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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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56、悩みそれぞれ。

今日のミロクの仕事は終了だが、事務所に戻って書類整理してから帰るというフミに、「俺も社長と話があるから」と、半ば強引に事務所まで一緒に戻る。


「社長、ちょっと良いですか?」


「ん?ああ、いいよ」


事務所に入るなり、自分を呼ぶミロクの声にヨイチは少しビックリする。いつもの柔らかい声ではなく、ミロクには珍しい緊張感のある声だったからだ。

ミロクがヨイチを『社長』と呼ぶ時は、344(ミヨシ)関連ではない話があるという事だ。そして結構厄介な案件が多い。

二人で会議室に入ると、ヨイチは備え付けの冷蔵庫からペットボトルの水を二本取り出し、一本をミロクに放った。


「で、この前の『喫茶店でミロク君が同級生ハーレム作ってた』という件で、フミと何かあったのかい?」


「なぜフミちゃん関連だと!?……って、まさか喫茶店での出来事をフミちゃん知ってるんですか!?」


「誰も何も言ってないよ。フミが知ってただけで」


「え……それって……」


(じゃあ、あの元気の無い感じは、俺のせい……とか?)


自分の行動で彼女が一喜一憂していると自惚れて良いのだろうかと、ミロクは自然とニヤけている顔を手で押さえる。

ただそれも一瞬のことで、元気の無いフミは自分の所為だとしたら、とても悲しい事だとミロクは落ち込む。

赤くなったり青くなったりするミロクに、ヨイチはため息を吐いた。


「まぁそれはともかく。ミロク君は何で僕を呼んだの?」


「まぁ、その、フミちゃんを食事に誘おうかと……」


「ふむふむ」


「なので、良い店を教えてください」


「食事だけ?」


「はい。今回は」


「……まぁ、しょうがないか。フミの機嫌が直ると良いけどね」


渋々承諾したヨイチに、ミロクはホッとして肩の力を抜く。これでフミの元気が無い理由が分かれば、二人の仲も進みそうだと笑顔になるミロク。

ペコリとお辞儀をしてウキウキと会議室を出て行く彼を、ヨイチは苦笑して見送るのであった。










事務所のパソコンで早速検索をしていると、ミロクの背がズッシリと重くなる。


「……何ですかシジュさん。俺は今世紀最大の集中力で店を検索してるんですけど」


「だから邪魔してんだよ。あー疲れたー。もう次回もメインはミロクで良いじゃねぇか。なんで俺のソロ入れるんだよ」


「それはプロデューサーの意向ですから、しょうがないですよ」


「俺、ダンス担当なのによぅ……」


ここ最近のシジュは、ボイストレーニング集中講座を受けている。

ちなみにヨイチはシャイニーズ時代の経験である程度基礎が出来ており、シジュほどやる必要は無かった。「ヨイチのおっさん何気にハイスペック……」とシジュは羨ましげに呟いていた。


「シジュさんは土台が良いし、歌も上手くなると思いますけど?その腹筋と背筋を生かせますよ?」


「音をとるっつーのが、訳分かんねぇ」


「えっと、じゃあ俺の声に合わせてみてください。Mmmーーー♪」


「Mmー♪……な?違うだろ?」


「合ってますよ?」


「へ?」


シジュのキョトンとした顔は珍しく、ミロクはつい吹き出す。ムッとしたシジュに謝りつつ、デスクにいるヨイチの所に行く。


「ヨイチさんちょっと良いですか?この音出してもらえます?Mmーー♪」


「ん?……Mmー♪」


「はいヨイチさんの音をシジュさんも」


「Mmー♪……だろ?」


「そうです。今の三人の音は同じですよ。シジュさんはヨイチさんの音とは同じだと思いました?」


「ああ、でもミロクと合ってない感じだった」


「声質が違うだけで、音は合ってますよ。シジュさん耳が良すぎるんです」


ミロクの声質はテノールで高音を出しやすく、ヨイチとシジュはバリトンで低音を出しやすい。女性と男性のように、男性同士でも声の高い低いがある。シジュはそれを「違う」と感じていたようだった。


「俺が家でやってる自主練は、口を閉じて思いっきり声を出すのと、バケツかぶって自分の音を聞きながら歌うってやつですね」


「マジか。お前すげぇな……まぁ、やってみるわ」


「意外とシジュは真面目だよね」


「うるせー」


少し安心したような顔をしたシジュの様子を見て、ヨイチは目でミロクに礼を言う。

ミロクはこういう悩みなら解決方法もあるのになと、離れた場所で茶色のポワポワ猫っ毛を揺らし、一生懸命仕事をするフミを見ていた。









お読みいただき、ありがとうございます。


話の流れがスムーズにいきません( ;´Д`)

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