53、テレビ初出演と同級生。
トークのコーナーが終わり歌に移る。
大崎家では深夜にも関わらず家族全員がリビングにて、先日の収録の放送をリアルタイムで鑑賞していた。
さすがにミロクは恥ずかしくなり途中から自室に行こうとするも、姉と妹に両サイドを固められ逃げられないようにされている。
(何の拷問だ……)
画面の中で歌う自分を見ているミロクは、他人を見ているように感じていた。カメラワークが良い為か、しっかり歌って踊れているように見える。
実際はカチコチで、声に余計なビブラートがかからないようにするのが精一杯だったりする。
ミロクは番組スタッフにカメラに目線が必要だと言われ、現場では赤いランプをみるように気をつけていたのだが、その通りにしていると勝手に流し目を送る形になっていた。
(すごい。技術がすごい。俺が色っぽく見えてる)
それは盛大な誤解である。ミロクはもともと視線が色っぽくなるフェロモン王子なのだから、技術の一言では成し得ない映像であるはずなのだが、彼は心の中でカメラマンに盛大な拍手を送っていた。
流れている映像では、ヨイチは元アイドルとしての技術を如何なく発揮し上手くカメラに捉えて貰っている。
そしてシジュは元ホストのスキル『自分を魅せる』仕草でダンスを彩っている。それがまた彼の魅力を存分に引き出していた。
毎日の練習の成果と、ここ二ヶ月のイベントの経験が、ラストの三人の揃ったダンスステップにしっかりと出ているのが分かる放送となった。
(うん。あの日はミスがなくて、一発でOK出たんだよね)
「これは会社に自慢してしまうな!」
「もう、お父さんはいつもミロクを自慢してるくせに。お母さんもご近所に自慢しちゃうわ」
「この中ならミロクが一番若く見えるわね!」
「今回のヘアメイクの人、やるわね……」
両親は息子自慢する気満々だし、姉ミハチはなぜか満足げで、妹はくやしそうだった。何故に?
ミロクは家族の反応に首を傾げながらも、誇らしい気持ちがミロクの胸にジワジワと湧いてくる。自然と笑顔になる。
そんなミロクに家族も笑顔になっていた。
「もしかして、大崎くん?」
期間限定の週末イベントも終わり、久しぶりに丸一日オフのミロクは、本屋に向かって歩いているところを子供連れの女性に声をかけられる。
「大崎くんじゃない?すごく……痩せた?」
そのショートカットの女性は、三、四才くらいの女の子を抱き上げると自信無さそうにミロクを見る。その表情には憶えがあった。彼女はいつも彼をそんな表情で見ていた。
「えっと……金町さん……かな?」
「そうだよ!良かったぁ、思い出してくれて」
笑顔になった彼女を見て、ミロクは思い出せて良かったと内心冷や汗をかいていた。高校時代のクラス委員だった彼女は、単位ギリギリで学校に通っていたミロクにノートを見せてくれたり、家に課題のプリントを持ってきてくれたりと、何かと世話を焼いてくれる優しい人だった。
「ごめん、すぐ思い出せなくて。イメージ変わったね。昔は長い髪だったから」
「そうなの。娘が生まれてから髪の手入れが面倒で、ショートにしてるの。楽だから」
「そっか。ショートも似合ってて可愛いよ」
「か、かわ……もう!相変わらずなんだから!大崎くんのタラシ!」
「えー?」
ミロクは高校の二年頃までイジメを受けていたが、名の知られた進学校の三年にもなると皆忙しく、イジメなどをする余裕のある生徒はいなかった。
高校最後の一年を穏やかに送れるようになったミロクは、隣の席でもあった世話焼きな彼女……金町秋香とは奇跡的に挨拶程度のやり取りが出来ていた。
そんな二人の距離が近づいたのは、高校三年の夏前の事だ。
男子のクラス委員をやっていた生徒が諸々の理由で辞めることとなり、その役をミロクに押し付けたのだ。最初こそやる気のなかったミロクだが、女子のクラス委員が金町だった事もあり、彼女を手伝うためにクラス委員を引き受けたのだ。
とは言っても、受験生である彼らにそこまで仕事がある訳ではなかった。
そのため特別彼女と距離が近づいたという訳では無いのだが、友人のいないミロクにとって一番近しい存在が金町だったのだ。
「今日から娘を連れて実家に戻っているの。大崎くんに会えるなんてビックリしたよ。今日は平日だけど、今は何をやってるの?」
「ああ、アイドルだよ」
「は?」
「アイドルデビューしたんだよ」
「はぁあ?」
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