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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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41、ラジオ放送日の弥勒。後編

今回、ほぼオッサンが熱く語るシーンです。

爽やか柑橘系の飲み物とご一緒にお読みいただければと思います。

「始めは君たち344(ミヨシ)のコーナーで、増えた感じだったんだ。そこでまず我々が思ったのが『ネットの力』だったよ」


 五十代であろうプロデューサーはゆったりと語り出した。


「君達のファンサイトでは、ラジオ放送の動画を流していた。ラジオはあくまでも『音』を流すものだ。だが最近はそれだけでは立ちいかない。あらゆる方法で生き残る術を見つける必要がある。

『KNOCK・3』では従来のラジオ放送しかやっていなかったから、十五分とはいえ構成作家もスタッフも最小限で、さらにラジオ放送の動画も流す『ミヨシ!』は、番組にとって実験的なコーナーでもあったんだ」


 プロデューサーの言葉を頷きながら聞いていた、チェケラも口を開く。


「俺は最初反対だった。五年週二回欠かさずやってた三時間番組は俺のだったし、毎回面白いコーナーを考えてリスナーとやり取りして、それで良いと思ってたんだ。

 でもプロデューサーの知り合いとやらにゴリ押しされて、十五分取られて聴取率も上がって、俺は正直辛かった。素人の三人に……まぁヨイチはアレだけど、そんな人間に何が出来る、珍しいだけだろって。でも違った」


 チェケラのかけているサングラスの奥の目は見えないが、なぜか光ったように周りの人間は感じていた。

 戸惑っていたミロクは、彼の話に引き込まれていく。さすが人気DJだ。


「こいつら三人には世界観があった。伝えたいのは世界観だって。三人の意味がないように思えるやり取り……その世界観こそが、彼らのファンになったリスナーが求めているものだった。

 ラジオは面白い事をやるだけじゃない。ラジオは、放送っていうのは『伝える事』なんだってな。なんか目が覚めた気分だったよ」


 チェケラが言い終わると、ディレクターが引き継ぐ。


「チェケラさんの意識が変わって、制作スタッフも今までにない意見を言ったり、やり取り出来るようになった。面白いと思った事を発信するだけじゃなく『伝えよう』という意識を持つと、今までやっていた内容と同じ事でも違うように聴こえたんだ。そしてそれが最近さらに上がった聴取率に出たと思っている」


 会議室内が暑く感じるほどの熱気を帯びる。作り手とは情熱の塊なのだとミロクはヒシヒシと感じていた。

 ふと気づくと、ラジオ番組のスタッフ達は皆ミロクをじっと見ている。


(え?何?何で見てるの?)


 慌てるミロクは、救いを求めてメンバー二人を見る。


「始まりはミロク君だからね」

「おう、ミロクがいなかったら俺もここにはいねぇな」


 ヨイチとシジュがニヤニヤしながら言い、ミロクの頭を交互にワシワシと撫でまくる。

「やめてくださいー」と情けない声で止めさせ、くしゃくしゃになった髪を涙目で整えるミロク。


「それともう一つ。この十五分のコーナーは、344(ミヨシ)デビューまでという事で秋には終わる予定だった」


「そうだったんですか。寂しいですね」


 ミロクは素直に言うと、プロデューサーがそうだろうとウンウン頷く。


「そこでだ。同じく秋で終わる『KNOCK・3』の後にやってる三十分枠に、『ミヨシ!』を入れるってのはどうかと思ってね」


「へ?番組の1コーナーじゃなくですか?」


「デビューしてからこそが勝負だろう。売れる手段は多く持っていた方が良い」


 ロマンスグレーなプロデューサーは、少年のようなキラキラした目でニッコリ笑う。


「それに、これは君のところのプロデューサーには、まだ言ってない」


「それは……」

「うん」

「いいな!」


 三人は目を合わせると、ヨシと気合を入れる。


「そうと決まれば先方が文句言えないくらいの企画を作っちまおう!」


「DJの本気も見せてやる!全面的に『ミヨシ!』をバックアップさせてもらうぞ!今日の番組中にでも弄るから覚悟しておけよ!」


 ワッと盛り上がる室内で、ミロクは少し呆然としていたが、徐々に笑顔になる。

 その笑顔に数人いた女性スタッフはもれなく立ち上がれなくなり、男性スタッフが飲み物の補充をする羽目となった。


(あの動画で、こんな事になるなんて……でも、もう迷わない)


 ヨイチに言った決意は、ミロクの心を未だ熱くさせている。

 尾根江の予想を上回るほどの、344の魅力を世間に精一杯広めてやる。


 ミロクは決意を新たにしながら、ヘロヘロな女性スタッフの介抱(トドメ)をしてあげていた。









お読みいただき、ありがとうございます。


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