280、名古屋入りするオッサン達。
本日、小説家になろう公式生放送に出演します。
収録場所にたどり着くことを祈っててください。
19:30からの放送です。
よろしくお願いいたします。
ダンジョン化していない名古屋の駅に降り立ったオッサンアイドル『344(ミヨシ)』の三人は、ホテルにチェックインして荷物を置くと、まずは腹ごしらえだと手近な地下街へと繰り出す。
「大阪でも地下でしたね」
「時間があれば上で探すんだけど……このあと会場で打ち合わせがあるから少し急ぐよ」
「なぁ、でかいエビフライ頼んでシェアしようぜ」
大阪に続いてまたしても揚げ物をチョイスするシジュに、ミロクは輝かんばかりの笑顔で喜ぶ。兄達は遠出すると食に関して緩くなることに弟は気づいたのだ。その代わり帰るとトレーニング地獄が待っているのだが、それはそれ、これはこれである。
ヨイチは味噌煮込みうどんに興味津々だ。サイバーチームの一人が愛知県出身で「八丁味噌は無限の可能性を秘めている」と熱く語っていからだ。
フミは案内図を見ながら驚いている。
「すごいです。結構有名なお店が並んでますよ」
「よく知ってるね。フミちゃんは何が食べたいの?」
「私は何でも大丈夫です! 前回はぜんぜんグルメを堪能できなかったので、今回は楽しみにしてたんですよ」
ポワポワと左右にリズムをとり、茶色の髪を揺らしているご機嫌なフミ。可愛らしい彼女の動きに、ミロクは顔が緩むのを手で覆って隠しながら耐えている。
外見も中身も小動物のフミは、仕事では自分を大人っぽく見せようと努力している。そんな彼女が気を抜いた時に見せる表情は、ミロクにとってかなり凶悪な破壊力を発揮するのだ。恐ろしい子フミである。
フミの楽しげな様子にヨイチは苦笑する。
「前回って、外国からもコスプレイヤーが集まるイベントだよね。僕たちも炎天下の中で参加して……なんだか懐かしく感じるね」
「イベントはいいけど、あの暑さはキツかったな」
「暑いとミロク君の色香がさらにパワーアップするし、冷やすのが大変だったよね」
「えー、何ですかそれ」
不満げな声を出すミロク。やれやれと肩をすくめるヨイチは、急に大人しくなったシジュに気づく。
「どうしたの? シジュ」
「……ヨイチのオッサンどうする? 山か風か……迷ってんだけど……食うとビール飲みたくなるよな……やめとくか……」
「僕は食べたことない風を選ぶかな。あとお土産にして帰りの新幹線でビールとっていう手もあるよ」
「え!? いいのか!?」
「明日のライブが終わって、その次の日はオフなので多少は大丈夫ですよ。飲みすぎはダメですけど」
スケジュールを確認するフミはマネージャーらしく最後に釘をさすが、帰りに楽しみができたとシジュはノリノリだ。昔はビールが苦手だったミロクも、最近はヨイチとシジュに付き合って飲むようになった。揚げた手羽先とビールの組み合わせを思い浮かべて笑顔になったオッサン達は、周囲に中年の色気を振りまくのだった。
名古屋駅から会場となっている場所まではレンタカーで向かうことになっていた。
駅で手配していた車を受け取ったフミは、ミロク達を会場まで送り届ける。
「くそ、エビフライ丸々一本食いたかった」
「食べすぎたらダメだって、シジュさんが言ったじゃないですか」
「打ち合わせといっても動きの確認もするから、あまり食べすぎるとよくないよ」
そういうヨイチは狙っていた味噌煮込みうどんを食べて満ち足りているようだ。正論を言われただけに文句は言えないシジュだが、なんとなく理不尽さを感じている。
「でも、あまり油っぽくなくて美味しかったですね。タルタルソースがたっぷりで、たまらないです」
「おいおい、食い物でも出すのかよ。節操なしなフェロモンだな」
「欲望に忠実なんだね」
「やめてください。そう言われると、ただのエロい人間みたいじゃないですか」
「ほら皆さん落ち着いてください! もうすぐ着きますよ!」
大阪での会場の規模とあまり変わらないその大きさに、ミロクはやや固まりながらヨイチを見ると、切れ長な目に怪しげな光を浮かべて笑みを浮かべるスパダリな美中年。
「どうしたのかな? ミロク君」
「いや、その、大阪の時も思ったんですけど、ミクロットの舞台の時とは違うから……その時とは比べものにならない規模だなぁと……」
「あの時は舞台と客席が近い感じだったね」
「オッサンはドームツアー経験者だろ? ここの数倍デカい規模でやったとか、マジでメンタルにも筋肉ついてんじゃねぇか?」
「ははは、シジュは面白いことを言うね」
いや、ヨイチならあり得るのではとミロクは心の中で思ったが、口には出さず静かにしていた。懸命な判断である。
「ああそうだオッサン。今回、ミロクがソロで歌う『ワルツ』で、女子パートのおさらいしたいんだけど時間あるか?」
「一室借りているから、打ち合わせしたらそこでやろうか」
「あれ? 女子パートですか?」
ミロクが首を傾げると、フミが手に持っている進行表をそっと差し出す。
「大阪ライブとの変更点にマーカー入れました」
「ありがとうフミちゃん、ええと……ええ!?」
もらった紙に目を通したミロクは、思わず声を出して驚く。そこには「ダンス、ペア(ヨイチ・シジュ)」と記載されている。あたかもヨイチとシジュがペアであるかのように……。
「ど、どういうことです? こういう話してましたっけ?」
「今回入ってくれるダンスチームの皆さんが、名古屋だけは都合がつかなかったんだよ。別のところにお願いしようかと考えていたら、いっそ二人でペアを組むかってなったんだよ」
「そ、そそ、それはどっちが女性パートに?」
「さてなぁ、どっちかなぁ。本番までミロクに見せるのやめとくかなぁ」
「そんなぁ! 教えてくださいよ!」
意地悪く笑っているシジュにミロクは「ずるいずるい」とまとわりついている。じゃれる二人を笑顔で見ているヨイチの後ろで、フミは親友の真紀がないて悔しがるだろうなぁとぼんやり考えていた。
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