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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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303/353

261、雑誌モデル撮影とドラマの台本。

今年もよろしくお願いします。


 個人ではなく、事務所宛のメッセージについてはサイバーチームが一括管理をすることになった。これに関してはヨイチが叔父バカを発動したというのもある。

 雑誌モデルとしての仕事中ではあるが、ソファに座り雑談というシチュエーションのため会話しながらの撮影をしている。


「まぁ、わざわざ悪意を受け取る必要はないよね」


「マネージャーは知ってるのか?」


「フミには『注意したら来なくなった』って言ってあるよ」


「来なくなったというか、来させなくしたんじゃねぇのか?」


「そうとも言うかなぁ。……ところで、ミロク君が静かだけど何かあったの?」


「さぁな」


 なぜか一人ニヤケているミロクに、ヨイチが「おーい」と呼びかけるも反応がない。


「どうしたミロク。コンビニでたまたま手に取ったエロい雑誌に載ってた女の子が、好みど真ん中のストライクだったみてーな顔しちゃって」


「ちょっ!! な、なに言ってるんですかシジュさん!! 俺はコンビニじゃなくてネットで買いますよ!!」


「起きたのかい、ミロク君。だめだよ仕事中にぼんやりしていたら」


「す、すみません……」


 申し訳なさそうにしているミロクに、しょうがない末っ子だと苦笑するヨイチとシジュ。そしてもちろん、その間も撮影は続いており、会話を聞いて思わず吹き出したカメラマンにヨイチが慌てて頭を下げる。


「すみません騒がしくして」


「ぶはっ、いや、本当に仲がいいんですね。こっちも色々な表情が撮れて楽しいですよ。あ、置いてあるケーキも手にとってください。今回『オッサンとスイーツ』っていうのが先方の要望なんで。食べてもいいですよ」


「分かりました」


 雑誌『ELULU』にある見開きの『344(ミヨシ)』コーナーは、毎回謎のコンセプトが組まれているとヨイチは感じている。しかし世の中の女性が求めているというのなら、何でもやるというのがアイドルなんだとテーブルに置いてあるスイーツを手に取る。

 しかし、ヨイチはそこまで甘いものを食べないため、甘いものが好きそうな末っ子ミロクの口元に持っていく。


「はい、ミロク君、あーん」


「あーん」


 自分の好きなフルーツ盛りだくさんのケーキに、ミロクは目を輝かせて頬張る。それを見たシジュが、それならばと苺のショートケーキを手に取る。


「何だ何だ、ミロクは欲しがり屋だな。俺のも食え」


「もがぐっ……ぷはっ、何するんですか! 無理やり突っ込まないでくださいよ!」


「あははっ、ミロク君の口まわりがすごいことになってるよ」


「うう、顔がベタベタする……シジュさんひどいですよ……」


「悪かったって、涙目で色気出してくんなって。おら、拭いてやっから」


 これよ! これなのよー! という、雑誌の担当編集者の声が聞こえたとか聞こえなかったとか。

 三人を迎えに来たフミは、撮影スタジオにいた女性スタッフたちから「いつもご馳走さまです!!」とお礼を言われ、一体どういうことなのかと首を傾げるのだった。







「ドラマの台本です」


「わぁ、すごい分厚いです!」


「前回のドラマは、一話ごとの時間が短かったからね」


「すげーある。俺のセリフがすげーある」


 オッサンたちが撮影している時に、事務所から台本が届いたと連絡があった。それを待っていたオッサンのために、フミは一度事務所に戻り荷物を受け取って、再びスタジオに戻って来たのだ。

 移動の車に乗り込むと同時に、フミが台本を手渡すとオッサン三人から歓声が上がった。


「この後ラジオですから、きっと待ち時間とかに読みたいだろうと思ったんです」


「さすがフミちゃん。ありがとう。すごく嬉しいよ……」


「そ、そんな……当然のことをしただけで」


「気が効くし可愛いし有能すぎるマネージャーさんだね」


「はぁぅ……」


 照れて真っ赤になるフミ。そんな彼女に対し「うちのマネージャーが可愛いすぎる件」と言いながら甘く蕩けるような笑みを浮かべるミロクの後ろ頭を、容赦なく緑のスリッパですぱこーんと叩くヨイチ。


「これから運転するフミをメロメロにさせないの!」


「うう、ただお礼を言っただけなのに……」


「相変わらずマネージャーに対してだけは色気を自重しないよな。」


 呆れたように言うシジュは、再び台本に目を落とすと眉間にシワがよる。


「どうしました? シジュさん?」


「これ、前編の台本だよな。後編もあるんだよな」


「そうだね。前半は僕の出番よりも、ミロク君とシジュが多いね。収録の順番もあるから、後編の台本もすぐに届くとは思うけど……ん? 大丈夫かいシジュ」


「オッサンの脳みそで、セリフを覚えられるか不安だ……」


「俺は丸暗記とか得意ですけど、演技しながらとか無理そうです……」


 急に弱気になるミロクとシジュに、ヨイチは思わず吹き出す。


「二人とも急に弱気になっちゃって。ふふ、可愛らしいのはフミじゃなくて君たちのほうじゃないか? 僕たちがやってきた経験からすると、大したことないような気がするけどね」


 明るく笑い飛ばすように言うヨイチに、フミもコクコクと頷く。


「そうですよ! ドラマ出演もしたことがありますし、舞台も大成功だったじゃないですか! これくらい軽いですよ!」


「フミの言う通りだよ。それに、ドラマの撮影は舞台と違って一発勝負じゃないから、その分ちゃんと演技を作り込めると思えば楽しいと思うよ」


 そう言われると……と、ミロクが納得している横で、シジュは「まぁ、どうにかなるだろ」と肩の力を抜くことにした。若者と違って、オッサンというものはある程度の落ち着きを持っていられるものなのだ。逆に言うと落ち着きのない若者のように、急な事態に慌てふためく体力も不足しているというのもある。ような気がする。


「あ、新曲も作るって」


「「はぁ?」」


 自分たちの仕事のスケジュールが、怖くて確認できなくなりつつあるオッサンたちであった。







お読みいただき、ありがとうございます!


すみません。

ケーキが食べたくて……


そして次回、あの子が出てきます。

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