45、近所の商店街でお披露目会。中編
歌詞が文字数を奪っていて申し訳ないです。
商店街の中心は広場になっている。
普段は買い物の休憩や、子供達の憩いの場になっているスペースには、今日だけの舞台が設置されている。
その周りに設置されているパイプ椅子の客席はほとんどが埋まっていて、ミロクの顔見知りも多い。
後ろの方には、以前会った声優の大野が数人と一緒に来ていた。
(もしかして、ヨイチさんとシジュさんの役の人?)
知らず気合の入るミロク。彼らにはしっかりと344(ミヨシ)を見てもらいたいと思っていた。
「よし、行こうか」
「はい」
「おう」
舞台裏の天幕から舞台に上がる三人。そのままゆっくりお辞儀をする。
ミロクは白を基調にした軍服、ヨイチは青、シジュは赤。
コスプレと軽く見る人は驚くだろう。衣装を着た彼らの存在は場の空気をガラリと変える。
会場は温かい拍手に包まれ、顔を上げた三人はそれぞれ何か込み上げているようだ。それを振り切るようにミロクは一歩前に出て、マイクを手に取る。
左手を前に伸ばすミロク。会場はしんと静かになった。
そのまま大きく息を吸い、心地良いテノールが響き渡る。最初のフレーズはアカペラで。
『きっともう、離れない……』
百二十くらいのテンポで、軽快なストリングスと時折入るティンパニに嫌でも前奏で盛り上がる。
ポップに思えるのにヨイチとシジュの大人な雰囲気と複雑なステップが、この曲がどうなるのかを期待させた。
歌に入るとダンスは止まり、マイナーコードを入れてミロクが歌に入る。
『何もない毎日、同じ事を繰り返す
そんな時間は味気なく、僕は下を向いて歩く
つまづいて転んだら、もう起き上がりたくなくて。
そこに現れた君は、僕を見て笑って言った』
ミロクの後ろでヨイチとシジュのコーラス。立ち位置をクロスさせながら、サビの手前の盛り上がりを演出する。
『「下向いて転ぶなんて変な人。そんな所も可愛いけれど、たまには上向いたら?」って…』
入ってくるドラムとギターに三人のステップがピタリと合う。会場もワッと盛り上がり手拍子が出る。
ミロクの良く通る声と綺麗な高音は、彼の日々の努力をしっかりと反映させている。皆うっとりと聞き惚れるその声に、追って入るヨイチとシジュのバリトンのハモりも綺麗に重なり、初期から見てきた客たちは彼らの努力を思い瞳を潤ませる。
『僕は君に恋をした。そんな簡単な話じゃない。
恋はするものじゃない、落ちるものでもないんだよ。
僕はハマってしまった。君にハマってしまった。
それはもうぴったりと、隙間のないパズルのように。
君は僕に恋をする?そんな都合のいい話?
恋は一人でも出来る。そうやって自分を慰める。
僕はハマってしまった。君にハマってしまった。
二つで完成するパズル、それが君と僕ならいい』
間奏での三人のダンスは、ステップだけでなく上半身での表現も入り、からかうようなヨイチとシジュにミロクは怒るジェスチャーをする一幕に、会場は都度盛り上がる。
Cメロに入るとミロクは遠くを見るように歌う。
『君の出した三つの願い、いつも一緒、いつも笑顔
最後の一つは……』
ミロクはマイクを外して最後は唇だけ動かす。
何を言ったのか分からないが、言った後に甘く微笑むミロクのフェロモンに、前列にいたお嬢さん達は倒れる寸前だ。
『君はハマってしまった。僕にハマってしまった。
二つで完成したパズルは、きっともう離れない』
何度かサビを繰り返し、歌が終わって息を切らせて踊る三人。
ポーズを決めて曲が終わると、三人で支え合う。ミロクは緊張とやり遂げた感で座り込みそうになっていたのだ。なんとか息を整え、ミロクは会場に曲名を告げた。
「344(ミヨシ)、デビュー曲『puzzle』でした。ありがとうございます!」
大盛り上がりとなっている会場。気がつくと商店街の人はほとんど広場に集まっていたらしく、急に増えた人の入りに警備の人達やスタッフが慌てている。
会場を落ち着かせるのと、一部お嬢さん達を落ち着かせるのとで、トークショーに入る前に時間を置くことにした。
天幕に入った三人は、息を切らして座っている。ミロクは顔を真っ赤にしていた。
「どうしたミロク、暑いか?」
「い、いえ、ノリノリで歌ってましたけど、めっちゃ恥ずかしいです…」
「え?恥ずかしい?ミロク君が?」
まさかの恥ずかしい発言に、ヨイチは驚く。なんでも淡々とこなしているように見えたミロクに、こんな感情があるとは……などとヨイチは呟いている。何気に酷い。
「これって俺が考えた歌詞ですよ。裸にされたかのような、日記を見られたかのような感覚……絶対ヨイチさんとシジュさんの作った歌詞も曲付けて歌わせるように、プロデューサーに訴えてやる!」
「おい!俺を巻き込むな!」
「僕は歌に自信ないんだけど……」
「問答無用です!楽しいですよって言えばやりそうだし、あの人」
「楽しいのはミロク君だけでしょ?」
「勘弁してくれ……」
トークショー開始の言葉に、オッサン二人はなぜかさらに疲れた顔をしていて、ミロク一人ホクホク顔で天幕を出るのであった。
お読みいただきありがとうございます。
表現が難しくて時間がかかりました…m(_ _)m




