296、佐藤の仕事っぷりとお仕置きされる?ヨイチ。
コミカライズ版17話が更新されている……と、いいなw
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SNSで「ヨイチの美尻」が話題になってから数日後、すっかりミロクのボディガードに慣れた佐藤が事務所でフミの代わりにお茶をいれている。
警備と雑用というふわっとした仕事内容に、佐藤は嫌な顔ひとつしない。
そして以前、妙なつきまといがあったせいか、ボディガード佐藤が気をぬくことはなかった。朝はミロクを家から事務所へ送り、夜はタクシーを使わせる徹底っぷりだ。
出された紅茶のよい香りに癒されたミロクは、ふんわりとした笑顔で佐藤に礼を言う。
「いつもありがとう、佐藤さん」
「いえ、自分も飲みたかったので」
あまり表情の変わらない佐藤だが、ミロクの前では度々微笑むようになっていた。
そうなると事務所のスタッフや所属モデルたちが騒ぎ出す。ミロクたち『344(ミヨシ)』とは違い、彼は一般人……つまり、手の届くイケメンなのだ。
元自衛隊員だった彼はほどよく鍛えられた筋肉を持ち、職務を全うするストイックさと、なによりもミロクの近くにいても色香に惑わされない強さ?を持っている。
「ミロクさん、紅茶に砂糖を入れすぎたらダメですよ。お菓子もやめておきましょう」
「疲れたからちょっとだけ……」
「ダメです。もう夜なんですから」
「うう、わかりました」
潤んだ瞳、そして上目遣いでのおねだりをするミロクに、佐藤は頑として首を縦に振らない。
マネージャーが不在の時は佐藤がミロクのカロリーコントロールをするよう、フミから事前に頼まれているのだ。
「……今度、朝ならパンケーキの店に連れて行きますから」
「パンケーキ! ぜひお願いします!」
捨てられた子犬のようにションボリと肩を落としていたミロクは、佐藤の言葉に輝かんばかりの笑顔を見せる。
結局、厳しくなりきれなかったと佐藤が敗北感にうちのめされていると、会議室からヨイチが出てきた。
「お疲れ様、ミロク君、佐藤君」
「ヨイチさんお疲れ様です!」
「お疲れ様です。社長」
律儀に立ち上がって一礼する佐藤を、ミロクは「かっこいい」とキラキラした目で見ている。その視線を受けて居心地悪そうにする佐藤に、ヨイチは思わず噴き出す。
「ミロク君は、本当に佐藤君のことが好きだよね」
「もちろんです! だってめちゃくちゃ格好いいですから!」
「……あ、ありがとう、ございま、す」
「ふふ、これからもよろしく頼むよ」
笑顔のヨイチは佐藤の肩を軽くたたくと、スーツのジャケットを羽織る。
「ヨイチさん、帰るんですか?」
「いつものバーで待ち合わせをしているんだ。ミロク君はまだ仕事かな?」
「はい。夜景をバックに撮りたいとかで」
「佐藤君がいるから大丈夫だと思うけど、気をつけるんだよ」
ヨイチは成人男性に対してかける言葉ではないなと思いながらも、笑顔で手を振るミロクの発する色香にやれやれと小さく息を吐いた。
事務所近くにある馴染みのバーに向かっていたシジュは、ゆるくウェーブのかかった長い髪をなびかせて歩く女性が目当ての場所に向かうのを見て、慌ててスマホを取り出した。
「あー、悪ぃ。場所変更で」
通話口から漏れる不機嫌そうな声に苦笑したシジュは、相手に向かってなだめるように言う。
「ヨイチのオッサンと待ち合わせっぽいんだよ。俺らがいたら邪魔になっちまうだろ?」
返ってくる声は静かで、どうやら彼女の不満を抑えることができたようだと、シジュはニヤリと笑いトドメを刺す。
「それに、俺も二人だけで会いたい。いいだろ?」
シジュの甘くかすれた声に、向こう側にいる彼女がどうなったのかはお察しだ。
機嫌よく来た道を引き返そうとした彼は、真後ろに人が立っていたため思わず仰け反った。
「うぉっ!? な、なんだよ。ヨイチのオッサンか」
「ずいぶん機嫌がよさそうだね」
「うるせぇよ。聞いてたんだろ」
「そりゃあ、今までに聞いたことがないような声を出していれば、ね」
「くっそ、せっかく気を回してやったっつーのに」
ぷりぷり怒る次男に、長男のヨイチは苦笑して礼を言う。
「気をつかってくれてありがとう。二人っきりにしてくれて助かったよ。今からミハチさんのご機嫌をとらないといけないからね」
「は? オッサン何かしたのか?」
「前回のドラマ放送のことでね……困ったものだよ」
まったく困っているようには見えない満面の笑みを浮かべるヨイチを、ぞわりと悪寒が走ったシジュは鳥肌をたてて一歩遠ざかる。
「なんだその顔、めちゃくちゃ怖いぞ。前回のって……」
「美尻がトレンドワードになってしまったからね」
「あー、アレか。監督の指示だから、しゃーねーよなぁ」
「でも僕じゃなかったら、シジュかミロク君だからね」
「俺はともかく、ミロクは放送事故になるからやめとけ」
「そうだよねぇ……おかげで僕はミハチさんからお仕置きされちゃうみたいだから、次は考えないとね」
黒い笑みを浮かべるヨイチに、またしても鳥肌をたてたシジュはさっさと退散することにする。
「あー、まぁ……ほどほどに、な」
「わかっているよ」
いや、まったく分かっていないだろうなと思いながらも、シジュはへらりと笑ってこの場を去る。
逃げていく次男坊の背中をしばらく見送り、ヨイチはバーに足を向けた。
そして……。
ミハチがヨイチに「お尻ペンペン」のお仕置きをしたのか……さだかではない……。
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