閑話、ラッキーホニャララに翻弄される芙美。
春のネタを取りこぼしていたので。
あとがきに、お知らせがあります。
チーズとオリーブと生ハム、サーモンと玉ねぎのマリネ。
さっと温めたバケットに、昨日から仕込んだミートソースのパスタとアサリの酒蒸しを並べる。
「あとはローストビーフを並べれば完璧ね!」
「な、なんだか今日は豪勢だね……」
「何を言ってるの! フミの叔父さんがくれたワインの銘柄に合わせるなら、まだまだだよ!」
マッシュポテトが粉から作るインスタントタイプだったと、悔しそうに言う真紀を見てフミは苦笑する。
上司であり叔父であるヨイチと雑談中に、フミが「久しぶりに友人と女子会をする」と言ったところ、貰い物のワインを何本か譲ってくれたのだ。
最近ワインに凝っている真紀が、銘柄を見て声にならない声をあげるほどのものらしい。
「ローストビーフって、意外と簡単に作れるんだね。料理っぽいこと久しぶりにしたかも」
「フミは忙しいからしょうがないよ。ローストビーフは次の赤ワインにとっておいて、パスタが冷めないうちに乾杯しよう」
「うん!」
ヨイチは白と赤とロゼのワインを一本ずつフミに渡していた。フルボトルのため赤まで行き着くか不安だったが、たくさん飲まないフミは真紀に残りを持って帰ってもらおうと思っている。
真紀が最近よくからんでいる男友達はワイン通らしい。
用意した料理を食べ、ワインの味を分からないながらも言い合っている二人。
気の合う友人と会っているはずなのに、なぜかフミは冴えない顔をしている。
「それで? もにょもにょ悩んでいるのは何で?」
「モニョモニョって」
困ったように笑うフミを見て、真紀はふむふむと頷く。
「なるほど、王子案件ね。把握」
「なんでわかるの!?」
「王子たちのマネージャーになってから、フミの悩みは90%は王子じゃない」
「そ、そんなこと、ないと、思うよ? シジュさんとか問題児だし」
「問題児って……まぁ、シジュさんだししょうがないか」
真紀から見て、ミロクとフミはお似合いのカップルだと思っている。
それでも彼らは付き合っていないと言い張っているのは、彼女にとって「不毛」の一言で片付けられる案件だ。
なおこの場合、真紀自身の恋愛に関することは「棚上げ」となる。
「もうミロクさんの記憶にないとは思うんだけど、春にお花見してた時に、皆の前でキス……しちゃってさ」
「ん? 春?」
「うん。春」
「それさ、王子どころか他のオーディエンスの記憶にもないんじゃない?」
「ううっ、それはそう思うけど! 気にしているのは私だと思うんだけど! 思うんだけど!」
「ごめんごめん、ちゃんと聞くよ。それで、公開チューをしたから責任とって結婚?」
「そうじゃなくて!」
ポワポワな髪を揺らして真っ赤になったフミを、真紀は楽しそうに見ている。
揶揄われていたのが分かったのか、身を乗り出していたフミはゆっくりと元の位置に戻り、ションボリとうなだれる。
「別にいいじゃない。オプションのついたチューくらい許してあげなよ」
「オプション?」
首をかしげるフミに、真紀は「あれ?」と思う。
彼女の情報網(如月事務所発信)では、ミロクとフミは深いキスをしたということになっている。
「ねぇ、お花見でフミは、ミロクさんにキスされたんだよね?」
「う……うん、そうだけど……」
「キスされただけ?」
「当たり前でしょ! 恥ずかしくて大変だったんだから!」
「なるほど」
笑顔になった真紀は、スマホを取り出すと画面を高速タップする。
そして部屋のすみに置いてある赤ワインのボトルを手に持つと、おもむろにワインオープナーで封を切っていく。
「どうしたの? 真紀?」
「フミ、ローストビーフを切ってきて。赤を開けるよ」
「それはいいけど、なんか目が怖い……」
「マッシュポテトはバターと牛乳を加えておこうね。きっとお肉と合うよ。あはは」
「真紀?」
酔うには早すぎると思いながらも、フミはローストビーフとマッシュポテトを用意する。一体自分の何が悪かったのだろうか。
「ねぇ、フミは王子とキスしたことある?」
「ええ!? あ、えーと、えーと……」
「お花見の時は、どうだった? 違ってた?」
「うぇ、そ、それは……」
「どうだった?」
「と、とても、甘くて気持ちよかった……デス」
ワインだけではないだろう、顔を真っ赤にしたフミは消え入りそうな声で言うと、真紀は満足げにうなずいた。
「うむ。それならばよし!」
「何が!? 何が『よし』なの!?」
アワアワと泣きそうになりながらつめ寄ってくるフミを、ニヤニヤ笑いながらかわしていく真紀。
いつもよりオトナな女子会は、こうして続いていくのだった。
ところ変わって、隠れ家的なバーにいるオッサン三人。
「おお、よかったなミロク、あの時のアレはノーカンみたいだぞ」
「あの時のアレってなんですか。卑猥ですよシジュさん」
「アレっつったら、アレだろ。入れちゃったキスだろ」
「ブッフォ!!」
飲んでいたビールを噴いたミロクは、口元を乱暴に拭うとシジュのシャツの胸元を掴んで揺すぶる。
「ノーカン!? どういうことですか!?」
「うぉ、やめ、くるし」
「ほらほら、ミロクくん落ち着いて」
穏やかに微笑んでミロクを落ち着かせるヨイチだが、彼の恋バナは自分の姪が関わっているため内心気が気ではない。目は笑っていない状態でヨイチはシジュに問う。
「それでシジュ、どういうことかな?」
「あー、花見の時にミロクがマネージャーにラッキースケベしたけど、マネージャーはよく覚えてなかったって話」
「はははなるほどミロクくん、とりあえず責任はとってもらおうか」
「はい! フミちゃんは俺が責任をもって幸せにします!」
「盛り上がってるとこ悪いけど、こういうのはヨイチのオッサンじゃなくて、マネージャーの父親とやるイベントじゃねぇの?」
珍しくまともなシジュの言葉は、するりと流されていく。ひとりいじけるオッサンに、マスターがそっとバーボンを差し出す。やさしい。
ミロクは真紀からのメッセージを受け、あの程度ならフミが受け入れてくれるということを知る。
もうちょっと進んでもいいかなぁなどと、フェロモンダダ漏れの笑みを浮かべたところで、両側から一発ずつスパコーンともらうのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ来週金曜に発売が迫る、オッサンアイドルのコミックス2巻よろしくです!
さらに本日『コミックPASH!』さんで最新話公開となります!
それと……
漫画を紹介するテレビ番組、『コミックBAR Renta!』にて、オッサンアイドルを取り上げてもらえることになりました!
来週です!来週です!
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