57、突然の嵐のように。
(うーん、どうしてこうなったんだろう)
ミロクの目の前にはフミ、そしてその隣にはフミの友人というメガネをかけた黒髪ショートボブの女性、さらにミロクの隣には妹のニナがいた。
(えーと、なんだかどうしよう)
ミロクは少し困ったような笑顔を見せると、フミはポフンと頬を染め、それを見たフミの友人が眉間に皺を寄せてミロクを睨んできた。
「とりあえず、何か頼もうか?」
せっかくヨイチさんが紹介してくれた店だし……と、ミロクが店員を呼ぼうとすると、目の前の黒髪の女の子はテーブルを思いっきりバシンと叩いた。
「とりあえず説明してください!」
「真紀ちゃん、乱暴はだめ」
「でも!」
「ちょっと待って!」
フミと真紀と呼ばれた女性の二人は、ニナの鋭い声に言い合いを止める。
「説明して欲しいのはこっちだよ。真紀さんだっけ?なんでそんなに怒っているの?」
ミロクはフミに食事の約束を取り付けようと事務所内を見回すが、彼女の姿が見えない。スタッフに聞くと「外に出て行きましたよ」と言われ、慌ててミロクも事務所から飛び出した。
「フミちゃん!」
駅に向かって歩いているフミを呼び止めるミロクは、大きな声を出した事で周りの注目を集めてしまう。慌ててメガネと帽子を装着し、呼びかけに気づかず歩いていくフミを駆け足で追いかける。
足音に気づいて振り返るフミは少し驚いた顔をする。
「あの、食事、誘おうと思って……」
体力だけはオッサン並みのミロクは、息を切らしてフミを食事に誘う。嬉しそうに「はい!」と言ったフミだが、目の前に影が入って一瞬何が起きたのか分からず混乱する。
「アンタ、誰?」
フミとミロクの間に入った影は、メガネをかけた黒髪の女性だった。威嚇するように両手を広げ、ミロクの前に立ちはだかる。
「真紀ちゃん、この人は事務所のタレントさんで、大崎ミロクさんだよ」
「事務所のタレント?……タレントだからって、なんでフミと食事ってなるのよ」
「えっと……」
フミがどう言ったものか困った顔をしているのを見たミロクは、どうにかしなきゃと口を開こうとした時、天の助けが入った。
「お兄ちゃん?……あ、フミさんお久しぶり。どうしたの?」
実は少し前にミロクとフミを見かけた妹のニナは、二人でデートかと思いそのまま通り過ぎようとしていた。
が、思わぬ第三者の登場で、空気を読み割って入ったのだ。何となく兄のピンチを感じたというのもある。高性能なブラコンパワーである。
ミロクがニナに「ごめん、助かった」と、小声で言う。
「まぁ、とりあえず……食事でもしながらゆっくり話さない?」
大崎家直伝の美形スマイルを兄妹で発動。有無を言わさず四人で、ヨイチ推薦の洒落たスペイン料理屋へ向かったのであった。
「で、真紀さんは何故そんなに怒っているの?」
貝のオイル煮などのおつまみと数種類のサングリアを並べ、先程よりも少し落ち着いた真紀は、ニナの言葉を受けてゆっくりと話し出す。
「だって、フミには好きな人がいるって話でしたから」
「「「ええ!?」」」
驚く大崎家の兄妹……と、フミ。
「ちょっと、なんでフミまで驚くのよ。アンタが言ったんでしょ?『ヒーローに会った!』って」
「ふぇぇええ!?」
(それってもしかして……)
顔を赤くするフミをそのままに、真紀はひたすら語る。
「喫茶店にいた暴漢を取り押さえたって。顔はよく見えなかったけど、オシャレじゃないジャージで、髪はボサボサで長く、重量級の柔道家みたいな体型だったって。熊っぽい感じだったけど、すごく格好良かったって。フミは今までそんな事一度も無かったんです。だからフミの恋を応援しようって思ってたのに……アンタが邪魔してるみたいだから」
そう言ってミロクを睨みつける真紀。
そんな真紀を三人は何とも言えない気持ちで見ていた、
(そういえば真紀に、そのヒーローがミロクさんって言ってなかった?)
(それって、オレの事だよね?え?フミちゃんの恋?)
(喫茶店で暴漢……兄さんのこと……だよね?)
鼻息荒く語る真紀に、どうしたもんかと考えるミロクであった。
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