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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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81/353

66、セカンドシングルはジャズ風に。

ラジオ回と本編の二話投稿です。

お気をつけください。

Aマイナーから始まる軽快なジャズピアノにウッドベースが加わり、続けてドラムが加わる。

打ち鳴らされるシンバルに、ドラムのフィルインからサックスが入り、全てが合わさって弾けるサウンドは嫌が応にもこの曲を盛り上げていく。


『puzzle』では軍服のような服を三人ともカッチリと着こなしていたが、今回は打って変わって前を全開にしている。

胸から腹にかけて肌を見せる三人は、鍛え上げた筋肉を惜しげもなく晒して踊る。ターンを決めると上着が舞って、赤、白、青の三色が画面に広がった。

ユニゾンで合わせて踊る前奏から、シジュが歌に入る。


『夜を飛び交う蝶たちの、纏わりつく甘い鱗粉

まるで俺を縛る鎖、捕えたところで飽きるくせに』


シジュの声にミロクの声が重なる。テノールとバリトンの声は完璧にハモっていた。


『唇に灯る言葉たちは、明るいだけで熱がない

そこに群がるのは本能、光に飢えた虫への救済』


ライトアップの外にいたヨイチが入り込み、歌は三重奏になる。

上半身の振り付けをピタリと合わせて三人は踊り、歌はサビに入る。


『もしも俺を捕えるなら

もしも俺を縛るのなら

毎日でもお前が欲しい

嫌という程甘えさせて


中途半端な優しさで

俺の心を乱さないで

ゼロか百かの愛情を

子供のように求めている』


再びシジュのソロになり、ミロクとヨイチは後ろでペアとなり踊る。

シジュの低音の声は、ここで高音のファルセットに切り替え吐息交じりの声を響かせる。


『追いかけて、縋りついて

俺はお前を求めて

縛りつけて、閉じ込めて

お前だけのモノにして……chain』


無音の二拍。


再びドラムのフィルインから演奏が再開し、三人のダンスも再開する。

それぞれのアップにカメラが切り替わり、大きく『chain』の文字が鎖の音と共に流れて暗転した。





「あ、ヨイチさん、ミロクです」


都心の大きな交差点で、ミロクは周りを気にすることなくメガネを外して一点を見つめている。

向かい合うはビルに取り付けられている、大型の映像ビジョンだ。

スマホで話しながらも、ミロクの目は映像の流れるパネルから離れない。


「なんか、さっきからずっと流れてます」


暗転したはずの画面が再び明るくなり、今度は爽やかなポップ調の曲が流れる。

甘く響くテノールに、周りから「これ知ってる!」「アニメの曲だ」などと声が聞こえてくる。


「そうなんです。『puzzle』と『chain』が交互に、キャッスルレコードの大画面で流れてます」


スマホの向こう側から響く声に少し顔をしかめて、事務所に戻る旨を告げたミロクは通話を切る。ふと近くに来る気配を感じた。


「あの……344のミロクさんですか?」


声をかけてきた女の子数人に、いつもの調子で「そうだよ」と微笑むと、数人どころじゃない歓声が上がって驚く。

どうやらミロクが呆然と大型映像ビジョンを見ている間に、映っている本人だと気付かれてしまったようだ。少し慌てながらも冷静にと心を落ち着かせる。


「ごめんね。今から仕事だから行かないと……俺に気づいてくれてありがとう」


メガネを外した手加減(?)なしの王子スマイルを発動し、腰砕けになった女性たちの隙をついて足早にこの場から逃れる。

駅に入り素早く電車に乗り、落ち着かない状態のまま事務所に向かうミロクだった。














「あの人は……!!」


ミロクから連絡を受けたヨイチは、思わず頭を抱える。

予告なしの公開は、何か作為的なものを感じる。それでも敏腕と名高いプロデューサーの尾根江のやる事に、基本口出しは出来ないのが現状だ。

悪い事ではないと思うのだが、事前連絡がないのは怖い。


「叔父……社長、ミロクさんが気づいてくれたから良かったじゃないですか」


「そうなんだけどね。続けて流しているというところが……」


大型ビジョンの相場は、時間と回数にもよるが、ミロクの話からすると数十万では収まらないだろう。一体どこから広告料を捻出するのか……まぁそれはレコード会社なのだろうが、よほど売れると確信しなければ、ここまでやることはないと思われる。


「まさか……売れると思われている?」


「え?社長は売れると思ってないんですか?」


ヨイチの独り言に、フミは思わず問いかける。勝算もなく叔父がアイドル活動をするとは思えなかったのだ。


「いや、僕もシジュも、あくまでミロク君を売り出すためにやっていこうって思ってた節があるんだ。ミロク君はまだまだ伸びる。その手助けになれたら……と」


「何を言ってるんですか。今や三人だからこその人気なんですよ? 私なんかマネージャーやってるって言ったら大変なことになるんですから。美形三人に囲まれて羨ましいって」


「でもオッサンだよ?」


「だからこそです。若い美形なんてゴロゴロいますけど、344(ミヨシ)はある種完成された美形なんです。あと『最後の女性になれるなら』とかいうファンもいましたよ?」


「それは……すごいね」


次から次へと出てくるフミの言葉に、ヨイチは感心しながらも今一度プロデューサーに連絡をとる。

今後についての話し合いもそうだが、自分とシジュの心算も見直す必要があると考えた。



その日、344のデビュー曲である『puzzle』が、オリコンシングルチャート五位になった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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