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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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339/353

コミックス1巻発売記念「オッサンアイドルのクリスマス」


「サンタさん、本当にいるって信じてました?」


「夜中にガサゴソうるさくて目が覚めたら親父がいたな。そんで正月に親戚から親父を泣かすなって怒られた」


「僕は勤労少年だったから、サンタコスプレはしていたよ」


「ヨイチさん……!!」


「オッサン、苦労してっからなぁ」


 動物番組の収録に関する打ち合わせを数分で終わらせたミロクたちは、事務所の会議室でダラダラとしていた。

 しかし、ヨイチは会話に参加しながらもノートパソコンでメールチェックをしており、フミはお茶のおかわりを用意しているため、ダラダラしているのはミロクとシジュのみである。


「てゆか、ミロクは『サンタさん』呼びなんだな」


「え、そりゃそうですよ。サンタさんに敬称略とかできないですよ」


「ミロク君らしいね」


 慈愛の満ちた目で弟を見る兄二人。ミロクは居心地の悪そうな様子で咳払いをすると、気を取り直して話を続ける。


「それで、ですね。俺たちがサンタさんになって、日頃お世話になっているファンの人たちにプレゼントを配るって企画をやったらどうかなって」


「プレゼントって、どうやるんだ?」


「募集をかけるにしても、クリスマスって明後日だよ。時間がないんじゃ……」


「そこはお任せください!」


 ばばーん!と登場したフミは両腕を広げようとして、ティーセットを持っていることに気づく。素早くお盆をテーブルに置き、再びばばーん!と言いながら両腕を広げた。

 そんなフミを愛でるミロクの隣でシジュは楽しげに顎に手をやり、ヨイチは眉間にシワを寄せる。


「任せろと言われても、そう簡単にはいかないと思うよフミ」


「もちろん、私が全部やるわけではないですよ。ね、佐藤さん」


「はい、自分も協力します」


 フミの後ろから長身で黒髪短髪の男性が顔をのぞかせる。

 役所を円満退職し、ヨイチのひと声で如月事務所に雇われたボディーガードの佐藤だ。


「実は……前の職場上司からなんですが、役所で企画していたイベントのゲストが急に来れなくなりまして。急きょ『344(ミヨシ)』の皆さんにオファーできないかと相談されたのです」


「商店街の一角を借りて、クリスマスイベントをする予定だったみたいです。ゲストの芸人さんがギックリ腰になったとかで」


「またこのパターンかよ」


「俺たちのお約束みたいなものですから、しょうがないですよシジュさん」


「そうだよシジュ。仕事があるだけありがたいんだから、オファーをくれた人に感謝するべきだよ」


「まぁ、そりゃ分かってるけどよう」


 ぷくりと頬を膨らませるシジュは、ヨイチに「ミロク君とは違って可愛くない」とダメ出しされている。ミロクは佐藤に問う。


「俺たちが急に入っても大丈夫なんですか?」


「はい。幸いにもポスターには『シークレットゲスト』としてあったので、差し替える必要はないです。どなたがゲストでも大丈夫ですよ」


「俺ら、商店街の企画に参加したことあるよな。またかよって言われねぇか?」


「意外とそういうところを気にするよね。シジュは」


「うるせぇよ」


「あの近辺の人たち、皆さん『344』のファンですから。絶対喜びます」


「だったらいいけどよ」


 佐藤の言葉を受けて少し安心したようなシジュに、ミロクもフォローを入れる。


「商店街の人たちとは仲良しだし、俺たちのことを悪く言う人がいたら逆に怒ってくれそうですけど」


 そう言いながらミロクは最近総菜店のチーズコロッケを食べていないことを思い出し、帰りに買って帰ることを決意するのだった。







「はい! 希望者には名前を入れたサイン色紙をお渡ししますよ! こちらに並んでくださいね!」

「甘いセリフ付きをご希望の方は、事前に配った用紙に文字を入れてスタッフに渡してください! 整理券番号をお忘れなく!」

「さぁさぁ、ミロク王子の大好きなチーズコロッケが揚げたてだよー、おいしいよー」


 商店街の中央付近にある広場には、いつになく人が溢れかえっている。

 小さな舞台には長椅子が三つ設置されており、ミロク、ヨイチ、シジュはそれぞれの椅子に座ってくつろいでいる……という雰囲気を出していた。


 順番が呼ばれ、おずおずと客席から舞台に上がってくる女性をシジュが向かえるように立ち上がる。


「ほら、俺の隣に座れよ。かわい子ちゃん」

「ハ、ハイ……」

「今だけは俺のもので、いいんだよな? ん?」

「えっ? えっ?」

「はぁ……鈍いやつだな。食っちまうぞ?」

「!?!?」


 言葉にならない悲鳴をあげている隣では、ミロクが順番がきた女性の手を取りエスコートしている。


「お姫様、今日は何をしてほしい?」

「あの、もしよかったらハグを……あと、いつも応援しています。大好きです」

「ありがとう! じゃあ、お礼させてくれる?」

「!?」


 花が咲いたような笑顔と抱きしめられるフェロモン攻撃に、女性の意識は遠のく。

 なんとかそこを耐えた彼女だが、ハグされたまま自分の耳元でキスするようなリップ音をたてられ、あえなく撃沈してしまう。


 弟たちのやらかしに内心頭をかかえつつ、ヨイチは舞台に恐る恐る上がってくる女性に笑顔を向ける。


「こちらへどうぞ、お嬢さん」

「ほ、本物の!! ヨイチさん!!」

「ふふ、本物だよ。ほら、さわったらわかるかな?」

「ひぇっ!?」


 ヨイチに手を取られた女性は、その厚い胸板に引き寄せられる。

 身長差からヨイチの胸あたりに顔がうずまってしまう女性ファン。服の上からでもわかる鍛え抜かれた大胸筋を思う存分に堪能した彼女は、鼻の奥が熱くなっていくのを感じていた。


 すぱこーんと鳴り響くスリッパ音。その数、三回。

 やりすぎた時のオッサンストッパーはフミに任されていた。色々とミロクへの想いがある彼女だが、公私混同をしないタイプである。

 それでもやはり私情をはさんでしまうのか、ミロクに対しては少し弱めに叩いているのが可愛らしい。


「フミちゃん、もっと、強くてもいいよ」

「こう、ですか?」

「うーん、もっと強くないと感じないかも」

「こう?」

「もっと、もっと強くしていいから」

「これは?」

「あ、今のいいかも……」


「ミロク、ギルティ」


 二人の無意識な変t……イチャイチャな会話に、シジュは冷めた目でばっさりと会話をぶった斬る。


「タイキックでもすれば、少しは痛みを感じるんじゃないかな?」


 笑顔でヨイチがとんでもないことを言っている。

 たぶん側にフミがいれば何をされても気づかないだろうなと、ほわりとした笑みを浮かべたままのミロクは「やっぱりフミちゃんは最強だ!」と結論づけていた。







お読みいただき、ありがとうございます。

コミックス発売は、2019年1月25日予定です!

よろしくお願いします!

メリークリスマス!・:*+.\(( °ω° ))/.:+

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