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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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46、近所の商店街でお披露目会。後編

遅くなりましたm(_ _)m

 心臓の音が、また大きく早くなるのをミロクは感じている。

 決して大きくはない舞台だが、ミロクにとっては大きく感じていた。

 顔見知りが多いからか、地元だからなのか、自分自身なぜそんなに緊張しているのかは分からない。


「ミロクさん?」


 クリッとした目を向けるポワポワな茶色頭の子が、心配そうに呼びかける。

 急に周りの音が静かになったような気がする。ミロク自身の心臓の音さえも。


 深呼吸をする。


「大丈夫、行ってきます」


「はい、いってらっしゃい!」


 フミに向けた笑顔をそのままに、ミロクは舞台に上がる。後ろからヨイチとシジュが甘いものを無理やり食べさせられたかのような表情で、追っ付け上がった。ワッと上がる歓声。

 広場は今や所狭しと人に溢れ、前列のパイプ椅子の前には小さな子供達が体育座りをしていた。


「改めまして、メインボーカルのミロク、三十六歳です!」


「コーラスのヨイチ、四十一歳と…」


「ダンス担当シジュ、四十歳」


「三人合わせて…」


「「「344(ミヨシ)です!よろしくお願いします!」」」


 会場は拍手に溢れる。三人はぺこりとお辞儀した。


「本日は俺たちのデビュー曲『puzzle』のお披露目会ということで、地元であるこの商店街にイベントという形で開催させて頂きました。いつもお世話になってる本屋のお姉さん!喫茶店の店員さん!ありがとうございます!」


 ミロクが手を振ると、女性たちの歓声が上がる。


「お姉さんばっかじゃねーか…俺のかわい子ちゃん達は来てるかな?」


 シジュが流し目を送ると結構な歓声が上がる。ホスト時代の客と今のファンが合わさったようだ。


「スポーツジムの人達もありがとう!あ、バーの常連さんも来てるね、ありがとう!」


 ヨイチの穏やかな笑みに当てられた妙齢のご婦人のため息と、関係者のあたたかい拍手が送られる。


「この軍服みたいな衣装は、今回の曲がアニメ『ミクロットΩ』の挿入歌ってことで、敵役のキャラクターの衣装なんです。俺たち344(ミヨシ)がキャラクターとしてアニメに登場するんですよ」


「まだアニメは放送してねぇから、まぁ事前の宣伝活動も兼ねてるな」


「僕たちが主人公の女の子達よりも早く動いて、先にファンを作ってしまおうって話でもあるね」


「黒いなヨイチ!」


 会場が笑いに包まれる。


「ヨイチさんは宰相ですから作戦はお手の物ですね。シジュさんは騎士……前はだけてますよ」


「うるせぇ、こういう衣装なんだよ」


 そう言いながら思いっきり前をあけるシジュに、会場からは悲鳴が上がる。前列のお嬢さん方の顔は真っ赤だ。地黒らしい肌は小麦色で、綺麗についた筋肉は照明の手伝いもあって美しい。

 そんなシジュを直視してしまったお嬢さんは、こっそりティッシュを鼻に詰める。


「ミロク君の王子は、そのままって感じだよね。白い王子様だね」


「やめてください!俺の黒歴史!」


「白いのに黒歴史なのか?」


「あはは抉りますねシジュ」


「酷いですシジュさん」


「俺かよ!!」


 三人の掛け合いに、都度会場は笑いに包まれ、穏やかな雰囲気になっていった。


「いやぁ、それにしても今回は緊張しました!」


「地元だからかな。気合い入りすぎたよ」


「大丈夫かミロク、一曲でこれじゃ体力もたねぇぞ?」


「もうオッサンなんですから、そもそも無理なんですよ」


「僕らも四十代ですからね……ん?ありがとう」


 会場からは「若い」「見えない」の声が上がる。


「おいおい甘やかすなよ。……でもきついから、次があればバラードにしてもらおうぜ。ミロクの歌メインの」


「サボる気満々じゃないですか!」


 再び笑いが起きる。ミロクが会場の客に「シジュさん酷いですよね」と声をかけると、前列の人妻らしき女性からは「可愛い!」としか声をかけてもらえず微妙な顔のミロクに、ヨイチとシジュは吹き出した。


「ミロク君は本屋によく行くって言ってたけど、何買うの?」


「漫画かラノベですね」


「ああ、あのタイトルが長いやつ?」


「短いのもありますけど、深夜アニメの原作がラノベってパターンが最近多くて、原作探したりします」


「ヨイチのおっさんは本読むのか?」


「僕は推理モノとか、ミステリーとか。サイコサスペンスも読むかな」


「「うわー、似合うー」」


「……どういう意味かな?」


「あ、シジュさんは?シジュさんの好きなジャンル!」


「俺は雑誌コーナー以外行ったことねぇな。漫画もそこで読んで終わる」


「えー!そうなんですかー」


「そんな事ないよ、僕この前シジュを文芸書のコーナーで見たよ?『げっ歯類の国で起きた魔法』っていう、ほっこりする話を立ち読みして鼻すすってたのを」


「シジュさん……ほっこり」


「ちょ、待て!俺にほっこりすんな!鼻も風邪ひいてたからたまたまで……」


 会場もほっこりとした空気になる。うがーっと叫ぶシジュの目元は赤い。

 ニヤニヤしているミロクの頭をグリゴリするシジュを横目で見つつ、ヨイチはスタッフのカンペを見る。


「ほらほら二人とも、この後に商店街の方々のご好意で、サイン会が出来るみたいだよ。サインする色紙とかない人には、344Tシャツ色違いが一着五百円で用意しているから、良かったらどうぞ!」


「白と青と赤があります!」


「キャラの色だな」


「たくさんあるので、焦らず僕らとのひと時を過ごしてね」


「それでは…せーの!」


「「「344(ミヨシ)でした!!」」」






お読みいただき、ありがとうございます。

商店街イベントが、思った以上に長くなってしまった…


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