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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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347/353

297、オッサンアイドルたちは花見へ行く。

コミカライズ版、最新話が『コミックPASH!』にて更新されてます。

よろしければどうぞーなのです。


 見上げれば、満開の桜。

 わずかに見える青空と淡い薄紅色の組み合わせは、それだけで贅沢に感じるなぁとミロクはレジャーシートの上に長い足を放り出した。

 地元ということもあり、今日のミロクはメガネなどで顔を隠していない。手に持っているグラスを傾け、ほうっとため息をつく彼の姿は艶やかな色香を放ち、他の花見客たちの視線を釘付けにしていた。

 そこにオードブルをのせた皿を手にしたヨイチが周りの目からミロクを守るように座ると、シジュとフミもそれぞれ飲み物を手に加わる。彼らの通常モードな連携プレーだ。


 オッサンでありながらアイドルである三人は、この日撮影の仕事を終えて事務所に戻る途中、満開の桜を見たミロクの「お花見、してみたいなぁ……」という寂しげな呟きに、ヨイチとシジュは大きな衝撃を受ける。

 そこで急きょ『如月事務所プレゼンツ、大お花見会』が開催されることとなったのだ。


「はぁ……これだけ桜が咲いていると、すごい迫力ですね……」


「この時期にしか見れない風景だから、しっかりと堪能しておかないと」


「お、見てみろよ。花びらが入って、いい感じの酒になったぞ」


「シジュさん! 明日は早いので、飲みすぎたらダメですよ!」


 ヨイチが奮発して買い込んだ日本酒を気分良く飲んでいるシジュは、風流だなんだと言いながらいつもよりペースが早い。


「これうまいなぁ、いい酒は水みたいに飲めるよなぁ」


「シジュ、それは酒だから水みたいに飲まないでもらえるかい?」


 商店街の外れにある通りは桜並木となっており、毎年地元の人々が花見をする「隠れお花見スポット」である。祭りやイベントはないのだが、いくつか屋台も出るのでそれなりに賑わう。

 そして、今年は別の意味で賑わいつつあった。


 桜に負けないくらい、満開の色香フェロモンを飛ばしまくるミロクと、しっとりと大人の魅力を醸し出すヨイチ、そして酔っているせいか少し垂れた目を潤ませているシジュ。


 もはやミロクだけではない。ヨイチとシジュもやたら周りの視線を集めつつあった。

 スマホのカメラを向けられてもミロクたちは笑顔で手を振ってやり、そのたびに女性ファンから黄色い声が上がっている。さらにタチの悪いことに、彼らは雑誌の撮影していた衣装のままであるためファッションもバッチリだ。


 中年の色気をムンムンさせているオッサン三人を見守るのは、ウーロン茶を手に持つ敏腕マネージャーのフミである。


「フミちゃんも飲もうよー」


「ダメです。運転しないとですし、ミロクさんたちを見ておかないと」


「見るって、俺のこと?」


「そうですよ。酔ってケガとかしたら大変じゃないですか」


「あはは、フミちゃんったら面白いなー」


 ふわふわ花を飛ばして笑うミロクの色香にあてられながらも、フミは気合を入れて両手で握りこぶしを作り気合を入れる。そんな彼女のポワポワな髪をミロクは優しく撫で、そっと頭を持って自分の顔に近づける。

 突然、間近にせまるミロクの整った顔に驚いたフミは、思わず息を飲んだ。

 酔っているせいか薄ら染まる頬と、わずかに開いた唇からは熱い吐息が漏れ、彼女の前髪をふわりと揺らした。


「見ててよ、俺のこと。もっと、いっぱい」


「み、みろく、さん?」


 甘くかすれた声で、懇願するようにミロクはフミに囁く。


「ごめんね。俺、酔ってるかも」


「だ、大丈夫、ですか?」


「ん。フミちゃんの可愛さに、酔ってる。もっと、酔いたい」


「はい、そこまでー」


 すぱこーんとミロクの頭をひっ叩いたシジュは自身もヘロヘロに酔っ払っていて、叩いた勢いのままミロクにのしかかる。


「うわ、シジュさん重っ……んむっ」


「ふむぅーっ!?」


「こらシジュ! フミがつぶれるから! ……ん? どうしたんだいフミ?」


 ミロクからシジュをひっぺがしたヨイチは、尋常じゃないくらい顔を赤くしたフミを見て首をかしげる。

 そしてなぜか土下座状態で固まっているミロクの横で、シジュは腹をかかえて爆笑していた。







 混沌となったところで終了となった花見の帰り道、ミロクは問答無用でシジュの腕をつかむと、いつものバーへ向かう。

 カウンターのお決まりの席に座った二人は、ビールと適当なつまみを注文した。


「シジュさん……とんでもないことになりました……」


「んだよ。さっきのラッキースケベの礼は、ここの会計でいいぞ」


「何を言ってるんですか。全然ラッキーじゃないですよ……もう、俺、どうしたらいいのか……!!」


 さきほどのフミに負けないくらい顔を赤くさせたミロクは、涙目でシジュにすがりつく。

 フニャフニャになっているせいか、フェロモンをダダ漏らすミロクに抱きつかれるシジュ。明らかに目立つ二人組は、店内にいる他の客たちに好奇の目で見られてしまう。


「ちょっと、おま、離れろって」


「だって、入っちゃったんですよ! 初めてだったのに!」


「おい待て何の話だ。どこに入ったんだ」


「フミちゃんの中にですよ! もう! 言わせないでください!」


「お前……いつの間に……」


「いつの間にって、シジュさんのせいじゃないですか! ふざけて乗っかってくるから!」


「……は?」


 ぷりぷり怒っているミロクの言葉を正確に理解するまで、シジュは他の客たちからの妙な視線に耐えることとなる。


 そして花見のハプニングで、ミロクとフミの仲は「やや進展」したのだった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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