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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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322/353

276、大阪へ移動するオッサン達。



 新幹線のチケットを配るフミは、少し緊張した面持ちでオッサンたち(主にミロク)を心配させていた。


「こ、これが行きのチケットで、し、新大阪までの、片道の」


「フミちゃん落ち着いて。深呼吸しようか」


「は、はははい。すぅー、はぁー、ふしゅるぅー」


「おいマネージャー、なんか違うもん出てねぇか?」


「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。ある程度は業者に任せているし、何かあっても……まぁ、なんとかなるでしょ」


 楽観的に見せているヨイチではあるが、今回一番周りに気を揉んでいたのは彼だった。

 事務所スタッフ、サイバーチーム、所属モデルにまで「社長は今回『アイドル』に徹してください!」と強く言われていたのだ。普段、履いているワラジを脱ぎ捨て、このライブに向けてヨイチはしっかりと集中してきた……つもりであった。


「ライブは大阪、名古屋、北海道、東京は二回公演になるからね。いつもみたいに一回全力出せば終わりってわけじゃないから、気をつけるんだよ」


「いつも思うんだけどさ、なんで名古屋は『名古屋』なんだ? 県名じゃないよな」


「俺も思ってました。いつも名古屋って言われますよね」


「そうだねぇ……どうしてだろうねぇ……」


 弟二人の言葉に、もうちょっと考えることがあるのではないかと思うヨイチだったが、この空気は悪くないと思い何も言わずにおく。


 東京駅はとにかく観光客が多い。平日の昼間、外国からの客も多くいる中でさえ、高身長なオッサン三人はひたすら目立っている。

 外国の人から写真を撮りたいと言われて、困ったミロクがシジュに助けを求める。その様子になぜか女性たちがキャアキャア騒いでいて、駅構内はちょっとしたパニックになりそうだ。


「社長、移動しましょう!」


「そうだね。ここにいると危険だね……主にお客さんたちが」


 赤い顔でフラフラしている女性が数人いるのを確認したヨイチが、慌ててミロクとシジュを呼ぶ。交通整理?をサイバーチームに任せると、早々に移動することになるのだった。







「今回はグリーン車なんですね。フミちゃん、アイス食べてもいい?」


「いいですよ」


「マネージャー、ビール飲んでいい?」


「ダメですよ」


「シジュはどうしてそう、ダメな方向に堂々と歩いていくんだろうね」


「いやほら、聞くだけならってさぁ……」


 シジュが悲しげにスナック菓子を口に放り込む。

 普段は食生活も気をつけている中年たちではあるが、こういう時は解禁して楽しむことにしていた。ちなみにミロクはチーズ系のスナック菓子に手を出し、指を舐めてるところを車内販売の女性が目撃して立ちくらみを起こし倒れたところをしっかり抱きとめるというひと騒動があった。

 お約束もここまでくると名人芸だなと、ヨイチは妙なところで感心する。


「グリーン車で正解でしたね。ミロクさんったら行く先々で色々あるから……」


「それだけ彼が魅力的だってことだよ。それに優しいから尚更ね」


「困った人を見ると助けちゃいますからね」


 普通なら見逃してしまうだろう、老人や子供が困っていたら助けようとする精神は素晴らしい。見習うべき点は多いのだが、もう少し考えて行動してほしいとフミは思ったりする。


「私が心配しすぎなのかなとは思うんですけど、どうもミロクさんを見てると危なっかしくて」


「そうだね。マネージャーとして、人気の出てきたアイドルとしての自覚を持って欲しいってところかな?」


「はい」


「さっきの女性も、絶対ライブ観に行くって言ってたからね。あの一瞬で落としたとかすごいよね」


 そう言いながらタブレットを取り出したヨイチだが、手に持ったものをフミに取り上げられる。


「え? 何?」


「ダメですよ。ここはお菓子を食べるか寝てください。それ以外は禁止です」


「メールだけでも見させてよ」


「ダメです。私がチェックしておくので、緊急案件があればお知らせします」


 フミは取り上げたヨイチのタブレットを自分の鞄に入れてしまうと、ミロクとシジュに向かって言う。


「二人とも、この人が仕事しないように見ててくださいね」


「はーい」


「へーい」


 なぜか引率の教師のようなフミの口調に苦笑するヨイチは、この後の激務に備え、つかの間の休憩をとることにするのだった。








「新大阪からタクシーに乗りますよ。ホテルにチェックインして荷物を置いたら国際会議場に向かいます」


「串揚げ食べたかったです……」


「梅田ダンジョン攻略したかった……」


「ほら二人とも、時間があったら連れて行くから我慢しなさい」


「ミロクさんの串揚げはともかく、シジュさんのダンジョンって攻略できるものなんですか?」


 茶色のポワポワな髪を揺らしながらフミは首を傾げる。ミロクは「たこせんべいも食べたい」と呟いており、すっかり大阪の食の虜になっているようだ。


「ライブが終わって翌日は少し時間とれるだろうから、その時に観光しようかミロク君」


「ヨイチさん、ありがとうございます!」


「俺は夜にちょっと外へ出れたらいいんだけど……」


「却下です」


 懲りずに己の欲望を剥き出しにするシジュだが「外見は愛らしいトイプードル中身は修羅」という敏腕マネージャーはとにかく強かった。

 さらには「どこに行くんですか? 何を食べるんですか? 美味しいものですか? 俺も食べたいです!!」と澄んだ瞳のミロクに小一時間ほど詰め寄られ、涙目になったシジュがヨイチに助けを求める一幕もあったりした。


 この日。はしゃぐオッサン三人は、いよいよ大阪公演のリハーサルに臨むのである。





お読みいただき、ありがとうございます!

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