55、盛り上がりと焦り。
遅くなりましたm(_ _)m
「久しぶりだね、フミちゃん」
「そうですね、ミロクさん」
ミロクはバックミラー越しのフミに甘く微笑むと、ほんのり頬を染めて笑顔を見せる彼女に内心悶える。
無論、表情は一切変えずに動揺は表に出さない。ミロクはフミに対しては常にオトナの余裕?を見せるよう、必死な努力を日々積み重ねている。
ヨイチやシジュから「黒い!」と不評だった「フミちゃんをメロメロにして惚れさせる大作戦」は、最近の忙しさになりを潜めていたが、今日は珍しく二人で行く仕事だ。
ミロクは俄然盛り上がっていた。
そしてそんな中、密かにフミは焦っていた。
(ミロクさんが学生時代も女の子から人気があったなんて……)
フミが初めてミロクを見たのは、喫茶店で暴漢を取り押さえていた時だ。
その時のミロクはスポーツジムに通い始めていた頃で、彼は今のような引き締まった体躯ではなかった。それでもフミはミロクのことがすごく魅力的に見えたし、ヒーローだとも思っていた。
喫茶店にいたのは偶然だった。
子ども連れの綺麗な女性と、今まで見せたことのない表情をしていたミロク。
休日ながら事務所でヨイチと打ち合わせをした帰り、もしや会えるかもという下心をフミは持ちつつ、ミロク達とよく入る喫茶店に寄ることにした。
案の定、オフのミロクが入ってきた……が、女性連れだった。
なぜか店員さんに気を使われ、席の移動するか聞かれたフミは、そのまま逃げるように喫茶店から出て行った。
そして店を出る瞬間、聞こえてきた「高校の時、女子で一番人気だった」という言葉。
(外見関係なくミロクさんに魅力があると知っているのは、私だけかと思っていたのにな……)
運転しながら、こっそりバックミラーでミロクを見るフミ。整った顔を窓の外に向け、時折眩しそうに目を細めているミロクからは、大人の色気みたいなものをすごく感じる。
そんなミロクの一つ一つの動作に目を奪われるフミは「だいぶヤラれている」のだろう。彼女にはその自覚はある。
「どうしたの?フミちゃん」
「へ?な、何がですか?」
「なんか今日元気ない感じで、今も何か考え込んでいるみたいだし……何かあった?」
純粋に心配するミロクの気持ちはありがたいが、悩みの根源である人にフミが言えるわけもなく……頑張った笑顔で「大丈夫です!」と答えるのが精一杯だった。
いつもの雑誌モデルの撮影が終わり、すっかり顔なじみの出版社の担当の女性と雑談をするミロク。マネージャーのフミは外で電話をしているのを見て、これはチャンスとミロクはその女性に話を振った。
「あの、二十代の女の子の悩みって、どんなのがありますかね」
「あら、ミロクさんの気になっている子ですか?」
「はい、まぁ……」
少し照れて笑うミロクを見た女性は、微笑ましいと笑顔になる。ミロクの年齢を知ってはいるが、どうしても彼の事を学生みたいに見えてしまうのだ。
「やっぱりその年代は、恋の悩みじゃないかと思いますけど」
「恋……ですか」
フミに好かれている自信はあるものの、それを悩んでしまっているとしたら、恋愛偏差値ゼロのミロクには手が出せない領域だ。
ムムムと悩むミロクに、そうですねぇ…と悪戯を思いついたような顔になる女性。
「お洒落な場所で食事しながら、その子の悩みを聞き出すとか?」
「食事……ああ!そうだ!俺、その子と食事に行こうって話をしてたんだ!」
ミロクの素の表情に、息を潜めて会話を聞いていた周囲の人達は我慢できずに笑い出す。
「ちょ、皆さん、俺真剣なんですけど!」
「いや、ごめんごめん、つい微笑ましくて……」
「なんで皆さん聞いてるんですかぁ、恥ずかしい……」
「いやいや、そりゃ聞いちゃうでしょ」
赤くした顔を隠すように片手で顔を隠すミロクの所に、電話を終わらせたフミが来て、笑いの途切れない現場に首を傾げていた。
相手がフミだと知られなかった事だけは良かったんだと自分に言い聞かせつつ、ネット経由でフミと行く食事の場所探しに勤しむミロクであった。
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