301、あれは鳥なのかオネエなのか。
よく晴れた日、ミロクたちはとある施設に来ていた。
「あー、こんだけいい天気だと、どっか行きたくなるよなぁー」
「あははダメですよシジュさん、あんまり外にばかり出てると肌が焦げちゃいますよ?」
「ふはっ、ミロク君、焦げるって……」
「うるせーよ。そんなヤワな肌してねぇっつの」
相変わらずのオッサンたちを先導するのは、マネージャーのフミだ。
幸い平日のため人通りは少ないため、今のような軽口を叩いていても構わないのだが……。
「皆さん、あまり目立たないようにしてくださいね。最近の『344』は大人気なんですから」
「そうは言うけど、目立つのはミロクだけだろ?」
「何を言ってるんだシジュ。そんなミロク君と一緒にいる僕らが目立ってない訳がないだろう?」
「なんだと!? くそ……フェロモン王子め……っ!!」
「ひどい! それに今、一番目立ってるのはシジュさんだと思いますけど!」
フミは頬を膨らませるミロクを宥め(秒で機嫌がなおった)、彼らを予定していた建物に案内していく。
建物内にある大会議室で打ち合わせとのことだったが、フミが案内所で確認したところ急きょ場所変更となったと知らされる。
ミロクたちに向けて、フミは申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「すみません、会議室じゃなくてコンサートホールで予約されていたみたいで……」
「フミちゃんが謝ることはないよ」
ポワポワ揺れるフミの髪を優しく撫でるミロク。
通常運転?の二人を生温かい目で見ているヨイチは、確認のためにタブレットを取り出した。
「確かここを押さえたのは……やっぱり尾根江プロデューサーだね。予定の変更もあの人の仕業だろう」
「またかよ……なんか嫌な予感がすんだけど……」
シジュの鋭すぎる第六感が唸り?を上げているのはさて置き、コンサートホールの重い扉を開いた四人は暗い中を進んでいく。
足元の非常灯が光っているが、明るい所から来たため視界が暗さに慣れず、手探りで進むしかない四人。
「フミちゃん、暗くて危ないから」
「ふぁっ!?」
「おいミロク、ここぞとばかりにイチャついてんじゃねぇぞ。フェロハラ絶許」
「フェロハラって何だい?」
「ミロク特有の、フェロモン・ハラスメントのことだ」
「そういうイジメ、よくないです!」
薄暗いホール内でも相変わらずワチャワチャするオッサンたちに、突然スポットライトが当てられる。
「見つかったか!?」
「おいミロク、それ俺が言いたかったんだけど」
「君たちね……」
「皆さん、舞台に誰かがいます!」
フミの指をさす方向をおっさんたちが見た瞬間、舞台が一気に明るくなった。
構えるおっさんたちの前に現れたのは……!?
「みんな大好き! かわいい担当ROU!」
「クールに決めますよ! メガネ担当ZOU!」
「俺を愛することを許す! ツン担当KIRA!」
「「「アイドルの天下とりますっ!! TENKAをよろしくぅっ!!」」」
ピンク色の髪、青色の髪、そして金色の髪の青年三人が舞台でポーズを決めている。(小説4巻の裏表紙参照)
そう、彼らは今はときめくトップアイドル、シャイニーズ所属の『TENKA』の三人であった。
「ちょっと待て。かわいい担当以外おかしくねぇか?」
「わぁ! KIRA先輩、久しぶりだね!」
冷静にツッコミを入れるシジュの横で、無邪気に喜ぶミロク。
「……なぜシャイニーズの三人が?」
なぜも何も原因はひとつしか思い浮かばないヨイチだが、状況が分からず首を傾げてしまう。
尾根江プロデューサーが、如月事務所だけではなく各所に呼びかけをして「イケメン」たちを集めているという情報は、サイバーチーム経由でヨイチの耳に入っていた。
しかし、大手芸能事務所である『シャイニーズ』に関しては別である。主導権がある状態で動くことはあれど、他の企業……いや、1プロデューサーの企画で動くとヨイチは思えなかった。
なぜ、ここに『TENKA』のメンバーがいるのか……。
「おいアンタ! それ、いいのか!?」
「え? 何だい?」
「それだよ、それ! アンタのところのマネージャー!」
考え事をしていたヨイチに向かって、舞台から呼びかけてくるKIRA。
何があったのかと後ろを振り返ると、ミロクの腕の中で茹であがった状態の残念な姪を発見する。
「ミロク君、解放してやって」
「わかりました! しっかり介抱しますから安心してください!」
「そりゃカイホウ違いだろが!」
「いたいっ!」
どこから取り出したのか、シジュに緑色のスリッパで頭を叩かれたミロクは、しぶしぶ抱えているフミをヨイチに預ける。
「何やってんだよオッサンたち……俺らの登場が台無しだろ……」
「一時間前から練習しましたからね」
「ボクたちで考えたんだヨ〜。でもZOUの『メガネ担当』って、やっぱりおかしいよネ?」
「いや、そうじゃなくてだね……」
文句を言ってくる若者たちを手で制し、ヨイチは軽く咳払いをして問いかける。
「今回の企画に、君たちも参加するということで間違いはないかな?」
「よく気づいたわね! そう! 彼らも参加するのよ!」
ばばーん! とスポットライト(なぜかピンク)が、二階席を照らし出す。
そこには大方の予想通り、オールバックの金髪にサングラス、ムキムキとした肉体で派手なスーツをパツンパツンに押し上げている男がいた。
「とう!!」
「「「飛んだーっ!?」」」
いつの間に用意されていたのか、その体はワイヤーで吊るされ優雅に飛び立った尾根江は、舞台の上にいつの間にか現れた黒子たちに受け止められて無事着地した。
「どうかしら!?」
「まだまだだな」
「でも初めてにしてはいい感じだよぉ。体幹しっかりしてるよねぇ」
「フッ……ちなみに俺は高所恐怖症だから、それは絶対にやりませんが」
「アタシが出来たんだから、全員にやってもらうわよ!!」
舞台上で若手アイドルたちと和気あいあいとしている尾根江を、ミロクたちは唖然とした顔で見ているのだった。
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活動報告にもあげましたが、もちだ作品のひとつ『しりてん』が書籍化します!!
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