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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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258、我にかえるオッサンたち。

3巻の刊行が決まりました(*´∀`*)


 急きょとり行われた『如月事務所社員旅行』であったが、酒と料理と温泉という三大欲求?を満たしたオッサンたちは満足して帰宅した。

 酔ったオッサンが脱ぎだしたり、それに悪ノリしたオッサンが続いたり、止めようとしたオッサンが脱がされたりなどというハプニングは、社内の人間しかいない宴会場でのみ開催されていたため世間に広まることはなかった。

 どのオッサンが誰なのかは、皆様のご想像にお任せする。


「さて、久しぶりのお説教です」


「ん? 何だ?」


「お説教って、何かあったのかな?」


「キリッとしたフミちゃん可愛い……」


 いつもの打ち合わせをするべく会議室にて、オッサンアイドル三人はマネージャーの言葉に三者三様のリアクションをとる。フミは最後のミロクの言葉に頬を染めるも、それでも「お説教です!」と凛々しい表情だ。


「お仕事を楽しむのは良いのですが、ハメを外してはいけません!」


「仕事じゃハメ外してねぇと思うぞ。ミロクがタオル外してたくらいだろ」


「ちょっ、それは不可抗力ですよ!」


「そうだよシジュ。今回の僕らは末っ子最強という事実にひれ伏したはずだよ」


「そういうことじゃありません」


 頭を押さえつつフミはため息を吐く。いつになく疲れた様子のマネージャーに静かになるオッサン三人。


「もしかしてフミちゃん、何か言われたの?」


「いえ、そうではないのですが……」


 ミロクがフミを気遣うような発言をしたが、なぜか歯切れの悪いフミ。そこにヨイチが「なるほど」と口を開く。


「つまりフミは、スペシャルドラマのクランクインも間近だし、僕らもしっかりフンドシを締めていこうってことを言いたかったのかな?」


「そうだよな。俺も演技の勉強をしないとって思ってたんだ。どっかでそういう講習とかねぇの?」


「あ、はい、演技の講習会ですね。調べておきます」


「おう。頼む」


 ホッとしたようにフミは笑顔をみせると、飲み物を用意してくると会議室を出て行った。その姿を心配そうに見送るミロクに、微笑んでいたヨイチは一瞬で表情を変える。


「どうやら、うちのマネージャーに対して、何か言ってくる輩がいるらしいよ」


「どういうことですか?」


「僕もまだ詳しくは知らないんだけどね」


 それまで花が咲くような笑顔をみせていたミロクが、一瞬で『無』の表情に変わる。その様子に驚くヨイチの隣で、シジュは以前もそんな彼を見たことがあるなぁと思い出していた。


「ミロクのそんな顔、久しぶりに見たな」


「そうなの?」


「前に、俺の昔の彼女が来ただろ? その時以来だな」


「ああ……なるほどね」


「ヨイチさん!!」


 納得するヨイチに、ミロクは珍しく強い怒りを隠すことなく声を荒げる。そんな弟を宥めるように、ヨイチは優しく微笑んだ。


「落ち着くんだミロク君。今、君が動こうとしても解決はしないよ」


「でも、俺……」


「ミロク落ち着けよ。こういう時は冷静になれなかったら負けるぞ」


「シジュさん……」


 年長者二人に宥められ、ミロクは浮かせていた腰を椅子に戻す。そんな彼の様子にホッとする二人は何事もなかったかのように穏やかな雰囲気を作り出す。


「フミは知られたくないようだから、この件に関して触れないように。あの子がピリピリしているのはそういう裏事情があるからというのを認識しておいてほしい」


「了解」


「……分かり、ました」


 ミロクは渋々といった感じで頷くが、納得していないといった表情だ。そんな彼の様子にヨイチは苦笑する。


「大丈夫だよ。ミロク君の出番はしっかりあると思うし」


「なぁ、詳しいことは分からねぇのか?」


「サイバーチームに探ってもらってる。ネットを通じている限り、対象は彼らから逃れられないよ」


「なぁ、どんどん謎の組織っぽくなってねぇか? 大丈夫なのか?」


「しらたま氏なら大丈夫です。司法試験に合格してるくらい、法に明るいですから強いですよ」


「おい、なんでそんなハイスペックが、こんな事務所にいるんだよ」


「こんなとは失礼だなぁ。シジュ減俸」


「マジか!!」


 軽口を叩くヨイチとシジュに、強張っていた表情を緩めるミロク。そこにフミがティーセットを持って戻ってきた。


「反省できましたか?」


「おう、反省はするが後悔はしないポリシーだからな」


「シジュは後悔もした方がいいんじゃないかな」


「不潔ですよ。シジュさん」


「どういうことだよ!!」


 いつものオッサンたちに、フミは笑顔で紅茶をティーカップに注いで配る。それを笑顔で受け取るミロクは、内心穏やかではない。しかしヨイチが目で合図しているのを見て、後で別口の打ち合わせがあるだろうと荒れ狂う感情を必死に抑えるのであった。







 一人残っていたフミが事務所のドアに鍵をかけていると、どこからか視線を感じるような気がした。辺りを見回しても人がいるような気配は感じられない。


「誰も、いないよね?」


 事務所宛のメールボックスに、妙なメッセージが届くようになったのは最近のことだ。最初は『344(ミヨシ)』を熱く応援する内容だったのが、その周辺人物に対する攻撃的な内容に変わってきていた。

 事務所で受付してくれるスタッフだったり、サイバーチームのメンバーだったり……そしてオッサンアイドルのマネージャーであるフミ、個人宛のものにもなった。


「こういうのは、覚悟していたはずだったんだけどな」


 男性アイドルのマネージャーが女性というのは、ファンからやっかみを受けるものだ。最近露出も増えて知名度も上がってきた、オッサンアイドルの『344』のマネージャーが若い女性だというのは、ファン心理として穏やかではないだろう。だからといって、暴言を吐いて良いということではないのだが。


「ふぅ……頑張らないと」


 気合いを入れようと自分の頬を叩いたフミだが、強く叩きすぎて「いたた……」と涙目になる。締まらないなと無理やり笑おうとして、ポロリと目から落ちる雫。


「ふぇ……」


 泣いちゃダメだと思えば思うほど、止まらないその涙をどうしようかと思っているフミは不意に温かいものに包まれる。仄かに香るミントが、安心できる存在だと教えてくれる。


「帰ろうか。フミ」


「叔父さん……私は大丈夫だよ」


「分かっているよ。僕の姪なんだから」


 涙の理由は聞かず、ただ優しく抱きしめてくれる叔父の腕を、フミはそっと触れるのだった。






お読みいただき、ありがとうございます!

詳しく……もないのですが、ざっくり情報は活動報告で!

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