253、与一の思いつきと虫退治。
ドラマ撮影前に……
新曲といっても今回は全て尾根江がプロデュースするため、今のところミロクたちはボイストレーニングをするくらいである。デモ曲が上がってくるまで、オッサンアイドルの三人はいつもの仕事をすることになる。
ドラマのクランクインは一ヶ月後からになる。そちらの方は原作を読み込んでおこうとオッサンたちは事務所近くの本屋で注文していた。ヨイチは持っているのだが「もしかしたらサインもらえるかも!」とウキウキだ。その様子にミハチは呆れたような目を向けているのを見て「嫉妬してるの?」などと言い、ここぞとばかりに迫っているバカップルは爆ぜればいいとミロクは荒んだ目を向けたりした。
そんなミロクが女性ファッション雑誌のモデルの仕事をしていると、珍しくヨイチとシジュが見学に来ていた。彼らが現れた時に、撮影スタッフがどよめいたのは三人揃った時の心の準備が出来ていなかったからだろう。
相手役の女性モデルから熱い視線を自然に避けながら、ミロクは笑顔でメンバーの元に戻ってきた。
「今日は珍しいですね。仕事じゃないのにシジュさんまで……」
「お疲れー。今日はヨイチのオッサンの急な思いつきでなぁ」
「ミロク君お疲れ様」
やれやれといった様子のシジュと笑顔のヨイチの二人を見て、ミロクはキョロキョロとあたりを見回す。
「あれ? フミちゃんはどこですか?」
「ごめんね。ちょっとミロク君の家に行って着替えを取りに行ってもらっているんだ」
「着替え?」
「今日俺ら午後からオフになるだろ。そんで明日の昼まで仕事がないよな」
「ミロク君、明日の昼の仕事おぼえてる?」
「はい。珍しく新幹線に乗って、関西方面でグルメロケだったような……」
基本的にミロクは翌日の仕事を把握するようにしているのだが、今回に限っては詳細が決まってないという言い方をされていた。グルメロケというのもあり、店側の都合がつかないのかと彼は考えていた。
「宿がとれるかどうかと僕らの休みがうまく合うか心配だったけど、なんとか前乗りできそうなんだ」
「前乗り、ですか?」
「そう。社員旅行で温泉だよミロク君」
「社員旅行DE温泉!?」
「しかも今からとか言うんだぜ? 急すぎんだろこのオッサン」
「今からですか!?」
今日の昼から明日の昼までという「丸一日」のオフではあるが、さすがに急すぎるのではと驚くミロクにヨイチは笑顔のままトドメをさす。
「社員旅行だから、もちろんフミも行くよ」
「風呂上がり浴衣フミちゃん!! 行きます!!」
「脊髄反射並みの速度で了承してんじゃねーよミロクは。チョロすぎるだろ」
「シジュだって、どうせオフはスポーツジムでトレーニングじゃないか。暇だよね?」
「俺だって忙しいんだよ」
「え? シジュさんは来ないんですか?」
ミロクの黒目がちな瞳は、まるで捨てられた子犬のように寂しげに潤んでいる。この子は拾ってやらないと……そしてちゃんと育ててやらないとという謎の衝動に駆られるシジュ。
「行くに決まってんだろ」
「チョロいよシジュ」
「うるせー」
ヨイチは苦笑してつっこむとシジュは不貞腐れたような顔で返す。シジュの言葉に「やった!」と嬉しそうに笑顔を振りまくミロクは、現場を再びざわつかせている。
スタッフたちが撮った画像をチェックしているのを待っているミロクの元に、先ほどまでペアを組んでいた女性モデル……所謂「読者モデル」の若い女子が近づいてきた。
撮影中も、やけに彼女が近いと感じていたミロクは、やり辛いと思いながらも仕事だからと笑顔で対応していた。そんなミロクの様子に気づくことなく、彼女は微笑みながら声をかけてくる。
「お疲れ様ですミロクさん。この後にお茶でもどうですか?」
「すみません。用事があるので」
「二人っきりで、お話したいことがあるんです」
蠱惑的な笑みを浮かべる女性モデル。ミロクは困ったような表情をしているのに、その気持ちは彼女に届かないようだ。しょうがないなとミロクは気持ちを切り替える。
「君さ……」
「えっ!?」
少し熱を含んだような声を出し、女性モデルに触れるか触れないかまでに自分の顔を近づけるミロク。その甘い香りに彼女の腰が抜けそうになるのを、気の利くスタッフが椅子を提供したため上手いことそれに座った状態になる。
「俺と仲良くなりたいなら、事前にスタッフから言われたことくらい覚えておいて」
「言われた、こと……?」
ミロクに詰め寄られて上がる心拍数とそれに伴う息切れ、発熱などの症状に侵される女性モデル。それでもさらに詰め寄っていく彼に「容赦」という言葉は存在していない。
甘く微笑む王子は、濃密な色香を発しながらもその艶やかな唇を開くと彼女の耳元で囁く。
「俺に近づくと、どうなっても知らないよ?」
「はぅっ!?」
瞬間、椅子に座ったまま後ろに倒れそうになるのを数人のスタッフが支えて、そのままずるずると引っ張って行く。手慣れたようなスタッフの行動に、ヨイチは軽く頭を下げて労う。スタッフへの事前の根回しは、彼とマネージャーのフミによるものであった。
「見事な虫退治だな」
「え? 虫がいたんですか? 気づきませんでした」
笑顔のままでいるミロクに、シジュはヨイチを見る。
「ミロク君には、女性から誘われた時のマニュアルを渡しているからね」
「まだ初対面の人とは緊張してしまうので、この通りにすれば女性は嫌な思いをしないって教えてもらったんです。紳士的な対応ってやつだそうです」
「まぁ、嫌な思いっつーか……」
アレは下手したら再起不能になるのではと思ったシジュだが、事前に言われたことを守れないようなモデルが大成することはないかと納得する。ヨイチもシジュも身内びいきが過ぎるところはあるが、基本仕事に対して自分にも他人にも厳しくしている。
「自業自得だね。あと、今後あの子の所属事務所を使う時は注意してもらうよ」
「今日は本当に用事があるので、お茶どころじゃないですし」
「んだな! よし、この際イヤっていうほど堪能してやるぞ!」
ミロクと自分の着替えを持ってきたフミと合流したオッサンアイドル三人は、急きょ社員旅行へと向かうのだった。
とゆわけで、温泉旅行に行ってきます!!(`・ω・´)
オッサンアイドル初の肌色回なるか!?w
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