41、ラジオ放送日の弥勒。後編
今回、ほぼオッサンが熱く語るシーンです。
爽やか柑橘系の飲み物とご一緒にお読みいただければと思います。
「始めは君たち344(ミヨシ)のコーナーで、増えた感じだったんだ。そこでまず我々が思ったのが『ネットの力』だったよ」
五十代であろうプロデューサーはゆったりと語り出した。
「君達のファンサイトでは、ラジオ放送の動画を流していた。ラジオはあくまでも『音』を流すものだ。だが最近はそれだけでは立ちいかない。あらゆる方法で生き残る術を見つける必要がある。
『KNOCK・3』では従来のラジオ放送しかやっていなかったから、十五分とはいえ構成作家もスタッフも最小限で、さらにラジオ放送の動画も流す『ミヨシ!』は、番組にとって実験的なコーナーでもあったんだ」
プロデューサーの言葉を頷きながら聞いていた、チェケラも口を開く。
「俺は最初反対だった。五年週二回欠かさずやってた三時間番組は俺のだったし、毎回面白いコーナーを考えてリスナーとやり取りして、それで良いと思ってたんだ。
でもプロデューサーの知り合いとやらにゴリ押しされて、十五分取られて聴取率も上がって、俺は正直辛かった。素人の三人に……まぁヨイチはアレだけど、そんな人間に何が出来る、珍しいだけだろって。でも違った」
チェケラのかけているサングラスの奥の目は見えないが、なぜか光ったように周りの人間は感じていた。
戸惑っていたミロクは、彼の話に引き込まれていく。さすが人気DJだ。
「こいつら三人には世界観があった。伝えたいのは世界観だって。三人の意味がないように思えるやり取り……その世界観こそが、彼らのファンになったリスナーが求めているものだった。
ラジオは面白い事をやるだけじゃない。ラジオは、放送っていうのは『伝える事』なんだってな。なんか目が覚めた気分だったよ」
チェケラが言い終わると、ディレクターが引き継ぐ。
「チェケラさんの意識が変わって、制作スタッフも今までにない意見を言ったり、やり取り出来るようになった。面白いと思った事を発信するだけじゃなく『伝えよう』という意識を持つと、今までやっていた内容と同じ事でも違うように聴こえたんだ。そしてそれが最近さらに上がった聴取率に出たと思っている」
会議室内が暑く感じるほどの熱気を帯びる。作り手とは情熱の塊なのだとミロクはヒシヒシと感じていた。
ふと気づくと、ラジオ番組のスタッフ達は皆ミロクをじっと見ている。
(え?何?何で見てるの?)
慌てるミロクは、救いを求めてメンバー二人を見る。
「始まりはミロク君だからね」
「おう、ミロクがいなかったら俺もここにはいねぇな」
ヨイチとシジュがニヤニヤしながら言い、ミロクの頭を交互にワシワシと撫でまくる。
「やめてくださいー」と情けない声で止めさせ、くしゃくしゃになった髪を涙目で整えるミロク。
「それともう一つ。この十五分のコーナーは、344(ミヨシ)デビューまでという事で秋には終わる予定だった」
「そうだったんですか。寂しいですね」
ミロクは素直に言うと、プロデューサーがそうだろうとウンウン頷く。
「そこでだ。同じく秋で終わる『KNOCK・3』の後にやってる三十分枠に、『ミヨシ!』を入れるってのはどうかと思ってね」
「へ?番組の1コーナーじゃなくですか?」
「デビューしてからこそが勝負だろう。売れる手段は多く持っていた方が良い」
ロマンスグレーなプロデューサーは、少年のようなキラキラした目でニッコリ笑う。
「それに、これは君のところのプロデューサーには、まだ言ってない」
「それは……」
「うん」
「いいな!」
三人は目を合わせると、ヨシと気合を入れる。
「そうと決まれば先方が文句言えないくらいの企画を作っちまおう!」
「DJの本気も見せてやる!全面的に『ミヨシ!』をバックアップさせてもらうぞ!今日の番組中にでも弄るから覚悟しておけよ!」
ワッと盛り上がる室内で、ミロクは少し呆然としていたが、徐々に笑顔になる。
その笑顔に数人いた女性スタッフはもれなく立ち上がれなくなり、男性スタッフが飲み物の補充をする羽目となった。
(あの動画で、こんな事になるなんて……でも、もう迷わない)
ヨイチに言った決意は、ミロクの心を未だ熱くさせている。
尾根江の予想を上回るほどの、344の魅力を世間に精一杯広めてやる。
ミロクは決意を新たにしながら、ヘロヘロな女性スタッフの介抱をしてあげていた。
お読みいただき、ありがとうございます。




