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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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323/353

277、ライブツアー大阪。

遅くなりました!



 確か、ヨイチは「中規模のライブツアーになる」と言っていたはずだと、心の中で呟きながらミロクとシジュは遠い目をしていた。

 国際会議場メインホール。事前に写真などで確認していたとはいえ、実際目で見るとその広さに思わず息をのむ。


「シジュさん、俺たち本当にここでるんですかね」


「チケット余りまくってんじゃねぇのか、これ……」


「何を言ってるの二人とも! リハーサルに入るからさっさと準備をする!」


 弟二人に発破かけるヨイチはフミに控え室へ案内するよう指示をすると、そのまま舞台装置を設営しているスタッフたちへと声をかける。


「今日はよろしくお願いします」


「そこ! もうちょい上手だ上手! ……ああ、如月さんお疲れ様です。ライブ成功するようしっかり努めますので、よろしくお願いします」


 ヨイチに向かって挨拶をした男性の着ている黒いTシャツの袖には、白青赤の三本ラインが入っている。背中には『2018/344 SUMMER LIVE』という文字が大きくプリントされていた。

 事前に用意していたスタッフTシャツは、『344』のファングッズを考案する際に一緒に作られたものだ。黒はライブスタッフ専用のもので、他にも数種類の色がある。


 大きく掲げられたメインテーマを見たヨイチは、メンバー三人で意見を出し合った甲斐もあり中々良い出来だと満足げに微笑む。


「リハーサルは予定通り昼からで大丈夫ですか?」


「少し押してますが、なんとか間に合いそうです。昨日から来ている如月さんの所のスタッフが手伝ってくれてるので、無理なく進められるので助かってますよ」


「うちのサイバーチーム作の、プロジェクションマッピングは大丈夫そうですか?」


「舞台の形がこれなんで……なんとか設置しましたが、あっちの客席からだと見づらいかもですね」


「まったく見えないよりは……会場によって作りが違いますから、舞台装置も自由度が高くないといけませんね」


「こればっかりは難しいです」


「では、リハーサルの時間にまた来ます。皆さん! よろしくお願いします!」


 会話を切り上げたヨイチは動いているスタッフたちに声を張り上げて挨拶し、ミロクたちのいる控え室へと向かった。







 暗い闇の中、そこに放たれる数本のレーザービームは、辺りを照らしつつ一筋の光になる。

 ライトの中心に現れたのは、白を基調とした衣装を身にまとう男性。白いライトの光がピンクに変わり、スーツを薄桃色に染めていく。

 光の色が変わったことにより薄暗くなった舞台。その中でも分かるほど白い肌と、長めの前髪を無造作にくしゃりと掻き上げる様は、彼の持つ色香を数倍にも引き上げていた。

 ウッドベースから始まる数小節からのドラムのフィルインと合わせ、腰を突き出し上着をはだける『白い王子』。振り向いてからの投げキッスに、ライブ始まって早々に観客全員の絶叫が響き渡る。


  もう 苦しまなくていい

  もう 傷つかなくていい

  君だけを守るから

  側にいて 離れないで


 ミロクの上半身は素肌にジャケットという姿だ。シジュ監修の元しっかりと鍛え上げられ割れた腹筋は、動くたびにチラチラ見えるため、あちこちから悲鳴のような歓声があがっている。


  さぁ ここから連れ出そう

  さぁ 迷わず手をとって

  君だけに教えてあげる

  この世界の 真実を


 歌い終えたミロクが優雅に一礼すると、舞台上手の方にライトが当たる。

 青を基調とした衣装、開いた襟から見えるのは鍛え抜かれた大胸筋だ。年相応の色香を振りまき、切れ長の目を客席に向ければ多くの女性が熱い吐息を漏らす。

 短く整えたアッシュグレーの髪に手を当て、彼はバリトンボイスを響かせて歌う。


  ずっと見てた 君のこと

  他の誰よりも 愛しく思う


 まるで会場内にいる愛しい人に届かせるような、思わず胸が苦しくほど切なく歌うヨイチに、観客はミロクとヨイチのコンボ攻撃に早くも体力を奪われている。

 そこにトドメを刺すかのような甘い歌声が下手から入ってくる。少し掠れたその声は、普段の様子からは想像できないくらい繊細に音を辿っていく。

 ライトが当たれば、褐色の肌に映える赤を基調とした衣装、長めのくせ毛を揺らして登場したのはシジュだ。


  その瞳 その唇 その可愛い場所まで

  全部染めたい 君の全てを


 舞台の中心にいるミロクの近くへ向かうヨイチとシジュ、そこで三人揃っての腰を振るダンス。息がぴったりなオッサンたちのキレッキレな動きに、会場はいやが応にも盛り上がる。観客は皆、自然と声を上げ、盛り上げさせられてしまうのだ。


 音楽が止まり、ミロクが笑顔で囁き、ヨイチは流し目で客席を見れば、シジュはニヤリと笑った。


「染めさせて、俺の色に」

「僕の愛で、君を包むよ」

「ほら、俺に全部見せてみろ」


 三人が同時に客席へ向かって手を差し出す。



『君は、何色に染まる?』








 オッサンアイドル『344(ミヨシ)』が主に活動しているのは関東圏だ。

 しかし、今回のライブツアー前半で、早くも大阪周辺を血の海に染め上げているオッサンたち。

 彼らの快進撃は続くのか……それは一曲目ですでにダウンしつつあるマネージャーのフミと、こっそり観に来ていたところ思わぬ一撃を受けたミハチには「続くどころか、日本各地が血の海となる……」と確信していた。


 そして、大量生産していたはずのファングッズ『白い王子の黒いタオル』は、公演初日にして早くも追加生産することが決まったのである。





お読みいただき、ありがとうございます!

活動報告にもありますが、オッサンアイドル電子書籍版4巻発売決定と、コミカライズが決定しました!

ダブルで嬉しいです!あと鼻血が出そうです!(書籍化作業で)

皆様のおかげです。本当にありがとうございます。らびゅ。(*´∀`*)

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