戻し、ミロクやフミから色々と話を聞くことに成功する。
打ち合わせ終了後に『常務の娘さん』という女性にミロクは引き合わされたのだが、案の定ミロクの王子スマイルで終了。何を話しかけても「ファンです…」と言うロボみたいになってしまっていた。
ミロクは「やり過ぎだ」とミハチに怒られ、フミは心の中でヨイチとシジュがいないと344(ミヨシ)は成り立たないと、改めて実感したのであった。
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