29、地下鉄の三人。
ニナにヘアセットしてもらっていたミロクは、自分の携帯が鳴っていることに気づいた。後ろのソファで寛いでいるシジュに頼んで出てもらう。
ミロクにかかってくる電話は、悲しい事に家族か事務所くらいだ。携帯を他人に触られることに抵抗はない。
シジュが画面を見ると、表示されてる名前が「如月ヨイチ」と出ていた。
「もしもーし、代わりに出たシジュだ。どうしたヨイチのおっさん」
<あれ、シジュ?もしかして今ミロク君と一緒にいる?>
「ああ、ミロク妹の美容院にいるぞ」
<ちょうど良かった!今からそっち行くから動かないで待ってて!>
「あ?ああ」
通話は一方的に切られてしまい、珍しく慌てているヨイチの事をミロクに伝えるシジュ。
ニナのゴッドハンドにより、少し硬めの毛先をふわりとさせているミロクは「ヨイチさんの慌ててるところって、あまり見ないですね〜」などと、ほんわか話していた。
「ミロクさん!シジュさん!」
すごい勢いで店に飛び込んでくるフミ。慌てて茶色のポワポワを受け止めるミロク。周りからはキャアキャアはしゃぐ声が聞こえ、シジュが「トイプードルみてぇだな、うちのマネージャー」と苦笑している。
その後ろから衣装らしきスーツを着たヨイチが駆け込んできた。キャーがギャーに近くなる。三人のイケメンにお嬢様達は大興奮みたいだ。
「二人とも、すぐにこの衣装着て!ニナちゃんここ借りれる!?」
「着替え用の部屋あるから。こっち」
フミに衣装を渡されたミロクとシジュは、分からないまま着替えていると、ヨイチがその間事情を説明しに来た。
「場所は銀座なんだけど、駅近いから電車にしようってなってる。モデルの仕事の前に一本仕事が入っちゃって……」
「これ、発表会の時のやつですよね?」
「今回はモデルというよりもインタビュー企画なんだよ。ラジオの公開放送前にねじ込むって話に尾…プロデューサーが無理やり持ってきて、出版社の人も泣きながら頼んでくるから断れなかった」
「まぁ、しょうがねーよ。時間がないから急ぐか。ミロク駅まで走るぞ」
「ええ!?」
「ここら辺は車混むから、歩きの方が早いんだ。着替えたかい?行くよ!」
四十越えたおっさん二人よりも運動を嫌がる三十代半ばのミロクに、フミとニナは吹き出しつつ見送るのであった。
「はぁ、はぁ、ヨイチ、さん」
「なんだい?」
「俺ら、すごく、目立って、ません?」
「そりゃそーだ、おっさん三人が派手めのスーツでダッシュだ」
駅まで走った三人は、一キロの距離の間にそれはもう注目の的であった。走って息が切れているのと、恥ずかしさに顔を赤らめるミロク。ヨイチとシジュは「視線は気にしてません」を装っているが、内心恥ずかしさでいっぱいだ。
「こういう時は堂々としていた方がいい。開き直って銀座まで耐えよう」
地下鉄で一時間、スーツ姿の高身長なイケメン三人に、周りは騒ついていた。
白い肌に長めの前髪をふわりと跳ねさせ、甘く微笑む王子様なミロク。
アッシュグレイの髪をすっきりと整え、はにかむ笑顔の正統派なヨイチ。
少し焼けた肌にウェーブかかった長めの黒髪をかきあげて、ワイルドなシジュ。
そんな三人が電車内で談笑しているのを想像してほしい。
目立つ。
とてつもなく目立つ。
乗客の中には344(ミヨシ)だと知って、サインを求める女性も数人いて、ヒヨッコアイドルの彼らはそんな女性達の対応をした。平日の為、人はそんなに多くなかったがSNSなどで「イケメンなう」とか、許可を得て撮った写真がどんどん拡散されている。
三人はちゃっかりラジオの公開放送をCMしたりして、思わぬ宣伝活動となった濃ゆい電車の時間だった。
「おい」
「何?」
「まさかあのプロデューサー、これを狙った訳じゃねーよな?」
「……無いとは言えないね」
「そうなんですか?恥ずかしかったです……でも三人だから良かったです」
ミロクがホワッと微笑むと、一瞬無言になるヨイチとシジュ。
「その表情は撮影でやらないと」
「そうだ。俺らをときめかせてどうするよ」
「???」
「無自覚な人タラシ……」
「しょうがねぇだろ、ミロクだし」
銀座駅に着いた三人は、指定場所に向かって歩いている。もちろん三人は目立っているため、周りは騒めいている。
「やばい、俺何かムズムズする。こういうの慣れねぇ」
「俺もです……引きこもりたい……」
「シジュはともかくミロク君が危険だね。そこのビルの三階だ。急ごう」
やけに目立つおっさん三人は、慌ててオフィスビルに入って行くのであった……。
スーツの三人を書きたかった回w
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