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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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254、温泉に行こう。前編

オッサンたちのワチャワチャが多いです。(ペコリ


 東京駅の人の流れは激しく、長身であるオッサン三人を目印に如月事務所のスタッフたちは歩いている。

 突然だったにも関わらず、事務スタッフもサイバーチームもほとんどが集まった。素晴らしい団結力である。


「今回来れなかった人たちには後日行ってもらうから、ちゃんと観光して良いところを見つけなきゃね」


「サイバーチームのしらたまさんが、グルメスポット一覧をくれたんですけど、俺はローストビーフ丼が食べたいです!!」


「おお、激しいくらいの肉欲を出してきたな」


「シジュさんその言い方……俺はこう見えて、ロールキャベツ系ってファンの人から言われたことがあるんですからね」


「ロールキャベツ……どんな意味だっけ?」


「見かけは草食に見えるけど、中身はがっつり肉食ってやつです!」


「結局肉食系ってことじゃねぇか! この肉欲王子め!」


「その言い方やめてくださいって!」


「はいはい新幹線のチケット配りますよー。はいはい落ち着いてくださいねー」


 すっかりオッサン同士のワチャワチャに慣れたフミは乗車券を配り歩いている。如月事務所ではお馴染みの光景ではあるが、あまり間近で見ることがないためスタッフたちは興味深そうに見学している。

 サイバーチームの外交?担当である白井……通称「しらたま」は、クスクス笑いながらミロクに話しかける。


「君たちは、毎度こんな感じなの?」


「こんなって……いつも通りですけど」


「そっか。うんうん。よきかなよきかな」


 いいぞもっとやれーと呟きながらサイバーチームの輪に戻るしらたまを、ミロクは首を傾げて見送る。


「さぁ、そろそろ移動しようか。のぞみに乗るよー」


 引率の先生のようなヨイチの響く声で、移動する如月軍団。先頭を歩く美丈夫三人は周りの目を集めており、何者なのかとヒソヒソ囁かれている。観光客らしき外国人がスマホを構えているのを見て、サイバーチームがやんわり制止しているのにシジュが驚く。


「しらたまさんって、すげぇな。英語とかペラペラなんだな」


「なんか海外のゲームをプレイするのに、パソコンでやり取りしているうちに話せるようになったらしいですよ」


「マジか……」


「さすが外交担当ですよね」


「そういう意味の外交担当だったんだね。僕も知らなかったよ」


 サイバーチームが『344(ミヨシ)』を広めるために、海外サイトともやり取りがあることは知っていたが、実際ここまでしらたまのスペックが高いとヨイチは思っていなかった。


「これは、給料上げる必要があるかもね。ごめんシジュ、ボーナス増えないかも」


「マジか……」


 ガックリと項垂れているが、シジュもそこまでショックを受けてはいない。むしろ金の使い所のないシジュにとって、ボーナスはそれほど重要なものではないのだ。恋人がいればまた違っただろうと気付き、そっちの方が落ち込む要素であった。これぞ独身オッサンの悲哀である。







 現地でしっかり食べれるように、お菓子や飲み物を買って新幹線に乗り込むと横並びに座る。三人シートの左からしらたまとヨイチとシジュ、二人がけにミロクとフミである。

 この鉄壁な布陣に、しらたまは乾いた笑いを浮かべている。


「手招きされたから来たら……こういうこと……」


「悪いね。ミロク君はこういう時に本気を出すもんだから」


「はは、まぁ付き合いは長いんでいいんすけど……」


「そういやミロクとはオンラインゲームで知り合ったとか言ってたよな」


「こう見ると成長はしてますけど、根っこは変わらないんだなぁって思いますねぇ」


 そんなほのぼのと保護者たちが会話をしている横では、さっそくふんわり甘い空気が流れている。


「フミちゃん、新幹線のアイス食べる? 俺あまり遠出したことないから噂のカチカチなやつを食べてみたいんだよね」


「ふふ、ミロクさんったら……温かいコーヒーと一緒に頼むと良さそうですね」


 車内販売のワゴンが向かって来るのを見て、ミロクはさっそく手を上げて注文をしようと笑顔で女性乗務員に話しかける。一瞬動きがぎこちなくなったが、さすがプロである女性乗務員は笑顔で注文を受け付けている。フミは心の中で密かに彼女に向けて拍手を送る。ミロクの満面の笑みに未だに心臓が止まりそうになるフミは、まだまだ修行不足のようだ。


「社長、一度チェックインしたら夕食まで自由行動ですか?」


「そうだね。夜の宴会の他は基本的に自由行動だね。バス借りる時間もなかったし」


「付近の温泉入りまくるっていうのも、手だよなー」


「シジュさん、お爺ちゃんっぽいです」


「ぶはっ」


 ミロクの辛辣なツッコミに、しらたまは思わず吹き出す。そしてミロクがこうやって人とやり取り出来るようになったことが、彼にとって嬉しいことでもあった。


「サイバーチームは現地で色々と動く予定で、事務所スタッフの女性たちは食べ歩きしたいみたいすね」


「フミちゃんはどこに行きたい?」


「私……オルゴールミュージアムに行きたいなぁって」


「オルゴールミュージアム行きましょうヨイチさん! シジュさん!」


「じゃあ、六甲山だね」


「あー、俺は宿でグータラしたいー」


 不満げなシジュだったがミロクが悲しげな顔をすると一瞬で「よし行こうすぐ行こう」と行く気満々になる。この手のことで末っ子に勝とうなぞ、何度転生しても彼には無理だろう。

 兄弟の微笑ましいやり取りの横で、フミは持っているアイスを手で溶かしながら口を開く。


「それにしても、神戸は近いから良かったです」


「え? 新幹線三時間も乗るよ」


「学生の頃、修学旅行で広島に新幹線で行ったんですけど、そこよりは近いなーって」


「ああ、そういえば出張で青森行ったけど、そこよりは近いよね神戸」


「どうして如月一族はそういう尺度なんだよ。遠いだろ神戸。新幹線乗ってんだぞ」


「俺はフミちゃんと一緒なら、あっという間です!」


「聞いてねーよ! 誰か塩まけ! 塩!」


 そんなやり取りに、周りの乗客からも笑いが出ている。フミが慌てて乗客たちに「うるさくてすみません」と謝ると「面白いから良かった」と優しい言葉がもらえた。

 反省したオッサンたちは、到着するまでの時間を各自静かに過ごすことになるのだった。





お読みいただき、ありがとうございます!

行き先は有馬温泉です!(`・ω・´)

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