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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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57、突然の嵐のように。

(うーん、どうしてこうなったんだろう)


ミロクの目の前にはフミ、そしてその隣にはフミの友人というメガネをかけた黒髪ショートボブの女性、さらにミロクの隣には妹のニナがいた。


(えーと、なんだかどうしよう)


ミロクは少し困ったような笑顔を見せると、フミはポフンと頬を染め、それを見たフミの友人が眉間に皺を寄せてミロクを睨んできた。


「とりあえず、何か頼もうか?」


せっかくヨイチさんが紹介してくれた店だし……と、ミロクが店員を呼ぼうとすると、目の前の黒髪の女の子はテーブルを思いっきりバシンと叩いた。


「とりあえず説明してください!」


「真紀ちゃん、乱暴はだめ」


「でも!」


「ちょっと待って!」


フミと真紀と呼ばれた女性の二人は、ニナの鋭い声に言い合いを止める。


「説明して欲しいのはこっちだよ。真紀さんだっけ?なんでそんなに怒っているの?」














ミロクはフミに食事の約束を取り付けようと事務所内を見回すが、彼女の姿が見えない。スタッフに聞くと「外に出て行きましたよ」と言われ、慌ててミロクも事務所から飛び出した。


「フミちゃん!」


駅に向かって歩いているフミを呼び止めるミロクは、大きな声を出した事で周りの注目を集めてしまう。慌ててメガネと帽子を装着し、呼びかけに気づかず歩いていくフミを駆け足で追いかける。

足音に気づいて振り返るフミは少し驚いた顔をする。


「あの、食事、誘おうと思って……」


体力だけはオッサン並みのミロクは、息を切らしてフミを食事に誘う。嬉しそうに「はい!」と言ったフミだが、目の前に影が入って一瞬何が起きたのか分からず混乱する。


「アンタ、誰?」


フミとミロクの間に入った影は、メガネをかけた黒髪の女性だった。威嚇するように両手を広げ、ミロクの前に立ちはだかる。


「真紀ちゃん、この人は事務所のタレントさんで、大崎ミロクさんだよ」


「事務所のタレント?……タレントだからって、なんでフミと食事ってなるのよ」


「えっと……」


フミがどう言ったものか困った顔をしているのを見たミロクは、どうにかしなきゃと口を開こうとした時、天の助けが入った。


「お兄ちゃん?……あ、フミさんお久しぶり。どうしたの?」


実は少し前にミロクとフミを見かけた妹のニナは、二人でデートかと思いそのまま通り過ぎようとしていた。

が、思わぬ第三者の登場で、空気を読み割って入ったのだ。何となく兄のピンチを感じたというのもある。高性能なブラコンパワーである。

ミロクがニナに「ごめん、助かった」と、小声で言う。


「まぁ、とりあえず……食事でもしながらゆっくり話さない?」


大崎家直伝の美形スマイルを兄妹で発動。有無を言わさず四人で、ヨイチ推薦の洒落たスペイン料理屋へ向かったのであった。














「で、真紀さんは何故そんなに怒っているの?」


貝のオイル煮などのおつまみと数種類のサングリアを並べ、先程よりも少し落ち着いた真紀は、ニナの言葉を受けてゆっくりと話し出す。


「だって、フミには好きな人がいるって話でしたから」


「「「ええ!?」」」


驚く大崎家の兄妹……と、フミ。


「ちょっと、なんでフミまで驚くのよ。アンタが言ったんでしょ?『ヒーローに会った!』って」


「ふぇぇええ!?」


(それってもしかして……)


顔を赤くするフミをそのままに、真紀はひたすら語る。


「喫茶店にいた暴漢を取り押さえたって。顔はよく見えなかったけど、オシャレじゃないジャージで、髪はボサボサで長く、重量級の柔道家みたいな体型だったって。熊っぽい感じだったけど、すごく格好良かったって。フミは今までそんな事一度も無かったんです。だからフミの恋を応援しようって思ってたのに……アンタが邪魔してるみたいだから」


そう言ってミロクを睨みつける真紀。

そんな真紀を三人は何とも言えない気持ちで見ていた、


(そういえば真紀に、そのヒーローがミロクさんって言ってなかった?)

(それって、オレの事だよね?え?フミちゃんの恋?)

(喫茶店で暴漢……兄さんのこと……だよね?)


鼻息荒く語る真紀に、どうしたもんかと考えるミロクであった。










お読みいただき、ありがとうございます。


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