284、北海道ライブに向けて。
オッサン(36)がアイドルになる話、コミカライズの5話目が更新されました!
とても素敵に描いていただいたので、ぜひとも。
コミックPASH!にて、無料で読めます。
北海道ライブに向けて、ミロク達は前日に会場入りをする予定となっている。
今回は彼らのプロデューサーである尾根江が観に来るということで、事務所に集まったメンバーは緊張感を漂わせていた。
オッサン達の様子に、フミは不思議そうに首を傾げる。
「ライブを観るだけなんですから、そこまで緊張しなくても大丈夫じゃないですか?」
「それはそうなんだけどね。彼が関わると何かしら無茶振りされるか騒ぎになるだろう?」
「あのオネエは、ビックリ箱みたいな奴だよなぁ」
「シジュさん、尾根江さんは本当のオネエじゃないと思いますよ。俺の勘ですけど」
「勘かよ。そんで言い方がややこしいな」
やれやれとシジュはだらしなく背もたれに身を預けると、そのまま腕を上げて体を伸ばす。
「ああー……最近ライブで忙しいから、ジムに行けてねぇよなぁ」
「シジュ、だらしないのか真面目なのか、どっちかにしてくれないかな」
「そうですよシジュさん、キャラがブレてますよ」
「いや、元々こうだろうが。なんで俺のキャラを勝手に設定してんだよ」
ヨイチとミロクがシジュを弄って遊んでいるのを見て、フミはホッとする。彼らがこういうやり取りをしているということは、いつもの調子を取り戻したということだからだ。
「飛行機のチケットは昼のリハーサルに間に合うようにとってますけど、朝早いので頑張って起きてくださいね」
「ミロクはマネージャーのモーニングコールあれば無敵だよな」
「もちろんです! ……フミちゃん、お願いしてもいい? 優しく起こしてね?」
「ふぁっ!?」
唐突に漏れ出すミロクのフェロモンにフミの意識が朦朧となったその時、スパパーンと緑のスリッパで彼の後頭部を引っぱたく兄二人。その流れるような連携プレイは見事である。
「痛いです……」
「マネージャーにフェロモンを過剰に出すなっつの」
「まったくミロク君は油断も隙もないね」
ある程度の出し入れをコントロールが出来てきた(と思われる)ミロクのフェロモンは、フミに対しては無意識に放出してしまうらしい。
何とか自分を取り戻したフミを見て、ヨイチは小さく息を吐くと口を開いた。
「前と同じように飛行機のチケットはフミがメールで送っているから、後で確認しておくように」
「今回も飛行機なんですね」
早速スマホを取り出し確認しているミロクの言葉に、フミは少し慌てて問う。
「え? ミロクさん、飛行機苦手でしたっけ?」
「いや、そうじゃないんだけど、ほら、寝台のある電車に憧れてて……」
「そういや昔、親戚の家に寝台特急で行ったことあるな。長時間揺られるし、次の日は体がガタガタになるぞ?」
「ずるいですシジュさん! 俺もガタガタになるやつ体験したいです!」
「いや、ずるくねぇし。ライブなのに体をガタガタにしたらダメだろ」
「そういえば、僕は出雲の方に行った時に乗ったことがあるよ」
「ヨイチさんまで!」
「到着が二時間も遅れてね。前を走る貨物列車が鹿とぶつかったとかで」
「ああ、あるよな、そういうの」
寝台特急の遅延あるあるを言い合う兄二人を、ミロクは羨ましげに見ている。メンバーの会話が大幅に打ち合わせの内容からそれたため、フミは手を叩いて仕切り直す。
「出発前日の仕事はファッション雑誌の撮影になりますが、遅くても夕方には終わると思います。夜は早めに寝て、体をしっかりと休ませてくださいね。当日、空港まではタクシーか電車での移動をお願いします」
「二人とも、演出の変更やライブの演目については、この冊子を確認しておいて」
「了解です」
「へいへーい」
「シジュ、へいは一回で」
「へーい」
テーブルに突っ伏しながら冊子をめくり確認しているシジュは、とあるページで顔をひきつらせる。
不穏な空気を感じたミロクが冊子をしっかりと読み込んでいけば、シジュと同じように顔をひきつらせた。おそろいである。
「何かおかしいところありました?」
「んー? アレかな……尾根江さんがプロデュースしているアイドルの『鶯谷七』がゲストで登場するところかな?」
「そうそう、すごいですよね! 国民的アイドルが前日ライブをやるからって、尾根江さんが翌日にゲスト出演させようって企画してくれたんですよね!」
メンバー皆がかわいいと語るフミに、シジュとミロクは微妙は表情になっている。
「ミロク君、彼女たちにフェロモンとか振りまかないようにね。シジュもちゃんと見張っているんだよ。僕は尾根江さんの相手もしなきゃだから」
笑顔でミロクに注意したヨイチは、シジュに対しては真顔で「気をつけるように!」と念を押す。
これまで女性の芸能人と交流がなかった訳ではないが、さすがに国民的アイドルをメロメロフニャフニャしてしまったら色々な意味で危険だろう。
そして北海道へ向かう当日。
どこから聞きつけたのか、『344(ミヨシ)』のファンたちが空港まで見送りに来ていた。その中には彼らとそのまま一緒に乗っていくという猛者のファンもいる。
横断幕を持っていたり、ファングッズのタオルや団扇でアピールするファンたちに、ミロクたちは自然と笑顔になる。
「皆さんありがとうございます!」
「頑張ってくるね。応援ありがとう」
「朝早いのに、ありがとな」
リクエストされたミロクは少し照れながら投げキッスを送りファンたちを悶絶させ、ヨイチのシャイニーズ・スマイルとシジュのワイルドな笑みに声にならない声があがる。
オッサンたちの姿が見えなくなると、彼女たちの口から熱い吐息が漏れた。
「なんか声とか、出なかったし出せなかったね」
「朝早いし静かにしようって皆で言ってたけど、呼吸するどころか息の根が止まったよ」
「マジで? 召されてんじゃん」
「天使はミロクきゅんだから、喜んで召される自信がある」
「どんな自信なの。分かるけど。分かりみ深くて尊いけど」
「ヨイチさんスーツだった件。スリーピース最高です。胸板の厚みの極みです」
「あの胸板に抱きしめられたら悔いはないよね」
「ワイルドなんだけど寝起きのせいかエロさのあるシジュさん。美味しくいただいた。ゴチです」
「シジュたん、いいこいいこしてくれたの。だからいいこでがんばるの」
「ここにも天使がいたー!!」
それぞれ感想を言い合うファンたちは、空港内にある喫茶店で大いに盛り上がるのだった。
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