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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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37、オフな弥勒と司樹。

「休みなのに、休みの気がしないです」


「そりゃお前、ジムに来るからだろう」


「ヨイチさんは?」


「社長業だ」


「過労で倒れるんじゃないですか?」


「ま、倒れるなら体力の差でミロクが先だろ」


 再びオフなミロクはスポーツジムに来ている。これは習慣みたいなものであり、今日も朝の走り込みが出来なかったからというのもあった。

 ジムのトレーニングルームにて、シジュと二人で柔軟運動をするミロク。毎日ストレッチをしているからか、シジュほどではないが体が柔らかくなってきたような気がしている。

 ちなみにシジュは横百八十度の開脚が出来る。不真面目ホスト時代を過ごしていたくせに、ダンサーとしては真面目だったオッサンである。


「シジュさんもオフなのに、トレーニングなんて真面目ですね」


「アイドルは体づくりも大事だろ」


「そうですね。アイドルですもんね」


 アイドルかぁ……と呟くオッサン二人は、遠い目をしながらサイクリングマシンを漕ぐ。


「……俺さ、この歳になってキャーとか言われるなんて、想像してなかったわけよ。それが昨日のイベントで何か知らねぇ内にファンとかいるし、昔の客以外からも声かけられるし……何つーか、感動?したっつーかさ」


「はい。分かります」


「や、ミロクは想像ついてたけどな。ヨイチのおっさんも若い時とはいえアイドルだった訳だし」


「シジュさん格好良いですよ。ホストだったからこその視点とか気づかいとか、モテオーラあるし」


 モテオーラって何なんだよと笑うシジュは、文句無しに美中年だとミロクは思っている。態度や言動を粗雑にしているが、野性的だが整った顔に、背も高く足も長い。一般的に見て騒がれる人間に入るだろう。

 何故か低い自己評価に首を傾げるミロクだが、それは自分にも当てはまるとは気づいていないようだ。

 ヨイチもその傾向が強く、意外に三人とも似た者同士なのかもしれない。

 そんなシジュの横顔を見ていたミロクは、ふと思い出して礼を言う。


「あ、ニナの事ありがとうございました。助かりました」


「おう、なんか心配事がありそうな顔してたからな。あの二人が来た時、後ろ向いて部屋の隅にいたから、さすがにあの鬼畜な露出衣装で話しかけるのは無理だった」


「……アレじゃなきゃ話しかけたんですか?」


「そりゃもう美人姉妹だし……って、冗談だ。目が怖い。怖いんだよ」


 一瞬、周りの空気が凍ったように感じるくらい、ミロクの目と無表情は怖かった。冗談だと慌てるシジュを見て元に戻るも、姉と妹ネタでミロクを揶揄うのは危険だと心に刻むシジュがいた。


「ふふ……面白い冗談ですね……」


「お前、あのアニメの王子そっくりだな、優しそうに見えて冷酷な青年ってキャラクター説明にあったぞ?」


「なんだかんだシジュさんてアニメ詳しいですよね」


「勉強家と言ってくれ」









「悪いねフミ、休みの日に」


「大丈夫だよ。無事に終わって良かった。叔父さんこそ疲れてない?」


「体力はミロク君よりもあるからね。そのミロク君は今ジムにいるみたいだよ。夕飯でも一緒してきたら?」


「ええ!?」


 西日の差し込む事務所内で、ヨイチはパソコンの電源を落としながら冗談のように、半ば本気で言う。

 アワアワ真っ赤な顔で慌ててるフミを見て、苦笑するヨイチ。


「休みなのにジムでトレーニングしてるんだよ。シジュはともかく、ミロク君には休んでほしい。フミが行けば切り上げるだろうし……何よりもタレントの体調管理もマネージャーの仕事でしょ」


「あうう…」


 うめき声をあげるフミに、ほらほらと事務所から追い出す。









 シジュのジャージのポケットから、バイブ音が聞こえる。メールを確認してため息を吐く。


「呼び出しだ」


「女性?恋人とか?」


「そんな女いねぇよ。でも美人の頼みは断らない主義だから行くわ。ミロクはまだ居るのか?」


「スパでのんびりしてから帰ろうと思います」


「そうか」


「じゃあ、また明日ですね」


「おう」


 シジュは手早くスマホを操作し、足取り軽くシャワールームに向かって行った。


(ふむ。シジュさんは恋人がいない……作らないとか?)


 女性関係とか、プライベートな話をシジュはほとんどしない。

 まぁ、彼はヨイチには話しているようだから、ミロクが色々考えることでもないと思っているが、姉と妹を狙う可能性もあるという事が分かり、警戒レベルを上げるべきか悩むところだ。


(ヤるべきか、ヤらざるべきか……まぁ信用はしてるんだけど……)


 ミロクはシャワールームの隣にあるスパ施設に行くと、ぬるめの温度設定のジェットバスに浸かって、物騒な事を考えつつものんびりとした時間を過ごすのであった。






お読みいただき、ありがとうございます。

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